第126話 慰謝料回収
再び隔日投稿になりました。書き溜まったら、また毎日投稿します。
「はーい、じゃあみんな揃ったな?まだ寝ている寝坊助はいないな?じゃあ手を合わせて、いただきます。」
「「「いただきます!」」」
今日も元気な子供達の声が木霊する。孤児院の子供達は今日も元気だ。裏組織の一件が片付いて以来子供達は急激に集まって今では500人を超えている。さすがにこの人数は元の教会だけでは管理することができないため、急遽仮設住宅を建てておいた。それでもぎゅうぎゅう詰めだ。
そんな状態でも子供達は毎日食事を十分取ることができるので、なんの不満もない。俺も食費などは全てナイトに請求しているのでなんの問題もない。毎日食事が終わると子供達に勉強を教えている。先生役は主に使い魔達なのだが、まだ文字も読めない子供も多いので、通訳兼世話係として若干名、人を雇っている。
子供達はまだまだ学び出したばかりで、なかなかこの教育にうまく慣れていない。しかしそれでも授業は面白いようだ。学ぶということ自体が楽しいということもあるのだろうが、使い魔達の教え方がうまい。
毎日の授業内容は全ての使い魔達と話し合いで決定される。スマホの中では毎日会議が行われ、その内容をマザーがまとめる。そしてその決定された授業内容をカントクによって手に入れた映像の投影機能を使って子供達に見せながら教えるのだ。
カントクは自分の能力を完全に使いこなしている。映像もうまく編集され、誰が見ても面白いものになっている。ちなみにこの映像も映像事業が確立したら上映してみるつもりだ。聞こえるようにアフレコもしておかないとな。
俺は朝食が終わると道路工事と商店建設、子供達のための建物の建設の状況を確認しなければならない。それから冒険者への使い魔の貸し出しも今日から開始だ。いきなり3組に貸し出すことが決定している。まだまだこれから色々とテストを重ねてより良いものにしていかないとな。
それから事後報告なのだが、昨日からムーンのやつがアンドリュー子爵のとこの街で店を開いたらしい。しかもシンドバル商会の跡地だということだ。あそこ結構立地よかったよな。そんな金どうしたのかと聞いたらナイトに買ってもらったらしい。なんと羨ましい。しかし仲良くやっているようでよかった。
とまあこんな感じで毎日なかなか充実している。しすぎている。もっとスマホをポチポチいじりたい。まああと数年はこの調子で頑張らないといけないんだろうな。なかなか憂鬱なものだが、まあこれも俺の地位を盤石にするために必要だ。さて、とりあえず今日も頑張るか。
「ミチナガせんせーお客さんがいっぱい来てるよ。」
「ん、お客さん?そうか、ありがとうな。」
こんな朝早くからお客さんとは一体どこの誰だ?そんな予定は聞いてもいないし、いっぱいくるお客さんって誰だろう。考えても仕方ないので教会の外に出ると、そこには何台もの魔動車が並んでいた。一瞬何事かと思ったが、すぐに誰かわかった。一台の魔動車の扉が開くとそこから勢いよく俺の元にやってくる一人の人間がいた。
「ミチナガくんだー!」
「久しぶりリリーちゃん。今日も元気だね。」
リリーは勢いよく俺に飛びつく。俺はそれをなんとか堪えて倒れずに済んだ。あ、危ない。もう少し勢いが強かったら無残に散っていたな。リリーは少し見ないうちにさらに体の調子が良くなっている。毎日リハビリとしていっぱい遊んでいるのだろう。
「あ、お前ら…ちゃんとくるなら連絡しておけよ。」
『ドルイド#2・……すまない…』
『プリースト・申し訳ない。しかしリリー様からご内密にと。』
まあそれなら仕方ないか。俺は軽くため息をつく。リリーには現在2体の使い魔がついている。まず一体目はドルイドだ。まあこちらはほとんど眷属しかついていないのだが、理由はリリーの世界樹を扱う魔法のためだ。
リリーの世界樹魔法は現在使える人間はいない。似たような力を使える人間は皆無なのだ。そしてその力に最も近いのは森の大精霊だ。だからその大精霊の弟子であるドルイドがその扱いを教えている。しかしドルイドもまだまだ教わり始めたばかりなのでなかなか難航しているようだ。
以前、ドルイドがリリーのために大精霊の力を使って世界樹を操った時、あの時のやり方を教えれば良いのだが、よく聞くとあれはかなり無理矢理だったらしい。なぜドルイドが大精霊の力を使えたかというと、体内に無理やり大精霊の力を蓄えたようだ。
使い魔達は独自の力を持っていないので魔石から魔力を得られるように、精霊から精霊の力を得ることも可能なのだという。ただし強い力を取り込むと使い魔の肉体に影響を及ぼしてしまうとのことだ。だからあの時のドルイドはそのまま死んでしまった。
そしてもう一体の使い魔。それはあの時、ロザリオから発生した使い魔、プリーストだ。能力は神官、使い魔復活の金貨の枚数を半減することができる。さらに使い魔の復活時間を短縮することのできる教会をたてることができる。かなり役に立つ能力だ。
プリーストはロザリオがリリーに迷惑をかけたことに責任を感じており、こうしてリリーに付き従っている。プリーストは現在リリーの勉学に関する教育係をしている。リリーは年齢こそ10歳になるが、呪いのせいで勉強というものをしたことがない。だから毎日足し算や引き算、文字を書く練習から始めている。
「やあミチナガくん……娘と仲がよろしいようで…」
「ど、どうもリカルド様…最近の活躍は素晴らしいようで。」
リカルドは現場復帰してから随分と評議会メンバーの入れ替えがあったようだ。詳しい情報は街にもそこまで出回っていないが、評議会はかなり大変な状態のようだ。俺が裏組織から奪った評議会メンバーや貴族の不正の証拠が随分と役に立ったようだ。
今日は一体なんの用事かと思ったら、以前俺が評議会から勝ち取った孤児院あたりの道路の工事費の支払いにきてくれた。何台も連なっていた魔動車はほとんどが俺に渡す金貨のようだ。とりあえずこんなところで話しているのもなんなので教会の一室へ案内する。
すでに朝の授業が開始されているので子供達は全員教室の中だ。リリーはそれが気になるのか俺に隠れながらチラチラと様子を伺っている。屋敷にいては同年代の子供と遊ぶことも少ないから友達が欲しいのだろう。あとで休み時間に一緒に遊ばせてあげるか。
それからリカルドに俺が今まで使った道路工事費を話し、そこから考えられる今後の工事費も合わせて今のうちに貰う。その際に慰謝料ということで多めに貰ってしまった。それから道路沿いの土地の所有権に関する書類なども貰い、ようやくひと段落ついた。そこからは、まったりと世間話だ。内容は酷いけど。
「それで貰った書類から不正の証拠を全てあぶりだした。そして金を溜め込んでいる評議員と貴族を取り潰して財産のほとんどを回収した。奴らは今まで国の運営資金を私的に流用していたからな。これで少しは他の公共事業にまわせる。ここの孤児院にも金を回せるが…どのくらい必要だ?」
「う〜ん…ここはうちの専属冒険者からの出資だけで十分間に合っているんですよね。しかし長い目で見たら…。う〜ん…とりあえずうちは平気なんで他に使ってください。色々一段落ついたらその時にお願いします。予算が余った分だけで良いので。」
「欲がないな、それで商人としてやっていけるのか?ああ、そういえばこれも渡しておかないとな。娘を救ってくれたというのになんの礼も無しでは私の沽券にも関わる。受け取ってくれ。」
そう言われて出されたのは一つの綺麗な箱だ。持ってみるとずっしりと重たい。もしやと思い開いて見るとそこにはぎっちりと白金貨が詰められていた。
「商人という身では金貨を持ちすぎても運ぶのが大変だからな。今回の不正貴族の押収で手に入った白金貨15枚だ。そういえばミチナガくんはルシュール領の方から来たんだったな。あっちの方は確か白金貨の価値が1枚金貨5万だったか?こっちは金貨10万の価値だからな。英雄の国では確か金貨50万まで膨れ上がっているぞ。」
「え!そんなに違うんですか!」
白金貨は流通量が少なく限られている。だから場所によって随分値に差があると前に聞いた気がするが、ここまで変わってくるとは。というか俺は普通に金貨1万枚で考えていたわ。下手に使ったら大損こくところだったわ、あっぶね。
まあ俺の中では白金貨は使い魔ガチャのためのものだから普通に使う気は無い。これでさらに使い魔ガチャ15連回せるぞ。久しぶりにウルトラレア出ないかな。
「それからいくつか頼みたいことがある。ブラント国王にこの書類を渡して欲しい。魔動車などの設計図だ。それからいくつか実物もある。ただ、高層の建物に関しては運ぶことが不可能だから設計図のみだ。頼めるか?」
「ええ、もちろんです。すぐにお届けします。お届け次第再び映像通信をすることになると思いますけど大丈夫ですか?」
「構わない。それから前に冒険者ギルド経由でヤタガラスを売っただろ。その情報を聞きつけたものがいてな。その中にはさらに珍しいものを売るという話まで持ってきた奴がいる。噂ばかり一人歩きして騒ぎになりかけているんだ。今度私の復帰パーティをやるのだがその際に何かオークションで売ってはもらえないか?」
あ、そのさらに珍しいものを売るって噂は多分前に孤児院を買おうとしたボルティって奴だな。確かにそろそろ売っておきたいと思っていたし、いい機会かもしれない。それにやってみたいこともある。二つ返事で許諾すると日程も決めてしまった。
「それから最後にこれからドワーフ街に行かないか?私の妻はドワーフ街で人気者だったんだが、その娘であるリリーも人気者なんだ。このあとここでの用事が済み次第向かうつもりだがどうだ?実に癪なことだがリリーも喜ぶ。」
「え、ええ…。まあドワーフ街には行きたかったですから喜んでお供します。」
実に癪とかもう喧嘩腰は勘弁してくれよ。まあ気持ちはなんとなくわかるよ。大事な娘が俺みたいなのに夢中になっているのは実に腹立たしいだろう。だけどまだ子供なんだからさ…大丈夫だよね?
「ではこれからすぐに向かう予定だから用意をしてきてくれ。ドワーフ達は気分屋が多い。下手に時間をずらすと会えなくなる。」
「では30分ほどで用意をしてきます。護衛を2人つけますがそれでよろしいですか?待っていただく間に使い魔達に色々とやらせておきます。それから簡単にしかできませんがもてなしもさせていただきます。」
使い魔達に今回のブラント国に届ける分の設計図などと、俺への慰謝料などを回収させておく。その間に俺は大急ぎで身支度を始める。それからマック達に言って護衛を誰にするか選出させ、それ相応の服装に着替えさせる。あまり待たせるわけにはいかないので一つ一つ正確にやらねば。
それにしてもついにドワーフ街に行くことができるのか。この世界に来てから今までドワーフには会ったことがない。様々な技術を目にすることができるはずだ。スマホの中でスミスも実にワクワクと楽しみにしている。それについに鉄鉱石の精錬ができるかもしれない。毎日のように集めていた鉱石がついに宝の山に変わるのだ。
今回の話で50万字超えました。まだまだ頑張ります。