01.異世界招待を伝える手紙が届きました
二作品目です。
「ふぅ。やっと家に着いた」
一週間、高校生活を無事に乗り切った佐藤 裕一は、自宅から片道八キロメートルもある高校から自転車に乗って帰って来た。
「あれ? 兄弟姉妹全員帰って来てるのか?」
裕一は自転車をシェルターの中に入れようと、シェルターを開けると、そこには黒い自動車一台と、自転車二台、そして黒いバイク一台あった事で、その事に気付く。
裕一の家族構成は、既に他界している父、母、そして今話に出て来た兄、弟、姉、妹の七人家族だ。
現在は、五人家族だが。
自転車をシェルターの中に入れた後、シェルターを閉じた裕一は愛しのマイホームの玄関を開ける。
「ただいまー」
と、裕一は言ったのだが、兄弟姉妹の返事は無し。
「ちょっとくらい返事してくれたって、いいじゃん」
と、小さく呟きながら靴を脱ぎ、リビングへと向かう。
リビングに入ると兄弟姉妹が皆テーブルの周りに集まってるのが、真っ先に目に入った裕一は、何かあったのかと思い、聞いてみる。
「何で、みんなテーブルの周りに集まってるの?」
「おぉ、裕一か。別に大した事じゃないんだが、今日家に帰って来たら、ポストの中にこの手紙が入ってたんだよ」
裕一の兄である亮太は、一枚の手紙をヒラヒラとしながら、そう言った。
亮太から一枚の手紙を受け取り、裕一はその手紙を読んでみる。
『初めまして、佐藤家の皆さん。私は、ティオルネス王国の女王、ユリア=セリネル=ティオルネスと申します。
早速ですが私はあなた達に、私達が暮らしている異世界に来て欲しいのです。こんな事を言うのは可笑しいと思うのですが、あなた達は産まれてくる世界を間違えてはいませんか?
今、あなた達は何を言ってるんだと思ったかもしれません。その事については、私達の世界に来て下されば、お教えする事が出来ます。
もし、来て下されるのなら、この手紙と同封してある、魔法陣が描かれているカードを手にし、こう唱えて下さい。《転移》と。
それでは、あなた達が私達の世界へ来てくれる事を、心から祈っています』
これは異世界転移でも無ければ、異世界転生でもない。そうこれは、異世界招待!
……すみません、少し調子に乗ってしまいました。
「で、これどうするの? 胡散臭いけど」
「……そうだなぁ。このティオルネス王国なんて国聞いた事無いから、俺たちが住んでいる世界とは、別の世界にあるんだろうけど、その別の世界に無事に辿り着けるかも分からないからなぁ」
もしその別の世界、いわゆる異世界が本当にあるのなら行ってみたいけど、亮太が言っている通り、そこまで無事に辿り着けるかなんて分からない。
「……私、行ってみたいんだけど」
裕一と亮太が悩んでいると、そこに裕一の姉である鈴音がサラッと言ってきた。
「姉さん。僕も行きたいのはやまやまなんですが、無事に辿り着けるかも分からないんですよ? 下手したら死ぬかもしれないんですよ?」
「別にいいじゃない、死んでも。私達が死んだって、今更誰も悲しまないんだし。そうでしょ? 裕一」
鈴音が言っている事は本当だ。僕達が今更死んだところで、誰も悲しまない。けれど裕一には、やりたい事がある。
別に凄い事をしたいわけじゃない。皆に誇れるような事をしたいわけじゃない。唯、裕一は最も好きだった爺ちゃんみたいになりたいんだ。
「そう、だな。俺達が死んだって、悲しむ奴はこの世界にはいない。それにやってみたい事なんて無いしな」
鈴音が、亮太がそう言ったせいで、裕一よりも歳下である、駿介と結奈は、異世界へ行く事にしたらしい。
駿介はまだ十四歳で、結奈は十三歳。まだ、こんなにも若いんだから、これから楽しい事とか、嬉しい事があるはずなのに、弟と妹は死ぬ可能性がある方へ行く。
裕一と兄弟姉妹は同じお腹から産まれ、同じ様に愛され行きてきた。それなのに、どうしてこんなにも考え方が違うんだろう。
兄弟姉妹は魔法陣が描かれているカードを手に取った。
そして迷いも無く、こう唱える。
「「「「《転移》」」」」と。
《転移》と唱えた兄弟姉妹は直視出来ない明るさの光に包まれるが、裕一はその光から目を逸らす。
光が数分から十数分の間、リビングを覆い尽くしていた。が、その光が弱くなり始めた頃、裕一は兄弟姉妹達が居たであろう場所を見る。
が、誰もいなかった。それを確認した裕一は、自分の部屋に向かい、服、ズボンなどの衣服、そして歯ブラシや歯磨き粉などの日用品。
その他、生活して行くには必要な物を、リュックや高校に持って行っていたバッグなどに隙間無く詰め込んだ。
重たいリュックやバッグなどをリビングへと運び込み、兄弟姉妹と同じ様に魔法陣が描かれているカードを手に取った裕一は唱える。
「《転移》!」
光の外側にいた時より、光の内側にいる今の方が明るくない。その事がとても気になり考えたが、どうやらその事に対する答えより意識が遠のいて行く方が早かったようだ。
徐々に意識が遠のいて行くのを感じながら裕一は、兄弟姉妹は無事かなぁと思う。
そして遂に、裕一は意識を完全に失ってしまった。
ー ー ー ー ー
「あら? また転移者が来たわ。今日はこの人で六人目ね。一体、何かあるのかしら」
そう言ったのは、銀髪ロングヘアーの女性だ。きめ細やかな白い肌に、翠色の瞳。
そして何より、白いフリフリのドレスに包まれているボンキュッボンの裸体が実に素晴らしい。
そんな事を思っているのが、運だけが取り柄の裕一だ。
彼は、この謎に白い場所に来てからずっと、彼女の足のつま先から頭の天辺まで舐め回すように見ていたのだ。
「あら、まだ目覚めないわね。この人の前に来た人達は、直ぐに目覚めてたのに──って、あなた! 起きてるじゃない! なんか妙に胸の辺りに視線を感じるなぁって思ってたら、その犯人はあなたですか!」
どうやら、薄っすら目を開けていたのがバレたようだ。薄っすら目を開けていた裕一は、少し残念そうにしながら目を開ける。
「初めましてです! 初対面なのに、あなたの体を舐め回すように見てしまい、申し訳ありません! 僕の名前は佐藤 裕一です。よろしくお願いします!」
「え、えぇ。よろしくお願いしますね。……えーと、あなたは変態なんでしょうか?」
「いいえ! 僕は裕一です!」
「誰も名前なんて聞いてません! あなたは変態なんですか? と聞いたんですよ!」
「そうなんですか? てっきり僕の名前を変態と聞き間違えたのかと思いましたよ」
「裕一と変態をどうすれば聞き間違えるんですか! 女神である私をバカにしているんですか!」
「えぇ! あなたは女神様だったんですか! 先程は、あなたの体を舐め回すように見てしまい申し訳ありませんでした! ところで、あなたのお名前は何ですか?」
「私の名前はシルヴィアよ。ところであなた、少しテンションを抑えたらどうなのかしら。少しウザいよ」
シルヴィアと名乗る女神は、裕一に対してウザい発言をした。それを、真に受けた彼は床に手を突き、膝を突き、頭を突き、謝った。
素晴らしい土下座だと思う。だけど、シルヴィアは顔を引き攣り、露骨に嫌そうな顔をした。
が、裕一は諦めない。シルヴィアに、謝ってもらうまでは。
────数分間、ぶっ通しで土下座してたら、シルヴィアにとても冷たい目で謝られた。
さてと、茶番はここまでにしておいて、本題に入りましょうか。取り敢えずは、あれだな。
兄弟姉妹が、ここに訪れたのかを聞いてみようか。
「シルヴィア様。僕の兄弟姉妹はここに訪れたのでしょうか?」
「あなたと同じ苗字の人は、ここには来てないわよ。もしかしたら、違う女神の所に行ってるかもね」
「そうですか、ありがとうございます。で、僕は何でここに居るんでしょうか?」
「私が聞きたいわよ! どうしてあなたみたいな人が、私の所に来たのかを!」
「怒ってますか? また土下座しましょうか?」
「怒ってるけど、土下座はしなくていい! だって、あなた土下座してる最中、私のパンツ見ようとしてるでしょ!」
これもバレていたとは。ちなみに、シルヴィアのパンツの色は、白だ。
皆さん、これはテストに出ますよ!
「あの、シルヴィア様。早くチートみたいなのを、選ばせてくださいな」
「知ってたのね。でも、あなたにチートを選ぶ権利はないわよ」
「それは、どうして?」
「どうしてって、あなたにその権利がないからよ。それで、あなたにあげれるユニークスキルは【異世界巡り】だけね」
「【異世界巡り】ですか。そうですか」
【異世界巡り】という如何にも戦闘向けでは無さそうな名前を聞いた裕一は、肩をガクッと落とし、俯いた。
「別に私のせいじゃないからね。私が嫌がらせで、そう言っているわけでもないからね。本当だからね」
「はい」
「ユニークスキルの発動条件は、ユニークスキル名を唱えるだけだから。それじゃあ、バイバイ、裕一君」
未だに肩を落としている裕一は、また光に包まれて、同じ様に意識が遠のき、そして消えた。
肩を落としている裕一が消えるのを見送っていたシルヴィアは、「……仕方ないわね。今日は久しぶりに楽しかったから、あなたには、私からある加護をプレゼントさせて貰うわ」
こうしてシルヴィアは、裕一の作戦にまんまと騙され、加護をプレゼントしてしまったとさ。
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