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第196話 氷国ニブルヘイム


 話数的には200話を超えました。ここまで書き続けた自分に驚きです(笑)

「さぁぁぁぁむっっっ!!マジで寒い!」


ポチ『“今の外気温マイナス12度だって。風速も結構あるから体感はマイナス20度いっているかもね。”』


 なんて呑気に言ってきやがるんだこいつらは。スマホの中でぬくぬくと暮らしているからいい気なもんだ。しかしこの寒さにはミラルたちはとてもではないが耐えられる気がしない。案の定確認してみると毛布にくるまったまま震えている。


 元々砂漠の民だから寒さには強いと思うのだが、船酔いのせいで体温を維持する元気もないのだろう。急いで上陸して暖かい場所で休みたい。しかしこの絶壁の氷の壁を目にするとどこから上がれば良いのかまるでわからない。


 どうしたら良いのかわからないのでゴードランたち漁師に任せておくと、どこかに向けて走り出していった。しかし先ほどから蛇行運転を繰り返している。これはミラルたちには厳しいので真っ直ぐ走ってもらおうと思ったのだが、海を見て蛇行運転の理由がわかった。


 海が凍っているのだ。しかもただ凍っていれば良いのだが、途中で流氷のように大きいものもある。そういったものにぶつかればこんな船、一撃で沈没してしまう。流氷にぶつからずに移動できているのはゴードランたちの腕のおかげだ。


「見えたぞ!信号弾撃て!」


 急にそんな合図が出ると他の漁師が真っ赤な煙を上げる信号弾を打ち上げた。すると絶壁の上からスルスルと何やらロープのようなものと一緒に人が降りてきた。すると船でそのまま彼らの方に近寄る。


 降りてきた人々はすぐにゴードランと話をして何やら上に向かって合図を送っている。すると頑丈なワイヤーと金属の枠組みが降りてきた。そしてその金属の枠組みに船を固定させると船は海を離れ上昇していった。


「ゴードラン、これはどういう状況?」


「船を丘にあげているんだ。海の上に浮かべたままだと流氷が当たって壊れるからな。氷国にはいろんなところに同じような設備があるから合図を送ってあげてもらうんだ。」


 氷国ならではのことか。船ごとどんどんあげていかれるのだが、実に恐ろしい。風で船が揺れるし、突風で船から落ちそうな気分になる。落ちたら間違いなく助からないだろうなぁ。


 そんな恐怖と寒さで震えながら上がっていくとようやく地上にたどり着いた。しかし地上とは言っても地面は全て氷と雪だ。木も生えていない。軽い吹雪で視界は不良だが、おそらく見えたところで何もないような場所だろう。


 それから船をあげてくれた氷国の人と話してみると例の幻の果実というのはここではなく、もっと離れた場所にできるらしい。そのためここから移動になるのだが、船を運ぶことはできないと言っていたのですぐにスマホに収納してしまう。


 ひどく驚かれたがまあそういうものだと納得してもらい、馬車に乗せてもらう。馬車と言っても引いているのは馬ではなくトナカイだ。しかしトナカイにしても随分と大きい。自動車並みの大きさはあるだろう。この寒冷地で生きていくために進化した種のようだ。


 馬車自体も車輪ではなくソリになっている。タイヤではなく滑って進むので揺れも少なく乗り心地は快適だ。ミラルたちも随分と調子が良くなってきたようだ。街についてしばらく休めば良くなるだろう。


 しばらくするとどうやら目的地に着いたらしい。ただ馬車は冷えないように窓などもないため外の様子が伺えない。本来はここから入国審査で長くなるらしいのだが、俺は勇者神から賜った伯爵位の勲章を見せるだけですんなりと通れた。


 そしてそのまま外国からの貴族の客人向け用のホテルに案内される。そんなことしなくて良いのだが、世界貴族相手に失礼があってはならないとのことなのでこの待遇は仕方のないことなのだろう。


 街を馬車でしばらく走るとホテルに着いたらしく、馬車から降りることができた。降りた目の前にあるのは氷の宮殿だ。いや、正確には宮殿のような氷の建物なのだが、実に素晴らしい作りだ。中に入ると本当に一面氷でできている。


 フロントで受付をすませると俺たちは最高クラスの部屋に案内された。部屋も氷でできているのかと思ったが、さすがに木造の部屋になっている。しかし道中の廊下などは全て氷だ。


 なぜこんなにも氷でできているのか聞くとこの氷国では地面は分厚い氷で覆われているため、土もなければ木も生えない。つまり家を作るための石材も木材も手に入らないのだ。だからこうして氷で家を作っている。


 氷で作っても気温がプラスになることなどないので溶けることは決してない。部屋だけ木造なのは外国の客人用にわざわざ輸入したからだという。木材でできた部屋など超がつくほどの高級品らしい。


 氷ばかりで寒くて大変だろうとは思うのだが、氷でできていると良い面が一つだけある。それは氷の加工のしやすさだ。氷は石や木材よりも柔らかい。そのため簡単に削れるので彫刻がしやすいのだ。廊下の壁の氷の彫刻を見たのだが、どれも舌を巻く仕上がりだ。


 この氷国は芸術面で優れていて、石材や木材を他国から輸入して芸術作品を作成して輸出して外貨を稼いでいるらしい。まあこれだけ寒いと部屋にいることが多くなるのでこの国らしい輸出物なのだろう。


「それじゃあ国民の方々の家も氷ですか?それだと寒すぎるような…」


「動物やモンスターの毛皮を壁や床に敷いています。氷を覆うように毛皮を敷けば暖房をつけても溶けることはないんです。結構暖かいんですよ。」


 毛皮でできた家か。しかし暖房は木材もないのにどうやってと思ったがここは魔法のある世界。火炎系の魔法でどうとでもなるな。その後、夕食まで時間があるので部屋でゆっくりと休ませてもらうことにした。


 ベッドで寝転がりながらスマホをいじっていると、いつの間にか夕食の時間になったようで案内の者が呼びに来た。食事は貴族ということで特別室が用意されたのだが、全面氷の装飾が施されたなんとも幻想的で美しい部屋だ。


 しかも寒いかと思いきや普通に暖かい。長袖のシャツ一枚でちょうど良いくらいだ。こんなに暖かくてはさすがに溶けるだろ、と思ったのだがここは特別らしい。


「ここは先代の氷神が作られた部屋でして、溶けない氷となっています。たとえ炉の中に入れても解けることはありません。触って確かめても構いませんよ。」


 溶けない氷など流石に信じられないので試しに触れてみる。すると表面には水滴がついているのか光沢があり、ツルツルと滑る。溶けているじゃん!と思ったのだがよく触ってみると溶けているわけではなく、ツヤを出すために水の膜を氷にまとわせているだけのようだ。


 この溶けない氷は歴代の氷神しか作ることはできず、国の中でも限られた建物にしか使われていない。できれば手に入れて見たかったが、一個人が手に入れることは不可能ということだ。


 そして部屋の装飾を楽しんだ後に早速夕食が始まる。まずは食前酒が振る舞われたのだが、度数がきつい。30度は軽くありそうだ。俺はそこまで酒が強くないので普通のジュースにでもしようと思ったのだが、酒しかないらしい。


 新鮮なフルーツが手に入ることはないので、この氷国でも凍らない酒を海外から輸入しているとのことだ。酒を飲めば体も温まるのでジュースなんてわざわざ買わないということだ。仕方ないので俺は酒を薄めの水割りにしてもらう。


 そしてここからようやく食事が始まる。前菜にサラダが来たのだが、全て海草だ。地面は凍って野菜が取れないのはわかっていたが、海草は普通に取れるんだな。食べてみるとまあ普通だ。普通の海草。特別驚きもない。


 まずは魚料理で刺身が出た。食べて見たが普通に美味しい。釣ってすぐに魚は凍ってしまうので新鮮なまま保存されるのだ。血抜きもおそらく解凍の際になんとなくできているのだろう。ただ味付けは塩だ。物足りなさを感じる。


 そしてメイン料理、これが一番驚いた。生肉だ。肉の刺身が出た。これには漁師たちは顔を引きつらせていた。ミラルたちは特に問題ないという表情だ。まああの砂漠暮らしならなんでもいけそうだな。


 ちなみにこの生肉は盛り合わせらしく、なんの肉か詳しく聞いてみる。要約するとトナカイの肉にアザラシの肉、クジラの肉、ワシの肉ということだ。ちなみにトナカイ以外は全てモンスターの肉だ。


 ワシの生肉なんて危険そうなイメージがある。鶏肉の刺身は危険というイメージがあるからな。しかし考えてみるとここは南極と同じようなものだ。まあそれ以上に寒いのだが、これだけ寒いと病原菌なども生きていくことができない。


 つまり自然の無菌室のようなものだ。だからどんな生肉も危険性はほぼない。その安全性がわかった俺も早速食べ始める。まあ結論から言うとワシの肉が一番美味かった。癖も少なく歯ごたえも好きだ。


 その後も提供される他の料理を食べていくのだがナマモノが多い。新鮮な野菜を食べることができないため、ビタミンなどを補給するためにあえて生の状態で食べているのだろう。


 それから食事の内容は基本的に肉系しかない。やはりこの国は他国からの物資の輸入があまり行われていないのだろう。これは商売の匂いがするな。しかしそれ以前に気になることがある。


「ひとつ聞いてもいいですか?今この国に幻の果実がなると聞いて来たんですが、私たち以外にも来ているものがいると思うんですけれど、その人たちは一体どこに?」


「ああ、お客様もかの果実を求めてですか。他の方達はすでに農園近くに移動して野営をしています。収穫は明日明後日を予定されていますので…ここからでは間に合いませんね。」


「マジで!?」


 どうやら完全にやってしまったらしい。その果実が採れる農園はここから1週間ほどの距離にある。他の人たちはこの国で案内人をつけた後に出発したらしい。完全に出遅れてしまった俺はその果実を入手することはまず不可能ということだ。


 俺はがっくりとうなだれる。どおりで俺以外の客がいないと思ったんだよ。これにはミラルたちも苦笑いをしている。あんな船酔いをしてまで来たというのに意味がなかったのだ。


「マジかぁ…うわぁぁ…マジかぁ……ぁぁ…」


「だ、大丈夫ですか?」


「大丈夫じゃない…大丈夫じゃないよ……ああ、それからもう一つ聞きたいことがあるんだけど…この国に異世界人っている?変なこと聞いてごめんね。」


「ええ、おりますよ。」


「まあこんなこと聞かれても困るだけ……ってマジで?」


 どうやら当初の目的は果たせないようだが、もうひとつの目的は果たせそうだ。



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