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第162話 使い魔とゴブリン

『名無し・どこに行くんだろうなぁ〜』


 使い魔はファングボアの口の中で隠れている。もちろん言葉を文字表記はさせていない。あくまで記録した映像に字幕として入れただけだ。そんな使い魔はファングボアの口の隙間から外を見ているが森の中で特に変わった様子はない。


 それから一つのことが確定した。それはこのファングボアがすでに絶命しているということだ。死因は不明だが、念のため血液採取だけはしておいた。これで毒殺の線も調査ができる。それからしばらく移動すると下に置かれた。


 もう目的地に到着したのかと思い外をチラチラと覗くと再び移動を開始した。どうやら荷車の上に置かれたらしい。人間が運んでいるのかと思ったがそうではない。運んでいるのはゴブリンだ。しかもこの荷車には他にもいくつかのモンスターが乗せられている。


 見た所どれもB級以下のモンスターばかりだ。確定させたくはないがこのモンスター達はゴブリンによって狩られたものの可能性が高い。つまりこのゴブリンの戦闘力はB級のモンスターを狩れるA級の強さということになる。


 しかし一般的にゴブリンというのはそんな力を持つことはそうそうない。ゴブリンの上位種であるジェネラルクラスになればなんとかそのくらいの力を持つことはある。しかしジェネラルクラスは巣の防衛に当たるため狩りはあまりしない。それに今荷車を引いているゴブリンはジェネラルのような特徴がない。


 希少種や異常種のような突然変異したゴブリンの線が高いだろう。しかしそういったモンスターの情報なら冒険者ギルドで調べればすぐに出るはずなのに何も出てこない。そうなると新種という可能性がもっとも高い。


 そして荷車で運ばれること2日。周辺にゴブリン達が増えて来た。十数体はいる。全て同一の種類だ。周辺の見張りをしているらしい。それからしばらく移動すると今度は荷車を引いた他のゴブリンと合流した。そのゴブリンの荷台にもモンスターが何体も乗せられている。


 さらに移動すると何台も荷車を引いたゴブリン達が現れた。そしてその中にあまりにも目を見張る光景を見てしまった。


『名無し・嘘!あれってミツマタオロチ!A級のモンスターだよ!…他にもA級モンスターが何体も……』


 明らかにゴブリンが倒せるモンスターを超えて来ている。そんなゴブリン達は一体どこに向かっているのかと思ったら地下深くに続く洞窟へ入って行く。洞窟へ続く入り口はゴブリン達で大混雑だ。


 使い魔はチャンスだと思い、眷属を召喚して他の荷車に乗せる。分散していざという時に誰か一人だけでも生き残る作戦だ。やがて洞窟の中に入るといくつも道が続いていた。天然のものかと思ったが、掘削した形跡がある。


『名無し・ここで散開する。眷属2体は荷車に乗ったまま移動。眷属1体と僕は脇道に移動するよ。』


 ここから映像は数本に分かれる。ただミチナガ達の視聴と同時進行でカントクが急ピッチで編集しておいてくれた。これで重要な部分だけ視聴することが可能だ。


『名無し・かなり広い。道が分かれた。ここで最後の眷属を召喚する。そっちの道はよろしくね。』


 使い魔は最後の眷属を召喚して二手に分かれて移動する。するとそこで分かれた眷属の向かった先の道には大量のゴブリンが何かを一心不乱に作業していた。


『名無し#4・嘘!武器を作っている!弓矢に長剣に…鎧まで……』


 そこではゴブリン達が黙々と武器を作成していた。しかもそれなりの技術があるようでごく普通に使えそうな武器ばかりだ。眷属はここが重要な拠点だと確信して、なんとか隠れて作業場の中へ入って行く。


 かなりの量の武器を作っているが一体その資源と知識はどこから入手したのかを考える。まあ資源はこの洞窟から入手することが可能だ。洞窟を掘削した際に鉱石が出て来てもおかしくはない。ではその知識は、それを考えていた時、その答えが隣に現れた。


『名無し#4・小さくて…頑丈そうな頭蓋骨……残っている毛髪の色…ドワーフだ。ドワーフを拐って技術を聞き出したんだ。』


 他にもゴブリン達の足元にはいくつもの頭蓋骨が転がっている。このゴブリン達はこの情報を入手するために一体何人の人々を殺したのだろうか。さらに移動して行くと奥の部屋を発見した。その部屋を覗くと今度はまた違う作業をしている。


『名無し#4・薬だ…それも毒薬を作っている…もうこんなのゴブリンじゃない。知能が高すぎる。』


 ゴブリンでは到底考えられない知能と技術力、それを有しているこのゴブリン達は一体なんなのか。とりあえずその薬品調合室に侵入した眷属は床に垂れている毒薬を小瓶に詰めていくつも回収する。


 しかしこの作業は決死の作業となった。ゴブリン達の衛生観念の無さにより気化した毒薬を吸い込んでしまった眷属はその場で死んでしまった。しかし運の良いことにここまでの作業を誰にも見られることなく、自身の死体も消えて無くなった。



 その頃、荷車に乗って移動していた眷属達は目的の場所に到着したようだ。ゴブリン達はモンスター達の死体を一箇所にまとめているようだ。眷属達は何もせずにひっそりと待っていると荷車から降ろされた。


 しかし荷車から降ろされた後はなぜかずっと落下している。地面に触れる気配がない。眷属は急いで周辺を確認する。すると落ちて行くその先に巨大な何かがいた。眷属はそこから逃れようとしたがもう遅い。そのまま吸い込まれるように巨大な何かに飲み込まれた。


 しかしこの眷属の情報はすぐに伝わった。もう一人の眷属はこれから落とされるところだ。だから荷車から落とされた瞬間に急いでその巨大な何かの口から逃れるように空中を移動する。しかし落ちていることに変わりないので結局死ぬだろう。


 しかしこの眷属の行動によりその巨大な何かの側面を見ることが可能になった。その巨大な何かはモンスターだ。しかしなんのモンスターか想像もつかない。しかもただ飯を食っているだけの、このモンスターは一体なんなのか。


 そして眷属は地面に激突する数秒前にこのモンスターがなんなのか判明してしまった。この巨大なモンスターはゴブリンだ。この巨大なゴブリンは飯を喰らい、絶えずゴブリン達を産み落としている。今も数十体のゴブリンを産み落としている。


 そして眷属は地面に激突する瞬間に見た。そのゴブリン達の中でも特にやばいと思わせる雰囲気を漂わせる数体のゴブリンを。



 眷属が全て死んだ使い魔はようやく大きな広間に出た。そしてその光景を見て絶望した。


『名無し・ゴブリンの…群れ?違う…そんなんじゃない……もう軍隊だ。数千を超えるゴブリンの軍団だ。』


 使い魔の視線の先では大広間でゴブリン達が訓練を行っている。そこらの国の軍隊ごときなら壊滅できそうなほどの練度だ。そして映像はここで終わった。




名無し『“現在も内部を調査中。それからゴブリンの軍勢の総数も確認しているけど…もう3万は確認できた。”』


ミチナガ『“…ありえるのか?そんな数のゴブリンが。それに食料はどうしてるんだ?”』


名無し『“理由はわからない。だけどこのゴブリン達は食事を取らなくてもなんの問題もない。眷属に一体のゴブリンを丸一日観察させたけど食事をとる様子が見られないんだ。餌が必要なのはゴブリンを生み出す女王のみ。いや、もうあれは女帝…ゴブリンエンプレス…”』


ミチナガ『“マザー、早急にこの情報をユグドラシル国の冒険者ギルドに。それからリカルドにも知らせろ。”』


マザー『“了解、緊急事態として知らせます。”』


ミチナガ『“それから全ての使い魔に通達、あのゴブリンが何者なのか調べ上げろ。徹底的にだ。どんな些細な情報でも良い。何が何でも集めろ。”』


「ウィッシ!英雄の国まで後どれくらいかかるんだ!」


「待て…現在地から予想すると…後3日はかかる。悪路で速度が落ちたのが原因だ。」


「ポチ、速度を上げろ!80キロ巡行!休憩は無しだ!夜間も走らせろ!」


『ポチ・わかった!』


 魔導装甲車は速度を上げて走り続ける。この緊急事態を知らせるために。



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