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第136話 短命


 翌朝、昼までに帰る貴族のために今朝から荷物の詰め込み作業が始まった。その際にオークションの落札物も同時に取引を行っている。だから俺は早朝から叩き起こされて作業にあたっている。俺…一応この国の子爵だよな?リカルドめ……


「それでは代金の確認が終わりました。品物をどうぞ。しかし本当にこのケリュネイアの角はそのまま持って帰るんですか?」


「それが旦那様の意向ですので。」


 もう数台の魔動車にくくりつけるようにあのでかい鹿の角を運ぶようだ。他にも収まりきらない購入物をくくりつけて運ぶ人が多い。おそらく見せびらかすのも目的の一つなんだろうな。なんと言うか…貴族って面倒な奴が多いな。


「おはよう、ミチナガ子爵。私はもう帰るのだが購入物を貰えるかね?」


「おはようございますリンテット伯爵。ご用意できていますよ、精霊蜂の蜂蜜300mlです。」


 リンテット伯爵は見た目が白髪のおじいちゃんだ。密かに集めた情報だと愛妻家で30歳ほど年の離れた奥さんがいるらしい。なんとも羨ましいことだが奥さんは体が弱く、寝込んでいることの方が多いらしい。使い魔たちを使って集めた情報なので正確だろう。


「おお、ではいただこう。これを食べれば妻も少しは元気になるだろう。」


「愛妻家なのですね、若い奥様をもらって羨ましい限りです。」


「なに、わしは若い頃軍人として暴れまわっていたから結婚が遅くなってな。軍を引退してからようやく結婚できた。しかし妻は若いのにスタミナが足りなくてな。ようやく30歳になるというのに夜の相手が持たなくてな…ハハハハ。」


 おい、情報違うじゃねぇか。30歳差じゃなくて30歳、体が弱いじゃなくてこのジジイが絶倫なだけだ。…蜂蜜って精力剤にもなるよな。ごめん奥さん…このジジイさらに元気になっちゃうかも。余談だが、子供はすでに4人いるらしい。このクソジジイめ。


 もう1人の精霊蜂の蜂蜜の購入者は30代ほどの女性だ。買ったのは美容目的らしい。使い魔情報なので正直あてにはならない。それからしばらくすると徐々に帰り始める貴族の人々がやってくる。リカルドもやって来て見送りをしている。


 それから貴族の帰宅ラッシュがやって来た。いちいち挨拶するのが面倒だが相手は貴族なのでちゃんと挨拶はしておく。俺自身が貴族でなければ隅の方でひっそりと佇んで入られたのにな。それからようやく落ち着いて来たと思った頃に、団体がやって来た。まためんどくさいと思ったらあの顔ぶれには見覚えがある。


「ウィルシ侯爵、それに皆様もお帰りですか。」


「ええ、今回は実に有意義なパーティーだった。実は私はこういったパーティーは嫌いでね。まあリカルド君が復帰した祝いということだから行かねばならないと思って来たのだが…これならいつでも来たいくらいだ。」


「もう次のパーティーは決まっていますよ?みんなで釣りパーティーです。ああ、それからアンドリュー子爵にお願いして新しい映像を撮る予定ですのでお楽しみに。」


「おお!さらに楽しみになって来た。連絡が来るのを待っているよ。さあみんな行こうか。こんなに楽しいのは久しぶりだ。」


「ええ、本当に楽しいですね。ウィルシ様に声をかけていただいて良かったです。ああ、自領の民に釣りができるものがいないか探しておきましょう。どこかポイントも教えてもらって。」


 なんとも賑やかに喋りながら歩いて行くとリカルドが唖然とした表情でこちらを見ている。なんだ?俺のコミュ力に驚いたか?どんなもんだい!俺だってやるときゃやるんだよ。


「こ、これはウィルシ候。ミチナガ子爵と随分と仲が良いようで…」


「ああ、リカルド君。そういえばミチナガ子爵は君の推薦だったね。実に良い男を見つけて来たものだ。また今度ミチナガ子爵がパーティーをしてくれるのだが、その時に君の所に泊まっても良いかね?」


「ええ…もちろんです。」


 リカルドがそう返事をするとウィルシ侯爵は実に満足そうに帰っていった。周りの貴族の方々も実に幸せそうだ。俺は彼らに手を振って見送る。やがて見えなくなって来た時に急にリカルドに肩を掴まれた。


「い、一体ウィルシ侯とどうやってあんなに仲良くなったんだ!」


「え?ウィルシ侯爵は昨日のあの釣りの映像を見てえらく気に入ってくれたんです。おまけに自分も釣りを始めたいということなので、今度それを教えるパーティーを開くんですよ。優しくて良い人ですね。昨日も楽しくおしゃべりしましたよ。」


「…ウィルシ侯は穏健派の重鎮で人付き合いの難しい方だ。おべっかを使われるのも嫌いだし、派手なパーティーも嫌い。本当に心を許せる人としか仲良くされない方だ。しかし彼の集団の貴族は誰もが民から慕われている。評議会にも大きな影響を与えられる人物だ。……私はこうしてパーティーに呼べるようになるまでかなり苦労しているんだぞ。」


 そうなのか。聞く限りナイトにも似たような感じだな。まあウィルシ侯爵はコミュ障では無いと思うけどね。なんというのだろう…平穏を愛しているって感じの人だ。ダンディなおじいちゃんって感じか?まあそんな感じだ。


「今度そのウィルシ侯爵の派閥の方々と釣りしますけど来ますか?結構ガッツリと釣りなので政治的な話はできませんけど。」


「……行こう。ただ私は詳しくないから教えてくれ。」


「了解です。」


 しかしなぜここまで必死なのか聞いてみると、ただ評議会に影響を与えられるというだけでなく、この穏健派のウィルシ侯爵派閥の面々はとにかく優秀な人物が多いらしい。それこそ魔動車などの開発に関わっている面々も多い。武闘派な貴族と違い、学問や技術力で貴族になった人々が多いので、この国では重宝する人材なのだそうだ。


 それから今日来ていない貴族の中で、つながりを持ちたいのだが紹介できるのはウィルシ侯爵しかいないという貴族までいるとのことだ。本当に滅多なことがない限り自領土から出てこないのに超優秀で、以前貴族としての実績作りのために送られて来た設計図がこれまでの研究のその先を行っていたことがあったそうだ。


「なんとしてでも彼らとの繋がりを持ちたいんだ。そうすればこの国の研究は大きく飛躍する!」


「あんまりガツガツ行くと引かれますよ。何も考えずに今度のパーティーは来てくださいね。…なんならリリーちゃんのことを喋っている方が彼らには好感持たれると思いますよ。」


 それから全ての貴族の面々を見送った後に俺も帰ることにするはずだったのだが、リッカーがリリーを連れて来てしまったため、そのままリカルドの屋敷で一泊することとなった。そしてそんな風にゆっくりすれば孤児院に帰った時に待っているのは大量の仕事だ。


 結局それから数日間はまた忙しい毎日だ。しかもスミス経由でグスタフが作った試作品の釣竿のチェックやガスコフの炎龍を使った高炉造りの計画書のチェックなど重要なものが来るので、ちゃんとチェックしなければならない。


 それからワープの使い魔を転移する能力を使って名無しの使い魔をアンドリュー子爵のいる街で営業しているムーンの眷属の元へ送った。あとの事は向こうに任せよう。ある程度は使い魔達に任せないと俺1人ではもう無理だ。


 それから社畜とワープとウィザの共同開発によって収納短縮機が完成した。見た目は完全にロープなのだが、それで収納したいものを囲み、小さな魔石をセットする。そうして使い魔が起動させると自動で収納される仕組みだ。使い魔にしか使えないので、これは冒険者に貸し出ししているミチナガ使い魔輸送の輸送効率アップにつながるだろう。


 外では今日も雪が降っている。そういえばもうじきこちらの一年が終わるそうだ。俺がこの世界に来たのは暖かかったのでおそらく時期的には春頃だ。つまり俺がこの世界に来てから全ての季節を体験した。しかし俺の体感した限りだとこの辺りには四季という概念はなさそうだ。夏のような暑さはなく、冬とそれ以外という感じだ。


 英雄の国に出発する頃にはこの世界に来てから1年が経つのだろう。なんとも忙しい一年だった。まあまだ今は一年も経っていないのだがこれから先もきっと忙しい。次の一年は暇な一年になってくれたらいいな。しかし随分と長い一年に感じた。気分的にはもう1年は軽く経っている。


ミチナガ『“なあ、俺がこの世界に来てから何日経ったかわかるか?なんだか気になっちゃってな。”』


マザー『“計測中……現在、この世界に来てから地球換算で370日が経過しました。”』


ミチナガ『“…へ?ど、どういうこと?”』


マザー『“この世界では一日は地球と同じ24時間ですが、1年は公転軌道の問題により512日とされています。閏秒、閏年は存在せず、年による日数変化、秒数変化は見られません。”』


 まさかのもう地球換算では1年経っていました。一体いつ365日が経過したかというとリリーに誘われて、リカルドの屋敷に泊まった次の次の日だ。俺が仕事漬けで苦しんでいる時がちょうど大晦日、そして今は三が日を過ぎたあたりだ。俺の正月休み……カムバック…


 そして重大なことも知らされた。この世界の平均寿命は80歳ほど、それは地球でも同じくらいなのだが、第一前提の1年の長さが違う。1.5倍とまではいかないが大体そのくらいの違いがある。つまり地球換算ならこの世界の住人の平均寿命は約120歳……いや、110歳くらいか。


 なぜそんなに生きられるのかといえば魔力によるところが大きいらしい。魔力により、寿命が延びるということだ。だから魔神や魔帝と呼ばれる人々は普通に200歳くらいまで生きたりする。それからドワーフやエルフのような長命種もいる。この世界の皆さんは健康長生きなのだ。


 そしてそんな中、俺は魔力を持たない完全な地球人。そうなれば老い方は地球と同じ。つまり俺はこの世界では短命なのだ。残りの余命も長くて後40年ほどだろう。もうちょっと頑張れるかな?いや、無理だろうなぁ。はぁ…つれぇ……


 それに他の人々よりも早く老いるのか。みんな若々しい中老いていく俺。なんか魔法で少し若返る方法とかないかな?ちょっとその辺も探してみるか。別に不老不死に興味があるわけじゃないけど、やっぱりこの世界にいるのならこの世界の人々と同じように老いて死にたい。


 はあ…なんかしんみりした気持ちになるはずが、暗く落ち込んじゃったよ。まあ人生なるようにしかならないから良いんだけどね。そう考えて少しは気を紛らわそう。…はぁ




 1話から日数を数えてみたらいつの間にかこんなに時間経過していました。自分でも驚きです。

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