表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/573

第15話 王都の視察

 翌日、俺は城壁の外の街へと来ていた。

 それは昨晩、子爵と色々と話をして釣り場の下見を兼ねて街へ繰り出すための話し合いをしていたのだ。

 正直一人で色々と見て回るのも良かったが城壁の外の治安は意外と悪く一人で行かせるのは不安だったらしい。


 王都は多くの賑わいを見せているがその反面、多くの人が流れ込んだ影響で商売は過酷な状況なのだと言う。

 商売で成功を収める人間もいれば逆に失敗する人間もいる。

 その失敗した人間は故郷に帰る金もないため街の隅でスラムを形成しているらしい。


 そのスラムには多くの犯罪集団がいるようで俺のような金を持っていそうな男はすぐに狙われると言うことだ。

 なので子爵と話し合いを行い釣り場の下見ということで数名の護衛を借りることができた。

 だから俺は今日、大手を振って街を見ることができる。


「いやぁ。賑わっていて楽しいですね。それにしてもこんなにも早く怪我が治って良かったですよ。」


「それも貴方からいただいたポーションのおかげですよ。本当に感謝しています。」


 護衛についているのは王都に来る際に生死の境を彷徨ったあの護衛とほか二人である。

 なんでも俺が護衛を求めていると言うことで無理やり駆けつけてくれたのだ。

 あれだけの怪我をしたと言うのにもうなんともないような様子で平然と俺の隣を歩いている。


「命が助かって何よりですよ。それと今日は本来は釣り場の下見ということですがしばらくの間は私の買い物に付き合わせることになってしまいますがよろしいですか?」


「構いませんとも。この二人も私の部下なので文句は言わせませんしね。ただきちんと目的さえ達成できれば何も問題はありません。」


 これは心強い。俺は早速買い物を始める。

 今日買うのは魚と植物の種、それから役に立ちそうなものだ。

 魚を買うのは俺が釣っていなくても釣りバカ野郎の図鑑に魚が登録されるのか。

 それから植物の種はファームファクトリーでその種から栽培することが可能なのかだ。


 ファームファクトリーでは今まで種が売っていることから現実で買っても意味はないだろうという勝手な思い込みからためしたことはなかった。

 しかしうなぎの図鑑登録の一件以来、固定観念を捨てて試してみることにしたのだ。


 それから様々な種類の種を売る露店を見つけたので物色をしてみる。

 しかし種を見てもどんなものなのかわからないし、名前を言われてもわからない。

 なんともポンコツな具合だが護衛の怪我を治した男、ポランティがそんな俺を見かねて色々と教えてくれた。


「このパンライというのは粉にしてパンにするもので隣の種はオレンジ色の根っこの食べ物です。どれも多くの農民に育てられている野菜ですよ。」


 小麦に人参かな?収穫されたものは形が違うものもあるので確かとは言えないがそれでもそれに近いものだろう。

 説明されたものをかたっぱしから買っていく。

 種は農民向けのものなのでかなり安い。量はわからないがとりあえず一袋ずつ買っていく。


「それにしても詳しいですね。私には全くわからないのでとても助かります。」


「元々農民の出なのでそれなりに詳しいんですよ。あ、これなんて珍しいですね。私は蜜の実とよんでいるのですがこの実はものすごく甘いので砂糖を作ることができるんですよ。」


 なんと!砂糖の原料か。

 しかも実ということは果実系なのだろうか。

 地球の砂糖の原料はサトウキビか甜菜だ。見た目は竹と大根である。

 この世界ならではの野菜ということなのだろう。


「それはいいことを聞きました。他のに比べて高いですが是非とも買いましょう。」


「構いませんが育てるのは難しいですよ。だから砂糖が高いということもありますけど。」


 難しいのか。では失敗した時のことも考えて多めに買っておこう。

 その前に本当に育てることができるのかまだわかっていないが彼らの前でスマホを取り出すのはまずいだろう。

 今もスマホの存在はバレないように布袋の中にしまってある。

 この布袋を収納袋ということにしているのでアイテムの出し入れに関しては問題ない。


 それからも色々と買い物を続けていくと魚を売っている店が立ち並んで来た。

 魚を売っている店は前の街にはなかったので初めてみる光景だ。

 しかしちゃんと冷蔵していないのでかなり匂いがする。内臓もとっていないので下処理は最悪だろう。


「この匂いは…なかなかきついですね。」


「まあ普通の街ではごく当たり前なのですが私もこの匂いはなかなか…しかし王都は水源が豊富で他に類を見ないほどの魚種がいますからね。」


 なるほど、確かにその通りだ。王都周辺には海がないのだがそれでも様々な魚種がいる。

 淡水魚だけでこの種類というのはかなり珍しい。しかも値段も手頃で買い求めやすい。


「そこの旦那!いかがですかい?うちは他の店よりもでかいのがたくさんいるよ!」


 なかなか元気の良い店主である。確かにこの店の魚はどれも大きくて立派だ。

 種類も豊富だしなかなか良い。

 どうせなのでこの店で情報を入手しながら買い物をすることにしよう。


「確かに立派な魚だね。これはどこで取れるのかな?」


「この魚はどれもリッジ湖の魚だね。全部俺がとって来た魚だよ!」


「それはすごいな。実は釣りの好きな貴族様の使いでね。とっておきの釣り場があったら教えて欲しいんだが。」


「それはそれは…貴族様のお使いですか。しかし私も商売ですからタダでとは…」


「この店の一番でかい魚を全種類買っていくがそれでどうかな?」


 その言葉を聞いた途端店主は踊り出しそうなほど喜ぶ。

 なんせ全品種一匹ずつとなると金貨1枚はいくだろう。

 ここの店主は相当腕利きなのか種類だけでも30種はある。しかもでかいから値段も高い。

 しかし情報収集にもなるし俺の役にも立つので特に問題はない。


 問題があるとすればこの男の話し方だろう。

 捲したてるように口早に説明しているため何を言っているかわからない。

 このままでは仕方ないので釣りに行く日に迎えに行くから案内するように言うとさらに喜んでいた。

 貴族との繋がりが持てるからかそれとも当日の案内料を払うからのどっちかはわからない。


 それから魚を全て収納し男に代金を払って別れる。

 ポランティが金貨1枚も払ってよかったのか聞いてくるが子爵のためなら安いものだと言ってやると何か感動していた。

 それからもまだ買っていない魚を見つけるたびに買って行ったのでかなりの出費になった。


 その後昼食をとり時間もないので早速釣り場を見に行くことにした。

 ポランティの話によると王都周辺からすぐに行ける川、もしくは湖は5箇所。

 その一つ一つを丹念に見ていきたいが買い物で時間を使いすぎたのであまり時間はない。

 なのであの男の言っていたリッジ湖とその周辺をいける範囲で行くことにした。


「それにしても良いのですか?あの魚屋の男がリッジ湖については案内すると言う話でしたが。」


「だからこそだよ。男の言うままに行って見たら子爵が釣りをするのには向かない場所かもしれないし、もしあの魚屋の男の言っていたポイントが当日釣れなかった場合別の場所に速やかに移動する必要がある。だからリッジ湖周辺に絞って探索するんだ。」


 釣りにおいて釣れなかったら移動はよくあることだ。

 それに周辺環境を知っておけばモンスターの危険があるかどうかもよくわかる。


 ポランティの案内でリッジ湖にはすぐについた。

 かなりでかい湖だが対岸はギリギリ見える。

 見た感じ川をせき止めて作られた人口の湖のように見える。もしかしたら農民用の貯水湖なのかもしれない。


 リッジ湖周辺を歩いているといくつかの水路が見られた。

 こう言った水路で釣りをするのも良いだろう。

 しかし湖で釣りをするのは普通の竿では仕掛けの届く範囲に限界がある。これは竿の開発をする必要があるだろう。


 それからしばらくリッジ湖周辺の水辺を探索し情報を仕入れてから屋敷に戻った。

 少し長居をしてしまったので屋敷に戻る頃には辺りは薄暗くなっていた。

 帰ってすぐに夕食ということになったので夕食を食べながら子爵に今日の成果を報告する。


「なるほど。では釣りに行く当日はその魚屋の男に案内を頼むということですか。」


「ええ。まあ釣り場所は現地の人間の方が詳しいですからね。それにその男は店先に他の店よりも大きい魚を並べていたので良い穴場を知っているはずです。それでいつ釣りに行きますか?」


「それなのだが…実は伯爵と共に他の貴族のパーティに呼ばれていてな。釣りに行きたいのは山々なのだが後1週間はできそうにない。すまない。」


「いえいえ。お勤め頑張ってください。では子爵様が頑張っている間に私は大物も釣り上げることのできる釣り具を作っておきます。約束しましたしね。」


 それを聞いて落ち込んでいた子爵も喜んでいた。

 作るまでには時間がかかるだろうから今回は諦めようかと思っていたのだがそういうことならちょうど良い。

 今のうちに作り上げておこう。ただ資金がないのでまずは王都で金儲けするところから始めよう。


 その夜。俺はようやく一人になったのでスマホを開く。

 すると釣りバカ野郎から大量の通知が届いていた。

 どうやら俺が釣ったことのない魚でも魚さえ入手すれば問題ないようだ。

 しかも新規釣り場の値段が金貨10数枚は下がっていた。

 この調子で魚を入手することができればもしかしたらタダで解放することができるかもしれない。


 まあ今日のところは釣りを使い魔のポチにやらせておいて俺はもう一つの方、ファームファクトリーのアプリを立ち上げる。こちらは通知は来ていなかったのでかなり不安だがアイテム欄を開いてみる。

 するとアイテム欄には今日買った種が全て表示されていた。


 これは大きな発見になった。

 俺は早速この世界の砂糖の原料と言われている蜜の実を育てる。

 レベルが上がったことによってタップ数はだいぶ減ったがまだまだ多い。

 そんな愚痴を思いながら育てていったが収穫まで時間がかかるらしくどんなに頑張っても1日はかかるようだ。まあ収穫できないよりかは良いので待つことにした。


 この栽培がうまくいけば砂糖の販売が可能になる。

 そうすればかなりの儲けが出るし砂糖は消費量も多いので大量に供給しても値崩れは起こしにくいだろう。

 それに売れなくなってもお菓子を作って販売することもできる。

 これはかなりのチャンスだ。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ