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第131話 リリーとお出かけ

 翌朝、俺は朝食の合図で叩き起こされた。どうやら随分と寝てしまったようだ。寝ぼけ眼でスマホを手にとって時間を確認しようとしたら電源がオフになっていたらしい。何やら読み込みが始まった。


「え?読み込み?」


 一気に目が覚めた。電源オフからの読み込みのコンボは嫌な思い出がある。それは世界樹の時だ。大量にあったスマホのバッテリーがほとんどなくなってしまったあの事件を思い出す。俺は一旦落ち着くために着替えをしながらスマホの電源がつくのを待つ。


 もしかしてまたあの世界樹が成長してスマホのバッテリーが持って行かれたのか?もう流石にしばらくは遺産も遺品も見つからないと思うから勘弁してほしい。マジで一体何が起きたんだろう。手を震わせながら着替えを終えるとすでに通常通り電源がついている。俺は急いでスマホを手にとった。


「バッテリー!バッテリーは…100%か。よかったぁ…あれ?でもなんで100%なんだ?…ああ、あの金槌のか。じゃあなんで電源切れてた?なんの読み込み?」


 色々探していると一つ変わっている場所に気がついた。それは設定だ。いつもならただ画面の明るさや音量調整しかできないのに何やらいくつか気になる項目が増えていた。


「ウイルス対策ソフトは最新版です?紛失設定?大きさ変更?何言ってんだこれ。」


 ウイルス対策ソフトって言ったってこの世界にスマホのウイルス作っている奴いないわ。ものすごく意味のないやつじゃん。紛失設定はスマホを落とした際の設定のようだがよくわからん。距離が書かれていたり登録者の欄がある。もちろん俺は登録されているが他に登録もできるらしい。誰が登録するんだ?


「この呼び出し設定ってなんだよ。まさか呼べばスマホがくんのか?アホか?試しにこうやってベッドの上にスマホ置いて、来いスマホ!って言ったら…スマホが来たよ…マジか…」


 もう一度同じようにやってみる。スマホをベッドの上に投げてから右手を上げて来いスマホという。するとベッドの上のスマホが消えていつの間にか右手に握られている。これは便利だ。もうこれで絶対にスマホを無くすことはない。


 もしかしたらこの距離設定はスマホがいつの間にか無くなって、スマホから一定の距離分離れたらスマホが自動的に戻ってくる設定なのかもしれない。盗まれることもこれで絶対にないな。やばい、これ超便利かも。


 俺はもう一つの大きさ変更をすぐに開いた。それに思い当たる節があるのだ。細かい微調整もできるようだがいくつかのフォーマットがあるようなのでそれを選択する。すると先ほどまでの小さなスマホが急にタブレットの大きさに変わったではないか。


「すげぇ!タブレットモードだ!これで大画面でも遊べるじゃん!これってもしかして俺が最初にアンケートで答えたやつか?」


 誰も持っていない超高性能のスマホは何かという質問に答えた際の要望が今ようやく叶えられた。確かにあの時、今読み切るのが面倒なので少しずつ改良すると言っていたが、それが今来たのか。なんか随分と時間がかかったようだな。絶対今まで目も通してないじゃん。


「確かこの辺りはまだ前半で書いたとこだぞ。まだ冒頭読んだところじゃん。まあもう少し気長に待つか。バッテリーは無限が良かったなぁ…」


 文句を言っても仕方ないか。しかしもうちょっと仕事をしてほしい。まだまだ改良点を探したいところだが、あまりにも俺が遅いのでメイドさんが俺の部屋に押し入って来た。早いところ朝食に向かわないとダメのようだ。




「あ!ミチナガくんやっと来た!」


「す、すみません…ごめんねリリーちゃん。」


 随分待たせてしまった。謝りながら朝食をとると今日の予定を聞かれた。昨日のうちにやりたいことはやれたので特に無いと答えると今日の昼ごろまでリリーと遊ぶことが決定した。まあたまにはそういう日もいいかもしれないな。


 リカルドもついてくるかと思ったらどうやら今日は重要な会合があるようで1日忙しいらしい。だから俺にリリーを任せるのか。リカルドを見てみるとなんとも悔しそうにこちらを見ている。まあ仕事はちゃんと頑張ってほしい。


 朝食後、リリーと共に街中を散策する。思えばまだこのドワーフ街を散策していなかった。見回してみると商店の並びが一般的なものとは異なっている。まず武器屋や金属類のアクセサリーなどを売っているお店が多い。宝石なんかもよく売られているが、値段を見る限り軽視されているものが多い。


「ミチナガくん!ここ見たい!」


「よし、見ていこうか。」


 リリーは一軒のアクセサリー類を売っている露天に興味を示したようだ。売られているものはどれも本物の宝石なのだが、露店で宝石を売るというのはすごいな。しかしよくよく見てみると売られている宝石は粒の小さいものが多い。


「随分とこの辺りは宝石が安いようだけど大粒のは無いのか?」


「良い宝石はちゃんとした店で売るさ。この辺りのはクズみたいな宝石ばかりでな。例えばこれだが、見た目は大きそうに見える。しかしよく見ると…ほら、部分ごとに少しずつ違うだろ?錬金術でクズ石を寄せ集めてんだよ。」


 なるほど、錬金術はそんなことができるのか。リリーが夢中になっているのでその隙に錬金術について色々と聞いてみる。


 そもそも錬金術とは地球では金を作り出すために生まれたものだが、こちらの世界では金貨を生み出すために考えられたものらしい。今でも当たり前に使っているこの金貨だが、謎が多く詳しいことは何もわかっていないのだ。


 金貨についてわかることは9大ダンジョンでしか見つからず、破壊は可能だが消し去ることができない。時間経過で綺麗に元どおりに戻る。そして模倣が不可能で、贋金を使うことはできないということだ。時折、大量の金貨の取引の際に贋金を紛れさせる奴もいるけどね。


 そんな不思議な金貨を作り出すために編み出されたのが錬金術なのだが、今では金貨を作ろうとする人間はおらず、もっぱら合金の発明や、宝石をまとめるという作業が主な活動のようだ。この世界ではすでに人工宝石も誕生しており、天然物と区別されている。ただ腕の良い錬金術師の人工宝石は見分けが困難ということだ。


「とまあこんなところだ。さて、ここまで教えたんだからなんか買っていってくれよ。」


「なかなかいい勉強になったから買っていくよ。うちのお姫様もどれがほしいか決まったみたいだからな。さてお姫様、記念にひとつプレゼントしますよ。」


「本当!じゃあ…これが欲しい!」


 そういって手渡されたのはネックレスだ。シンプルな作りで宝石が一つついているだけだ。その宝石は複数の宝石をくっつけたもののようで、黄色だったり赤だったり青だったりと様々だ。まあこれなら安いだろと思ったが、もう一度ちゃんと見てみる。


「おやおや、リリー姫様はうちの店で一番いいやつを選んでくれたな。鎖一つ一つに複数の金属を混ぜ込んで模様をつけた細工付きだ。宝石のところもよく見てみな。奥に小さな琥珀がついているだろ。中には小さな虫が入ってる。なんの虫かはわからないけどな。珍しいものだ。値段は金貨15枚。」


 まさかのこの露店で一番高いやつかよ。他のやつはどれも銀貨数枚程度だ。そんな中から特上品を物の見事に選び出したよ。リリーもその値段に気がついていなかったのだろう。びっくりして元の場所に戻そうとしている。


「よし!大将の授業料も込みなら安いもんだ!それをもらうよ。」


「い、いいの?」


「俺も気に入ったからいいよ。な〜に、これでも私は商人ですから。そのくらいのお金はありますよ。」


 金貨15枚なら初期のスマホのアプリ代とあんまり変わらないからな。というか俺、今の月給かなりあるからな。日に金貨数百枚は稼いでいるし。そのぶん支出も多いけどね。直ぐに金貨15枚を払って買ってしまう。そのままリリーにあげようと思ったのだが、その琥珀の中の虫がなんなのかちょっと気になった。


「う〜ん…この中の虫ってなんなんだろ…というかよく見えないな…ちょっと待ってもらっても良いかな?使い魔達に見せてみたいんだけど。」


「うん!いつでも良いよ!」


 リリーからの許可も貰ったところでスマホの中にネックレスをしまう。みんなに確認してもらうが誰かわかるかな?見えたらそれを絵に描いてもらおう。なんか琥珀の中の虫ってロマンあるよな。するとすぐに通知が来た。誰かが見えたのかと思い、確認して見ると俺の予想とは少し違うものが来ていた。


『絶滅種の発見に成功。遺伝子情報の回収に成功しました。特定条件の達成を確認。ロックが解除されます。』


「…何事だよ。」


 すぐにこの異常事態がわかる奴に連絡を取る。まあこういう時はマザーに聞くのが一番だ。マザーならどんな情報も全て集約されているのですぐに解決してくれる。


マザー『“スマホのアップデートに伴い絶滅種の遺伝子データから復元することができるようになりました。生息環境を整えることができ次第ロックを解除できるようです。ロック解除一覧を開きます。”』


 そういうと画面が切り替わり先ほど入手した絶滅種の解除画面が出て来た。一体どんな虫なのかと思って見てみるとあまりにも予想外のことが起きた。


「え!虫じゃなくて鳥なの!名前は…ユグドラシルバグバードか。世界樹の虫鳥ってことなのかな?この琥珀みる限り全長3mmくらいしかないんだけど。」


 ロック解除には金貨500枚で良いらしい。そのくらいなら問題ないので早速ロックを解除するが特に変化はない。使い魔達に周辺を確認してもらうが全く何も分からない。すると世界樹のそばにいたドルイドの眷属が何かを見つけたらしい。


 そこには本当に小さな虫のようなものがいくつも飛んでいる。これがおそらくユグドラシルバグバードなのだろう。本当に虫にしか見えない。何をしているか確認してもらうとただ世界樹に止まって、時々飛んで場所を移動するだけの鳥のようだ。


 俺が呆然とスマホを眺めているとあまりにも暇なリリーが俺の服を引っ張った。つい夢中になってしまったが、今はリリーと遊んでいる途中なのだ。俺はスマホから先ほどのネックレスを取り出してリリーに手渡す。


「この琥珀に入っているのはユグドラシルバグバードっていう鳥さんみたいなんだ。もしかしたら世界樹の樹液からできた琥珀の中に入っちゃったのかもね。」


「トリさんなんだ!ちっちゃくて虫みたい!」


 正体がわかったことでリリーも喜んでいる。これでなんとか待たせた部分をごまかせたか。その後、街中をしばらく散策したのちに屋敷に戻った。午後からリリーはお勉強のようだ。遅れている分を取り戻すために大変らしい。


 俺は俺でグスタフに呼び出されてしまったので、自由時間は終了だ。いい加減ゆっくりと休みたいもんだよ。



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