第16話 調理レシピ
翌日、俺は街に出向くこともなく部屋に閉じ籠っていた。
というのも街に行くのには護衛が必要なので俺の都合に毎日付き合わせるのも悪い。
かといって城壁の中は物価が高いため金欠の俺には少々厳しい。
そういうこともあり今日は部屋で新しい釣り道具の思案とスマホを弄ることにした。
ただスマホに関してはメイドさんが時折部屋に入って来るのでこそこそいじるはめになっている。
正直俺にそんなに気を使わなくても良いのだが…
それと新しい釣り具の思案だがもうほぼほぼ終わっている。
俺が作ろうとしているのはルアーロッドとそれにつけるリールだ。
実は昨日の釣り場調査の際に似たようなものを見た。
だから意外とこの世界にもあるもので新しいものではないのかもしれない。しかしそのほとんどが庶民が使うため、とても簡素な作りで使い勝手も悪そうだ。
だから俺が今回作るのは使い勝手の良い竿だ。
値段のことはあまり気にせず、とにかく大物の引きにも耐えられるような丈夫な竿を作ることだけを考えた。まあ作り自体は簡単なものなのでそこまで悩むほどのものでもない。
ただ材質のことはあまりわからないので明日にでも再び調査に向かうことにしよう。
それとルアーロッドを作るのならばルアーも作る必要がある。
本当は水の中でどう動くか考えなくてはならないのでそれなりに知識が必要なのだがさすがの俺もそんな知識はない。とりあえず形は適当にいくつかの種類を作って見る。
まずは一番簡単なスプーン。
これは名前の通りスプーンから発想を得たルアーで楕円状の鉄板に針をつけただけだ。扱いも比較的楽なのでこれに関してはいくつかの種類を作っておこう。
次にメタルジグ。
見た目は魚に模した鉄の棒である。これも作成に関しては難しくはないので簡単にできるだろう。
最後にミノー。
これに関しては少し悩んでいる。軽く水面近くを狙うルアーなのだが正直作れるか不安だ。これは木や空洞なプラスチックで作られるのだが水の中を動かすと本物の魚のように左右に振れるのだ。その辺の仕掛けがよくわかっていない。前の二つは加工も簡単なのだがこれに関しては試行錯誤が必要だ。これは自分で色々作って見るのが一番だろう。
ルアーは他にも色々と種類があるのだが今回はこのくらいにしておこう。それにしてもこっちに来てからスマホと商売と釣りしかしてないな。まあ楽しいので文句はないのだけれど。
それから夕食後、俺は一人ベットの上でスマホをいじっている。
いつもの光景だが今日は少し違う。なんせ今日はある意味運命の日なのだから。
立ち上げたアプリはもちろんファームファクトリー。
俺は早速蜜の実の収穫に取り掛かる。種の問題から畑2つ分での栽培だがかなりの量が収穫できたのではないだろうか。
早速収穫を始めると蜜の実は真っ白な小さい実で一つの苗にいくつもなっている。
しかし収穫して行くと何やらいつもと違うおかしな点に気がつく。
何やら妙に何もない空間が広いのだ。しかも収量も一本ごとにかなりばらつきがある。
腑に落ちない点が多くあるがそのまま収穫を続け最後の一本まで終わらせる。
『おめでとう!蜜の実の収穫成功!これまでの総タップ回数4825回。収穫できた蜜の実3024個!ボーナスゲット!レベルアップ!』
「あれ?いつも大成功なのに今回は成功だぞ。それにボーナスってなんだ?」
すると画面が切り替わり何やらチュートリアルが始まる。
『ボーナスが入ったよ。ボーナスはまだ解除されていない種を入手して収穫まですることができると手に入るよ。ボーナスによって種の値段がどんどん下がるから頑張ってボーナスゲットしよう!ただし、解除されていない種から育てる場合は育成が難しくて収穫量も下がっちゃうよ。気をつけてね。』
「あー…それで妙に育成の時から変な感じがしてたのか。収量も下がるのは痛いけど収穫していけば値段も下がるんだろ?だったら値段を下げまくってから種を買うか。」
今回いくら下がったのか確認して見ると金貨3枚分も値下がりしていた。
しかし元値が金貨100枚なのでタダにするまであと30回以上育てる必要がある。先は遠いがやるだけの価値は十分ある。
その後は収穫した蜜の実から種を取り出し、いつものようにスマホを操作して蜜の実を植えておく。
それから砂糖を作ろうと思ったのだがここで問題が発生した。
「砂糖のレシピは金貨1000枚!?それに精製所が必要?なんだそりゃ、そんなアプリなかったぞ。増築?もう訳わかんない。」
いざ砂糖を作ろうとしたらどうやら今のままでは作れないらしい。
なんでも増築が必要とのことでどこでもクッキングでレシピを30個以上解除しさらに作ったアイテムの数が1000個を超えないといけないらしい。
さらにいくつかのアプリの解除が必要とのことだ。それがない限り砂糖を作ることはできないとのことだ。
「せっかくの大儲けのチャンスが…まじでクソゲーだろ。つまりは別の金集めをまたしろっていうことなんだろ。今、金になる商売なんて全然ないし元手もないんだぞ。どうしろっていうんだよ。」
これじゃあもう稼げる方法なんてない。
魚介類の出荷もこの国では意味がないだろう。かといって野菜も無理、できるのは何か食事を作ることくらいだ。
しかしそれも食材を買わなければならないし、何より儲けが少ない。
今の俺にできることなんて出店くらいだ。そんなのでは頑張っても一日の売り上げなんて金貨数枚も行かないだろう。
もっと大金を稼げる方法。今あるもので稼げる最善の方法。
ダメだ。全くいい案が浮かばない。その日は結局そのまま寝ることにした。
翌日。いつもより早く起きてしまった俺は稼げる方法を考えていたがいい案が全く浮かばないので起きて屋敷の中をうろつくことにした。
まだ朝も早いというのに屋敷の中は騒がしくなっている。
メイドや執事たちは主人が起きてくる前に準備をしているようだ。
俺が起きていることに気がついたメイドが近づいて来たが一人でのんびりしたかったのでかまわず仕事をしてもらうことにした。
中庭を探索し色々と歩き回っていると何やら美味しそうな匂いがして来た。
その匂いにつられて移動するとそこは厨房のようだった。
少し覗いてみると幾人ものコックが慌ただしく…ということもなく数人のコックが下処理を行いながら朝食のメニューについて話し合っていた。
今日の朝食はなんなのかと見ていると俺の存在に気がついたコックの一人が近づいて来た。
「これはミチナガ様。このような場所に何かご用でも?」
「美味しそうな香りがしていたからつい来てしまいました。この香りは…パンですか。おかずはなんでしょうか?」
「伯爵様は朝からたくさんお食べになりますが豪勢なものは好みません。なのでシンプルなものが多いですが…なんでしたら見ていきますか?」
特にやることもないし考えもまとまらない。
料理をしている光景というのは見ていて意外と面白いからリフレッシュになるかもしれない。
なので調理工程を見せてもらうことにした。
料理にゴミが入らないように準備をする。準備ができると一人の料理人の作業工程を見せてもらえることになった。
俺が見ているということもあり人に見せるための調理をしている。
何度もこの屋敷で食事をとっているがこの屋敷の料理人の腕は高い。
調理光景なのについ見入ってしまう。そうだ、どうせなのでスマホで動画を撮っておこう。
後で見直して見ても面白い。スマホを取り出して全体が写るように動画をとっているとその様子に気がついた料理人が話しかけて来た。
「なんですかそれは?」
「ちょっとした魔道具ですよ。危険なものではないので気にしないでください。」
そういえば誰かの目の前でこのように使ったのは初めてかもしれない。
街中で使うことはあるがそれが何かを聞かれることはまずないので聞かれるこの状況は初めてだ。
何かを説明したところで余計な問題を生むだけだと思うのでごまかしておこう。
そのまま全ての調理工程を動画で撮らせてもらった。
意外と手をあげて撮影しているだけだというのに腕がきつい。日頃からゴロゴロしているせいで筋肉が全然ないのだろう。
「いやぁありがとうございます。いい経験になりました。」
「お気に召していただきこちらも嬉しいですよ。では朝食になりますので広間に行きましょう。」
これは良いものが見られた。早速調理場を出て移動する。
スマホの動画も良いものが撮れた。後で暇つぶしに見てみよう。
そう思いスマホを閉じようとすると先ほど撮っていた動画が何やら読み込まれていた。かなり長時間の動画撮影だったが保存するだけでこんなに時間はかかるまい。
意外と読み込み機能に関しては大したことがないらしい。
『動画の保存、及び読み込みが終了しました。動画から複数のレシピを入手しました。』
「レシピ?レシピってもしかして調理レシピが増えたの!?まじか、これにも抜け道あったのか。」
どこでもクッキングを開くと複数のレシピ、先ほど作っていた料理のレシピが入手できていた。
ただこれは通常の購入するレシピとは違いこの屋敷のレシピをそのまま入手する形らしい。
例えば卵焼きでも10人いれば10人とも少しづつ味付けや焼き加減に違いが出てくる。
動画で入手するレシピは10人それぞれのレシピを入手することになるのだ。
レシピを購入する場合はそういった細かな違いも自分で調節できるようになる。動画は調節ができず、購入は調節ができるのだ。
ちなみに動画で入手した場合購入するレシピの値段は下がっている。
しかもかなりの割合で下がるので数人の調理光景を動画で入手したら元のレシピはタダで手に入りそうだ。
「これはいいぞ。これなら後で他の人の調理光景を撮らせてもらえば…。あ、いいこと思い出した。」
朝食後、早速俺は街に出ていた。
城壁内の探索なので護衛は誰もいない。
俺が向かったのはあの俺を追い出そうとした飯屋だ。今ではただで食べることも可能になっているが。
この場所までは全く迷うことはない。なんせマップに登録されているからな。
「まあそんなわけで調理光景を見せてもらっても良いかな?」
「どんなわけかわかりませんが調理光景はあまりお見せできないのですが…」
「ここの料理美味しかったから今度アンドリュー子爵様をお連れしようと思ったんだけどなぁ…」
「こちらです。隅から隅まで見ていってください。」
さすがは子爵。これで大量にレシピゲットだぜ。