第133話オークション
今日から毎日投稿再開です。
ドワーフ街から戻って早数日。ようやく俺に平穏な日々が戻ってくるかと思いきや、俺がいない間に色々と工事が進んでいたらしく、その確認と話し合いで毎日毎日働き詰めだ。さらにリカルドのパーティーで出品するモンスター素材のこともあり、マジで大変だ。
そしてそんな忙しい毎日を繰り返していたらすぐにパーティー当日がやって来てしまった。魔動車が2台教会の前に止まり、片方からずらずらとメイドと執事が出て来る。一体何をするのかと思うと俺の服をわざわざ持って来てくれたらしい。
すぐに俺の着付けが始まり、髪型から何まで整えられる。バッチリと整えられた俺はその後すぐに魔動車に乗せられ運ばれる。パーティーはすでに始まっており、俺は途中参加ということらしい。まあ前半部分は貴族達のつながりを持つための場なので俺は呼ばなかったようだ。まあ俺も貴族なんだけどね。けど呼ばれなくて良かった。絶対にめんどくさいもん。
パーティー会場に到着すると俺はそのままパーティーに混ざるのかと思いきや、すぐにオークションの準備が開始された。移動すると俺以外にも数名の商人が呼ばれているらしく、こちらを観察して来る。なんとも慌ただしいし、居心地の悪い空間だ。リカルドめ、前にお父さんって言ったの絶対根に持っているよ。
その後、会場裏でゆっくりと待っていると何やら会場の方が騒がしくなって来た。どうやらオークションが始まったらしい。俺もこっそり覗いてみると他の商人が壇上の上で何やら喋っている。出品物の説明らしいが、話が長くてよくわからん。見た感じだと宝石を撒き散らした何かの魔道具のようだ。
話が終わり早速値段の取引が始まる。すぐに金貨100枚を超え、最終的に金貨730枚まで上がった。その後も続々と他の商人達が出品し、金貨数百枚で取引されていく。その売り上げに商人達は満足そうだ。
「次はあなたじゃないんですか?我々がこれだけ温めておいたんですから盛り上げてくださいよ?」
「え?ああ、本当だ。これはご親切にどうも。」
俺が移動していくと他の商人達はなんとも見下したような目でこちらを見ている。まあ俺はこの国じゃあ知名度ないしそんなもんだよな。まあ俺の出品物は決まっているので、流れに沿ってやるだけだ。盛り上がるかどうかなど知ったことではない。…盛り上がって欲しいけど。
俺が壇上に上がると静かに迎えられた。次は一体何を売るつもりなのかと期待した目で見られている。そんな中、どこからか声が聞こえた。声のした方を見てみるとドワーフがいるみたいだ。ただ小さくてよくわからん。
「おーい、頑張れよ!俺らも金持って来たから買ってやるからな!」
あの声はグスタフか?ドワーフの声援に他の貴族達はクスクスと笑っている。せっかくなので少し品目変えるか。どうせそこまで期待されていないだろうから好き勝手やってやろう。
「初めまして、ミチナガ商会を経営するミチナガです。ブラント国では男爵の地位を授かっています。まあ私の自己紹介はさておき、早速出品させてもらいます。今、ドワーフの方々から声援をいただいたので、こちらの商品を出品させてもらいます。」
取り出したのは一本の酒瓶だ。これだけで2リットルはある。ドワーフ達はドワーフ殺しかと一気に目を輝せたが、これは違う。もっと凶悪な酒だ。買う物好きはいるかな?
「こちらは残念ながらドワーフ殺しではありません。幻、伝説と呼ばれる銘酒ドワーフ殺しを出品しても良いのですが、せっかくの場です。さらに凶悪なものを出品させてもらいます。…秘酒、龍殺し。ドワーフ殺しの倍の度数、龍すら酔うほどの凶悪な酒です。こちらを2リットル出品します。では……金貨100枚からどうぞ。」
その瞬間に我先にと声を上げようとしたドワーフ達だが、声をあげることができなかった。それ以上に他の貴族達が大声を張り上げて来たのだ。値段は金貨1000枚をすぐに超え、金貨5000枚に差し掛かったところでようやく落ち着いて来た。そして…
「では…47番の方が金貨6120枚で落札です。おめでとうございます。」
「よぉぉぉし!!これで龍族との取引ができるぞぉ!!!」
勝ち取った貴族はあまりの嬉しさに飛び跳ねている。龍族か、そんな種族までいるんだな。俺もそのうち会うことがあれば会ってみよう。何か面白い取引ができるかもしれないからな。
「では次に参りましょう。次も似たような瓶ですが酒ではありません。ドワーフの方々はすみません。こちらは蜂蜜です。…ああ、そんな急に落胆しないでください。しかしただの蜂蜜ではありません。こちらの商品は精霊蜂と呼ばれる半精霊の蜂から採取された蜂蜜です。量が少なく500mlしかありません。とても貴重なものです。それでは…金貨100枚からどうぞ。」
その瞬間、誰もが黙った。もしかしてこれはやっちまったのかと思い焦り始めると、リカルドが手を上げて俺に質問をして来た。
「その精霊蜂は…一体どこで見つけたのかな?精霊国のものかな?」
「いえ、野生種です。専属の冒険者が森の奥で出会った精霊蜂から分けてもらったものです。精霊国と言うところのものでは一切ありません。」
まあそういうことにしておく、本当はスマホの中で採ったものだけどね。元々は野生の精霊蜂だから許してくれ。その後、まばらに手が上がり、徐々に値段が上がっていく。先ほどの勢いは人々にないが、なんだか様子がおかしい。静かなのにどんどん値段が上がる。
「2000」「2500」「4000」「4200」「よ、4500よ」「…ご」「や、やめなさい。たかが小瓶の野生種だぞ。」「私は5000出すわ!」「5500よ!」「6000!」
な、なんか恐ろしい。というかさっきから買おうとしているのは女性ばかりだ。まあ甘いものなので仕方ないな。だけどまさかここまで値段が上がるとは思いもしなかった。すると1人の女性が手を上げた。
「私は精霊国で本物の精霊蜂の蜂蜜を食べたことがあるわ。一口味見させてもらえないかしら?本物と遜色なければ金貨1万で買う。」
「わ、わかりました。では…余りの分が多少あるのでスプーン一杯ずつをお配りします。」
いざという時のことも考えて用意できるようにしておいたが、あまりにもみみっちい配り方になる。なんせここにいる全員分となるとティースプーン1杯分しか渡せない。誰かから怒られるのではないかとビクビクしていたが、問題なく行き渡ったようだ。本物を食べたことがあるという女性も今まさに食べたところだ。
「どうでしょうか。本物と比べて味の方は…」
「……違う。全然違うわ!なんなのこの芳醇な香りと豊かな甘さは!私が以前食べたものとは比にならないほど美味しい!か、買うわ!金貨1万で私が買います!」
「いや、ワシは金貨1万2千だそう。ワシが買う。」
再び値段のデッドヒートが始まる。数人の攻防があったが、やがて2人になりどちらも引けなくなってしまったようだ。どちらも本当に欲しいようだ。このままどちらかが勝って終わっても遺恨が残りそうだ。
「で、ではお二方に提案があります。これを半分に分けませんか?こちらで残っている分を足しますのでお互いに300mlずつというのはいかがでしょう。値段は金貨2万で……ダメですか?」
「それが良かろう。どうかね?お嬢さん。」
「…それで構わないわ。」
「で、ではお二方が落札です!あとで別の容器に移し替えたものをご用意します。おめでとうございました。」
こ、怖かったぁ…なんとか一件落着となってよかったわ。しかし本物よりも美味しいのかよ。その本物を全く知らないけど、考えてみればこれは花から考えて作られたからな。それに世界樹の恩恵も授かっている。
これってもしかしてかなり美味しいものが出来上がっているんじゃないか?俺も味見したかったけど、その分は今全部使っちゃったなぁ…試食と蜂蜜の加算が効いたわ。またしばらく俺食べられないじゃん。
「え〜…本来はここまでが前座の部分で、これからメインのモンスターの素材の販売なんですけど…一旦休憩を挟みましょうか。ぐったりとしている方も多いようですから。ええっと…ああ、ちょっと本来とは順番が異なりますが、こちらをご覧ください。」
本当はもう少し後でやる予定だったのだが、タイミングは今だろう。俺は使い魔を出して準備をさせる。天井から大きな白い布を垂らし、簡易的に作ったスピーカーを設置する。本当に簡単なスピーカーだ。使い魔から発せられる音声をラッパのように先が広がっている金属で無理やり大きくしただけだ。
「え〜ただいまから始まるのはうちの専属の冒険者によるモンスターの討伐映像です。グロイ場所がいくつかありますのでご了承ください。それでは…専属冒険者、ナイトによる活動記録です…どうぞ。」
そして上映が始まる。ミチナガ商会初の映像事業の幕開けだ。