第132話 錬金術
「おうミチナガ。昨日言ってた金属の精錬方法に詳しい奴を連れて来たぞ。それが終わったら釣竿の話もあるからな。」
「おう、あんたが精錬の方法を知りたいって奴だな。俺はガスコフ、このオヤジの2番目の息子だ。」
「よろしくガスコフさん。早速なんだけど精錬にはどんなものが必要なんだ?」
まさかの次男登場。どうやらグスタフのところは家族経営もできるように兄弟それぞれに自分の得意分野を学ばせているらしい。そしてガスコフは精錬法に関して詳しいようだ。俺はこういった知識は詳しくないので丁寧に説明してもらう。もちろん使い魔同席でだ。
「まずは細かい話は抜いて必要なものだけ揃えよう。必要なのは金属を熱することのできる高炉だ。鉄や銅なんかの高炉は簡単なんだが、注文はもっと多種多様な鉱石の精錬ができるようにだな?そうなると超高温にも耐えられる炉がいいな。一番良いのは火龍系の内臓だな。火袋なんて最高だ。」
通常、鉄などの鉱石の場合は熱に強い石などで作れば良いのだが、例えばミスリルなどになるとさらに高温でも耐えられる炉が必要になる。その場合、龍種の中でも火に強い火龍の火袋と呼ばれる超高温にも耐えられる器官が良いらしい。
もちろんそんな火龍はS級上位、いやSS級と呼ばれる魔帝クラスの実力者でないと倒せないほどのモンスターだ。そんなものが都合よく手に入るわけもないので通常は火竜というA級のモンスターを使うことが多い。まあそれでも十分珍しいものだ。
だから鉱石の精錬ができる施設のある国はそれなりに限られている。無駄にあちらこちらに作っても費用ばかりかかるので色々考えて作られるらしい。俺のように個人で持つ場合はさらに他のモンスターの素材を使った方が良いかもしれない。
「さてどうするか。とりあえずのもので良いなら石で組んじまうぞ。素材を集めるなら集めるで、集まった時にまた連絡してくれ。」
「あ〜…ちょっと待ってくれ。今何か使えそうなものがないか確認する。無さそうなら石のやつの作り方だけ聞いておく。」
すぐにスマホを確認する。ナイトが一体何を倒したか俺は知らないので、今どんなモンスターの素材があるか分からない。マザーにも確認してみるが今のところそんな素材はないようだ。諦めても良いのだが、どうせなのでナイトに依頼を出しておこう。ムーンに言えばすぐに依頼できるからな。
ミチナガ『“忙しいところ悪いけど、今いいか?ナイトにモンスター素材の依頼を出したいんだけど。”』
ムーン『“え?…ちょ、ちょっと待って。あともう少し……あ、もう大丈夫。依頼はなんですか?”』
ミチナガ『“火炎系のモンスターの素材が欲しいんだ。詳しいことはマザー経由で聞いてくれ。高炉を作るのに必要なんだよ。”』
ムーン『“あ、それなら今ちょうど手に入るよ。今ちょうど絞めたところ。もう死んだから送るね。”』
なんとも物騒な。しかしちょうど手に入ったのならありがたい。少し待っているとスマホ内にモンスターがまるまる送られてくる。なんのモンスターか分からないのでガスコフに確認してもらおう。取り出そうとするとマザーが広いところが良いというのですぐに移動する。
「今取り出しますからそれが使えるかどうか判断してください。あ、少し下がってくださいね。」
そう言って取り出されたのは巨大な塊だ。目の前にあるせいでなんなのかよく分からない。少し下がってみるとトカゲのようにも見える。それにしてもこいつを出してから周辺の気温がぐんと上がったな。
「お、おい……これ炎龍だぞ。SS級上位種の生きた厄災と判別されるモンスターだ。」
「えっと…高炉には…使えます?」
「馬鹿野郎…大国が欲しがるレベルのやつができるぞ。どんな金属だってこいつにかかればドロドロに溶けちまう。」
なんだかものすごくやばいのきちゃった。一体こんなのをどうしたのかと聞くとナイトがしばらく街で暮らしてしまったため、なまった体を鍛えるために挑んだらしい。昔挑んで負けたそうなのだが、今回は3日目の今日、初勝利を収めたとのことだ。
多分だけどナイトは魔帝クラスの実力は十分ある。しかもその中でもかなり強い。しかし詳しく聞くとこの炎龍は配下のやつが面倒らしく、今回はうまく罠にはめておびき出すことに成功したらしい。色々と策を講じたので実質的にはSS級くらいの実力だろうとナイトは考えているようだ。
結果にそこまで満足していないのか。まあなんでもいいけどさ。とりあえずものすごい一品のようなのでナイトに今度情報を集めて価値を計測出来次第、報酬を払うと言うと俺へのプレゼントだからそんなものはいらないと言われてしまった。
さすがにこんな高価なプレゼントは貰えないだろと思うのだが、ムーンはこうなったナイトは引かないからもらっておいた方が良いとのことだ。あまり下手なことを言うとヘソを曲げて大変なのでナイトの思うようにしてやって欲しいとムーンに言われた。
そう言うことならもらっておこう。その代わりに今度街の名産品でもお土産として送っておこう。それなら俺からのプレゼントということでナイトも文句は言わないはずだ。結構な量のお土産送らないと返しきれないようなものもらったけどな。
「じゃあこれで高炉造って貰えますか?こっちの話は全部終わったんで。」
「これでって…簡単なもの考えていたんだけどな。こうなると人数が必要だ。それに時間だって必要だぞ。最低でも冬が終わるまではかかる。それでも良いか?というか家くらいの大きさになるぞ。いや、もっとでかくなるか。置いとく場所だってないだろ。」
「そうなると…スマホに収納も難しいか。土地の整備からかかるからな。地面ごと収納することになるし、スマホ内の設置場所も難しいな。じゃあこの辺りの土地で余っているところありますか?土地買ってそこに建てちゃいます。有料で貸し出しとかしたら借りに来る人いますかね?」
「山のように借りに来るぞ。国宝級の高炉が借りられるなら誰だって借りたい。土地はこっちでなんとか探しておこう。費用はかなりかかるぞ。金貨…1万はくだらないな。材料があるから安くは済むが。」
たったの金貨1万か。それなら問題ないな。下手なものを建てても問題なので予算として金貨5万で考えて置いてもらう。それから必要な資材は全てこちらで用意する。だから良いものを作ることだけを考えて置いて欲しい。そう伝えるとガスコフはかなりやる気が漲ってきたようだ。
土地の購入から何から何までガスコフに任せておこう。もちろん任せっぱなしは不安なのでスミスの拠点をどこかに造っておこう。グスタフに弟子入りすればスミスの腕前も間違いなく上がるはずだ。
「おい、そっちの話が終わったなら次はこっちだぞ。図面を引き直したからこっちに来い。」
ガスコフと話が終わった俺はとりあえず炎龍を収納し、新入りの使い魔の1人をガスコフに預ける。作業は早い方が良い、ガスコフはすぐに土地を買いにどこかに行ってしまった。俺はそれを見届けてからグスタフの元へ行き、新しく引き直したという釣竿の図面を確認する。
「いいか。まず元々の図面だとあまりにも現実的じゃない。だから現実的にするためにかなり変更したものを用意した。ただこれだと作ることは可能だが、性能がかなり落ちる。それでもそこらの釣竿では比べ物にならない。そして本題はこっちだ。元の図面から性能を落とさずに現実的ではないが作れるギリギリのものだ。ただこれは…少なくとも金貨50万はかかるぞ。それに材料が集まるかわからん。」
「金貨50万ですか…それは厳しいですね。…材料費がかなりの割合を占めるんですか。それならこっちで材料を集めることができればいけるか。そのかなり変更したものはちょっとダメですね。前に言われたんですよ。この材料だと弾性がイマイチになるからやめた方が良いって。」
「そうなのか。う〜む…釣竿は作ったことがないからな。じゃあここはこうして…」
「それもちょっとダメですね。竿が重くなりすぎる。なるべく軽くしたいんですよ。」
そこからの議論は白熱した。俺は以前あの釣りバカ貴族達と討論した際に得た情報をどんどん出していく。グスタフは持ち前の知識をどんどん披露する。やがて日も沈んだ頃にようやく納得いく図面を引くことができた。数日で試作品ができるということなのでしばらく待っていよう。
そしてその夜の夕食時、席には知っている顔が1人増えている。その膝の上にはリリーを乗せてなんとも幸せそうな表情をしているではないか。
「リッカーさん。お久しぶりです。来られているとは知りませんでした。」
「お久しぶりですねミチナガさん。色々と他の仕事をしていたら遅くなってしまいまして。来たのは良いけど明日には帰るということなので残念ですな。ああ、それからリリーがプレゼントをもらったようで。それもタネドリの琥珀とは珍しいものをありがとうございます。」
リッカーは復帰したばかりのリカルドのために随分と頑張っているらしい。子の為に頑張る親か、ここの家族は本当に親子仲が良いようだな。リカルドが外回りや話し合いを進めている間に書類の整理などをしている為、今回は遅れてしまったのか。しかし何か気になることを言っているな。
「タネドリってなんですか?確か俺が渡したのはユグドラシルバグバードの琥珀ですけど…」
「ええ、わかっていますよ。ユグドラシルバグバードは世界樹にしかいない鳥なのですが、その昔は虫だと思われていたようです。それから研究され鳥ということが判明したのでバグバードと呼ばれています。タネドリというのはさらに研究が進んだことで呼ばれるようになった名です。」
リッカーは空いた時間に世界樹関連の書物を読み漁っているようだ。だからこの鳥にも随分と詳しい。俺は席についてリッカーの話をゆっくりと聞くことにする。
「このユグドラシルバグバードは常に世界樹に張り付いています。そして世界樹から溢れ出す力を吸収し生きています。水も何も他のものは食べません。その一生は1週間で終わります。ユグドラシルバグバードは生まれて1週間が経ち、死を悟ると世界樹から離れ遠くへ飛んで行きます。風に流されることもあるようで1キロは移動できるようです。」
「随分と短い一生ですね。まあこの体の大きさなら仕方ありませんか。しかしなぜ死の間際に世界樹から飛び立つんですか?」
「それがタネドリと言われる所以なのです。ユグドラシルバグバードは死んで地面に落ちるとそこから発芽します。一羽一羽が鳥であり植物の種でもあるんです。おそらく世界樹の力を吸収したことによってそう変化するようです。そしてユグドラシルバグバードはそれぞれが異なる植物になるんです。」
残っている文献からわかるだけでもユグドラシルバグバードから発芽した植物はおよそ数千種類。毎年のように新種の植物が見つかったらしい。しかもそのほとんどはユグドラシルバグバードからでないと数を増やすことができない謎の多い植物ばかりだ。
「かつては神鳥と呼ばれていたそうですよ。世界樹のない今では絶滅してしまった鳥です。だからこの琥珀はとても貴重なものなんですよ。本来は死骸が出ることなく植物になりますから。琥珀の中で固められたからこそ現存できたんです。」
超がつくほどのお宝じゃん。まあそういった時代背景を知らないとただの琥珀だと思ってしまう。これが金貨15枚で買えたのなら安いものじゃないか。あの時買っておいて本当に良かった。俺1人なら絶対に買うことはなかったはずだ。
リリーもそれがいたく気に入ったようで、大事に大事に持っている。俺はそれを微笑ましく見ていると横からドス黒い殺気がながれてきた。
「ハハハハハ…ミチナガくん。娘にそんなプレゼントまでしたのか。ゼッタイニリリーハワタサナイ……もう明日の朝には帰るからな。それからパーティーは1週間後だ。ちゃんと用意しておいてくれよ。」
「わ、わかりましたよ……お父さん。」
「ギザマァァァ!!」
リカルドをからかい、場が盛り上がる。ただ本気で殺されそうなのですぐさまリリーに助けを求める。こうすれば俺の身の安全は確保されるからな。その後、食事を終えた俺は早々に部屋へと逃げ帰る。夜くらいはゆっくりと過ごさせてくれ。
「さてさて何からやろうかな…あ、そういや遺産の回収終わったなら女神ちゃんガチャで使い魔手に入るか。」
遺産の報酬の使い魔はなかなか使える能力を持っているからな。早速アプリを開いて女神ちゃんガチャを回す。すると黒いローブを着た使い魔が現れた。こいつがあの金槌の遺産の使い魔なのだろう。
『おめでとう!新しい使い魔を手に入れたよ!』
アルケ『“お初、アルケだよ。錬金術使えるよ。”』
ミチナガ『“お、おう。よろしくな。錬金術が使えるのか。そいつはありがたいな。これから忙しくなると思うから頼んだぞ。”』
アルケ『“おけ。作業場も作れるよ。鍛冶場もランク上がるよ。”』
そういやこの金槌の元々の持ち主は鍛治と錬金術の両方に特化していたんだったな。だからその二つに影響を与えるのか。早速仕事に取り掛かってもらいたいのだが、まだ仕事はないからしばらくは待機かな。
そう思い伝えようとするとアルケは森の中に移動していった。後をつけてみると森の中でヤクと何やら話し込んでいる。一体どんな話をしているんだ?
ヤク『“おお、これは我が王よ。このアルケ殿はなかなか薬学にも精通しておりますな。”』
ミチナガ『“え、そうなの?”』
アルケ『“錬金術は薬学も扱うよ。万能だよ。”』
そうなると錬金術って確かに万能だな。しかもアルケの解放によってヤクの薬学の能力も上昇したらしい。さらにファーマーの能力も上昇したようだ。考えてみれば錬金術は物質学的なものだろうから、その範囲はかなり広いかもしれないな。これはスマホの大幅な増強になりそうだ。