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第144話 植物展1

 あれから7日が経った。俺はこの7日間本当によく頑張った。そのおかげでこれからほぼやることがなくなった。しかしなぜ俺がこんなに頑張れたか、それは今から6日前に使い魔達からとある報告を受けたからだ。


マザー『“中央の世界樹を囲むように5つに分かれる街の情報です。そのうちの一つの街でとある催しが行われるようです。”』


ミチナガ『“ああ、そういや5つに分かれているんだっけ。俺の今いるところと中央の貴族街、それにドワーフ街は行ったから知っているけど残り二つは知らないな。”』


マザー『“我々のいるこの場所は人間街と呼ばれていたそうです。残りの二つは獣人街とエルフ街です。世界樹が失われた今ではエルフ街でエルフを観ることはほとんどありません。今回はそのエルフ街で植物展をするようです。世界樹が現存していた時代から続く由緒あるもののようです。とても珍しい植物の展示とそれの購入もできるようです。”』


ミチナガ『“へぇ…休みなかったし、たまにはそういうのも行ってみると面白いかもな。”』


 そんなやりとりをした後に、なぜか猛烈にそれに行きたくなった俺は仕事を頑張った。まあ溜まっている仕事はほとんどない。むしろこれから溜まるであろう仕事を俺抜きでもできるように調整するために頑張ったのだ。この7日間のおかげで俺はこれからの仕事がほぼ無くなった。


 そして早朝から実ににこやかに教会の外で立っていると目の前に数台の魔動車が並んだ。扉が開くと勢いよくリリーが飛び出してきた。


「ミチナガくんだ!あけましておめでとうございます。」


「あけましておめでとうございます。リリーちゃんは今日も元気だ。あ、リカルドさん、リッカーさんもいるじゃないですか。今日はすみませんね。」


「お前は私をなんだと思っている。移動手段くらい自分でなんとかしろ。」


 リカルドはぶすっとした表情だ。リッカーは相変わらず優しそうな笑みを浮かべている。護衛も数人いるがもう全員顔見知り程度にはなっている。ちゃんと全員に挨拶をすると俺はリカルドに答える。


「そうは言ったって馬車だと時間かかるじゃないですか。そんなに言うなら俺にも魔動車くださいよ。いや、お金払うんで売ってください。これ国家機密だから国の中でもそれなりの階級じゃないと買えないんでしょ。」


「…まあ確かにそうだ。しかし……なんとかなるかもしれんな。お前は一応子爵だから身分的にはギリギリだが問題ない。信頼度の面は…こちらでなんとかしよう。話がまとまったらもう一度連絡しよう。」


 え、まじでか。俺買えちゃうの?ありがとうリカルド。リリーのことで俺にメンチきるだけの奴じゃなかったんだな。とりあえず魔動車に乗ると操作マニュアルと運用に関する規定などを説明される。事故には細心の注意をするように速度制限など様々な規定があった。一通りの説明を受けた後にこれらを守れるなら話を通すと言われた。


 もちろん守れる。と言うか自動車免許を取る時よりも簡単だ。複雑な規定などはないのですぐに覚えられた。するとそこから魔動車に関わる別の面倒な規定を説明された。


「月に一度メンテナンスと情報提供のために整備に出さなくてはダメだ。事前にこの国で定められている整備員を呼んで整備する必要がある。それから年に一度分解して部品交換もする。」


「…維持費半端なくないですか?」


「ああ、だが貴族としてのステータスにもなる。それだけ費用がかかっても魔動車を持つ価値はある。」


 いや、俺そんなステータスとかいらない。まあ商人としてのステータスは欲しいな。そして魔動車は欲しい。色々と希望が多くて面倒だけど、まとめてしまえばお金をかけずに魔動車を持ちたいということだ。整備にお金がかかるんだったよな?それさえなんとかなればいい訳なんだろ?


「その整備士の免許を取るための試験とかはあるんですか?もしもあるなら使い魔に受けさせることは可能ですか?」


「…この小さいのにか?それは……まあ不可能…ではない?本来は2年間修行したものが受ける試験があるのだが…試験官は技術者の多いドワーフばかりだ。お前が受けるといえばなんとかなるかもしれん。話すだけ話してみるが…自信はあるのか?」


「う〜ん…どうでしょうか…まあやってみるだけやってみたいんですよ。とりあえず勉強させるだけさせてみます。」


 魔動車の設計図はあるからそこからある程度は学べるだろう。後はリカルドに整備士を紹介してもらうか、ドワーフであり腕前もあるグスタフに紹介してもらおう。人脈だけはあるからいくらでもやりようはあるだろう。


 リカルドと魔動車について話していると街の風景が徐々に変わってきた。窓の外は雪がちらついているが、そんな雪の中でもしっかりと葉を茂らせた植物が豊富な街並みだ。事前に情報は収集しておいたのだが、ここはエルフ街で植物栽培の得意な人々が多い。その影響で薬学や香辛料の豊富な料理などが有名だ。


 こんな真冬でも巨大な温室があるので店では新鮮な野菜を提供できているとも聞く。それ以外にも様々な施設があるらしいが、そこまではまだ調べられていない。もしかしたら新しい発見とかあるかもな。今回はそこにも期待しよう。


「もう少ししたら会場に着く。始まるのは明日からだ。今日は会場で挨拶をした後にホテルに泊まるぞ。評議員や貴族を専門に請け負っているホテルがある。いい経験になるぞ。」


「う〜ん…まあ分かりました。面倒な立食パーティーみたいなのはないですよね?」


「立食パーティーは無いがホテルの食事会場で主催者と幾人かの貴族達と食事をする。」


 面倒だな。まあ繋がりを持つのには大切なんだけど、いちいち作法とか気にしなくちゃいけなくて食事の味がわからなくなる。まあそのあたりは我慢するかな。


 しばらくして魔動車が止まると無駄にでかい会場らしき場所にたどり着いた。本当にでかい、どのくらいでかいかと言うと…とってもでかい。なんか例えようが無いな。なぜこんなにでかいかと言うと、本来は今回の展示会は世界樹が生存しているときは外で大々的にやっていたらしい。


 それこそ大陸中の人間が集まってくるレベルのお祭りだったらしい。そんな規模の祭りも世界樹が無くなり、規模が小さくなったが、それでもこれぐらい広さが必要だと言うことだ。会場内に入ると明日のためにセッティングをしているようだ。誰もがガラスケースの中に植物を展示している。


 どうやらあのガラスケースは何かの魔道具のようだ。何やら細々と操作しているが俺にはよくわからない。すると数人の男たちがやってきた。どうやら主催者のようで、リカルドに挨拶をしている。その流れで俺も紹介され、簡単にどんな催し物かなどを説明される。すると会場の入り口付近でどよめきが起きた。


「おお、今年も来てくれたぞ。エルフたちだ。」


「やはり彼らが来てくれるとこの催しをする意義が出てくるな。」


「本当にな。しかし毎年連れて来てくれる彼の方には感謝せねば。」


 会場の入り口にはエルフ族の人々が数人、いや十数人ほど来ている。エルフは植物のエキスパートで長命種だ。人間ではたどり着けないような知識と技術力を有している。彼らの展示物は毎年新たな知識を与えてくれる。そしてそんな中に思いっきり知り合いがいた。


「あれ?ルシュール様じゃないですか。」


「おや、ミチナガくん、来ていたんですか。お久しぶりですね。」


 そう、エルフであり魔帝であり辺境伯でもあるルシュール辺境伯だ。まさかこんなとこに来るとは思いもしなかった。そういえば植物の品種改良をしているとか言っていたな。俺は近寄ってちゃんと挨拶をすると他のエルフの人たちの注目、いや、ここにいる全員の注目を集めてしまった。


「それにしてもミチナガくんがこんなとこに来ているとは思いませんでした。もうとっくに英雄の国に行ったものだとばかり。」


「雪に足止め食らっちゃいまして。ここまで来るのもギリギリでしたよ。あ、それから俺この国で子爵になりました。ブラント国では男爵です。結構頑張ったんですよ。」


「それはすごいですね!ミチナガくんのところの使い魔くんはよく来ますがそういった話はしなかったものですから。どうせなら今日は夕食を一緒しませんか?どんなことがあったか話しを聞きたい。」


「それは嬉しいですね。それじゃあこの近くのホテルなんですけどそこでどうですか?」


「ええ、それで構いませんよ。ああ、皆もどうですか?彼は私の友人です。」


「良いだろう。」


 おっと、こんな話を俺だけで決めてしまってはまずいだろう。リカルドのところに戻り話をしようとすると頭を抱えていた。これはまずいかと思ったが、なんか許可はもらえた。主催者からは泣きながら握手を交わされた。


 ルシュール辺境伯はこれから設営と準備があるので、また後で合流することとなった。その後、リカルドとともに魔動車に戻りホテルへと向かったのだが、リカルドはその間何か悩んだようだった。ホテルに着き、部屋へととりあえず移動しようとするとリカルドに呼ばれ、そのままリカルドたちが泊まる部屋へと連れて行かれた。


「さて、色々と…いや一つだけか。聞きたいことがある。お前はあの白幻の魔帝ルシュールと知り合いなのか?」


「ええ、俺は彼の元でしばらくお世話になっていました。もう友達みたいなものですよ。ルシュール様も友人だって言ってくれましたし。あれ?言っていませんでしたっけ?」


「…初耳だ。そうか…彼はな…毎年エルフたちを連れてこの催しに参加してくれるんだ。彼のこの国での功績は非常に高い。彼はこの植物展以外は興味がなくてな…終わればすぐに帰ってしまう。だから食事ができるというのは本当にありが……待て、エルフはベジタリアンだと聞いた。しかもかなりの美食家だ。そんな彼らの食事を用意する?まずい…」


 そうなのか?ルシュール辺境伯は結構何でも食べていた気がする。いや…だけどステーキみたいなのは食べていなかったかもしれないな。俺もそんなことに注意していなかったから気がつかなかったかもしれない。リカルドは慌ててホテルの料理長を呼びつけようとする。


「まってもらえますか?野菜中心で美味しいものですよね。なら俺が何とかしておきますよ。シェフも腕を上げたんできっと満足させられますよ。」


「本当か?……まあお前の商人としての腕は本物だ。よし、任せた。お前が失敗しても友人ということなら何とかなるだろう。」


 保険も効いているのか。まあそういうことなら任せてもらおう。そんな保険なんか無くたって俺はやれる!正確には使い魔のシェフだけどな!シェフも大役ということがかなり張り切っている。今のうちからいくつか試作を始めたようだ。ルシュール辺境伯にも俺の成長を見てもらおうじゃないか。




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