第163話 敵を知るために
今回短いです。
『ハク・長老ならご存知かと思い、失礼と知りながらお願いに来ました。このゴブリンをご存知でしょうか。』
「待て、長老にお聞きする。長老、白き友人が長老のお知恵を借りたいそうです。」
「あ…ああ…起こせ…」
ハクはエルフ達の中でも最高齢の長老と呼ばれる者のところに来ていた。ゴブリンの情報を得るのにはこの長老に聞くのが一番だ。すでに1000年は生きていると言われるこの長老なら多少でも情報があると踏んだのだ。
「…見せろ……」
『ハク・こちらです。何か多少でもよいのです。お願いします。』
「…ゴブリンか……知らぬ…見たことはない……だが…幼き頃の…言い伝えがある…」
長老でも見たことがないということであったが、長老が幼き頃、それこそ1000年前に長老と呼ばれていたエルフから聞いた言い伝えを教えてくれた。
「…そのゴブリン……原初なり…緑の体表は森に紛れ……獲物を狩る…邪悪なる妖精なり…滅ぼさねばならぬ…悪しきものなり…この程度だ…」
『ハク・ありがとうございます。それだけでも十分です。』
ハクは得た情報をすぐにミチナガに伝える。しかし1000年も生きるエルフが知らず、言い伝えだけの存在。まさかそんなものが現れたとは思いたくはない。原初のゴブリン、邪悪なる妖精。思いたくはないがそう思うと少しだけ辻褄が合う。
以前ミチナガが出会った妖精は食事をせずに生きられた。そんな妖精の一種であるならば、あのゴブリンが食事をしないでいられる理由がつく。そういえばかつて出会った妖精が言っていた。ゴブリンの先祖返りのことを。あの妖精に再び出会えたら何か情報が得られるかもしれないが難しそうだ。
『ドルイド・…師匠…思い出せない…』
『ふむ…後少しで思い出しそうだ…昔…見たことがある…はずだ…』
ドルイドは森の大精霊に話を聞いているが昨日から思い出せそうで思い出せないと言って酒を飲んでいる。正直諦め掛けていたそんな時にハクの得た情報がマザー経由で流れて来た。
『ドルイド・…そのゴブリン…原初なり…緑の体表は森に紛れ……獲物を狩る…邪悪なる妖精なり…滅ぼさねばならぬ…悪しきものなり…』
『その言葉、思い出したぞ!ゴブリンの起源種によく似ている。かつて妖精皇帝が人を憎み、生み出した始まりの原初のゴブリン。だとするとまずい…あの映像では女皇もいたな。あれは血肉を用いてゴブリンを絶えず生み出す。かつて大陸に蔓延した原初のゴブリン達により文明が滅んだ。』
ハクの得た情報により森の大精霊は全て思い出した。原初のゴブリンと呼ばれるゴブリン達により文明が滅ぼされたことを。その危険度も。そして得られた情報はミチナガに全て伝えられた。
「街が見えたっすよ。1日半短縮できたっすね。」
「あれが英雄の国なのか?それにしては小さいような…」
「英雄の国はここからさらに先だが…一応ここも英雄の国の一部みたいなもんだ。」
マックは英雄の国について教えてくれた。英雄の国は13の国からなる特殊な国家だ。中央に勇者神のいる中央国、そしてその国を囲むように12英雄の治める国家が存在する。ちなみに今ミチナガがついた国家は12英雄が一人、森弓フィーフィリアルの治める国らしい。
「…詳しいな。マックにしては珍しい。」
「12英雄物語なんて有名どころだからな。お前以外全員知っているぞ。」
まじかよ、そんな情報に驚きつつ魔導装甲車は走る。この辺りは門番などもいないようだ。しかし人通りが多いので魔導装甲車の速度は落ちる。すぐにこのゴブリンの情報を冒険者ギルドに伝えたいところだが、間違いなく半信半疑になるだろう。それくらい昔の話だから仕方ない。だからこのまま12英雄が一人、森弓のフィーフィリアルの元まで行く。
昼間についたので夕方あたりまでにはたどり着くかと思ったのだが、予想以上に国土が広い。もう夕食時も過ぎた頃にようやく城にたどり着いた。
「何者だ。この城を12英雄様の居城と知っての狼藉か。」
「緊急事態だ。すぐにフィーフィリアル様に取り次いでくれ。えっと…紹介状もある。今すぐ会わせろ。」
「紹介状だと…こ、これは聖弓様の!わかった。すぐに入れ。」
話のわかる門番でよかった。それに彼らもエルフのようなので話が早く済む。急いで城の中に入るとこの騒動を聞きつけたのか数人の城に勤めるエルフが集まって来た。その中に一人だけオーラの違うエルフが現れた。
「なんだよこんな遅くに…せっかくゆっくりしていたのに。」
「申し訳ありません。フィーフィリアル様。この者が緊急事態だと申して…それに聖弓様のお手紙をお持ちで…」
「何?親父殿のか。まさか親父に何かあったのか?」
「申し訳ありませんフィーフィリアル様。その手紙は緊急事態を知らせるために利用しただけです。」
森弓のフィーフィリアル。12英雄の一人にして弓の名手。そんな彼も緊急事態と聞いて表情を硬くした。しかし俺という人間をまだ信用しきれていないのか警戒した様子を見せる。
「こんな夜間にわざわざくるほどの緊急事態なんだろうな。いくら親父の手紙を持っているからと言っても…ふざけた用事ならタダじゃおかないぞ。」
「人払いか別室に移動させてもらえませんか。ここでは…」
「ダメだ。ここにいる全員は信用できる。だからここで話せ。」
決して引こうとしないフィーフィリアルを前にした俺は仕方なくここで話すことに決めた。エルフの長老から得た話、森の大精霊から得た情報を厳しく精査して、あのゴブリン達の情報を語る。嘘偽りを言えば後で苦しむのは俺なのだから。
「神話級モンスター、SSSSS級軍団モンスターの出現です。勇者神様にもすぐにお知らせ願います。このまま放っておけばこの国は滅ぶ。」