第九話 ゼウス敗北を知る
「いやマジでどこだよ!? う~ん――あっ! あの子っ!!!」
周辺をあちらこちらへと行ったり来たりしているうちに、段々と探すことに飽きてきたゼウスは、自分のタイプの別の娘を見つけると標的を変更した。
(前みた娘とは違うけど、この際くそどうでもいい。超可愛い~。――やべえっ! オティンティンがイライラしてきた件についてwww)
ゼウスは当初の目的を諦め、性欲を発散するため目先の可愛らしい女の子を新たなターゲットに定めた。
(ん? あの娘なんか紙くばってるゾ? ま、何でもいいが)
全速力で向かうゼウス。それに気づいたメイド姿の女性は、彼に笑顔で話しかけた。
「あ、あのっ! ご主人様ぁ~メイド喫茶に是非遊びにきてくださいっ!! 一緒に萌え萌えキュ~んしませんかぁ?」
(――――は?? なにこれ馬鹿にしてんの? そんな小賢しいフリはいらないからはやくえっちすっぞ)
ゼウスは女性の仕草にイラついた。
「おいお前!! 俺様とえっちすっぞ!」
「へ? ……えっ? それってどういうことですか?!?」
彼女は突然のゼウスの言葉に首をかしげる。
「はぁ? お前そんなスケベな恰好してて何言ってんのwww? そんなんセックスに決まってんじゃぁぁあんwwwなんゾなんゾ~? 人間界の性教育どうなってんのこれ? 社会問題じゃねマジで」
「え? えっ! えぇっ~!!??? 無理です!!! まじでムリムリムリありえないんですけどっ!!! は? そんなの無理です! なんなんですかあなた!? 警察呼びますよ!?」
女の子はゼウスのあまりのキモさに恐怖していた。
「は?? よくわからんが勝手に呼んでどうぞ。そんなん関係ないもんね~。いいから早くえっちすっぞ! 脱げやぁおらぁっ!!!」
ゼウスは強引に彼女の服を脱がそうとした。
「ちょぉっと!? あっォいっ!!!」
「うひょひょひょいぃぃいいんっ!!!」
「ほんっとにっ!! やめてっ!! きもいきもいっ! こんっなところでほんと止めてくださいぃっ!!! 誰か助けてえええええ~~!!!」
「――――そこで何をしているっ!!!」
揉み合いになり、彼女の下着があらわになりかけたその時、近くを巡回していた警官2名が現場にかけつけた。
「おい、お前! その娘から離れろっ」
(ん~? 誰だこいつら? ……あぁ、ポリスとかいうイカレた無能集団かぁ~、はいはい。オッケー包茎! おつかれさんでした~)
ゼウスは警官らを一瞥するも、気にも留めず引き続き彼女の服を脱がそうとした。
「いいから早くえっちすっぞっ!!!」
「やめてっ助けてぇえっ!」
「ぉい、何をしてるんだこんな公衆の面前でっ! その娘から手を放しなさいっ!!!」
警察官は二人がかりで、ようやくゼウスを女の子から引きはがした。
「おいっ!! は? 今超いいとこだったのにぃ、何調子こいたことしてくれてんの? は?」
「こんな場所で淫らな行為は辞めなさい!」
「場所とか関係ないんだが、何言ってんの? 俺がしたかったら、野原だろうが、戦場だろうが、秋葉原だろうが関係ねえんだよww俺に従えやwww。俺がルールだぁっ!!!」
ゼウスは邪魔をされて激怒していた。
「こいつヤクでもやってんのかっ? とてもまともには見えねぇ」
「わからんっ、俺もここまでの奴は見たことがない。でもその可能性はあるな」
警官2名は危険なゼウスに飛び掛かり、押さえつけようとした。
「ちょっと署まで来てもらうっ!! ぁ、おい!! 暴れるんっじゃない!!!」
「おとなしっくっしろぉ!!!!! おっい!! 言うことっをきけっっ!!!!」
「は? 行くわけねーだろポリ公www頭湧いてんじゃねーの?」
ゼウスは調子に乗っていた。
「俺に勝てると思ってんのマジむかつくし、恐れ多いいんだけどぉ。片腹いたいわ~www――っておい、いてえよ!!! はっ!? っおいっぁ!! 乗ってくんなやぁ! 離れろよぉっ気色わりぃ! ハーデスニキかよっ!?」
ゼウスは警官らの力強さに困惑した。
「おいおまえ、暴れると罪が重くなるぞ!!!!」
大柄な方の警察官はそう言うと、体重を乗せ、必死にゼウスを抑え込もうとした。
(ふざけんじゃねえ!!! 罪が重くなるだぁ?? 重いのはてめえのクソデブなその体重だろうがあぁぁっ!! ポセイドンニキかよwww。こんなのあいつのくそうざい寝技に比べたら屁でもねえわ)
ゼウスは足をバタバタと動かし、体をひねりながら、マウントポジションを取らせないよう必死に抵抗した。
「俺は全知全能、神々の王ゼウスだぞっ!!! てめえらみてえなその辺のクソ雑魚とは格がちげええんだよぉっ!!!!!」
「――っぁ! しかたないっ! 田中そっちを抑えててくれっ!」
「あぁっ!! 任せろぉっ!!」
痩せた方の警察官は素早く手錠を取り出し、暴れるゼウスの腕にかけた。
ゼウスの両手首が、金属製の輪っかによってきつく締め上げられた。
「っいでてえてっっ!!? は?? 俺は全知全能にして神々の王ゼウス様だぞ!!! なんだこれは、神への冒涜だぞ!! えぇっい! 無礼者ォ! ――――ふん!!? ふんぐ~~んぅずうっぅうずふんぐっあぁっ!!!!!!!」
ゼウスは手錠を外そうと力を入れたが、自分の手首が痛くなるだけで、全く壊せそうになかった。
(――――え? なにこれ? 何か金属の輪っかはめられたんですけど。しかも何か、地味にくそいてえんだけどw)
「無駄な抵抗はよせ。お前はもう逃げられない」
「うるせぇバカ野郎がっ! 見てろよ、こんなんすぐにぶっこわしてやっからwwwwwまじ楽勝~♪」
ゼウスは再び身体中の力を手首のあたりに集中させ、手錠を壊そうとした。
(んぐぅう! んんう~~っ!!! はぁはぁ……はぁ、とみせかけてからの~~うぅヴぁあぉいああぐっくぁ~あがあぁいいぃっっぐぅ~!! へ? なんなんすか、これ?? 意味不明ランキング上位にくるレベルなんですけど。超ウける~。封印のアイテムかよwww。……もうだめぽ)
――――ゼウスの力は完全に失われていた。
………………
「えぇ~、こちら田中、こちら田中。錯乱した婦女暴行未遂の男の身柄を拘束。はい、今手元にキットがなくて。ええ。これから署まで連れていきますので、薬物鑑定の準備をお願いします」
大柄の警察官は、無線で警察署に報告をした。
「おいっ、ふざけんなよっ! 離せやおらぁっ!! 身柄拘束とかやめちくり~」
「いいから早く乗れ!」
「うおっ!?」
ゼウスの必死の抵抗もむなしく、彼はパトカーへ強制的に乗せられ、警察署へ連行された。
彼の無敗神話は、この時をもって、あっけなく音を立てて崩れ去ったのだった……。
………………