第六話 ゼウス降臨 in 秋葉原
――――――は?????
なんだこいつ。な~にが『全ての海洋と大地を支配する者』だよ。くっそ気持ち悪い揺らすしか能のないピザデブのくせに何格好つけてんの? まじ腹痛いわwww。
ゼウスは、あまりにも派手な兄の登場に腹を抱えて爆笑していた。
一方のポセイドンは、そんなゼウスの様子など毛ほども気にとめてはいなかった。
「久しぶりだなおい、ゼウスよ! いや、今は人間なんぞに転生したただの虫けらだったかなはっはっは」
「はぁ、相変わらず空気の読めねぇ野郎だな! こんな時に来やがって」
「おやおや、随分と機嫌が悪いようだなぁゼウスよ?」
「はっ、てめぇのその顔を見るとなぁ。虫唾が走るんだよっ!」
「どぉわぁっはっは! その姿のお前が何を言おうが滑稽でしかないなぁ?」
「んだとこのやろぉ!!!」
「ぶわっはっはぁ! はぁ~こんなに愉快なことはない! そうだっ、天界で今から酒宴でも開こうかぁw? 今日は人間に転生した記念すべき日じゃないか、わっはっは! なぁなぁ、今どんな気分だぁwwwんん? 頼むから教えてくれよゼウス君www」
(こいつ、相変わらず性格腐ってやがるな。このセリフを聞いただけでもうキチガイって誰の目から見てもはっきり分かるよね?)
ポセイドンの嫌みに慣れていたゼウスは、兄の煽りを聞き流すと冷静に言い返した。
「どんな気分かって? やだな~そんなのいちいち言わなくてもわかるだろ~w? それとも言わなきゃ分からないのぉ?? 少しはその凝り固まったカチカチの脳筋を柔らかくしてみろよぉ?」
「ぬっ――な、何だその態度は! 貴様、何が言いたい!」
「いやぁ、こんな神が全海洋と大地を支配してるって考えただけでも恐ろしすぎて腰抜かすって話よ。マジで神話に出てくる神って頭おかしいやつしかいなくねって思うよなwww特にお前!!! まともなの俺様くらいしかいなくね? 人材不足ならぬ『神材不足』過ぎて、本気で心配するわぁ。中身も外見も完璧な全知全能の俺に海洋神の位をゆずったほうがいんじゃね?」
「お、お前だとぉ!? おいっ、口の利き方に気を付けろ馬鹿者がぁっ!! 俺は全ての海洋と大地を支配する者ぞっ!!!」
ポセイドンはゼウスの言葉を聞くやいなや、大量の生唾を飛ばしながら怒りを顕わにした。
「うわっ――きたなっw。おいぃいいっ唾きたねぇえだろぉがぁ!!! こりゃ、後で三回くらいシャワー浴びねぇと臭い取れねぇじゃん! ふざんけんな!!!」
「黙れぇこの愚か者が!」
「どっちがだよwww。大体なぁ、さっきからあーだこーだうっせーぞ脳筋デブ! 早く俺を天界にもどせっ――」
「うぉおおおおおおりやぁあああああっ!!!」
ゼウスが喋ってる最中だったが、おかまいなしにポセイドンは拳で地面を勢いよく殴りつけた。
「うぉっ――あぶねぇだろくそ!」
「無礼者がぁっ!!! 兄であるこのポセイドン様に向かってその態度、いかなる罰をも覚悟しての行いかぁっ!?」
ポセイドンは額にいくつもの筋を浮き立たせながら激昂していた。
(この程度のやりとりでキレるとかどんだけ短気なんだよ。あ~、このクソデブ見てると、ハーデスニキがほんと愛おしく思えてくるぜ……ん? いや、ちょっと待て。そもそも、こうなったのも全部ハーデスニキのせいじゃね? ふざけんなよあのホモ骸骨www帰ったらまじでK☆I☆L☆L)
ゼウスはハーデスのどや顔を思い浮かべると、拳を僅かに握りしめた。
「はぁ、はぁ、ゼウスよ。お前は本当に俺を苛つかせる才能があるようだな」
「いやぁ、それはあなたのほうじゃないですかねぇ」
「ほんとうに生意気な弟だ!!!!」
「んなこたぁどうでもいいんだよ猿ぅ! つーかよ、そもそも何しにきたんだよ兄貴! わざわざこんなところにまで来て、冷やかしかぁ? あ? どんだけ暇人なんだよwww俺を早く天界に戻しやがれやぁあ!!!」
「んん~?」
ゼウスは反抗心を剥き出しにし、ポセイドンに詰め寄った。しかし、人間の姿ではイマイチ迫力に欠けていたため、そのことがポセイドンのツボに入りゼウスは嘲笑された。
「なんかハエがうるさいなぁ……あっ! そこにいたんだゼウス君www。小さいからわかんなかったわぁwwwガハハハッ! はぁ~、最高に良い気分だ! お前のその姿を見ているだけで心が穏やかになるぅ~」
「はぁ、ほんと言葉通じねぇなぁ。何でもいいから、早くもどせよっクソデブ!! そんなんだからてめぇは『友達も嫁もいねぇ』んだよ! いい加減にしねぇとケラウノス使うっぞコラ? あぁん?」
「――――ぶちっ」
ゼウスは強気でいた。もはや、ポセイドンに対する作戦など不用だと思っていた。ケラウノスを使うと言えば、誰もゼウスには逆らえないからだ。
――――だが、その考えは大きな過ちとなる。
まさかこの後、キレたポセイドンが思いもよらぬ行動に出ることをゼウスは予想できなかったのだ。
「……許さん。もう許さんぞぉおおっ!!!」
まるでこの世の終焉とでも言わんばかりに大地が震える。エネルギーがポセイドンのもとへと集まり、何かが起ころうとしていた。
(――えっ? 何が始まるんですっ!?? クソデブがめっちゃ興奮してワナワナと体を震わせてるんですけど! きんもぉ~w)
ゼウスは気づいていなかった。自分の運命が大きく変わろうとしていることに。
「なぁゼウスよお前、覚えているか?」
「あ?」
「お前、ガキの頃ワシの~楽しみにしてたオヤツ勝手に食べたよなぁ? なぁ??」
「いつの話だよっ!? あ~、そんなことあったかもしれないけど何万年も前の話だろ? つーかあれは、ハーデス兄貴もグルだったって知ってるだろ? そもそも言い出しっぺはあのクソ骸骨なんですがw。俺全然悪くないもん!! まじふざけんなよデブ!」
「ええぃっだまれだまれぇぇい! 数々の兄に対する無礼な物言い、もう我慢ならんっ! あのときのおやつの恨みもまとめて、今ここで晴らしてくれるわぁっ!!!」
(は? 何言ってんのこいつ? 理由がくだらなさすぎで笑いが止まらないんだがw。相変わらずみみっちいことピーチクパーチク言ってやがんな)
ポセイドンは目を瞑り杖を高々と掲げると、何やら怪しげな呪文を唱えはじめた。
「んんん~! ふぅ~いんふううううぅうう~~いん!!!」
集められたエネルギーが、ポセイドンの杖に一点に凝縮し始めた。やがてそれはまばゆいほどの虹色の光を放ち始め――――そして、なんとゼウス目掛けて恐ろしいほどの速さで降りかかった。
「ふぁっ!? お、おいちょっとまじでやばいってこれ、しゃれになんねえってっっ!!!」
ゼウスは必死に逃げようとするも、圧倒的な光の速さの前になすすべもなく虹の光に包まれてしまった。
「ンゴオォオォオオッッッ!!!」
………………
……何が、起きたんだ? うっ、頭が。体がダルくて、重い。違和感が半端ない、自分の体じゃないみたいだ。――――何かがおかしい。
「おい、てめぇ……何しやがったっ!?」
「はっはっは、まさかまともにこの術を食らうとはな」
「あんなん避けられっかよ! なんなんだよ一体!?」
「分からんか? お前の能力の大半を封印させてもらったのよ。これでワシに逆らうことはできまい、ざまあみろ!」
「封印、だとっ? ふざけんなカスがぁっ!!! こんなキモオタで能力もなし、冗談だろ? 死ねやクソデブがぁああっ!」
「哀れだなぁ。天空神のお前がなぁ」
ゼウスは一生懸命ポセイドンに対する侮蔑の言葉をぶつけるも、すぐに事の重大さに気づき頭を抱えた。
(――――やばいやばいやばいやばい、まじやばい! これってもしかして俺様の歴史上、最大級の危機到来ってやつ!? っていうかもはや、神話で語り継がれちゃまずいレベルの失態!??)
「ゼウスよ、お前は一生そのままで暮らすがよい。……だが俺も一応兄だ、流石に鬼ではない。せめて、貴様が行きたがっていた秋葉原とやらには送ってやろう。お前はそこでみじめに暮らせぇっ!」
ゼウスが慌てふためく中、ポセイドンは続けてワープの呪文を唱えだした。
「さらばだ愚弟よ」
「ちょっwwwwまっ!ww頭が追いつかないwww」
ポセイドンが杖を勢いよく振りかざすと、あたり一面に大きな紋章が現れた。
「おいおい、うそだろまじでwwwうわぁあああああっ!!!!!」
ゼウスは、ポセイドンに強制的にワープさせられてしまった。
………………
――――ブリブリブリブリィィィッ!!!
「うわぁあぁああっっ!」
汚ならしい音と共に、ゼウスは硬いコンクリートの地面に放り投げられた。
「――いってぇなぁ! は……?」
ゼウスは辺りを見渡した。薄汚れた灰色の床。四方を茶色の網に囲まれ、20m先には鋼鉄の扉が存在していた。そして上に目を向けると、綺麗な青空の中に薄い雲が点在している。
――――彼は、とある建物の屋上に飛ばされていた。
……あ、ありのまま今起こった事を話すぜ!と思ったけど、意味不明すぎて無理www何だよこれw漫画かよ。あのデブもワープ使えるとか聞いてないんだけど、ふざけんなよマジぶっ殺すぞwww。
やっぱ俺クラスの全知全能じゃないと、ワープでまともに着地させることすらできないんだよなぁ……はぁーあ! ほんとどいつもこいつも使えねぇなぁ?
ゼウスは打ち付けた尻を擦りながら、呆然としていた。
「イタタタ、弟とはいっても俺様は神々の王ゼウスだぞっ? もっと丁重に飛ばせよ! マジでケラノウス使っちゃおっかな~? ここで使わなかったらいつ使うの――今でしょっ!」
なぜ自分がこのような仕打ちを受けねばならないのかと、ゼウスは憤りを感じていた。
「あのさぁ~一応おれっちってホラ、宇宙最強で、まじイケメンじゃん? あのクソ馬鹿童貞兄貴たちよりも、格上な全知全能の唯一神なんだけどねぇ、どうなってんのこれ? ケツめっちゃ痛いんだけど~ヘラのケツバットかよwwwwww。ヒール使うかぁヒールヒールっと――っ!?」
ゼウスは思った以上に尻の痛みがひかないので、治癒魔法を使おうとしたが――出来なかった。
「ヒールだよヒール!!! えっ――何でっ、はっ?」
ゼウスは何回も治癒魔法を唱えたが、全く反応がない。彼の魔法は完全に封じられていた。
……ん~~あ、そっかぁ~。これってあれだよね、本気でメンドクサイ系のやつ? 特殊能力封じとかまじそれ一番意味不明なんだけど。マジどういう原理だよあのクソデブwww。解き方もわかんねぇしよぉ、どうすんだよマジで。
途方にくれるゼウス。彼の特殊スキル『エンバイロメンタル』も今は封じられており、ゼウスにかつてないほどの動揺が走る。
「封印ってこんなにやべえのかよ。マジでオワタwww。はぁ、どうすっかなぁ~……それにしてもここ、どこよ?」
ゼウスはおもむろに立ち上がると、フェンスの傍まで歩いて行った。そして、網の隙間から眼下を覗き見ると――たくさんの人々ときらびやかなオブジェクトが目にはいってきた。活気のある町並みの中に『秋葉原』という文字がいくつか見えた。
――――そう、彼はついに念願の地『秋葉原』に降り立ったのだ。
「……フッ、フフフw。なるほどね! ついに来てやったぞアキバ! なんかめっちゃ面白そうじゃねえかぁ、なぁおいっ!!!」
ポセイドンに飛ばされはしたが、目的地である秋葉原に来ることができたゼウス。彼の想像していた以上に面白そうな景色に、テンションは最高に上がっていた。
「とりあえずぅ~、あのクソデブは後で八つ裂きにするのは確定として、まずはここで遊びまくるぜ! ひゃっほう!!!」
細かいことはあまり気にしないゼウス。彼は、考えなしに勇んで屋上を後にしたのだった。
………………




