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第179話 白獣の村

 村に到着すると外には誰もいない。まあ暑いし家の中に逃げ込んでいるのだろう。補給部隊の面々はいつものように届けに来た食料をどこかへ運んでいく。俺はまだ魔動車から降りずに待機している。いきなり出て行っても怪しまれるだけなので隊長が紹介してくれるのを待っているのだ。


 しばらくすると俺のことを話してくれたようで車内にいる俺を呼びに来た。俺は降りるためにマントをかぶり日光対策をとる。強烈な日光と暑さもあるので建物の中で話をしたいのだが、どうやらそこまで気を許してくれていないようだ。


 外で話をするのだが、ちょうど風も吹いて、さらにマントのせいもあって声が聞き取りづらい。そんな中、ちょうど魔動車から降りたということでアルケがスマホから出て砂漠の砂を回収しに向かった。自由かよこいつ。


 しかしアルケがスマホから出た時にマントをかぶった白獣の人の様子が変わったように思えた。何やら震えているようだが、風でマントが揺れているだけか?


「話…らい…中へ。」


「え?なんて?中に入っていいの?」


 よく聞こえなかったが扉を開けて手招きしているのでおそらく入っても良いのだろう。隊長もこれには少し驚いたようだった。なんせ以前中に入れてもらったのは酷い砂嵐の時だけだったからだ。


 建物の中に入るとそこには数人の白獣と呼ばれる人々がいた。さすがに中ではマントはかぶっていないのでその姿がよくわかる。白い体毛に獣人らしい動物の耳がついている。その耳は犬や猫など様々だ。


 白獣というのはいわゆるアルビノの人物だ。獣人のアルビノが集まったのがこの白獣の始まりだ。透き通るような白い体毛はなんとも綺麗であった。


「今…おばあを呼んでくる。それまで待て。」


「え?は、はい。」


 俺たちをここまで案内してくれた人物がそう言ったのだが、どうやら声的に女性のようだ。風のせいで全くわからなかった。それからおばあって誰?隊長に聞くとこの村の村長らしいが、会ったことはないという。


 しかしなんというかどうしたら良いのだろう。目の前にいる白獣の方々はこちらを警戒しているようだ。とりあえずなんとか友好関係を築こうと見た目も可愛らしいうちの使い魔を取り出してジュースの一つでも渡してみる。


 すると目の前の白獣は使い魔を見た瞬間、大口を開けて驚いていた。その驚きようにこちらも少し驚いたが、なんとかジュースを手渡すことには成功したようだ。


 そのまま数分待っていると先ほどのマントをかぶった人物とその背中にもう一人何かがいる。背中から降ろされたそれは小柄な人のようだ。マントを取ると少しくたびれた白い体毛の老婆が現れた。


「初めまして。今回補給部隊に同行したミチナガと申します。あ、こっちの小さいのは俺の使い魔です。」


「お、おお…おお……」


 その老婆はこちらに手を伸ばしながら涙を流している。俺なんかやっちゃったか?するとここまで案内してくれた人物もフードをとった。随分と若い。その耳はピンと立った狼のもののようだ。


「唐突にすまない。小さな…手のひらほどの不可思議な金属の板を持ってはいないか?」


「え?ありますけど…これですか?」


 俺はスマホを取り出して見せてみるとその場にいた白獣全員が涙を流し始めた。これには俺も隊長も驚いてしまい、どうしたら良いかわからなかった。すると老婆はモゴモゴと語り始めた。


「やがて現れる。数年先、数十年先、数百年先やもしれぬ。だが必ず現れる。その者、不可思議な金属の板を持ち、小さき白き者を連れる。我が願いを聞き届けるのならば、かの者を導け。我らは…我らはとうとう……とうとう出会いました。女王陛下、旦那様……」


「え…えっと……それはどういうこと…?」


「ミラル…この方を彼の地へ…我らの悲願を叶えよ。」


「はい…はい、おばあ様。ミチナガ様、ついて来てください。補給部隊の方はこちらでお待ちください。」


 俺は訳も分からないまま、ミラルと呼ばれる女性の後をついていく。外に出て、この村で一番大きな家に入る。そこには数十人の白獣の人々がいて、こちらを見ている。俺はその迫力に少し押されるとミラルはそのまま突き進んで行った。


「ミラル、なんのつもりだ。人間をここに通すことは許されぬ。ここは我らが聖地に繋がる道ぞ。」


「下がれモイル。その聖地へ案内するのだ。今ここに予言を叶える時が来たのだ。」


「まさか…では!予言は…彼の方の言葉は…遂に叶ったのか!」


 モイルと呼ばれた男はその場で泣き崩れる。俺はそのテンションに一人ついていけずに呆然としている。ミラルはそんなことは気にもせずに床板を剥がし、地下へと続く道を開く。


「ミチナガ様、どうぞこちらへ。」


「は、はい。」


 俺は泣き崩れていく白獣の人々を横目に地下へと降りていく。そこは大きな空間になっており、その先に小さな扉があった。


「この先へお入りください。そしてそこにあるものを読み解いてください。」


「え?読み解くって言われても…まあわかりました。」


 俺は言われた通りに扉を開けるとそこには一冊の本が置かれていた。訳も分からないが、とりあえずその本を開いてみた。するとそこにはなんとも見慣れた文字が書かれていた。


「え?日本語?それに予言の書って…厨二くさ。」


 なんとも厨二くさい題名だ。しかしその本を読んでいくと驚愕の事実がわかった。これはそんな厨二くさいとかそういうものではない。本物の予言の書だったのだ。


『私が死んでから幾年が経ったのか分からない。しかしこうして読んでいるということはきっと彼らは紡いでくれたのだろう。律儀な彼らのことだ。こんな無理難題を数世代にわたって叶えてくれたことだろう。私の名前は深山賢人、君と同じ日本人だ。そして予知の力を持った転生者である。』


 深山と名乗るこの男は俺がこうしてこれを読むことを考えてこの書を彼らに守らせたのか?予知の力と言っていたが一体俺に何を伝える気だ。


『私の予知の力は99.9%当たる。なぜ0.1%だけ除外したかと言えば、叶えてはいけない未来を予知をしたからだ。それが何かを伝えることはできない。伝えれば君は狙われる。君にはその予知を叶えさせないために動いて欲しい。この予知が当たればこの世界は終わる。だから無理を言っているのはわかる。それでも私の願いを叶えてくれ。』


『まずはこの地から入る。この地では最近…君が読むときは過去に魔力災害が起きた。多くの命が奪われたことだろう。そんな地で彼らを住ませたのには理由がある。この地の砂漠の砂には特殊な鉱物が混ざっている。世界で数キログラムしか発見されていない希少な鉱物が数トン混ざっている。それを回収してくれ。君に必要なものだ。』


『そして君はとある書物を入手したはずだ。しかしそれが読み解けないだろう。北の地へ向かえ。そこにその書物を読み解ける人物がいる。だが急いだ方が良い。高齢な彼は数年以内に寿命を迎える。』


『君は石油を採掘しているな。実に良いことだ。だが採取速度をもっと早くした方が良い。その奥には隠されたものがある。必要なものだ。』


「マジかよ…マジな予言じゃん。というか俺のこと丸わかりじゃん。一体…一体何を予知したんだよ。どんな運命を変えようとしているんだよ。」


 他にもこの先、俺に必要となると予知されたものが書かれていた。ある程度流し読みしていくと最後のページに予言ではない、彼自身の言葉が書かれていた。


『私は迂闊な行動で愛した人を死なせ、私をよくしてくれた人々を苦しませた。なんと詫びたら良いか分からない。だけど彼女は言ってくれた。諦めるなと、許すなと。だから私は諦めない。許さない。私が諦めたら彼女の死も皆の苦しみも無駄になる。だから頼む。私たちの思いを紡いでくれ。そして、苦しめてしまった彼らを助けてあげてほしい。お願いします。』


 そこで文章は締めくくられていた。その文章からは彼の思いがにじみ出ていた。彼は最後の言葉を震える手で書いたのだろう。字が歪んでいる。

 彼は最後、涙を流しながら書いたのだろう。紙にはいくつかの水滴でふやけた跡がある。


 彼の人生は想像もつかない。彼が何を思い描いたのか想像もつかない。だけど俺は彼のその文章を読んで彼のために何かをしたいと思った。彼の願いを叶えたいと思った。


 彼は本来、俺がしなかったはずのことを、俺が諦めたであろうことを叶えさせるためにこれだけのものを残してくれたんだ。ゼロ戦の所有者の日記も俺では読めない。彼の言う北の地にいる老人に出会わねば読み解けないだろう。


 彼のこの預言書によって俺は多くを得ることができる。本来の人生では得ることのできなかったものを得られるはずだ。


 彼のこの預言書を入手した時点で運命は大きく変わった。それがどう変わったのかはわからない。しかし彼の見てしまった世界滅亡の運命を回避するために俺はできる限りの事をしよう。


 それは彼のためにも、この世界に生きる人のためにも、俺の友人達のためにもだ。


「まったく…世界の終わりだのなんだの……スケールでかすぎだよな。今や世界の命運は俺にかかっているってか?だけど…面白いじゃんか。もしかしたら……俺がこの世界に来たのは…このためだったのかもな。」




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