第187話 ∈縺ョ骰逵溷ョ溘
ドルイドは諦めない。なんとしてでもこの地を癒すために力を振り絞っている。しかしドルイドという使い魔一人がどんなに頑張ったところでもう意味はない。世界樹から放たれる魔力量もか細いものになってしまった。
ドルイド自身も限界なのだ。今も死なずに残っているのはただの根性を見せているだけだ。ここでドルイドが死んでしまえばもう可能性も何もなくなってしまう。なんとか魔力を世界樹に送り込んでいるがもういつ限界がきてもおかしくない。
そして悲しくも、もう世界樹の魔力が世界樹周辺だけに留まってしまったその時、急激に世界樹の魔力出力が増加した。先ほどまでの数十倍、いや数百倍だろう。ドルイドはふと世界樹の頂点を見た。
『ドルイド・…師……匠……遅い……』
『これでも急いだ方だ。よくやった我が弟子ドルイドよ。あとは任せよ。さて、皆も頼んだ。』
『ふふふ、久しぶりに来たと思ったらこんなことお願いするんだから。』
『本当に嫌になっちゃうわね。ちゃんと埋め合わせしてよ。』
世界樹の頂点には3つの影がある。その一つは森の大精霊、精霊の森と呼ばれる世界有数の希少な森に住む森の番人にして森の主人。そして言わずと知れたドルイドの師匠。
その隣にいるのはここより遠き花の国と呼ばれる土地。そこでは1年中、1万種類以上の花々が咲き乱れる癒しの国。その国で神として信仰される花々の女王。その美しき見た目も相まって花の大精霊と呼ばれる。
そしてもう一人、この世界有数の危険地帯、原始の森と呼ばれる希少な植物が群生する特別地帯。植物学者なら誰もが一度は行きたいと憧れるその森の主人。畏怖と畏敬の念を持って、ほかの大精霊になぞらえて草の大精霊と呼ばれる。
世界最強の植物の大精霊が3柱、ここに揃った。そしてここからの決着は早い。大精霊3柱と不完全と言えども世界樹があればここからは一方的だ。必死に捕食していたこの地の荒れた魔力もどんどん押されて行き、消え去っていく。
そしてこの地の荒れ果てた魔力は消え去った。そう見えたのだが、大精霊たちは見逃していない。この地の奥深くにこの地の荒れ果てた魔力の原因となる何かを感じ取れた。
『やはり自然的なものではなかったか。何者かによってこの地は荒らされた。しかし過去のことならば罪を償わせ得ることも難しいか。』
『だけどこんなことができる人間なんていたかしら?これだけのことなら魔神クラスだけど…思いつかないわね。』
『そんなことより早く終わらせましょ。放っておくと面倒だわ。』
すぐに砂漠の奥深くにあるこの地の荒れた魔力の元凶も浄化された。こうしてこの地は完全に癒されたのだが、重大な問題が発生した。
『ねえ…この溢れた魔力どうするの?』
『正直…魔力量多すぎない?これそのまま放っておいたら大変なことになると思うけど。』
『我らでなんとかするしかなかろう。もう一踏ん張りだ。』
大精霊たちはさらなる力の行使を行う。魔力を消費させるために土地の改変、植物の創造、水脈の創造、ありとあらゆる改変と創造を行なった。そしてその結果。
「な、なんじゃこりゃ……」
ミチナガの周囲には植物だらけになった。遠くには崖も見えるし滝も見える。しかも周辺の植物は一つたりとも見たことのある植物はなかった。そして唖然としているミチナガの前に3柱の大精霊が降り立った。
『人の子ミチナガよ。久しいな…であっているか?我らにとって数年程度では永き時に感じぬ。』
「えっと…まだ1年も経っていないですけど。久しいで合っていると思います。お久しぶりです、森の大精霊さま。しかし…なぜここへ?」
『我が弟子からいざという時のために頼まれたのだ。ただ、この地は荒れ果てて植物もない。本来我らは近づくことができぬ。故に遅くなった。』
どうやら大精霊たちはこの場所に来るどころか近づくこともできなかったらしい。しかしドルイドと世界樹によってこの地の荒れた魔力の中に世界樹や大精霊の力が混ざり合った。それによってなんとか来ることができたらしい。
『どんなに捕食されてもすぐに力は同化せぬ。我らが来られたのは我が弟子のおかげだ。』
「それは…褒めてやらないといけませんね。」
『ああ、それから弟子のことなんだが。どうやら精霊化したようだぞ。』
「へ?」
どういうことか詳しく尋ねるとずっと大精霊の力を取り込んでいたため、いびつではあるが元々半精霊化していたらしい。そんなことを繰り返していたことと、今回の件で強力な世界樹の力を長く体に浴びていたため、精霊化したらしい。
「えっと…使い魔って精霊になるんですか?」
『なるのだろうな。だからこうして精霊となった。このようなことは初めてだがな。』
『おもしろーい!ねえねえ、私たちにもあなたの使い魔貸して?』
『あ、面白そうね。私にも貸して欲しいわ。』
「え、えっと…こちらの方々は?」
『花の大精霊に草の大精霊だ。この世界に住む数少ない大精霊の2人だ。』
森の大精霊と同格の大精霊2柱にせっつかれたので、まずはスマホを手元に引き寄せる。このスマホの新機能マジで便利だな。ドルイドはすでに死んでいるので、しばらくしたら復活するだろう。それから世界樹は他の使い魔たちがスマホ内にしまってくれたようだ。
そんなことよりも早く探さないといけないな。なんとか希望に添えそうな使い魔を探してみるとすぐに良い奴らを見つけた。
「花の大精霊様にはこいつらなんてどうでしょうか?」
『フラワー・こんにちわぁ〜ぼくわね〜フラワ〜って、いうんだよ〜』
『ビー・初めまして花の大精霊様。ビーと申します。』
『あらあら、面白い子がいるじゃない。二人から聖霊の匂いを感じるわ。懐かしい匂いね。顔を見せてくれないかしら。』
するとすぐにスマホから聖霊蜂が現れた。聖霊蜂はすぐに花の大精霊の元へ向かうとなにやら挨拶をしているようだ。そして他の大精霊たちにもちゃんと挨拶をしている。そして挨拶が終わるとビーの隣に移動した。
『そういうことならフラワーちゃんだけを預かることにするわ。』
『ビー・ガーーーーン……』
『落ち込まないでビーちゃん。あなたにはその子がついているわ。いつかきっと分かる時が来るわよ。それでは人の子よ。この子を預かりますね。』
「よろしくお願いします。」
花の大精霊に預ける使い魔はこれで決まった。問題は草の大精霊だ。俺の保有する植物系の能力を持った使い魔というと後はこいつくらいしかいないだろう。
『ファーマー・どんも、初めましで。ファーマーです。』
『あら、随分ともっさりしたのが…でもこの子は才能ありそうね。じゃあこの子を借りて行くわ。それじゃあね。』
そういうと花の大精霊と草の大精霊はその場から消えてしまった。本来大精霊に限らず精霊もだが、自身の土地からあまり離れすぎるのはダメらしい。本来精霊がいるはずの土地から精霊が消えるとその土地の魔力が荒れ始めてしまうとのことだ。
森の大精霊もすぐに戻らなければならないはずなのだが、なぜかまだ留まっている。すると森の大精霊の足元の地面に小さなヒビが入り始めた。次第にそのヒビは大きくなり、地面から何かが現れた。
『ミチナガよ。此度のこの土地の魔力が荒れた原因はこれだ。破壊しようと思ったが、お主に渡すのが一番だろう。人の世のことは人の世に任せる。』
そう言って森の大精霊から渡されたのは鍵だ。中世の鍵のような重厚感のある30cmほどの大きいものだ。俺は一瞬、それが遺産であるように感じたのだが、何か違う感じがする。一体なんの鍵なのだろうか。
「その…この地はなぜ魔力災害が起きたんですか?この鍵も…理由がわからなくて。」
『この地はお主に縁のある土地だろう。かつては多くの異世界人が暮らした土地であったと聞く。来たことはないが、話だけはよく聞いたものだ。』
俺はそれを聞いて一つの話を思い出した。かつて存在したという超文明、異世界人達がこの世界で築き上げた超大国。一夜にして滅んでしまった今は亡きその国は。
「超大国…オリンポス……まさかここはオリンポスがあった土地…」
『そうだ。かつて滅んでから今まで草木も生えぬ死の土地であった。おそらくこの鍵はオリンポスで製造したものだろう。この鍵がなぜオリンポスの崩壊から逃れたか、なぜこの地の魔力を荒らしたかはわからんが…それはお主が調べよ。』
「わかりました。」
俺はとりあえずすぐにスマホにその鍵をしまう。もしも遺産であればスマホに何か表示されるはずなのでスマホを確認してみる。するとすぐに通知が来たのだが、やはりこれは遺産ではないらしい。しかしどうやら何かもわからないようだ。
『∈縺ョ骰逵溷ョ溘を入手しました。これにより新規システムの構築を始めます。金貨、バッテリーの自動消費を開始……完了まで残り300時間。』
「ちょ…なに入手したかわからないのに色々消費するのはヤメてぇ!」
まさかのなんだか色々嫌なことが始まったところで、森の大精霊は俺をせかす。どうやらそろそろ戻らないといけないらしいのだが、もうひとつ伝えなければならないらしい。
『我が弟子は精霊となった。そしてこの土地に精霊として認められた。これより我が弟子ドルイドはこの土地の精霊となる。今後は自由な行動はできぬだろう。土地に認められた精霊はその土地から出ることは難しい。そう我が弟子に伝えて欲しい。』
「わ、わかりました。」
『ではさらばだ。またいつか会おう。』
森の大精霊は消え去った。後に残されたのは俺一人。正確には俺の護衛に来ていた白獣の人もいるのだが、急激に成長した植物に絡め取られて木の上に行ってしまった。
こうしてようやく白獣の住む砂漠の浄化、そして滅んだ超大国オリンポスの長年の負の遺産は消え去ったのだ。