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第138話 ウィルシ侯爵


「あ゛〜〜〜…もう働きたくない…やだやだやだやだ…」


 休みがない。最近は寝る時間も減ってきた。ここはブラック企業か?このやろう…俺の毎日の9時間睡眠が8時間睡眠になってしまった。スマホを使うまとまった時間も一日2時間ほどだ。毎日8時間は働いている。これじゃあまっとうな社会人じゃないか!俺はそうならないために頑張ってアフィカスになったのに!畜生!


「そういや連絡はちゃんと届いたよな…明日だっけ?ウィルシ侯爵が来るのは。」


 アンドリュー子爵監修の元、新しい釣竿が4種類ほど完成した。もう少し調整することはできたのだが、ウィルシ侯爵がまだかまだかと使い魔を通して催促してきたので、ここまでの完成品で大量生産を始めた。とりあえず各100本ほど用意してみた。1人で釣竿を大量購入してもこれで問題ないはずだ。


 まあ不安なので今も一応生産は続けてもらっている。何かの手違いで折れてしまったとかになったら笑えないからな。それになんか他の貴族の友達も呼んでくるとか言っていたので人数が増えるだろう。まあ流石に100人以上は来ないと思うけどね。


「なんか今日は妙に騒がしいな…見に行きたいけど書類片付けないと……はぁ…憂鬱だ。」


「ミチナガせんせー!なんかいっぱい来たぞ。」


「ん?またリカルドさんかな。しょうがない…実にしょうがない…仕事はあるけどリカルドさんが来たならしょうがないな。」


 全くしょうがない。あの人アポ取らずに来るんだから。俺のこと軽く扱っているよな。だけど貴族としてメイドも執事も何もいない俺が問題なんだとは思うけどね。今度貴族としても色々できるように人でも集めておこうかな。


 俺は急いで教会の外に駆け出ようとする。しかし外を見た瞬間すぐに教会内に帰ろうかと思った。なんか目の前の道を埋め尽くすほど馬車や魔動車が並んでいる。しかもそれぞれに家紋がついているが同じ家紋がない。教会の前ではウィルシ侯爵が教会の孤児を抱き上げて遊んでいる。


「おお、ミチナガ子爵。随分と可愛らしいメイドさんや執事がいるのだね。ここは君が経営しているのかな?」


「え、ええ。専属の冒険者が出資する形ですけど…というかウィルシ侯爵、もう来られたんですか。予定では明日到着するはずじゃあ…」


「すまない、友に声をかけたら予想以上に早くみんな集まってしまってね。皆待ちきれなかったのだよ。それからあのアンドリュー子爵の釣り道具の紹介講座、あれは素晴らしい。皆で何度も見てしまったよ。皆を紹介したいのだが…ここでは難しいな。とりあえずリカルド君のとこにでも行こうか。あそこなら泊まることもできるだろう。」


「……いいですね!行きましょう!すぐに用意して来ますね。」





「おお、リカルド君。急にすまないな。今夜なのだが泊めてほしい。この前の評議会の会場だけでは泊まりきれないようなんだ。」


「ウィ、ウィルシ侯…え、ええ…どうぞ。み、ミチナガ…ちょっと来てくれ……」


 嫌がらせのようにリカルドのとこにみんなで来てやった。ものすごい数の貴族たちだと思ったら貴族は100人ほどだそうだ。それから貴族ではないが懇意にしている研究者なども100人ほど。他にも色々いるらしい。


 全員でリカルドの屋敷の前まで来てやった時のリカルドの表情はマジで笑える。普段から俺のところまでいきなり来る罰だ。俺はリカルドに呼ばれウィルシ侯爵から離れたところに移動する。


「お、おま…お前!一体どういうつもりだ!こんな急に…」


「リカルドさんだって俺のとこいきなり来るじゃないですか。まあここに行こうと言ったのはウィルシ侯爵ですし。俺だって本当は明日の予定だったのに今日来てびっくりしたんですよ。」


「くっ…後で本気で怒ってやりたいところだが、この功績で許してやる。どうせお前にはこのすごさがわからないだろうから説明してやる。ここにいる彼らはこの国の研究、開発部門の重鎮だ。この国の頭脳といっても良い。彼ら1人死ぬだけでこの国には大きな損失になる。まさかウィルシ侯の人脈がこれほどとは…」


 リカルドもウィルシ侯爵にこれほどの人脈があるとは全く知らなかったようだ。というかこの事実を知る貴族はほとんどいないだろう。この人脈がどれほどすごいかというと、ウィルシ侯爵がこの国に反旗を翻したらこの国は滅びかねない。


 ウィルシ侯爵が評議員になろうと思えば簡単になれるほどの人脈だ。ウィルシ侯爵が現状で何もしないのはそういったことに無関心だからだ。いまの生活が気に入っているのだろう。


「あ!ミチナガくんだ!それにお客さんもいっぱい!」


「ああ、リリーちゃん、久しぶり。どうせだから挨拶しとこうか。ウィルシ侯爵ちょっと良いですか?リカルドさんの娘のリリーちゃんです。」


「こんにちは!」


「おお、元気の良いお嬢さんだ。この子が噂の子だね。今では何事もなく元気なようでよかったよかった。ああ、密かに彼女の病気を研究していたのがいるんだよ。おーい、この子が例の子だ。今ではすっかり元気だぞ。」


 リリーの病気はそれなりに情報が出回っていたらしい。そんなリリーの病気を研究していた研究者たちが続々と群がって来る。その目はギラギラとしている。研究者としての血が騒いでいるのだろう。


「この子が例の子か」「本当に治っているな」「一体どうやったんだ?」「おい、その子の手に持っているのは世界樹の枝じゃないか?」「現存する世界樹とは違うような…」


「あー…皆さん。リリーちゃんが怖がっているのでその程度に。気になるようなら…俺が治療者なので俺が話を聞きます。…ただし機密事項ですので黙っていられるのなら、という制約付きですよ。」


「「「おお〜…」」」


 なんの歓声だよ。機密事項とかそんなことが好きなんだろうな。本当は絶対に話す気は無いのだが、あの一瞬でリリーも持っている世界樹の棒に気がつき、しかもこの世界に現存するものとは違うと判別しかけた。おそらく俺が黙っていてもこの人たちならすぐに何かに気がついてしまう。


 魔道具関係の研究者だけかと思ったら植物関係の研究者までいんのかよ。他にも魚類や鳥類など様々な研究者が集まっているようだ。まじでウィルシ侯爵の人脈どうなってんだよ。


 その後、とりあえずこんな場所で立ち話もなんだからリカルドの屋敷の一室に集まり、まずは俺の自己紹介をして、アンドリュー子爵の釣り動画を共に見る。釣り好きで集まったもの同士なので全員が興味を示すかと思っていたのだが、数人はあまり興味がなさそうだ。無理やりウィルシ侯爵に連れてこられただけなんだろうな。


 その後は全員で食事会なのだが、これだけの人数の食事をいきなりリカルドに用意してもらうのは厳しいので俺が用意した。研究者が多いので珍しい食材と調理法で提供してみたのだがこれがウケた。数人は俺の元まで聞きに来ようとしたので、使い魔たちに話をさせる。


 現在の俺の使い魔は全部で37体、眷属は使い魔1体につき4体まで出せるので総勢185体の使い魔眷属がいる。そのうち100体を集まった研究者たちの話役として派遣したところ、食事なんてそっちのけで話が盛り上がってしまった。


 使い魔たちはそれぞれに得意分野があるのでどれも完璧に答えるのは本来難しい。しかしそこはマザーがいるのでバックアップはできる…はずだったのだが、一度に100体の使い魔のバックアップは難しいらしい。時々回答をマザー頼りにしている使い魔がフリーズしている。


「ミチナガ子爵、先ほどの話をしたいのだ。我々はずっと気になっているのだ。」


「え、ええ。みなさんお集まりのようですね。えーっと…それじゃあ本当に他言は禁止ですよ。実は…」


 俺は自分のことを正直に異世界から来たことを話し、そしてスマホの力を限定的に話した。そして世界樹を持っていることを教えてやるともう大盛り上がりだ。特に世界樹研究の第一人者だという人と、生物起源というのを研究している研究者は鼻息を荒くしている。それからドルイドが世界樹の苗と話した内容を話してやるとそれはそれは喜んでいた。


「確かに世界樹が枯れた原因は何か重要な器官が取り除かれたせいだという説がある。世界樹の苗が盗まれたと言うのならその説が正しいことになるな…しかし何が失われたのかが分からん…そのスマホの中の世界樹を取り出すことはできないのかな?」


「枝を出すことだけしかできませんね。それでも良いなら出しましょうか?」


 是非ともということなので一部分の枝葉をスマホから飛び出させる。それを見た研究者はあまりの喜びに涙も出ている。生きている世界樹のこれだけ太い枝を見るのは生まれて初めてなのだろう。それをなんとも愛おしそうに見ているとどこかからまた別の研究者がやって来た。


「お、俺にもそれを見せてくれ。その枝についている…や、やはりこれはタネドリだ…琥珀の中に残っているものしか見たことがない…い、生きているタネドリだ…素晴らしい…」


「な、何!タネドリ!?ユグドラシルバグバードか!さすがは鳥類学者、よく見つけたな。俺はもう老眼で見えんかった。ちょっと待て、今メガネを…おお、本当だ。本当にこんな小さいんだな。」


 世界樹が失われた今、生きているユグドラシルバグバードを見たのも初めてだろう。俺はどうせなので、この間初めてユグドラシルバグバードから発芽した植物を取り出して見せてやる。俺にはこの植物がなんなのか分からないのだが、この研究者たちは過去の文献からある程度の判別はついているようだ。


 俺の取り出した植物にリッカーも気になったようでどこからともなくやってくる。リッカーはこの屋敷に残っている文献から様々な情報を得ているのでこの研究者たちとも随分ウマが合うようだ。もうこの会場は混沌としているな。そんな中ウィルシ侯爵は楽しそうだ。彼はこういう雰囲気が好きなのだろう。逆にリカルドは疲れた表情だ。こういう雰囲気が苦手なんだな。


 それにしても一体他の使い魔たちはどんな話で盛り上がっているんだろうか。向こうの一番人が群がっているとこなんかすごく白熱しているけどどんな話しているんだ?まじで明日は昼頃から釣りの予定なんだけどあんまり盛り上がりすぎて寝られないとか勘弁してくれよ…




『社畜・いろんなものを研究し開発したいのであるが、我輩はまだまだ未熟で……迷惑ばかりかけているのである。』


「な〜に、俺たち研究者はそんなもんだ。初めは迷惑かけて失敗続きが当たり前よ。よし、じゃあ俺たちが知恵を貸してやる。なんか希望はあるか?」


『社畜・リストだけはあるのである…リストばかり増えて…』


「どれどれ…なんだこんなもんか。よし、いろいろ教えてやろう。そうすりゃ半分くらいは作れるようになるだろ。いいか?まずはな…ここをこうして……」


『社畜・おお!なるほど!つまりここはこういうことであるか?』


「そうだそうだ。ああ、そこはな、そうしちゃうとダメだ。そこはそうしてだな…」


「待て待て、そこはこうしてやるとさらに効率が上がる。それからここはこうしてだな…」


「おいおい、それはダメだ。この前試してみたらそっちの部分でトラブルが起きた。だからここはさらにこうしてやると良い。」


『社畜・なるほど!我輩もようやくこれで役に立てるようになるのである!』


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