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第172話 ナイトとムーンと12英雄とその2

「それで?地中の敵はどうしたのか説明してもらおうか?」


「それなんだがな…もう少し待ってくれ。お、来たみたいだぞ。」


 一度下がった場所に一時的な拠点を築くとフィーフィリアルがダモレスに問い詰める。そしてダモレスが指をさすとその先には血まみれのナイトが現れた。かなりフラフラだが、命に別条はない。体についている血もほとんどが返り血だ。


「奴らは…一旦引いた…しばらくは安全だろう…少し休む…」


『ムーン・お疲れ様。それでは休んでいるナイトの代わりに報告します。無数に地中に張り巡らされていた洞窟の大元で大暴れしてほとんどの洞窟を埋めたから奴らはしばらく地中を移動することは困難になりました。以上!終わり!』


「ま、まさか乗り込んだのか?単身で?」


「俺らも耳を疑ったが事実だ。まずこのナイトってやつは感知能力が半端ない。魔力感知でもわからない地中で気配を消しているゴブリンを察知したんだからな。そして単身で数万のゴブリンとやりあうその実力…こりゃ12英雄になろうと思えばいつでもなれるぞ。それだけの実力者だ。」


 ナイトは犠牲が出ないようにフィーフィリアルの拠点に残り、地中のゴブリン達を感知した。そして単身で乗り込み、大暴れして重傷者の手当の時間稼ぎとフィーフィリアルを助けるための12英雄を動きやすくしたのだ。


 そして今もなおナイトの能力によってゴブリンの巣では多くのゴブリンがその命を奪われていた。これならば立て直しを図る時間も十分あるだろう。ナイトの功績は初日だけで今回のゴブリン討伐の最優秀者に選ばれるだけのものだ。


 しかし代償としてしばらくナイトは使い物にならない。ムーンが察するところ丸一日休めば普通に戦うことは可能だ。しかし今日と同じくらい戦うとなるとさらにもう1日必要になるだろう。


「じゃあとりあえず部隊は一度立て直しを図って…援軍も呼んだ方が良いだろうな。それから半数は入れ替えをしよう。下手に支援要員がいると被害が大きくなる。」


「それから2部隊をまとめた方が良いだろ。今日みたいなことがあったら大変だからな。じゃあ一旦それぞれの部隊に戻ろう。」


 その場で一度解散することが決定した。寝ているナイトはフィーフィリアルの部隊で預かることになった。急いでそれぞれの部隊に戻るとそこではまさに別の戦場と化していた。怪我人の容体が悪化したのだ。


「どうした!何があった!」


「毒です!ゴブリンの武器に毒が塗られていたんです。かなり強力な毒で魔王クラスの魔力でも抵抗しきれないんです。なんとか解毒剤を使っていますが、量が足りなくて…」


「解毒剤が足りない?物資として部隊員全員に行き渡るだけはあっただろ。襲撃の際に破損したか?」


「持って来た解毒剤は効果がなくて。だけど八雲くんが持って来た解毒剤が効いていて…」


「ど、どういうことだ?うちの解毒剤は効かなくて、その使い魔の解毒剤は効くなんて…」


『ムーン・それに関してはこちらからご説明をします。以前からゴブリンの巣に侵入している使い魔が入手した毒のサンプルを元に、知り合いの研究者達に解毒剤を開発してもらいました。そしてミチナガ商会の人脈やらなんやらを利用して解毒剤を急ピッチで量産中です。ただ現状間に合ってないので重傷者から解毒しています。症状が軽い人は手厚い看病でなんとかしのいでもらっています。』


 使えるものはなんでも使っている。ウィルシ侯爵の知り合いの研究者達に毒のサンプルを提供して解毒剤の調合レシピを開発。解毒剤に必要な薬草はルシュール辺境伯、ユグドラシル国のエルフ街の植物好きを頼り入手した。


 それから調合はブラント国にも頼んでいる。かなりハイレベルな調合なのでできる人間は限られているのだ。腕の良い薬師に金を積んでなんとか大急ぎでやってもらっている。おかげで毒により死ぬ兵士は誰もいなさそうだ。


「は、ははは…すげぇよ……ありがとう。本当にありがとう。お前がいなかったら犠牲は益々増えていた。感謝の仕様がない。」


『ムーン・それならかかった経費とか諸々くれると嬉しいです。かなり金に糸目はつけずにやったから大変なことになっているみたいだし。それからお礼はうちの商会長、セキヤ・ミチナガにお願いします。』


「ああ、もちろんだ。…こりゃ世界貴族は確定だな。もしも何かの手違いで落ちそうになっても俺たち6人が王に進言する。」


『ムーン・頑張った甲斐があります。全員解毒が完了するのは昼までかかるでしょう。とりあえずもう時間も遅いので一度休みましょう。…と待ってください。緊急連絡が入りました。』


 一旦休もうとしたところ緊急の連絡が入った。ムーンはその情報を精査して真偽のほどを十分に確かめる。


『ムーン・今入った情報です。内部に侵入している使い魔から連絡が入りました。討伐されたゴブリンがゴブリンエンプレスによって食われているらしいです。それによりさらにゴブリンを生産。ただ1体食べたら1体生産するのではなく…4体の死体で3体分といったところです。』


「…まじか。じゃあ死体を渡したらまた復活されるって言うことか。…長期戦確定だな。さすがに内部に侵入して暴れる自信はない。」


 ゴブリンエンプレスは自身が生んだゴブリンの死体を喰らい、新たなゴブリンを増産できる。これからはなるべく死体が残らないようにする必要があるが、これだけのゴブリンの数では死体を回収するのも難しいだろう。


「それから今日で言えそうなことは…いるだろ、カイザー級が。」


『ムーン・姿は確認できていませんが恐らくいるでしょうね。じゃなきゃゴブリンキングが前線に出て来ないと思います。』


 最悪の事態ばかりがどんどん進む。しかし弱音を吐くわけにはいかない。だがそれでも今日は意気消沈しながら眠ることになった。



 翌朝はすぐに他の隊と合流し、新しく拠点を築いた。フィーフィリアルが合流したのは断絶のダモレスの部隊だ。これで地下から襲われても問題ない。


 ナイトは気を張り巡らせているが、まだ本調子ではなく、今朝から大量の食事をとっている。そんなナイトの元にフィーフィリアルとダモレスがやってきた。


「ナイト…だよな?食事中悪いが話しても良いか?」


「ああ…問題ない…」


「それじゃあ話をしよう。俺たちはあんたの力を認めている。あんたが強いことも十分わかった。だからこの後会議をするんだが出席してくれないか?あんたの活躍も作戦に組み込みたい。」


 そう言うとナイトは食事の手を止めて何やら黙ってしまった。そんなナイトを見かねたムーンが助け船を出すことにした。


『ムーン・うちのナイトは人見知りだから下手に部下とかつけると動きが悪くなるよ。ナイトはあくまで単独行動にしてどう行動しているかを逐一伝えるのが一番いいと思う。』


「そ、そうなのか…どうするよフィーちゃん。」


「フィーちゃんはやめろ。まあ無理強いはしない。それがもっとも良いのならそういう風に作戦を立てよう。しかしあまり無茶はしないでくれ。まあこちらが不甲斐なさすぎたのが悪いんだがな。それからあんたはしばらく動けないと言うことだからここで休んでいてくれ。」


「ああ…わかった…」


 なかなかにそっけない態度だが、あくまでナイトは緊張しているだけだ。そのことをダモレスとフィーフィリアルは察してくれたようだ。


 この日はゴブリン達も内部で暴れたナイトの影響であまり動きは見られなかった。この機を逃さぬように攻撃を仕掛けると言う手段もあったが、それをするには昨日の痛手の影響が強すぎた。


 それからようやく戦いが再開されたのは3日後のことだ。万のゴブリンの軍勢が昼夜を問わず攻め続ける。しかし拠点を完全に築き上げた12英雄達ならば万のA級のゴブリンの軍勢でもなんとかなる。


 その上、頼んでおいた増援も来たことで戦局はかなり有利だ。しかしどんなに倒してもゴブリンは減るように見えない上に、倒したゴブリンを喰らい新たなゴブリンが増産される。それでも戦うこと1週間、2週間、3週間と経過したのちにようやく敵の勢いも落ちて来た。


 そしてようやく夜襲も無くなった今日は久しぶりに静かに休むことのできる夜となった。それから3日後、気力体力、共に万全の状態になったところでようやくゴブリンの巣の内部を攻撃することになった。


 ゴブリンの巣の内部に突撃するのは魔王クラス以上の精鋭だ。相手が相手であるため魔王クラスの実力者でないと役に立たない。そしてゴブリンの巣の入り口付近に集まったところでダモレスによる最終確認が行われた。


「部隊は3つに分けるぞ。まあ今までの拠点のペアだ。部隊はそれぞれ200人ずつで固めてある。洞窟内で分かれ道が出て来た場合には最低50人ずつまで別れる。それ以上の分断は許さない。俺とフィーが先行する。その後ろをゲイドルとケリウッド、最後尾にマレリアとガリウスだ。それじゃあ行くぞ。」


 ようやくこれから掃討作戦の本番だ。しかしこのゴブリンの掃討作戦も一筋縄ではいかない。このゴブリンの巣は全長数十キロ近い巨大な迷宮だ。まともに踏破するだけでも数日はかかる。そこに手強いゴブリンがいるのならなおさら時間はかかるだろう。


 しかもゴブリン達は攻め込まれることが確定したので内部にトラップを張り巡らせている。このゴブリンの巣をどうにかできるのはそこらの一国では不可能だっただろう。英雄の国の12英雄達の部隊だからこそ、ここまで倒すことができるのだ。


 しかしそんな彼らでも中層までたどり着くのに1週間はかかった。すでにゴブリン討伐を開始してから1ヶ月が経過していた。




 良いところですが次回はミチナガの話に戻ります。

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