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第1話 最近の勇者ってヤツは

 私は魔王ディアボロス。

 百の魔の一族を束ね、大陸西方を支配する常闇の支配者である。

 今日は久しぶりのオフのため、私服のジャージ姿のまま夜のファミレスにいた。

 疲れた様子のサラリーマンや、ラフな格好をしているカップルなど、他にも客はいることはいるが、さほど多くなく空席が目立つ。


 私は、ドリンクバーでトニックウォーターをグラスに注ぎ、元の席へと戻った。

 席には、魔王リリスと魔王アナンタが向かい合って座っていて、私はアナンタの隣に座る。

 アナンタは、コーラ、リリスは温かい紅茶と、私同様にドリンクバーを楽しんでいる。

 さて、かれこれ、一時間ほど喋っているだろうか。


「妾、最近暇なんだけど、そういえばさ、最近、勇者来てる?」


 魔王リリスが、思いついたように私たちに聞いてくる。

 彼女は、大陸北方を支配する魔王である。

 人間を超える科学技術と軍略を持って、人間側に対抗しているという知将でもある。

 とは言っても、普段はレザーの露出の激しい衣装だが、今は、ダボダボなセーターを着ている。

 さらに普段はコンタクトなのに、大きめのダサい眼鏡をつけている辺り、私同様にリラックスモードなのであろう。


「勇者? あー、こっちは大体は四天王に倒されて、俺っちにまで来る奴は滅多にいないっていうー」


 アナンタが、そう言ってコーラをスッと飲む。

 彼は、今は見てくれがリザードマンでしかないが、普段は世界最古の邪龍にして大陸南方を支配する魔王である。

 普段の龍の姿ではでかすぎて店に入ることすらできないというか、疲れるらしいので人型の形態になっているそうである。


「私のところには、よく来るが、なんというか、あれだな」


 私は、ため息混ざりに口を開いた。

 そう、なんというか、最近の勇者だが……。


「なにさ? 」

「なになに?」

「うむ、その、軟弱だ」


 そう、うちは四天王がいない制度で、副魔王を倒してから私に挑戦となる。

 だが、私のところに来るどころか、途中の村にいるボスに大体やられるか、あきらめてしまうことが多い。


「うちの古河君知ってるよね? 中ボスなんだけど。最近子供が生まれたら張り来ちゃって、勇者が大体古河君に倒されるか、あきらめちゃうのよ」

「ああ、あの古河君か。真面目で良い子だよねぇ。内の四天王、やる気無いヤツ多いわ、実は五人いるわでまとまり無いから羨ましいっていうかな」


アナンタが、部下の不仲を嘆きながら同意してくる。

 確かに、彼等、個々は優秀なんだけど、協調性がねぇ。


「昔はさ、ほんの三百年ぐらい前はさ、倒されても、レベル上げるとか、装備整えるとか、作戦考えるとか、ちゃんと真っ向な対策してきていたじゃん? 最近の勇者が駄目だわ。ちょっと倒されただけであきらめちゃうんだもん」


 勇者とその仲間は、女神の加護を受けているので死んでも生き返る。

 だというのに、ちょっとでも敵わないと思ったらあきらめて引退だ。

全く、最近の勇者ときたらどうなっているのだろうか。

 いくらなんでも、こらえ性がなさ過ぎるのでは無いだろうか。


「あー、確かに、妾のところでも、そんな感じ。ツイッターで、ある女神が愚痴っていたけど、イージーモード無いのかってメッセ来るらしいよ。それで無いって言って、説教したらやめますだって」

「うわぁ。説教ぐらいでやめのか? 女神の説教ぐらいでやめたら、どこいっても通じないしょ。ないわー」


 アナンタが、信じられないと言った様子で相づちをうつ。


「そういえば、ツイッターのニュースでやってたけど、凄い数値があるの」


 リリスが、人差し指を立てた。

 にしても、ツイッターソースが多いですね。


「なになに?」

「最近の勇者って、三年以内に八十パーセントがやめるんだって」

「嘘!? マジで?」


 思わず大きな声になってしまった。

 八十って相当な数値だな。


「そうそう。なんでもさ、昔は勇者って血筋だったじゃん?」

「そだね」

「ジャンプでおなじみの血筋才能勝利ってやつっすね」


 アナンタは、未だにジャンプの愛読者だ。


「でもね、最近は、女神って異世界の人を転生させて強い能力与えているらしいのよ」


 そういえば、私もそんな話を噂で聞いたことあったな。

 はて、何故にそんな面倒なことをしているのだろう?


「それってもしかして、勇者の血筋絶えちゃった感じだから? やっぱり絶えた?」


 アナンタが言う。


「それは勇者の血筋は残っているけど、最近は勇者やりたがらないらしいよ? 国を救ったら救ったで、国王に暗殺とかされたり、変に神格化されて生きにくかったりとかで、流行らないらしいの。だから、今は転生させているんだって」


ほほう。

 勇者と言うのもなんか大変そうではある。

 いや、そもそも、血筋だけで勇者やるっていうのもね。

 今時、同族経営も渋い顔される時代だし。


「へー。あの噂って本当なんですね」

「うん。でもね、転生させたヤツに限って、別に元から能力あるわけじゃ無いのよ」

「え? 普通の人を転生させているの?」


 ますます分からない。

 せめて、軍人とか武術家とか転生させれば良いのに。


「そうみたい」

「それって、あれっしょ。無免許のヤツにF1マシンあげるようなもんじゃん? 使いこなせるわけ無いっしょ?」


 アナンタの例えになるほどと思う。

 経験が伴っていない能力なんて、結局そんなものだろうに。


「だよね。いや、女神も何考えているのかな? 血筋の本家勇者がやる気ないから、やる気と人格重視?」

「あの女が何考えているか、わかるやつはいないっしょ?」


 確かに、昔からちょっとは考えろよってぐらいストレートな手しか使ってこないからなぁ。

 あの女神に進歩という言葉は、果たしてあるのだろうか。

 と、ここで、一つ思い当たることがあった。


「そっか。わかった」

「え? マジで?」

「女神の考えわかるっすか?」


 リリスとアナンタが驚くが、いや、そこではない。


「そうじゃなくて、うちの古河君なんだけどね? スキル封じの能力持っているのよ」

「あー、なる」

「そういうことっすか」


 二人ともどこか納得した様子で頷く。


「能力封じられたら、最早ただの人なのか。そりゃ、詰むっすね」

「そういうこと。言い方あれだけど、なんで古河君でって思っていたんだ。でも、これでスッキリした。最近の勇者って与えられた能力に頼り切って使い物にならないんだ」

「高学歴だけどコミュ障みたいな感じか……いや、転生させるヤツってニートとか引きこもりが多いらしいから、それより酷いね」

「それって一般人以下っしょ?」


 最早意味不明すぎるな。

 女神は自棄にでもなっているのだろうか?


「いや、でも一部の女神は、間違って死なせてしまった償いとして能力持たせて転生させているらしいよ」


 リリスが言う。


「はぁ? 女神の所為で死んでいるの? 」


 それって、もしかして業務上過失致死罪ではないだろうか。

 悪ければ、ただの殺人である。


「殺人の示談で、たかが能力貰って転生って、駄目でしょ? 弁護士立てなきゃ……」

「ほんとそれ。あの女神に騙されたら駄目だって、つーか、地球の人間を間違って殺しましたって、懲戒解雇もんでしょ。あいつらの倫理ってどうなっているのかな?」


 リリスがもう信じられないと言った様子である。


「なんていーうか、もう、俺っち達が知ってる勇者じゃない時代なんすねー」


 アナンタが、どこか感慨深そうに呟き、傍らのメニュー表を手に取った。


「ところで、やっぱり、ドリンクバーのみってきつくね?」


 とアナンタがメニューを広げた。

 うーむ、確かに、幾らなんでも、毎回毎回ドリンクバーだけで何時間も居座るというのは確かに居心地が悪いものだ。

 せめてサイドメニューぐらいはやはり、注文するべきだろうか。


「別にいいでしょ? その分も見据えてのドリンクバーの二百八十円なんだし」


 だが、リリスは別に気にしない様子である。

 うーん、意外と図太いよね。


「いや、やっぱ軽いものでも一品ぐらい頼まねぇっすか? 俺が出して良いっすよ。深夜料金かかる前に頼むっす」

「私も出すよ」

「そうっすか? ポテトのグリルとかポップコーンシェリンプ? とか皆でつまめる系あたりを」

「そうだね」


 個人的には、メニューの同じページに載っている辛味チキンとかも悪くないなぁと思える。

 さらに隣のページには、ハムとワインなんかが載っている。

 ハムも良いけど、お酒飲まないのに頼むのってちょっと変かな。


「こんな時間に食べなくてもいいじゃん」


 とリリスがメニュー表を何気なく見て、ページをめくる。

確かに、時間も時間だから変に食べるのも良くないのだろうけどね。


「あ、やだ」


 と、リリスが最後のページで声を出した。


「あーやっばい」

「食べたくなったっすか?」


 アナンタが問いかけると、リリスは口元を手で隠しながらスッと頷く。

 最後のページにはデザートメニューが載っていた。


「あーもう、トリフアイスクリーム食べたくなってきた。あーでも、ミルクジェラードもいいなぁ」

「頼んだら?」


私も、ちょっと甘い物が食べたくなってくる。

 どうして、夜ほど甘い物が美味しそうに見えるのだろうか。


「いや、恥ずかしい」


 そう言ってリリスはメニュー表を裏返してしまった。


「え? なにがっすか?」


 アナンタと私は不思議に思えてリリスを見る。


「深夜にファミレスでデザート食べるって恥ずかしくない?」

「そうっすか? 」

「分からなくも無いかな……こんな時間に甘い物ってなると、だらしない人だなって見られそうで」

「そう、それ!」


 リリスが私を指さした。


「そのつもりはなくても、そう見られるのが嫌なの。分かる?」

「俺っちはイマイチわからねーすけど、とりまポテト頼むっす」

「えー分からない? えー、嘘ー」


 アナンタが呼び出しのベルを押したところで、私は立ち上がった。


「おかわりしてくる」


 そして、ドリンクバーへ。

 今度は何を脳網かな。

 それにしても、夜の人のまばらなファミレスって独特な雰囲気だ。

物寂しいような、それでいて、どこか落ち着くというか。

 どうでもいいことを駄弁るにはいいんだよねぇ。

 無駄なことかも知れないし、意味の無いことだろうけど、人生ってものには、必要なものだけが必要とも思えないし。

 さて、今度は何を飲もうかな。

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