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第149話 社畜の旅

 ガタガタと馬車が揺れる。乗合馬車と思われるこの馬車には多くの人々が乗車している。そんな乗合馬車から乗り出して外の景色を眺めている白いものがある。なんともワクワクした表情で外を眺めているこの白いのは使い魔の社畜だ。


 ウィルシ侯爵の元へ赴き、知り合いの研究者を紹介してもらったところ、とある人物を紹介してもらった。その人物はこの前の釣りパーティーの時には出席していなかった。部屋に閉じこもって研究するのが好きで、ウィルシ侯爵も声をかけたのだが部屋から出ようとしなかった。


 そんな人物の元へ社畜とウィルシ侯爵の使いの人の2人で向かっている。さすがに社畜1体で向かうのは厳しいものがあるので、用事ついでについてきてもらったのだ。貴族専用の馬車で向かえば良いものだが、ウィルシ侯爵はそういったものには無頓着だ。乗合馬車で行けるのならそれでいってしまえという考えのようだ。


 すでに乗合馬車での旅は3日目だ。休憩を挟みながらも結構な移動をしているのにまだまだつかない。今日も野営かと思ったその時、遠くに大きな建物が見えた。使いの人曰くあそこが目的地だということだ。


 目的地に到着し、馬車から降りるとそこはなんとものどかな村だ。ごくごく普通に畑作をこなしてごくごく普通に暮らしている村人しか見られない。こんなところにそんな研究者がいるのだろうか?


「こちらですよ。あの屋敷がそうです。」


『社畜・なんだか廃墟のようにも思えるのである。本当に人が住んでいるのであるか?』


「ええ、なんでも人を入れるのが嫌いらしいです。食事も村人が提供してくれるのをそのまま食べているようですよ。」


 明らかに奇人変人の類が住んでいると予想される。屋敷の方へ進んでいくとなんともボロ屋敷だ。本当に人が住んでいるとは思えない。使いの人はちゃんとノックをするのかと思いきやそのまま屋敷の中へ入ってしまった。なんでもノックしたところで意味はないのでそのまま入った方が楽とのことだ。


 なんとも無茶苦茶な、と思ったがまあ中に入ればその理由もわかる気がする。入り口から中に入るとそこはまだ外見の方がマシだったと思えるほどの見た目だ。蜘蛛の巣は張っているしネズミがそこら中にいる。社畜がビクついていると使いの人はどんどん進んでいく。


「多分ここの部屋に…あれ?いない。じゃああっちの部屋ですね。」


 遠慮なく部屋を確かめていく使いの人の後ろをついていく社畜だが、覗かれた部屋は部屋の中は紙だらけだ。何か書かれた紙が散乱しているがどれも複雑な公式のようなものが書かれている。確認したいがハグレたくないのですぐに後をついていく。


 進んでいくと一つの部屋から物音がした。どうやらここが目的の場所のようだ。部屋に入ると一心不乱に何かを書き続けている人間がいた。ただその人物はあまりにも不潔だ。服は汚れているし変な匂いもする。一体いつから風呂に入っていないのだろう。


「エミル博士、エミル博士!お久しぶりです。」


「あ?あんた誰?……それに何そのちっこいの。」


「ウィルシ侯爵の使いのものです。博士にいくつかお話があって…」


「んな時間ないわよ。忙しいから後にして。」


『社畜・…古代魔法言語を用いた起動式実験?運用に関する問題点であるか。』


「…あんたこれ読めるの?」


『社畜・うむ、かつてこの言語で書かれた日記を見つけたのである。』


 床に散らばっていた紙に書かれていた言語はかつてゼロ戦を発見した場所で遺体が持っていた日記の言語と同じだ。エミル博士と呼ばれていたおそらく女にそのことを話すとものすごい形相でこちらに寄ってきた。


「古代魔法言語を用いた日記!?そ、そんなレアものがあるの!見せなさい!」


『社畜・お、落ちつくのである!実物はかなり脆くなっているのである!え、映像だけ見せるから少し待つのである。』


 社畜は急いで日記の1ページを投影する。その映像を食い入る様に見るエミルの表情はまさに研究者と呼べるものだった。だが次第に読んでいくとなんともつまらなさそうな表情を浮かべた。まあそれもそのはずだ。なんせ内容は本当に日記、しかも男と女の恋話だから研究のしがいもない。


「内容はまあどうでも良いわ。だけど紙という媒体で残っているってことは…古代文明の生き残りがそんな時代まで生きていたってことよね。ものすごい収穫だわ。」


『社畜・我輩はこれを教えたのだから見返りが欲しいのである。古代文明とはなんなのであるか?』


「そうね…老害どもは信じないけど教えてあげる。この世界の文明は何度か滅びている。その滅びた文明の中には現代の魔法学をはるかに超えた文明があったのよ。その証拠もある。きなさい。」


 エミル博士に案内されるままついていく。どこかに大切に保管されている、と思いきやなんとも適当に置かれていた。机の上に置かれたそれは何かの腕の様に見える。金属製の様だが、かなりボロボロだ。


「言っとくけど義手じゃない。これはかつて最強のゴーレムを作ろうとしていた時のものよ。ゴーレムは本来核となる魔道具を埋め込むことで土塊をゴーレムに変える。だけどこれはそのゴーレムの体の構造を一から全て作り上げたもの。運用されたかどうかはわからない。だけどこの腕一本も今の魔法学では作ることが不可能。というか製法がわからない。」


『社畜・なるほどである。そんなものを作り上げた文明があったということであるな。』


「そう、そしてこの腕に使われている言語が古代魔法言語。正式名称は別にあったのかもしれないけどもう今ではそんな記述すら残ってないわ。それにこの魔法言語はとても特殊なの。」


 そういうとエミルは古代魔法言語で一つの言葉を綴った。意味は石という簡単なものだ。そしてその隣に同じように石という言葉を書こうとしたのだが、一文字だけ文字を間違えて書いた。書き終わり少し経ったところで見ているとその文字は紙から剥がれて消えてしまった。


「今見てもらった通りこの文字は意味となる言葉でないと書き記せない。おまけに一度記した言葉を改ざんすることもできない。魔道具に用いる言葉としてここまで最高の言葉はないわ。起動術式を間違えることもないし、誰かによって改ざんされることもない。この言語を解き明かせば世界の魔法学の歴史を変える!いや、過去の魔法学に追いつくことができる!…はずなんだけどね。この言語で通常の魔法陣を書いてもなぜか発動しない。何か足らないものがあるのよ。それがわからない。」


 エミルはこの魔法言語に関する研究に生涯をかけている。ただ研究途中にでた研究結果を以前発表したらいろんな人がやってきたという。彼女はリカルドが以前言っていた実績作りにとりあえず出したものが現代の研究のその先を行っていたと言われた人物だ。彼女は間違いなく天才である。


『社畜・魔力周波数や素材の観点はどうであるか?』


「そんなものはとうの昔に調べた。だけどうまくいかないのよ。単純に言語配置の問題かとも思ったけどそんな単純なものでもないのよ。」


『社畜・少し研究成果を見せて欲しいのである。』


 エミルは好きにしてと、また自身は研究に没頭し始める。社畜はどんどんと研究成果を読み進めているが、どれも凄まじいもので、そこらへんの紙一枚を学会に提出するだけで大論争が起こりそうだ。本当に彼女の頭脳は素晴らしいものだ。


「それでは私はこれで帰りますね。今回の物の受け渡しはそちらの彼に任せておきましたから。ああ、何か用事があったら言ってください。しばらく村で休んでから帰りますので。」


 使いの人はこのままとんぼ返りする体力は残っていない。かと言ってこの屋敷では休む場所がないので村で休むようだ。まあこれはごくごく当たり前のことのようで手慣れたように何処かへ行ってしまった。


 社畜はそんな中一生懸命資料を読み進めていくのだが、すでに何枚かは紛失してしまったものや、ネズミや虫に食われたと思われるものもある。そして現在も食われていく資料もある。このままではまずいとすぐに悟った社畜は急いでワープに頼んで手の空いている使い魔を送ってもらい掃除を始める。


 それから1週間、社畜は研究資料の読み込み、送られてきた使い魔は掃除と社畜の拠点作成と忙しい毎日を送った。正直社畜だけでは資料を読んでもわからない場所があったのだが、そこは他の研究施設で学んでいるフェッサーの情報をマザー経由で送ってもらいなんとか理解できている。


 そしてひと段落した今日、社畜の拠点も完成したので社畜は一度スマホに戻ることにした。これは単なる休憩目的かと思いきやそうではない。社畜は一度自分の頑張りを構って欲しかったのだ。スマホに戻ってきた社畜は報告という名のちょっとした自慢を始める。聞き流しても良いものだが、ピースだけはそれを聞いていた。


社畜『“…ということなのである。大変だったのである。”』


ピース『“お、お疲れ様。だけどちょっといい?その古代魔法言語って本当に間違えることできないの?”』


社畜『“不可能である!我輩がこの目で見たのであるから間違いないのである。どうしてであるか?”』


ピース『“え、えっとね…日記読んでいたら書き間違い見つけちゃったから。だから間違えることもあるよなーって。”』


社畜『“もしもそうならそれはきっと意味のある言語なのである。ピース殿は……隠された意味を見つけた?…のである……ピース殿…これは…に、日記は!”』


ピース『“い、今はポチさんが読みたいって!も、持ってくる!”』


ポチ『“あ、ピース。今読み終わったよ。って…ど、どうしたの!?”』


社畜『“ピース殿!間違っていた部分は覚えているのであるか?”』


ピース『“大丈夫!…一旦全部バラそう。それからページの順番ごとにつなぎ合わせて…”』


 本をバラバラにして書き間違えた文字をつなぎ合わせていく。やがてその書き間違えられていた文字は一つの言語となる。





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