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第115話 孤児院買収

 翌日、俺はものすごく悩んでいた。それはナイトの儲けた金、俺の取り分を差し引いた金貨1600万枚以上の使い道だ。昨晩のうちにムーン経由でナイトに伝えると使い道がないのでとっておいてくれと言われた。しかしとっておいても今後も今くらいの金額がどんどん増えていく。


 使い道のない死んだ金など意味がない。だから何とか使わせようと考えているのだが、なかなか妙案が浮かばない。毎日ムーンが食事を提供しているので、その飯代を差っ引いても大したことにはならない。何かこうバッとつかわせたい。しかしナイトが納得する使い方じゃないといけないし…


 そんなことを悩みながら朝食を食べていると、いつもより遅くハジロが起きて来た。その目には隈ができている。どうやら昨日のあの孤児院が気にかかっているようだ。しかしそんな余裕がないのだから仕方ないだろう。ハジロにだってどうしようもできないのだから。まあナイトのように金を持っている人間もいるのだけれど。


「ん?だったら…ナイトに出してもらえば…慈善事業なら出してくれるんじゃないか?あいつ優しいし。毎日子供達に食事を提供してその金も請求しちゃえば…」


 頭の中でどんどん計算が進む。現在のナイトの資産は金貨1600万枚、しかし今後も増えていくことを考えれば見込み資産は金貨1億でも少ないくらいだろう。それを減らしていくためにはそうしてやれば完璧じゃないか?


「葉白さん!飯食ったら急いで商業ギルド行きますよ!金の算段がついたのであの孤児院を買いましょう。」


「ほ、本当ですか!さ、さすがは関谷さんです。あなたは本当に良い人だ…」


 なんか泣いている。なんかハジロからの好感度が上がっているけどまあ別にどうでもいいや。ハジロは飯なんていいから早く行きたいと言い出したのでそのまま商業ギルドへと向かう。それと今日の護衛にはウィッシがついてくれるようだ。


 移動の最中にムーン経由でナイトに孤児院の出資を頼んでみると二つ返事でオッケーサインが出た。ナイト自身も元々孤児なので同じ境遇の子供を救いたいのだろう。しかも細かい話は面倒なので俺にナイトの資産運用を好きにして構わないと許可まで出てしまった。まあナイトならいくら使ってもすぐに取り戻せるからな。


 すぐに商業ギルドに着くと何やら中から悲痛な声が聞こえて来た。何事かと中へ入ると妙齢のシスターの格好した女性が何かを訴えていた。


「お願いします。どうか…どうかあの教会を残してください。」


「そうは言ったってこっちも金に余裕はないんだ。せっかくボルディ様が買ってくださるというのだからそういつまでも文句を言わないでくれ。」


 どうやら俺が買う前にあの孤児院の教会の買い手がついてしまったらしい。しかしハジロはそんなことも御構い無しに突っかかっていく。さらに揉め事が大きくなりそうなのでウィッシに何とか止めてもらおうとするが暴れに暴れてなかなかに大変だ。


「葉白さん落ち着いてください。もう買い手がついたんですから、そんなに文句を言っても仕方ないでしょう。」


「しかし!しかしこんなことがあっていいはずがないんだ!子供達はどうするんですか!」


「はいはいわかりましたから落ち着いてって。どうもすみません。お騒がせしてしまって。」


「あなたもあの孤児院を買おうと思ったんですか?すみませんね、こちらのボルディ様がすでに金貨6000枚で購入されたのでもう無理です。」


 昨日よりも値上がりしているな。おそらく多めに出すから孤児院の連中を静かにさせろとでも言ったのかな。しっかりしているな。まあ別にあくどい真似をしているわけでもないから攻めるほどのことでもないだろう。


「そうでしたか。それはすみません。ほら葉白さん帰りますよ。しかし残念だ。孤児院を守るためなら金貨1万を出資すると言われて来たのですけど、先に買われてしまってはどうしようもないですね。」


「ちょ!ちょっとお待ちを!!今何とおっしゃいましたか?い、いや確かに金貨1万と言われたはずです!」


「ええ、ですが買い手がついたものを横から入って買うのはおかしいですから。ちゃんと売買が成立したのなら我々は引き下がります。」


 俺たちはそう言って引き下がろうとしたところ男は急いで俺のことを掴み、何かを言い出した。しかし興奮しすぎて何を言っているかわからない。少し落ち着かせるとまだ契約書は作っていないので売買は成立していないとのことだ。


 ならこれで孤児院の持ち主との話はつきそうだ。しかし問題はボルディという男の方だ。おそらく貴族だろう。ここで俺が売買を横取りしたら彼の面子が立たない。下手にこのまま強行すれば間違いなく恨まれる。何をされるかわかったものじゃない。ここはひとつ賭けに出てみるか。


「ボルディ様…とおっしゃいましたね?もしや昨日のギルドのオークションに参加されていた方では?」


「ああ、確かに参加していた。しかしなぜそのオークションの話を知っている。」


「これはこれは申し遅れました。私はミチナガ商会という店を経営しているミチナガと申します。実は昨日のオークションの出品物はうちの専属の冒険者が討伐したモンスターなんですよ。」


 よし、賭けは成功だ。金を持っている貴族のような男。そうなったら昨日のオークションに参加していた可能性は高い。ならば話をつけることは可能だ。ここで俺に恩を売れる方が得だと思わせれば良いだけなのだから。


「実はうちのその冒険者はなかなか偏屈な男でして、孤児院や困っている人を見つけるとすぐに助けたがるのです。そしてそれが遮られるとへそを曲げてもうその国ではモンスターを売らなくなるんですよ。…実を言うと彼から昨日の八咫烏級のモンスターを討伐したって話を聞きまして、近日売りに出そうと思っているんです。ですから何とか譲っていただきませんか?ボルディ様のような方にこそ今回のモンスターを買って欲しいんですよ。」


「ほう?そうかそうか。冒険者の中にはそういったものも多いと聞く。そんな男を御すのは大変だろう。八咫烏級のモンスターの買い付けができなくなるのは私だけでなく多くのものにとって不利益になる。良いだろう。今回は譲ろう。その代わりとびっきりのを頼むぞ。」


「ありがとうございます。ボルディ様が話のわかるお優しい方でよかった。素晴らしいのを用意させるように伝えておきます。」


 はいこれで一件落着。もう完璧に話が済んだね。誰にも恨まれずみんなハッピー、円満解決だ。その話を聞いたハジロも教会のシスターも大喜びだ。ナイトには少し悪いことをしたと思うが、このくらいの嘘なら可愛いものだ。


 その後、すぐに契約を済ませ元の教会の持ち主の男に即金を渡してやると飛び跳ねるように喜んでいた。まあそのあとすぐに半分近い金貨を商業ギルドに持って行かれていた。どうやらその場で借金の返済が全部済んだようだ。少ししょぼくれていたがまだ半分あるからとどこかへ遊びに行った。あの男は多分また借金まみれになりそうだな。


 売買の契約を済ませたのでとりあえずシスターの案内で孤児院へと向かう。初めは大通りを歩いていたのだが次第に細い路地へと入って行き、しばらく歩くとようやくついた。建物でごった返しているかと思ったが、孤児院周辺はなかなかに開けた場所だ。しかし大通りから離れているのはやはりいただけないな。


「どうぞこちらへ。あなたがたとの出会いを神に感謝しなくては。」


 案内されるがまま教会前の庭を進み商会の中へと入る。しかし扉を開けた途端異臭がした。一瞬死体でもあるのかと思ったが、よく見てみるとそう言うわけではなさそうだ。その孤児院にいる子供達全員が臭いのだ。おそらく体をまともに洗っていないのだろう。それに痩せこけている。


「せ、関谷さん…これは…」


「シスター、祈りは後にしましょう。まずは食事と風呂と掃除です。費用はこちらで持ちますからご安心を。」


 すぐに食事にしたかったが、まずは風呂だ。あまりにも汚いのでこのまま飯を食べさせるのはあまりにもよくないだろう。まあ今まではこの状態で飯を食べていたのだろうけど。俺はすぐに使い魔眷属総動員で子供達を集めてお湯を使って体を洗わせる。


 この汚さは初めて出会った時のナイトレベルだな。石鹸を使い1時間以上かけて綺麗にしてやった。その時に人数も数えたが48人いるようだ。シスター曰く、街を探せばまだまだいくらでも孤児は集まるとのことだ。そっちもおいおい集めていこう。


「綺麗になったな!よし!ガキども飯だ!好きなだけ食え!だけど喧嘩はするなよ!」


 大量に用意した飯を子供達にどんどん食べさせる。あまりにもがっついて喉に詰まらせる子もいたが、その辺のフォローは使い魔達に任せる。それから今のうちに教会の中を使い魔達にある程度綺麗にさせる。しかしボロボロすぎるからこの建物そのものを建て直す必要があるかもな。


「横に空き部屋があるからそっちを重点的に綺麗にしよう。それから布団も必要だな。ブラント国で買い付けておいてくれ。あの国もまだ金貨必要だろうから。どうせだから100個くらい買っておけ。全部支払いはナイトにさせよう。うちの痛みはゼロだ。」


 口頭でどんどん使い魔達に指示を出していく。こういう時はスマホを使うよりもこっちの方が楽だ。横の空き部屋に寝る用意ができた頃に子供達が眠そうに続々と集まってきた。お腹がいっぱいになって眠くなったのだろう。すぐに寝かしつけてやる。


「関谷さんすごいです!まるで魔法ですよ!」


「魔法のある世界でそんなこと言われても…まあそんなことより子供達が寝たから続きやりますよ。ウィッシは魔法で壁と床の補修頼む。別途で報酬払うから。シスターも飯食べて休んでいてください。ハジロさんは俺と一緒に片付けをしますよ。」


 俺たちが働いた分の手間賃もナイトに払ってもらおう。それからルシュール領で木々の大量買い付けだ。教会内部の備品を親方に作ってもらおう。


 そして夜になる頃にはある程度片付けと掃除が終わった。その頃になり子供達が起きてきたので再び夕食を食べさせてやる。すると48人と俺たちの分の食事を用意したはずなのに結構な数が足りていない。よくみると小汚いのが増えている。飯の匂いを嗅ぎつけて集まってきたな。


 新しくきた子供を洗い、食べさせているとまた子供が集まってくる。結果的にその日、子供達を寝かしつける頃には子供達が全部で74人に増えていた。まだまだこれからどんどん増えて行きそうだ。これから1週間はかなり忙しいだろうな。


 俺は今日からこの教会に泊まることに決めた。ウィッシにそのことをマック達に伝えるように頼んでおいた。まああいつらはどこに泊まっても別に構わない。ハジロさんは明日子供達の歯をチェックすると言って張り切っている。


 俺はそんな中教会の庭に出て構想を練っていた。ここでただ教会の孤児院を続けて行くだけじゃつまらない。交通の便やこの場所での商売の方法。大きく金を使わないとダメだな。何かどでかいことをしよう。時間は雪解けの季節までたっぷりある。




ミチナガ『“マザー、眷属たちを使って周辺の見回り、それから情報収集をしてくれ。夜間日中どちらもカバーできるように交代制でやらせてくれ。どんな情報でも構わない。”』


マザー『“了解しました。では現在まで集まっている情報を先に開示しておきます。”』


ミチナガ『“ああ、前にマップ作った時にか。……裏組織か。それに汚職衛兵…子供も結構巻き込まれているな…孤児院を続けていく上で邪魔になる可能性もあるからなんとかしたいな。その辺りの情報も詳しく集めておいてくれ。”』


マザー『“了解しました。”』


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