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第167話 初めての旅の終わり

「お客様、目的駅に到着しましたよ。」


「え?…あぁ…そっか…あ、すみません。今準備しますから。」


 乗務員に声をかけられ俺は目覚めた。どうやら着いたらしい。途中まで起きていたのだが、魔導列車から夕日を眺めていたらいつの間にか眠ってしまった。まあ慌てて荷物を用意する必要もない。スマホさえ持っていれば何も問題はないからな。


 マックたちも準備を終えたようで俺のことを待っている。寝ぼけ眼をこすりながらマックたちに付いていく。ぼんやりしながら今日の宿などを考えているとそんな眠気が一瞬で吹っ飛ぶ光景が目の前に現れた。


「…何ここ……渋谷?…いや、もっとすごいかも。」


 魔導列車を降りた先は都会のビル群だ。何十階建てというビルがいくつも立ち並んでいる。特別車両からの降車客ということで一般の人々とは違う場所に降ろされたのだが、おそらくこの国で最高の光景が見られる場所だろう。マックたちも大口開けて驚いている。


「…何メートルあるんすか?」


「しらねぇよ…やっぱ英雄の国ともなると格が違うな。」


 まあ景色を堪能するのは良いが、まずは今日の宿を決めたい。まだこの国のことは知らないので色々と情報を集めるところから始めないといけないのだ。しかしマックたちはとにかく冒険者ギルドに行きたいと言い出した。


「この国に来たらお前の依頼も一件落着だ。そうなりゃ俺たちは昇格試験に合格したってことになる。」


「つまりは晴れてB級っすよ!」


「それに冒険者ギルドに行けば情報はいくらでも手に入る。それに夕飯も食いたい。ナラームとガーグは散々酒を飲んだようだが、俺やマックにケックは腹を減らしておいたんだ。この国のうまいものをたらふく食うためにな!」


「ん〜…まあその方が楽かもな。だけど依頼終了後もしばらくは頼むぞ。俺護衛いないんだから。」


 宿代さえもらえれば用心棒をしてくれるということなので、引き続きマックたちには色々頼もう。まずは冒険者ギルドの場所がわからないと思ったのだが、そこは周辺を見回して同じ冒険者に場所を聞いている。冒険者は一般人とは少し違うのでわかりやすい。すぐに場所がわかったので早速移動する。


「えー…確かさっきのやつはこの大通りを5本行った先に…お、あったぞ…でけぇ…」


 マックが思わず声を漏らしてしまったのもわかる。とにかくここの冒険者ギルドはでかい。目の前の高層ビルまるまる一つが冒険者ギルドらしい。冒険者用の入り口と依頼者用の入り口で分けられている。今回の俺は冒険者用の入り口で良いのかな。


 中に入るとなんとも整然とした内装だ。それにどこか優雅さを感じさせる。そこらへんで酒を飲んでいる奴もおらず、ストイックに依頼をこなすという感じだ。マックたちもこの雰囲気は予想していなかったらしく、動きがガチガチになっている。


 それでもなんとかギルド職員に依頼の達成を伝え、手続きを行う。どうやら作業は時間がかかるらしく、翌日の昼に昇格したかどうかがわかる。不正がないかどうかしっかりと見極めるので大変らしい。まあ頑張ってください。


「それじゃあ飯食うとこはないか?着いたばっかりで腹が減ってんだよ。」


「それでしたら上の階にレストランがございますよ。冒険者限定という扱いですが、お連れ様も数人程度なら問題ありません。それからここはホテルも完備しております。食事中に部屋を取ることもできますよ。」


「お、まじか。だってよミチナガ。どうする?」


「いいんじゃないか?冒険者ギルドのホテルなら安心安全だろ。」


 そうと決まれば話は早い。すぐにエレベーターに乗って移動する。しかしエレベーターに高層ビルとなるともう地球にいた頃となんら変わらないな。


 上階では多くの冒険者たちが騒ぎながら夕食を食べていた。どうやらここでは騒がしくしても良いらしい。なるほど、下の依頼の受付の場所では外聞のために静かにスマートに仕事をこなし、冒険者限定のこのレストランではみんなハッチャケちゃうんだな。


 とりあえず食事はこの国の名物を適当にお任せで持って来てもらうこととなった。それからホテルの話をするとすぐに部屋を用意してくれるということになった。話がスラスラと進んで良いな。まあ今はそんなことはどうでも良い。まずは各自飲み物を片手に持つ。


「ではまずは俺からだ。俺たちが冒険者を始めてから随分経ったな。毎日姉御にこき使われて殴り倒されて蹴り倒されて……まあ色々あった。もともと俺たちはただのチンピラみたいな冒険者だった。それがミチナガの依頼でこうして長期の護衛依頼をこなして…まだはっきりとはしないがB級冒険者になる、はずだ。こんな俺たちがB級冒険者だとよ。まだ先はあるが…ようやくここまで来たな。」


「そうっすね。色々あったっすけど。」


 マックたちは各々感傷に浸っている。まあB級冒険者は大したものだからな。まだA級にS級と先はあるが、B級冒険者は冒険者としては一流といった扱いになる。それこそ地方の冒険者ギルドなんかではB級冒険者は冒険者ギルドで重宝されるという。


 マックたちはそんな存在になれたのだ。まあまだ結果ははっきりと出ていないんだけど、特に重大な問題もなかったので間違いなくいけるはずだ。するとマックたちから俺に乾杯の音頭が回って来た。B級昇格を喜ぶのは明日だということなので、今日は俺の依頼達成の祝賀会だ。


「では腹も減ったので短めにいくぞ。お前たちの依頼は…あれ?もう300日以上になるのか?まあ途中、雪で足止め食らったりしたからな。すんなりいけていたら100日もかからなかったはずだ。だけどそうか…そんなに長い間一緒に居たんだな。」


 俺も気がついていなかったが、マザーからの連絡によると330日とかそのくらいは一緒にいたらしい。まあマックたちと一緒に年越しまでしちゃったからな。この世界に来てから一番長く一緒にいた5人かもしれない。


 まあまだしばらくは一緒にいる予定だ。俺の護衛に魔王クラスを雇えるまではマックたちと一緒にいないと俺の身が危ない。しかしマックたちと一緒の旅はこの国でお終いだ。なんだか寂しいものはあるが、今生の別れではない。


「まあ旅はお終いだが、しばらくは護衛として頼む。じゃあここは…俺たちのこれからの未来に乾杯ってとこか?」


「なんだそりゃ。」


「臭いっすね。」


「ああ、クセェ…」


「おい!この馬鹿ガーグ!臭いのはお前の屁だ!」


「なんだか締まらないけど、まあなんでもいいから乾杯しよう。」


 グダグダしてしまったが乾杯を交わす。マクベスはまだ行動を共にしたばかりなのでついていけていない感じがある。まあここは大人の世界だからな。そのうちきっとわかるようになる。


 男の別れにいちいち別れの言葉なんていらないだろ。無駄に恥ずかしいしな。じゃあな、またな、そのくらいでいいんだ。それでまたいつか会えたら酒でも飲んで昔話に花を咲かせるんだ。


 だから今はこうしてただ飲んでただ騒ぐ。明日のこととかそんなことはどうでも良い。今この瞬間を楽しむのだ。ぐちゃぐちゃと何かを考えていたってなんの得にもなりはしない。


「あ、まずいな…お、おぉ…」


「まさか…やめるっすよガーグ!それはダメっす!」


「この馬鹿!タダ酒だからって列車で何杯も飲むのがダメなんだ!お、落ち着け!」


「お、おいウィッシ!魔法でなんとかしろ!」


「無理だ…俺も酒のせいで上手く魔法が使えん。誰か!バケツ持って来てくれ。」


「ポチ!急いで袋用意してく……ああ、もう平気だ。うん…」


 おかげで一気に楽しい気分が冷めちまったよ。だから俺言ったじゃん。ぐちゃぐちゃした何かは要らないって。なんの特にもならないどころか損しかねぇよ。この掃除代金は報酬からきっちり引かせてもらおう。




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