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第160話 使い魔たちの日常2

「やあ、小さき我らの友、ハク。今日は何かハーブが欲しいのだがあるかい?」


『ハク・ええ、今日は10種類ほどありますよ。お茶にするならオリジナルブレンドがこちらに。これなんか甘い香りがして良いですよ。』


 とある森の中のエルフたちが住まう国。人間が立ち入ることのない閉鎖的なこの国につい最近、外から移住してきたものがいる。本来決して受け入れることのないエルフたちも移住してきたものがこの国にもたらしたものの価値を知れば歓迎した。それでも受け入れられないとする古い考えのエルフたちも族長たちの決定には逆らわなかった。


 エルフたちはその受け入れたものを見た目の白さからハクと呼び、それが定着した。ハクと呼ばれるそれはミチナガの使い魔だ。トゥルーリヤがエルフたちの国に連れてきてそこからこの地で定住している。


 現在はエルフたちの暮らしを学びながらちょっとしたミチナガ商会としての露店を開いている。ちなみにエルフたちはお金を使っての取引はしない。基本的に物々交換だ。時折外に出るエルフたちが金貨などを使うだけだ。


 だからハクの露店も物々交換をしている。交換するのはエルフたちにとっては一般的なものなのだが、外の世界からしたらお宝ばかりだ。この数日間でなかなか珍しいものがいくつも手に入った。そして今日もお茶系を売って色々と手に入れている。


 そんなハクの露店は午前中だけだ。午後からはちょっとした予約が入っている。今日も一仕事終えたハクはいつものように移動する。移動した建物からは何やら楽器の音色が聞こえてくる。ハクが建物の中に入ると弓を持った一人のエルフがいた。


「おお、きたな。では今日も始めよう。」


『ハク・よろしくお願いします。』


 ハクは壁にかけられていた弓をもつ。あまりの大きさに倒れそうだがそこは眷属を召喚して支える。もういつものことなのでこの一連の行動も慣れてしまった。ハクが準備できたのを確認すると男は弓の弦を弾いた。


 武器であるはずの弓、本来その弦は矢を番え、矢を引き絞るものだ。しかしそんな恐ろしいはずの弦からなんとも心を震わせるような音を奏で始めた。ハクもそれに習うように弦を鳴らす。しかしまだまだ男に比べてその音は良くない。しかし男は満足げだ。


「ハクよ、お前はまだまだ上手くはないがいい音を奏でる。うちの息子よりも弓の才がありそうだ。」


『ハク・ありがとうございます。だけど本当にいい音ですね。』


 この弓矢の弓を用いた演奏はエルフたちにとって一番の娯楽だ。森を愛し、弓の扱いに長けるエルフたちは森の中で暇さえあればこの弓で演奏する。しかも弦が一本しかない弓矢で様々な音程の音を奏でる。


 最近ではより多くの弦を用いたハープを使うものもいる。しかしそれは基本的に女性用だ。男はこうして弓を用いて曲を奏でるのが主流である。まあ最近では男でもハープを使うものもいる。一概にあれだからこう、みたいなことはない。エルフたちも徐々に考えを変えているのだ。


「この弓で音を鳴らすのが上手ければ上手いほど弓矢の腕も良い。まあ息子は音楽の才はないが戦いの才はそれなりにあるようだ。しかし…まだまだ努力せねばならんというのにあのバカ息子は…」


『ハク・12英雄の一人に選ばれても息子さんが心配なんですね。先ほどから音が乱れていますよ。』


「む!…お前は良い耳も持っているな。普段は気がつかれないようにしているのに…」


 いや、多分全員気がついているよ。しかしそうは思っても決して口には出さない。この男は一度拗ねると面倒なので言わないでおくのが正解だ。それに父親として自分の息子が心配になるのはわかる。しかもそれが自分より弱いとなるとさらに心配なのだろう。


「本当は弓を使った戦いも教えてやりたいが…その大きさではな…」


『ハク・いつか使えるようになったら是非ともお願いします。世界一の弓使いである聖弓と呼ばれるあなたに教えてもらえるなんてそうそうできませんから。それまではこうして音楽を奏でて腕を磨きます。』


「そんな時が来れば良いのだが…まあこうして音楽を奏でていれば自然と腕は上がる。ああ、もう少し力を抜いてみろ。」


 弓の世界にこの人ありと言わせしめ、準魔神級の実力はあると考えられている聖弓フィラクス。エルフたちの守り神とも呼ばれるこの男と共にハクは今日も音楽を奏でる。





『トーラ・その材木はそっちじゃなくてあっち!それからここの部分はもう少し削って!ほら!指示出しに行って!』


「は、はい親分!」


「すぐに行ってきます!」


 ここはユグドラシル国の獣人街の中心街。そこでは現在大規模な工事が行われている。獣人街トップのゴウ氏族による命令ということで屈強な獣人たちが働いている。そんな工事の現場責任者として使い魔のトーラが指示を出している。


 獣人街を任せられたトーラは細かい指示を的確に出していく。しかし獣人たちは全員文字が読める訳ではない。だからこうして二人の小間使いがいる。この二人は以前ミチナガに料理をぶっかけたやつらだ。あれからこってりと絞られてかなり反省している。


 しかし使い魔のトーラからしてみればまだ腹わたが煮え繰り返っている。だからこうして小間使いとして休む暇なく働かせている。しかし働かせれば働かせるほどこの二人が生き生きとしてくるという現象になんだかもどかしさのようなものを感じる。


「親分!行ってきました!」


「親分!次の指示は!」


『トーラ・えっと…ここの作業が遅れてる。こっちの作業は順調だけど他の作業が間に合ってないからしばらくしたら待ちの状況になる。そうなる前に何人か移動させて。手が足りないなら手伝ってきて。』


「「了解です親分!」」


 なんか本当は働きに働かせて許しを乞うのを待っていたのになんだか予想と違っている。まあこれでいいのならいいのかなと最近は諦めている。ミチナガももう気にしていないので自分が何か文句をいうのも違うかなと思うようになってきた。


「トーラさん、お疲れ様です。なかなか順調のようですね。」


『トーラ・ああ、アミルデスさん。これだけ順調なのは獣人の方々が皆汗水垂らして頑張ってくれているおかげです。私はただ指示を出しているだけですから。』


「その指示が的確だからここまでできているんですよ。ああ、これ差し入れです。」


 アミルデスはこうして毎日何かしら理由をつけて現場に来てくれる。まあゴウ氏族の元、工事が始まっているということだからゴウ氏族の族長の息子であるアミルデスがこうして確認に来るのは普通かもしれない。


 しかし本心は使い魔のトーラに何か獣人たちがしないか気になっているのだろう。アミルデスは意外と心配性だ。まあ本人曰くトーラの的確な指示を見て聞いて、将来族長を継ぐであろう自分の糧にしているらしい。


『トーラ・今日の差し入れはお菓子ですか。7班のやつは大喜びですね。3班は甘いのが苦手な奴が多いから何かこっちから別のものを渡しておきます。』


「現場の全員の好みまで覚えているんですね。しかしあそこで猿人に混じって犬人が一人働いているのは…」


『トーラ・猿人は手先が器用ですからね。あの犬人の子も力作業よりも細かい方が得意なんです。ただ犬猿の仲とも言いますからね。だから猿人の彼らと仲良くなれるようにいくつか話題を提供しておいたんです。今じゃ仲良しで一緒に酒まで飲みに行きますよ。』


 獣人といっても一枚岩ではない。獣人の中でもいくつか部類に分かれている。仲の悪い獣人同士もいるのだ。だから現場ではいくつかの班に分けて諍いのないように作業をさせている。トーラもそれを知るまでは喧嘩の絶えない現場で困り果てていた。


 アミルデスはそういった細かいことまで気にするトーラを心底尊敬している。獣人は割と縦社会なので無理やり言うことを聞かせることが多い。だからトーラの柔軟な発想は普通の獣人ではなかなかないことだ。


 そんなトーラを見習っているアミルデスは現在警備隊の支部で隊長を任命されている。しかも話を聞いてくれる上に理解のある隊長ということで部下からは慕われている。そんな状況を聞いた族長のアルダスは感激して毎日誰かしらに息子の自慢をしている。


「それでは私は仕事に戻ります。いつも長々とお話ししてしまってすみません。」


『トーラ・いえいえ、またいつでも来てください。ああ、そうだ。今日は飲み会があるんで帰りは遅くなりますとお伝えください。』


「わかりました。それでは。」


 アミルデスは今日聞いたことを参考に獣人同士の仲を取りもち、さらに部下からの信用を得る。その話は上層部にも伝わりさらなる昇格も近いだろう。





『タン・だーかーらー!これをなんて読むかって聞いているの!それに答えたら書き方教えるって言っているの!』


「あーまたなんかやっているな。はいはい、今仕事しているから。最近は布作るので忙しいんだから。」


 以前ナイトが助けた村では大忙しだ。聖樹に囲まれているこの村で、芋虫たちに聖樹の葉を与えたらさらに良質な糸を産出できることが判明したのだ。それ以来実験と試作品の生産で大忙しだ。だからタンがなんとかして文字の読み書きを教えようとしているのだが忙しくて誰も聞いてくれない。


『タン・ムーン先輩みたいにやろうとしたのに…これじゃあ誰とも会話が成り立たない……』


「葉っぱ!」


『タン・む?…葉っぱはこう書きます。じゃあこれは?』


「お家!」


『タン・お家はこう書きます。純粋な子供たちというのは話を聞いてくれるのですか。う…うぐぅ…任せてください!私がこの子たちを立派な大人に変えてみせます!』


 タンは張り切って子供達に読み書きを教え始めた。それは単純に大人たちが忙しいから子供達が暇を持て余してタンの勉強を教わっているだけなのだが当の本人はそんなことは知らないしどうでも良い。


 とにかくこれで誰かと会話することができるようになりそうだ。その事実さえあればタンはこうしてまた頑張ることができる。



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