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第177話 新たなる門出と不穏と

「…え?最後のこの怒涛の勢い何?」


「はぁ……また彼女か。助かったというべきなのかなんなのか……」


 流石の勇者神も頭を抱えている。確か崩神というのは魔神第8位だったはずだ。それから煉獄というのは何度か耳にしたことがある。とにかくやばい奴だということくらいだけど。


「これは…抗議とか入れるんですか?」


「無理だ。崩神は道場主で国は持たないし、門下生も放浪の旅をするものが多い。煉獄に至っては完全に個人。文句言っても逆ギレされますし……泣き寝入りしかないですね。ただあのゴブリンの巣はダンジョン化しているようですからそのうち利益が出るでしょう。」


「ダンジョンって…そんな簡単になるものなのですか?」


 ダンジョンというと9大ダンジョンしか思い浮かばないが、それ以外にもダンジョンはあるらしい。しかし9大ダンジョンは金貨や特殊な魔道具を発生させるが、それ以外のダンジョンは特定のモンスターが出て来るだけのものだ。


 しかし特定のモンスターだけが出て来るということはそのモンスターに関しては素材を常に一定確保することができる。それによりモンスター製品事業は潤うのだ。


 おまけに今回は強力なゴブリンが大量に発生した場所に煉獄の魔力、崩神の魔力も加わっているためどれほどのものか想像もつかない。


 通常、モンスターのみが発生するダンジョンは大地の奥深くにある龍脈から漏れ出た魔力によって生まれるもの。それから今回のようなモンスターの大量発生が起きて一箇所の魔力が大量に放出される場合の二つがある。


 なお、発生した魔力が清らかで汚れのない場合は精霊の住処となる。アマラード村が良い例だろう。あそこは火神の継承という特別な戦いによって発生した精霊の土地だ。


「超強力なゴブリンと煉獄と崩神が揃わなかったらダンジョン化はあり得ないだろうな。しかも煉獄が関わっているのなら炎系のモンスターになるだろう。念入りに調査すべきだ。ああ、ミチナガ伯爵、君の今回の功績を踏まえて新ダンジョンから入手されたモンスター素材の取引の優先権も発行しておく。」


「ありがとうございます。それからすいません…また彼女、ということはこのようなことは何度もあるんですか?」


「ああ…煉獄にはひどく手を焼いている。なんせ戦闘狂だから誰彼構わず喧嘩を売る。まあ売る相手は常に強者、特に氷神なんてしょっちゅうやっている。なんとかしようにも強すぎて…まあ正直いえば…恨むほどのことはしていないので放って置いているな。」


 煉獄による作物被害や森林火災の被害は多くあるのだという。しかしそのかわりに盗賊などを潰してくれる上に、手を出しづらいモンスターを討伐してくれるので助かっているのだという。自分より明らか弱者にはわざわざ攻撃を仕掛けないので国民の死人は特に出ていない。


「強いやつと戦えればいいのだから楽で良い。まあ私が私用で国を離れるとここぞとばかりに攻撃してくるがな。」


「それは…お気の毒に。」


「まったくだ…ああ、もうこんな時間か。仕事をしないとな。それではミチナガ伯爵、白獣の件はよろしく頼んだ。この後一度普段の支援部隊と話をしておいてくれ。」


「はい、確かに承りました。」


 俺は勇者神に挨拶をしたのちに部屋を出る。魔神ともなれば気苦労もないと思っていたが、どうやらそうではないらしい。魔神には魔神の大変さというのがあるのだろう。


 俺は部屋の外にいたメイドに案内されるまま歩いていく。連れて行ってもらった場所は補給部隊のいる場所だ。彼らは平時には周辺各国へ支援金や補給物資を送っている。戦争が始まれば戦闘部隊に食料を届ける。


 どんな時でも平和そうに思えるが、補給部隊というのは狙われやすい。襲えば確実に大量の食料と物資が手に入るからだ。


 そんな補給部隊の面々は荷物を放棄して逃げると食料が届かなくなり仲間の命が危うくなる。戦争においてかなり重要な部隊だ。だからこそ、この補給部隊の面々は屈強な男達で揃えてある。


 だけど数名女性もいるな。しかも物腰の柔らかそうな人だ。おそらく交渉役や市民と話すときに威圧しないようにするためもあるのだろう。戦時下でないからこその人員配置だ。


 早速、補給部隊長の男と今回の白獣の村への物資供給の話をする。するとなんとも優しく丁寧に対応してくれた。


「陛下のご命令なら是非もありません。ただ彼らもいきなり新参者だけで行っても警戒するでしょう。ここは我々の部隊に同行するという形にしませんか?その方が話はすんなりと通るでしょう。」


「ええ、それでお願いします。まだまだ新参者なので色々と学ばせていただきます。迷惑をかけないようにしておきますね。」


「ありがとうございます。ただ…一応ミチナガ伯爵は我々よりも身分も上の方なのでもう少し対応の仕方を…」


「す、すみません…慣れてないんです。これで勘弁してください。」


 その後も少し雑談をすると、親睦を深めるために一緒に食事をすることになった。どうせなので今日は別行動しているマクベスも誘おうと思い、マクベスに預けておいた使い魔を経由して話しかけるとそちらはそちらで重要な話があるということだ。


 とりあえず夕食の時に話をすることになり、補給部隊の面々と共に先に店で待っているとマクベスとマック達がやってきた。なぜマック達もと思ったが、そのまま一緒に夕食を食べることになった。


 そしてしばらく食事をした時に、マクベスの重要な話というのを聞くことにした。するとしばらく言い淀んだマクベスはごにょごにょしていたが、やがて話す気になったのか俺の顔を見た。


「じ、実は…そろそろ国に帰ろうと思うんです。ずいぶん長居してしまいましたが、僕の故郷に戻らないといけなくて…それでマックさん達に護衛を頼んだんですが…その……」


「そうか…しばらく一緒にいたけどそうだよな。元々親のおつかいでこんなとこまで来ていたんだよな。じゃあ色々と入り用だろ。船にも乗るし、飯も食うし、宿にも泊まるし、マック達にも護衛費用払わないとな。じゃあ金を貸しとく。将来お前がでっかくなったら利子付きで返してもらおうかな?」


「い、いいんですか?だって…その…」


「気にするな。お前は友達だ。信用に値する友達だ。俺も今は結構潤っているからな。10年、20年、50年先にでも返してくれればいいよ。ああ、なんならその使い魔をお前に預ける。必要なものはいくらでもそいつに言え。金も物資もなんでも揃えてやる。」


 マクベスは信用できる。こんな遠くまで一人でやってきて必死に頑張っている。それに俺のために執事の真似までしてくれた。いつも明るく接してくれた。本当にいいやつだ。


「それからもしもだ、もしもお前が助けて欲しい時は俺を呼べ。友達を助けるためなら駆けつけてやる。まあ駆けつけるまでは時間はかかるがな。それでも駆けつける。前にも言ったが…俺はどんな時でもお前の味方だ。」


「み、ミチナガさん…」


「泣くんじゃないよ。ほら…それからマック、よろしく頼んだぞ。マクベスを無事送り届けてくれ。報酬は弾んでやるよ。なんせB級冒険者だからな。」


「なかなか高いぞ?覚悟しとけよ。」


「わかったよ。ああ、紹介が遅れたな。こちらは補給部隊のひとたちだ。俺は今度この人達と一緒にちょっと行ってくる。多分その間にお前らも出発するのかな?おっと、それから補給部隊の皆さん。この冒険者達は俺をこの国まで護衛してくれた奴らで…こっちは友達のマクベスだ。それじゃあ…どうせだからお互いの門出を祝って乾杯するか!」


 全員で席を囲みジョッキを片手に乾杯する。もうここからは無礼講だ。好きなだけ飲んで食って騒ぐ。ちょっとばかり思い出話に花を咲かせたりもした。


 まあ出発は来週を考えているのでそれまでは一緒だ。ただ、それまでは色々と揃えるものがあるのでマクベス達も俺も忙しいだろう。寂しい気もするがまあそれはそれだ。お互いにやらなければならないことがあるのだから仕方ない。


 結局その日は朝まで騒いでしまった。補給部隊の人々は今日も仕事があるので寝ずに頑張るようだ。俺とマクベスとマック達は今日1日寝る。すみません、補給部隊のみんな。





 シャンデリアがキラキラと光り輝く。その下には金の刺繍が入った美しい絨毯を踏みつけながら幾人もの人々が曲に合わせて踊り出す。そこはまさにパーティー会場。あの世界貴族の任命式から毎日のようにパーティーが続いている。


「ガハハハハハ!いやぁ気分が良い。私の推薦状のおかげでこうして新しい世界貴族が誕生したのだからな。そうだろ?世界貴族、ラルド・シンドバル男爵?」


「ええ、本当にありがとうございます。あなたさまのお力添え無くしてはこの地位はありえなかったでしょう。ああ、お飲み物がなくなったようですので何か持って来させましょう。なんなら私の秘蔵を持ってきます。少々お待ちください。」


 ラルドはソファーで踏ん反り返る男にそう言って一度パーティー会場を後にする。暗闇の中を一人進み、一つの部屋に入るとその部屋の奥にある机に手を置く。そして


「あ゛あ゛あ゛っ!!くそ!くそ!くそ!!いい気になりやがって!何が私のおかげだ!ふざけるな!」


「坊っちゃま、あまり大きな声を出すと誰かに聞かれますよ。」


 暗闇の中から一人の男が現れた。まるで気配もなく、闇に溶け込んでいるようであった。


「ハロルドか。何の用だ…今は気がたっているんだ。」


「申し訳ございません。…ただ旦那さまからのご伝言です。よくやった、それだけです。」


「それだけ?それだけだと?言いたいことはこうじゃないのか?たかが1年で成り上がった小僧に世界貴族の地位を追い抜かれ、なんたる恥さらしだと…そう言いたいんじゃないのか!」


 ラルドは机のものを払い投げた。いくつもの調度品が床に落ちて破れ、欠ける。ラルドの荒ぶりようは日に増していくようであった。それでも客人を相手にした時はその心を隠してみせた。


「坊っちゃま。ここからは私めの意見でございます。所詮あのミチナガという男は付け焼き刃の商人。確かに何やら不思議なものがあるようですが所詮は凡人です。あのミチナガの功績を超える功績を出していけば…ミチナガと坊っちゃまが対比され、より評価を受けやすいのでは?」


「…なるほどな。確かにそうだ。私の方が功績をあげれば対比され、私の有能さが際立つ。そして勇者神も評価が間違っていたと気がつき私の地位をあげるだろう。そうだ、そうだな。…ふう、少し落ち着いてきた。しかしこんなパーティー三昧ではやることもやれん。金が減るばかりだ。そろそろ何か理由をつけて切り上げよう。そして功績をあげて子爵、伯爵…侯爵を狙うぞ。」


「ええ、坊っちゃま。その意気でございます。必要なものは旦那さまに揃えていただきましょう。そのようにお伝えしておきます。」



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