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第188話 新しき森

『マーカー・隊長!あそこに新種らしき植物発見であります!』


『ポチ・よし回収!』


『パワー・あれも新種だと思うっす!』


『ポチ・それも回収!』


 ポチを筆頭にした探検隊は現在、浄化された砂漠であった森の中を探検している。新種を見つけるたびにスマホ内に収納しているのだが、目につくもののほとんどは新種だ。あまりの新種発見に回収作業が間に合わないほどである。


 ポチ達使い魔はこの森が危険かどうか調べているのだが、今の所危険はない。モンスターが全くいないのだ。本来、モンスターは魔力の滞った土地に発生する。この森もどこかに魔力の滞りがあればモンスターが発生するはずなのだが、滞る気配すらない。


 危険度0の新種だらけの森ということになれば、学者たちは大勢駆けつけるだろう。これはある意味、ビジネスチャンスでもあるので入念に危険がないかチェックしている。


『マーカー・隊長!カニがいます!』


『ポチ・カニ!?ここって森の中だよ!?』


『パワー・少し遠いっすけど水辺もあるっす。そこから来たんだと思うっす!』


『ポチ・よし!パワー回収!』


 まだできたばかりの森だというのに動物や魚などは普通にいる。一体どこから来たのかと疑問に思うが、まあ大精霊の力だと思えばそのくらいなんとかなりそうな気もしてくる。


 そして今から、カニVSパワーの対決が始まる。カニの大きさは30cmくらい優にありそうだ。この大きさにはパワーもたじろいでいる。それでも勇猛果敢に突撃するパワーはカニと正面衝突した。


『パワー・アタタタ…は、挟まれたっす。だ、誰か…』


『ポチ・頑張れパワー!君ならいける!』


『マーカー・頑張って!パワーくん!』


 全く手伝う様子がない二人を見たパワーは、カニのハサミに挟まれたまま無理やりバックドロップを決めた。これにはカニもたまらないかと思ったが、全く効いているそぶりがない。


 裏返しになったカニは必死に起き上がろうとする。その隙を逃さずパワーはカニのハサミが届かない部分を掴み、持ち上げた。


『パワー・と…獲ったっす!』


『マーカー・や、やったぁ!やったよパワーくん!』


『ポチ・よーーし!それじゃあそのまま帰還するぞ!』


 カニを持ち上げたまま楽しそうに来た道を歩いて戻る使い魔たち。そしてそのまま白獣の村まで着くと一軒の家に入った。奥の方から話し声が聞こえてくる。使い魔たちはその方向へひたすら歩いていく。するとそこには正座させられているミチナガがいた。


「いいですか!あなたのやったことはあまりに無謀です!わかっているんですか!」


「わ、わかっています…もう10回は言われたんで……」


「そんな減らず口が出るのならもっと説教が必要ですかね…」


『ポチ・ボス〜まだ怒られていたんだ。色々見つけて来たよ。おっきなカニもいたし。これでご飯作って〜。』


「あ、ほ、ほら。こいつら来たし…一回ご飯にしよう?ね?」


「…いいでしょう。その代わり食べ終わったらまた説教ですからね。」


 この砂漠が浄化され、森が発生してから数日。ミチナガは毎日のようにミラルから説教されていた。まあこんな大事なことを独断で決めたミチナガが悪いので、使い魔たちも庇いようがない。そのため暇になっていた使い魔たちは、こうして毎日探検に出ていたのだ。


「そ、それにしてもでっかいカニだなぁ…身もありそうだし……そのまま蒸すのもありだな。だけど毒とかないかな?一旦割ってみるか。」


『パワー・まだ生きているっす。どうするっすか?』


「ああ、鉄串があるからそれをカニの口からぶっ刺してやれば大丈夫だ。…結構硬いけど…なんとかなったな。」


 ミチナガが鉄串をカニの口に差し込むと一瞬暴れた後に大人しくなった。ここからは簡単だ。カニの甲羅を外してガニというエラの部分を取ってしまえば、後は美味しいカニミソが出てくるはずなのだが。


「な、なんか…物凄い鉄っぽくない?金属が溜まっている?生体濃縮ってやつか。これは食えないだろ。」


「金属といえばどうするんですか?あの希少な鉱物、賢者の石も採掘は厳しいですよ。砂漠だからこそ採集できたのに…これだけ地盤が固まってしまうと採掘方法も変えないと。」


『ポチ・え〜…一生懸命取って来たのに食べられないのぉ?』


「み、ミラルさん。その話はまた後で…。ああ、これは食べるのは無理だな。体内に溜まっている金属が何かはわからないけど鉛とか水銀だったら大変だから……あれ?この金属って…み、ミラル。これって…賢者の石じゃね?」


「説教されたくないからってそんな嘘は……似ていますね。いや…そのものかも。もしもそうなら大発見ですよ!」


 何気なくポチたちが捕まえて来たカニだったが、どうやらお手柄だったのかもしれない。カニは魚などを食べるイメージがあるかもしれないが、中には砂を食べて、その中の微生物を摂取するものもいる。


 このカニはその一種で、砂を食べた際になぜか賢者の石だけ体内に取り込んでしまうようだ。ミラルはすぐにこのカニから賢者の石を取り出す。すると重さにして8gの賢者の石が採取された。


「こ、これって…かなりすごいよね?8gとるのに何日かかった?」


「もしもこのカニを大量に獲ることができれば…いえ、養殖して数を増やして採掘させればあっという間に数百キロになります!」


 この大発見はすぐに村中に広まり、カニ獲りが始まることになる。そしてミチナガもこの流れでお説教回避かと思いきや、それは別問題ということらしい。ミチナガの苦悩は続く。





『それにしてもまさかこんなことになるとはね。いくつかの兵団を向かわせたけど、調査は進んでいるのかな?』


「はい。今の所、新種が376種見つかっています。それから新発見ではありませんが、この辺りでは確認できなかった品種や希少種も多数確認できました。」


 ミチナガはミラルのお説教が終わった後に毎日のように勇者神と会議を行っている。砂嵐がやんだ後に巨大な森が出現したので周辺の村々はかなり動揺しているのだ。事態の鎮静を図るために勇者神は兵団をいくつか派遣し、危険がないように警備をしてくれている。


『はぁ…事後処理が大変だよ。ああ、それから明日の昼頃に学者たちが到着する予定なんだが…出迎えることはできるかい?』


「問題ないと思います。今のところ森の危険は確認されていないので、行けます。」


『それじゃあよろしく頼んだよ。到着した学者たちからの報告次第で…ミチナガ伯爵の処遇が決まるから覚悟しておくように。最悪の場合は貴族位の剥奪もあり得る。わかったね?』


「はい…申し訳ありませんでした。」


 俺の今回の行動はあまりにも早計すぎたため、実は勇者神もかなり怒っている。本来はすぐに俺の伯爵位剥奪もあり得たのだが、この森がどの程度有用なのかによって俺の処遇が決まるのだ。


 まあもしかしたらモンスターの大量発生や、さらなる土地の状況悪化もあったのだからこの処罰は優しいものだ。俺は貴族なのだから結果良ければ全て良し、ということにはならないのだ。それ相応の協議や準備が本来は必要だ。


 そして翌日、学者の一団の出迎えをしなくてはならないということで説教を回避した俺は急いで学者たちが来るであろう場所に移動した。すぐに到着すると大勢の兵士となぜかすでに到着している学者たちがいた。


「おお!あなたがミチナガ伯爵だね。よく来てくれました。此度の学者団のまとめ役のゲンドイリアルと申します。早速なのですが…案内してもらっても?」


「は、初めましてゲンドイリアル様…確か昼頃に到着という話でしたが……」


「これほどのものを前にして我慢などできるはずがない!遠目からでもわかりました。いえ、わかりませんでした!長いこと学者をしておりますが、初めて見るものばかりだ!これを前にしたら我慢などできるはずがない!」


 めちゃくちゃ興奮している。どうやら早く調査をしたいようだが、一応この土地は俺の所有だ。だから勝手に調べることはできないと兵士たちに止められていたのだろう。俺はすぐに使い魔たちを展開させ、学者一人一人に随行させる。


「ああ、そうだ。私は水生植物が得意分野なのだが……この森には滝もあるという報告を受けているのだが本当かね?」


「ええ、ありますよ。ではそこまで案内しましょうか。では滝に行きたい方はついて来てください。」


 俺が一声かけるとぞろぞろと俺の元へ集まって来た。そんな彼らを従えて森の中に入る。するとものの数分ほどで滝の近くの川辺までたどり着いた。この状況に学者たちは大口開けて驚いている。


「ば、バカな!滝の音など聞こえなかった!ま、まさか…」


「ええ、この森の手形を持っているので行きたい場所にはすぐに行けますよ。皆さんについている使い魔たちが森の手形になりますので離れないようにお願いします。」


 森の手形。それは一般的に大精霊の住む森にしかないものだと言われている。しかしこの森は大精霊が作るのに関わっている。そのため森の手形を作成することは可能だ。というか、そもそもの話、森の手形は土地を所有している精霊ならば作ることが可能らしい。


 なぜ大精霊しか森の手形を作れないということになっているのかというと、普通の精霊は面倒なので作っていないだけだ。そして森の手形を持っているということを知った学者たちは一つの結論に達する。


「こ、この森の精霊と関わりがあるのか!」


「ええ。友であり仲間ですよ。ああ、今木の上から見ているあいつがそうです。」


 そう言うとこの森の精霊、ドルイドがやって来た。その手には果物が握られている。俺はドルイドからその果物を受け取る。


『ドルイド・…うまかった……皆に…』


「サンキュー。ああ、紹介しますね。この森の精霊のドルイドです。ドルイドからのおすそ分けということなので食べて見てください。…あ、これ美味いな。」


 食感はさくらんぼのようだが、味は桃に近いだろう。見た目はレモンみたいなのに面白いな。ただ頭が混乱しそうだ。俺が果物を渡すと学者たちは感激しながらそれを食べている。


「こ、こうして精霊さまにも出会えるとは…わ、我々がこの森で調査することをお許し願えますか?」


『ドルイド・……そういう話…問題ない……』


「元々そういう話だったから別に問題ないですよ、だそうです。ちゃんと許可出ているんで好きにやってください。」


「あ、ありがたや…ありがたや……」


 なぜか学者全員が拝み出してしまった。精霊というだけでものすごい扱いだ。俺にとっては精霊であっても俺の使い魔という認識が強いので特にありがたみはない。


 そしてここから俺の運命をかけたこの森の査定が始まる。頼むからうまくいってくれよ。



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