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第121話 ドルイドの真価

 俺は何もできずに子供が苦しんでいるのをただ眺めている。その目からはあまりの悔しさに涙が溢れて来る。その様子を見たヤクは肩を落として落ち込んでいる。ヤクもどうにかできると思ったのだろう。それがまさかの何の役にもたたずに何もできずにいるだけというのは悔しいはずだ。


 そんな中ドルイドがベッドに降り立ち、孫娘の様子を見ている。それから俺の方を向いて何かを吹き出しで語りかけている。俺はそれを読むために涙を拭う。


『ドルイド・…世界樹…バレても…いい?……』


「何とかできるなら何だっていいさ。その程度のことはもうどうでもいい。」


『ドルイド・……少し…待て…』


 そういうとドルイドはスマホの中に戻っていってしまった。それから待つこと10分、再び現れたドルイドは何か気持ちが悪そうだ。心配するとそんなことは良いと言わんばかりにこちらに語りかけて来る。


『ドルイド・…スマホ……近づけて…』


「こ、こうで良いか?」


 ドルイドにスマホを近づける。するとスマホから木の枝の先が少しだけ出て来た。ドルイドはそれに触れて俺に最終確認をして来た。本当に世界樹のことがバレても良いのかと。俺はそれに対して構わないと了承する。


『ドルイド・…了解……始める……我が名はドルイド…ここに……大精霊の力……世界樹の力…行使する。』


 その瞬間、スマホから少しだけ出て来た世界樹の枝が成長を始め、ベッドに横たわる少女を持ち上げる。そしてその少女を囲うように世界樹がさらなる成長を始める。世界樹は瞬く間に枝葉を茂らせ、花を咲かせる。その世界樹の花は神々しく輝いていた。


「そんな…あれは伝承にある世界樹の花…万物を癒し、魔を拒絶し滅する世界樹の持つ神の力…ミチナガさん…あなたは一体…」


 俺は何も答えずただ眺めていた。やがて少女の体の黒く染まった部分が薄まり、人間らしさを取り戻していく。それは一気に治してしまうものかと思われたが、徐々に勢いが落ちて来た。


『ドルイド・力…足りない……スマホ……』


「ああ、スマホの力でも何でも持っていけ!足りない分は課金してやるよ!課金は俺の十八番だからな!!」


 その瞬間、先ほどよりも輝きが増した。おそらくスマホの力を持っていったのだろう。その輝きは少女の体を癒し、骨と皮だけのような体つきに活力を与え、孤児院の子供達と遜色ないほどまともな肉体へと変貌を遂げた。


 やがて世界樹は少女の身体を癒しきったと確信した頃に枝葉を縮め、一本の木の棒となった。もうスマホからは何も飛び出していない。ドルイドも完全にやり切ったのだろう。力の使いすぎで死んでしまったようだ。スマホを確認するとちゃんと10分後に再度復活することとなっている。


 それとスマホのバッテリーが残り1%しかないんだよなぁ…何とかギリギリで持たせてくれたのはありがたいと感謝しておかないといけない。また課金しないとダメそうだ。1%で金貨1000万枚使うからまた金貨不足になりそうだ。まあそれで治ったと思えば安いものか。


 しかしそんなことよりも今はこっちの方を気にしないといけない。治療が完了し再びベッドの上に戻された少女はようやく目を開いた。そして身体を持ち上げ辺りをキョロキョロと見回している。その様子を震えながらリカルドは見ている。やがて少女は父親に気がついた。


「パパ…お腹すいた。」


「ああ、ああ!そうだな。お腹が空いただろう。パパと一緒にご飯を食べよう。おじいちゃんもみんなも一緒だぞ。またみんなで…みんなで一緒に…一緒に…」


 父親は娘を抱きしめ咽び泣いた。リッカーもたまらず駆け寄り息子と孫娘を抱きしめ同じように咽び泣いた。数年ぶりに家族一緒に抱きしめあった。これで少女の治療完全終了だ。





 その後は家族総出の食事会だ。俺たちは家族水入らずの状態を邪魔しては悪いと帰ろうとしたのだが、どうしてもと言われこうして一緒に食事をとっている。リッカーとリカルドからはこれでもかというほど感謝の言葉を述べられている。


「本当に…本当にありがとう。何とお礼を言って良いか…」


「いえ、そんな。あ、でもこの治療の件はご内密にお願いします。特に世界樹の話は本当に内密に…」


 世界樹の件は使用人一同全員に箝口令を敷いたので絶対に口外されないと約束してくれた。まあこれで俺としても一安心だ。先ほどからリッカーの孫娘はいろんな人から可愛がられている。俺はその様子をただ遠くから眺めていた。


 その時、俺の目に小さな黒い靄が見えた。一瞬目の錯覚かと思い目をこすったが、その靄はやはり消えない。その靄は徐々に少女の元に近づいていく。俺にはすぐにわかった。あれは呪いだ。まだ呪いは消えていなかったのだ。


 焦る俺を尻目に靄はどんどん少女の元に近づいていく。俺は慌てて席を立ち上がったがもう遅い。靄は少女に触れようとして…何かに弾かれ霧散した。


 よく見ると少女は先ほど治療の際に出た世界樹の木の棒をぎっちりと握っている。おそらく世界樹が呪いから少女を守ってくれたのだろう。しかしこのままではいつかまた呪いが降りかかるかもしれない。その光景に気がついたのは俺だけではなく、リッカーもリカルドもちゃんと気がついていた。そして俺に声をかけ、すぐに部屋から出ていった。


「こちらに来てください。呪いの元凶をお見せします。我々ではもう太刀打ちできないのです。しかし世界樹を持つあなたなら…」


「何とかしてみます。しかし…一体何故こんなことが?災害があったとお聞きしましたが…」


「それもお話しします。実は災害というのはモンスターでも自然災害でもなく…人災なのです。」


 どういうことかと聞くと約6年前、とある山で謎の呪いや毒が蔓延し生物すべてを殺したという。その原因を探っていると山の内部にその発生源があることがわかった。それを解決するためにリカルドの妻が出向いたのだという。


 その妻は実力も魔帝クラスで、封印に特化した能力だった。だから今回の件もすぐに方がつく、誰もがそう思った。しかし結果はリカルドの妻は封印には成功したものの、その呪いをその身に受け死んでしまった。しかもその呪いは血縁関係にある娘にまで飛び火したという。


「そしてその封印されたものは悪用されないように今もこの屋敷の地下深くに封印されています。庭を広くしてあるのも封印が解けた時のためです。しかし…すでに封印が緩んでいたとは…」


 そんなものは一刻も早く何とかしなくてはいけない。リッカーたちに案内された先にはエレベーターがあった。そこには特殊な仕掛けが施されており、特定の方法をするとその封印されているものの場所まで行ける。


 エレベーターは地下深くまで降りていく。やがて止まった場所は一体地下何階なのだろうというほど降りた場所だ。そこには厳重に封印されている棺がある。そこに呪いの正体があるようだ。


 棺の蓋はリッカーとリカルドの二人掛かりでようやく持ち上がるほどの重さだ。あ、俺は何の役にもたたないので横で見ていました。その棺の中には一人のミイラ化した死体が横たわっていた。その手にはロザリオが握られている。


「これがその呪いの原因です。世界樹で癒すことは可能ですか?」


「え、ええ…だけど…ちょっと待ってもらっていいですか?」


 俺はその呪いの原因を目の前にして既視感を感じた。それはあの時の、俺がゼロ戦を見つけた時のあの時の感覚だ。確かにあの時も遺体を目の当たりにした。ただそれだけのはずなのに何か同じものを感じた。そして俺は遺体の手に握り締められているロザリオに注目した。


ミチナガ『“なあ、これってもしかして遺産じゃないか?あのロザリオ…多分そうだと思うんだけど。”』


マザー『“回収したのちに確認します。スマホをロザリオに近づけてください。回収を試みます。”』


 俺はマザーに言われた通りにロザリオにスマホをかざす。するとロザリオは見事に回収された。


『遺産の回収を確認。解析にかかります。…解析完了。遺産の能力を発動します。』


 まさかの解析まで終了だ。普段ならもっと10日以上はかかるのに今回はすべて完了してしまった。しかも遺産の能力を発動するとまで出て来た。そんなことは今まで一度もなかったのでオドオドしているとスマホから使い魔がロザリオを持って出て来た。しかもこの使い魔俺の知らない使い魔だぞ。


 その使い魔がロザリオを片手に遺体の上に乗ると何やら祈り出した。すると先ほどまでおどろおどろしかった遺体から靄が晴れ、何事もない普通のミイラ化した遺体に変わった。


「これは一体…」


「えっと…俺にもわかりません。何かこの遺体のあった場所の情報ってありませんか?」


 さらに話を聞くとこの遺体があった山には盗賊の隠れ家があったらしい。かなり凶悪な盗賊でかなりの被害が出ていたとのことだ。討伐しようにも盗賊の頭が魔王クラスの強者でなかなか手出しができなかったらしい。


「もしかしたらこの遺体はその被害者なのかもしれませんね…そして自らを守るために、盗賊を倒すためにその力を使ったんだと思います。もしかしたら死んでも自分を汚されないように自ら自分を呪って守ったのかもしれませんね……今となってはもうわからないですけど。」


「……私は正直この遺体が憎かった。しかしこの遺体の人も被害者なのだと思うともう憎めない。むしろその盗賊を野放しにしていた自分自身が憎くなる。もっと…この国を変えないといけませんね。」


 もしかしたらこのロザリオがこんなにも早く解析されたのはこの遺体を早く解放したかったからなのかもしれない。この遺体はもう安全だとはわかっていても、もう死んでいるため止めることができなくなった。制御することができなくなってしまったのだ。


 そしてロザリオももう終わらせたいのに止めることができなかった。だから俺に回収されたのちに、こうして終わらせるために出て来た。まるでこのロザリオに意思があるかのような物言いだが、そう考えるとどこかしっくりくる。これで本当に全てが終わったのだ。


 後日、この遺体はリカルド立会いのもと、世界樹の根元に埋葬されることとなった。そこは草花に囲まれた静かで綺麗な場所だ。決してこの遺体を汚すことはできない。この遺体の眠りを妨げることはできない。


 名前も知らない遺体はこうしてようやく誰も憎まず、誰も呪わずに安らかな眠りにつくことができた。




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