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第156話 獣人街2

「へぇ〜…そうだったんだ。」


「はい、10歳の頃に身代金目的で拐われてからなのでこうして家に戻ったのは9年ぶりなんです。」


 アミルデスはもともと族長を脅す身代金目的で拐われたのだが、それを身代金以上に高く買い取る貴族が現れたため奴隷として売られてしまったのだ。アミルデスの一族であるゴウ氏族は戦闘能力が高く、アミルデスも戦闘奴隷として訓練させられたらしい。


「それで今は警備隊の一員か。」


「これが結構天職な気がするんです。冒険者のように毎日戦うのは嫌ですが時々体を動かすこの警備隊は本当に気に入っているんです。まあまだ始めてそんなに経っていませんけど。」


 まあ奴隷として解放されたのが去年のことだからな。それからこの国まで戻ってとなるとまだまだ帰ったばかりという頃だろう。しばらくは両親に甘やかされたようだが、体を動かしたいということで警備隊を始めたということだ。


「ミチナガさんはあれからどうしたんですか?」


「俺か?俺は…ブラント国でミチナガ商会になって…この国では孤児院の運営が中心だな。ああ、でも春あたりからこの国でもミチナガ商会を始めるつもりだ。場所は人間街の大通りから少し外れたとこなんだ。」


 簡単に現状報告をし合うと今度はこの国にブラント国から帰って来た他の獣人の話になった。他にも数人いるらしくそのうち会って欲しいと頼まれた。まあそういうことなら会うだけ会っておこう。


「ああ、そうだ。どうせならこの獣人街にもミチナガ商会を作りませんか?うちの土地がいくつか点在しているのでそこをお譲りします。それからうちでミチナガ商会を宣伝します。どうでしょうか。今日のようなことは決して起こらないようにします。ミチナガさんに少しでも恩を返したいんです。」


 う、う〜ん…正直どうなんだろ。獣人専門に商売なんてしたことない。それにこの恩返しで店を開くというパターンは危険な気がする。もしも売り上げが良くなくて店を閉店させたいと思っても恩返しで建てた店だから閉店しにくいと思ってズルズルと長引きそうだ。


 それに今日起きたことを考えてしまうとやはり店を開くのは危険な気がする。しかしここでうまくいけば獣人たちの信用を得られるのか。元手はそこまでかからないしなぁ。う〜ん…どうなんだろ。


「ま、まあ…いいかもね。色々準備が必要だからすぐにというわけにはいかないけど。」


「ありがとうございます!親父!そういうことだからいいだろ?」


「ああ、構わん。その程度は安いものだ。しかしまずは獣人と友好関係だという証が必要だ。何か良いものがあれば良いのだが…」


 エルフのように何か物品で友好関係の証を表せれば良いのだが、奴隷にされていた経歴から物を大事にするという習慣は薄れていった。下手に物で友好関係を表すと誘拐され奴隷にされた時にその物を盗まれ悪用されるリスクがある。


「親父、それに関しては問題ない。俺がみんなにミチナガさんのことを触れ回る。ミチナガさん、任せておいてください。」


 まあアミルデスがそういうのならまあ任せよう。それから談笑しながら夕食までご馳走になった。基本的に獣人の食事は肉が多い。それも内臓系まで全て使う。冒険者なんかだと内臓を食べる文化はあるようだが、一般的には内臓は捨ててしまっている。


 まあそれは単純に内臓は鮮度が大切なので、一般に流通しにくいという問題があるのかもしれない。何かこういった内臓系の食事を提供したら獣人受けはいいかもな。ちょっとその辺りをシェフにでも考えておいてもらおうか。


 そして翌日はブラント国で別れた他の獣人たちに会いにいった。みんな元気にしているようで皆それぞれに満喫しているようだ。周囲の獣人たちによって助けられているようだ。俺に会うと皆それは喜んでくれた。その日の夜はみんなでパーティーを開き、大いに盛り上がった。


 そして翌日もなんだかすごいもてなしを受けている。話を聞くと獣人は友人を大いにもてなすという習慣があるという。それは獣人奴隷の名残で、奴隷として拐われた獣人が逃げて来た時に衣食住を与えていたという所から来ている。獣人の仲間意識というのはそれなりに強いようだ。


 そんなもてなしを受けること1週間、さすがに俺も仕事があるので帰らなければならない。というか居心地が良すぎて随分と長居してしまった。しかしこれだけもてなしを受けてただ帰るというのも申し訳ないだろう。


「アルダスさん、それにアミルデスもお世話になりました。それにうちの使い魔を任せてしまって…。まあこれはお礼の気持ちです。受け取ってください。」


 俺が取り出したのは酒とモンスターの素材だ。一緒にいた限り酒は好きそうだからソーマの酒の美味いところをいくつか。それからモンスターの素材はナイトの狩ったモンスターの物だ。もちろんナイトには俺から金を払っておいた。


「み、ミチナガさん…これはさすがに…いいんですか?」


「これだけもてなしを受けて何もせずに帰るのはミチナガ商会の恥だ。貰ってほしい。」


 良さげなモンスターの素材をいくつか入れておいたけど満足してもらえているようだ。俺は颯爽と魔導装甲車に乗るとそのまま出発する。何かあったときは置いて来た使い魔から連絡が入るだろう。


 来た道を魔導装甲車を走らせて帰ると来た時とは全く雰囲気が違う。この1週間の間に俺はゴウ氏族の恩人のミチナガとして名が広まったらしい。誰もが俺に手を振ってくれる。あ、あそこは料理ぶっかけられた店だ。店主のおばちゃんは店から飛び出してこれでもかというほど頭を下げている。


 またしばらく行くとあのとき料理ぶっかけて来た奴がいた。離れているが土下座して謝っているようだ。ただ遠目からでも顔色が赤黒いのと青黒いのでカラフルだ。どうやらこっぴどくやられたらしい。まあしかし彼らのことも歴史的背景を考えれば仕方なかったかもしれない。不用意に近づいた俺も悪い。


 俺はもう少しこの世界の歴史というものを学んだ方が良いだろうな。人間に獣人にエルフにドワーフか。今では齟齬が起きているようだが世界樹があった頃は皆仲良く暮らしていたはずだ。そうでなければこんな4つの種族が一国に隣り合わせで暮らすはずはない。


「それにしても随分この1週間であったかくなって来たな。」


『ポチ・孤児院周辺の雪も随分溶けたみたいだよ。マックたちも本格的に出発の準備を始めたみたい。』


「そっかぁ…もうこの国ともお別れなんだな。雪の間だけだったけど…なかなかいい国だったな。ってまだ出発じゃないからこんなしんみりする必要もないか。早いところ帰って色々やることやっちゃうぞ。」


『ポチ・はいはーい。』






「な、いい人だったろミチナガさんは。」


「いいやつと言うかなんというか……ありゃものを知らない感じだな。そうじゃなきゃこんなもん置いていかんだろ。」


「ジャイアントバジリスクに蠍蛇、アースオーク…それもジェネラル級ね。こちらがもてなすはずだったのに最終的にはこちらがもてなされてしまったわね。ねぇあなた、ゴウ氏族としてはどうするの?」


「奴が商人だというのなら最高の店を用意してやろう。ゴウ氏族の名にかけてな。」


『名無し・よろしくお願いします。』


 後日、ゴウ氏族の号令の元、一大事業が始まった。完成までにはしばらく時間を要するが、完成すればミチナガ商会最大の店舗が完成することだろう。ミチナガ商会ユグドラシル国店、獣人街最大の商会の完成はもうしばらく先のこと。



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