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俺ゼウスの生まれ変わりなんだけど、無双してたらボッチになった件について  作者: 紅羽 慧(お神)
すねはかじれるだけかじるのが当たり前じゃね?編
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★音速のデート


「ヴぉぉおおーーーかっけぇー!」



 ゼウスはMamazon Premium Videoでオススメに上がっていたアクション映画を視聴していた。



「このカーチェイスたまんねぇなぁ~。俺も乗りたいぉおん」



 ゼウスはモニターの前で子供のようにはしゃぎ、映画を見終えるとコーラを片手にくつろいだ。



「かー! ただのおもちゃだと思ってたが、舐めてたわ。車乗りてぇけど運転したことねぇしなぁ。そうだ!」



 ゼウスはコーラを飲み干すと、スマホを手に取りアレスに電話をかけた。



「早く出ろよ~就活生、あっ! よぉっ!!」


〈おー。今日はどした?〉


「車乗りてんだわ」



 ゼウスはアレスの気だるそうな声にはお構い無しに用件を伝える。



〈車? オヤジが車?? またもえみちゃんかなんかの影響か?〉


「ちげーよ。アクション映画観てたらカーチェイスシーンがかっこよかったの」


〈影響受けまくりだなw〉


「何でもいいからとりあえず乗ってみたいんだが、お前車持ってない?」


〈持ってないぞ。まぁ持ってたとしてもオヤジには貸さんがなー。そもそもオヤジ免許ないし運転も出来ねぇだろ?〉


「ぐぬぬ生意気な! そういうお前は運転出来んのかよ?」


〈出来るぞ〉


「ぬわぁああにぃ!??? 許せねぇ」


〈何でだよw〉


「責任取って俺様を車に乗せろ!」


〈だから持ってねぇって。あ、レンタカーならいけるか〉


「ほう、なるほどな。じゃあ、今度乗せてよ」


〈だりぃことになって来やがったな~別にいいけど。どっか遠出したいとことかあるのか?〉


「いや、特にない。ただ、ドライブというやつをしてみたいのだ」


〈りょーかい。じゃあ今度の土曜日そっちいくわー昼前くらいでいいか?〉


「あざーす。ええよん」


〈オッケー〉



………………



「よぉ、オヤジ迎えに来たぞー」


「えぇ、なんだこれ」



 約束の土曜日。ゼウスはウキウキの気分でアレスを待っていたが、彼の借りてきた軽自動車を見て肩を落とした。



「どうしたオヤジ?」


「お前何その車?」


「何って、普通の軽自動車だぞ」


「ぶわぁかもぉおおん! ここは普通に常識的に考えてフェラーリとかランボルギーニとかマセラティとかそーゆーやつ持ってこいよ!」


「無茶言えwww。それは映画の中の話だろ! 普通の一般人はこーいうのに乗るんだぞ。これだってちょっと高かったけど一番人気のやつだぞ」


「えぇ〜、俺達ギリシャ神話の神なのに普通過ぎるだろ」



 ゼウスはガッカリしたものの、ドアを開けて助手席に乗り込んだ。



「おぉ、良さげなイス!」


「まずはシートベルトして」



 アレスは自分のシートベルトを一旦外すと、ゼウスにつけかたを見せた。



「えー、いるのこれ?」


「いります。何ならしないと捕まるぞ」


「まーたポリ公かよ。分かったよ。ぐぇ、結構苦しいなこれ」


「慣れだろ。じゃあ、どこ行く?」


「うーん、とりあえず出発しんこー!」


「そうだと思ったよ。りょーかいっ」



 アレスはゼウスの返答に苦笑いすると、シフトレバーをDに切り替えアクセルを踏んだ。



「おぉ、これが車!」


「スーパーカーじゃなくても良いもんだろ?」


「まぁな!」


「とりあえず腹減ったし、ファミレスでも行くか」


「ファミレス! 行ってみたかったんだそれ!」


「ははっ」




………………



「おい、このミックスグリルのハンバーグ鬼うめぇぞ!」


「あー」



 ファミレスに着いた二人は昼食にミックスグリルとスパゲッティミートソースをそれぞれ頼んでいた。



「お前のそのゲッティーもうまそうだな~」


「これか? ちょっと食べる?」


「うん」


「よいしょ~ほれ」



 アレスはスプーンとフォークを使ってスパゲッティを丸めとると、ゼウスの皿に取り分けた。



「あざーす。おぉこれもうめぇ! はぁ、素晴らしい1日だ」


「大袈裟だなーオヤジは」


「お前っ、こんな旨いもん食っててその態度! こしゃくな野郎だ。マセガキィだな」


「マセラティみたいな言い方するなw」


「ふぅ、つーか飲み物頼もうぜ。水じゃつまんねぇ」


「俺は水でいいや。オヤジ頼めよ」


「あ、そう。ん〜そうねぇ」


 ゼウスは傍らのメニューを手に取り、飲み物の一覧を確認した。


「ま、やっぱここはあれでしょ。常識的に考えて」


「またコーラか? 飽きねぇなほんと」


「は? お前コーラ舐めてんのか??」


「いや舐めてないけどw」


「あのな、コーラはな。俺様が日本に降臨してから初めて飲んだ魂のドリンクだぞ? 苦節数百年。ヘラからあらゆる嗜好品を制限され、この世の物とは思えない地獄のメシを退け、時には泥水をすすり、時にはあまりの苦悩に枕を濡らしたこともあった。そして、やっとの思いで辿り着いたこの地で初めて口にした至高のコーラを飲まずして人の心あんのかてめぇ?」


「大げさだろw」


「アレス、いいか。人が死ぬ間際に思い浮かべるものはな、母の顔、子供の顔、そしてコーラの味なんだよ」


「どんだけコーラ好きなんだよwww。もういいから、うるせぇから早く頼めよ。すみませーん」


 アレスは近くにいた女性の店員を呼んだ。


「はーい。お客様、ご注文をお伺いいたします」


「あっ、クリームソーダ1つ」


「何でコーラじゃねぇんだよっwww!」


「きゃっ!」


 アレスは思わず机を強めに叩き、彼女を驚かせてしまった。


「あっ、すみません。申し訳ない」


「い、いえ。えっと、もう一回ご注文を聞いてもよろしいですか?」


「あ、じゃあジンジャエールで」


「何でクリームソーダじゃねぇんだよwww」


「お前うるせぇぞ! 店員さん困ってんじゃん」


「あっ、いえ大丈夫ですよ。少々お待ちください」


 店員は足早に席から離れて行った。


「っぱ、ジンジャエールでしょ」


「さっきのコーラのくだり何だったんだよwww。めちゃくちゃ熱く語ってたじゃん」


「いや、この場はジンジャエールでしょ。あえてね、あえて」


「意味深ぽく言ってるけど、どうせメニュー見て気が変わっただけだろな。はーあ、店員さんに悪いことしたなぁ」


「ほんとにな。全部クリームソーダのせいだな」


「アンタのせいだよw!」




………………




「はぁ、一気に食べちまったな。ヘラもこれくらいメシがうまけりゃいいんだけどな」



 ゼウスはおしぼりで口元を拭うと、腕を組み背もたれに寄りかかった。



「んーまぁ、母ちゃんも努力してるみたいだぞ。人には得意不得意があるからしょうがねぇよ」


「そうは言ってもだな息子よ。努力をすれば何かしら良い方向には変化しても良いはずだろ。アイツはむしろ悪い方向にしかいってないぞ。ま、基礎が出来てないのに無駄にアレンジしだすのが原因かな」


「ありがちだな。でも、継続してればいつかはきっと上手くなる日が来るんじゃないか?」


「ちっちっ、甘いな息子よ。お前はまだアイツのことを理解していないな。これではS級危険人物(ヘラ)取扱資格者の資格は取れんぞ」


「何だよその資格www初耳だわ」


「いざという時のためにお前にはヘラの取扱いに習熟してもらわねば! 良かろう、では試しにお前に一問試験問題を出してやろう」


「ほう、いいぜ」


「問題、デデン! ヘラが最新のBLをきらしている時は注意すべきである。○か×か?」


「ふん、簡単だな。答えは○だ」


「ぶっぶー! ×です」


「は? 何で?理由は??」


「ヘラには"常に"注意しなければならない」


「いや、うざwww教習所の悪問かよwwwくだらねぇな」


「負け惜しみはやめたまへ! 見苦しいよ!」


「いやもういいわ負けでwwwいらねぇわそんな資格」



 アレスは水を手に取ると、残りを全て飲み干した。



「そういやお前、いつの間に車の免許なんかとったんだよ?」


「んー、突然なんだ? あぁ、大学入った年の夏休みだったかな」


「ふーん。免許ってむずいの?」


「うーん。慣れれば簡単だけど、人によるかな」


「へー。じゃあこの後免許取りに行こうぜ!」


「いやいやそんな遊びに行くみたいなノリじゃ取れねぇよ! 最短でも2、3週間かかるぞ」


「は? あんなおもちゃ乗るのにそんな時間かけるのかよ!」


「乗るだけじゃなくて法律とかルールもたくさんあるんだぞ」


「ふーん。面倒くせぇな人間って」


「それはまぁ、分かるな」



 ゼウスは再度おしぼりで口の回りを拭くと、

「よし! また車に乗っぞ!」


と立ち上がった。



「元気だな」


「たりめーよ」


「よーし、じゃあ支払いするか。割り勘でいいよな?」


「――え、おごってよw」



 ゼウスはアレスの提案に渋い顔をすると、レシートをアレスの前に突き出した。



「は? さすがにこれくらいの金はあんだろオヤジ」


「いや、ねーよ。頼むわ今金ないのよ」


「いやあるだろwwwこっちは車のレンタル代も払ってるんだぞ! 最低でも割り勘!」


「ちぇ、卑しい野郎だぜ! なになに3569円? たっかw!!! おめぇこんなんバイト何時間分だこれぇ!??」


「いやサイドメニューばかすか頼んでたのそっちじゃん。えーっと、ざっくり1780円渡すわ」


「え、これ4円と5銭お前が得してね?」


「細けぇwww誤差だろそんなん! 女子に嫌われるタイプだな!」


「あのな、俺はゼウスだぞ? 俺様がたとえ一円でも多く損することは社会の道義に照らし合わせてみても、ありえないことなんだよね? 国民投票したら負けるよお前ー?」


「いや、めんどくさ! 大袈裟だろwwwもういいわ! 俺が払うから!」


「やったぜ」



………………



「あっ、お客様! お車の運転はされますか?」


「あ、はい」



 アレスは支払いの後店員に呼び止められた。



「お手数ですが、アルコールチェックもお願いします」


「アルコールチェック? ここでお酒飲んでないですよ」


「はいー、ただ法律が変わりまして。運転される方がお店を出るときは念のためチェックして頂いております」


「あ、はい。分かりました」



 アレスは一瞬表情を曇らせたが、大人しく言われるがままに検出機に息を吹きかけた。その直後、トイレから戻ってきたゼウスは、不思議な物を見るようにアレスに話しかけた。



「ふぃー、待たせたな!……ん? アレスお前何してんの?」


「アルコールチェック」


「ぷひゃーwww何それやる意味あんの?」


「酔ったまま運転しちゃ危険だからやってんのよー酔ってないのにな」


「いや、お前は酔ってるだろ」


「はぁ!? いやいや見てみろ0だぞ!」


「いや酔ってるだろ、自分に。酒と自分に酔ってるやつは迷惑をかけるから運転しちゃだめだぞ」


「そりゃあんただろwwwしばくぞ!」


「ワロタ」




………………



「さて、次はどこ行く?」



 ファミレス駐車場に置いた車の中で、アレスはカーナビを操作しながらゼウスに聞いた。



「どこがいいか? そんなことより! 俺も運転したい!」


「急にどうしたw。免許ないとだめだぞ」


「やだやだ!運転したぃい」


「子供か! 無免許運転は道路交通法違反だぞ!」


「知らねぇよそんな法律www。神様に道路交通法も糞もねぇだろ!」


「まぁ、一理ある」


「運転ちたぃちたいちたい!」



 ゼウスはシートベルトを外すと、車内でジタバタと暴れだした。



「はぁ、オヤジは言うこと聞かねぇからなー。じゃあこっそりほんのちょっとだけだぞ?」


「やったぜ」



 二人は車から降りると、運転席と助手席を変えた。



「いぇーい」


「ほんのちょっとだけだぞ? とりあえずずっと左のブレーキ踏んどいて。前まで距離はそこそこあるけど、右足のところのアクセルは踏むなよ。絶対だぞ。いきなり踏んだら急発進するから絶対やめろよ! ブレーキ離すと動くから、ちょっと動いたらブレーキをすぐ踏んで!」


「ラジャー! へへっ、こんなおもちゃを(ぎょ)しきれないやつが、宇宙を救えるかってんだ!」


「えーっと、まずは横のこれ。シフトレバードライブにして――」


「うるせぇっ!!!www俺様が好きに動かす!」


「ちょ――――」



 ゼウスはアレスの手を払いのけると、シフトレバーをドライブにし、全力でアクセルを踏んだ。



「はぁっ!!??オヤジてめぇっ!」


「いやっほぉおおお!」


「あっ、ブレーキブレーキ!」



 駐車場の敷地内でアクセルを全開で踏むゼウス。目の前のファミレスに向かってぐんぐん加速した。


「ちょ――おいふざけんなマジでおい!ぶれーきっ!ブレーキっぃ!」


「だぁりぃゃあぁっ!!!!!」



 ゼウスはアレスの言葉をガン無視すると、そのまま30mほど進んでファミレスの外壁に突っ込み、破壊した。



「うわ―――」

「――ぎゃぁっ!」



 衝突の瞬間エアバッグが作動し、二人は何とか怪我せずにすんでいた。


「ふざ、けんな……オヤジ大丈夫か?」


「おほぉっ! あっ!いっけね、ブレーキとアクセル踏み間違えちまったぜwwwてへ」


「くそじじいぃっ今すぐ降りろっ!!!!!」


「俺様は上級国民なのでセーフ。今のノーカンな! 次は上手くいくぞ!」


「次はねぇぞ降りろ! 早く直せ!」


「わ、分かったよ。そんな怒るなよアレス」



 ゼウスは怒りで髪が逆立つアレスにおののくと、能力で外壁と車を瞬時に直した。



「あれー、今すごい音がしましたけど大丈夫ですかー?」



 しばらくするとファミレス内にいた客と店員がかけつけた。



「あっ、大丈夫です。すみません、エンジンがなんか不調みたいで大きな異音がしたみたいで」



 アレスは苦し紛れに言い訳を並べると、ゼウスを助手席に押し込み、その場を後にした。




………………




「はぁ、マジで寿命縮んだわ」



「いやぁ、ひやひやしたねw。あの加速感! 今この瞬間を全力で生きてる感じがして、これぞ車って!感じだったよな」


「マジで勘弁してくれよオヤジぃ。人間界のルール、法令を守ってくれよ」


「神様に人間の法令は適用されないのだよwww。あー楽しかったなぁ。もっとスピード出せよ!」


「やだよ! 今日はもうこれで終わり! もう絶対ハンドルにぎらせねぇぞ!」


「あーあ、つまんねぇな! こんなちんたら走ってたら日が暮れるぞ」


「これでも60km/h出してるからそこそこ速いぞ。高速道路ならもっと出せるけど、普通の道ならせいぜいこんなもんだぞ」


「もっとスピード出せよオラ!」



 車の加速の感覚にすっかりハマったゼウスは、助手席からアレスのハンドルを操作し、足をアクセルに乗せようとした。



「ガチでやめろwww!! 法定速度を守るんだ!」


「法定速度? そんなん知らねぇよwww俺は光の速度で走る!」


「普通に無理だろwww」


「気持ちは光の速度」


「そういうのいらないんで」


「せめて音速くらいで走らないと男じゃねぇよな?」


「いや、知らないよwww」


「ちぇー、もっとスピード出せよ。はーつまらん!」



 その後、アレスはゼウスを家まで送り届け、帰っていった。




………………




~次の日の朝~



「ゼウス、ドライブ行くわよ!」


「は!? いや、こわいこわいこわい! いきなりなんだよ!つかどっから入ってきたんだ!??」



 朝食後に布団の上でソシャゲを楽しんでいたゼウスは、いきなり室内に現れたヘラに肝を冷やした。



「そんなことよりドライブデートしましょ!」


「いやいやちょっと待って! 頭が追い付いてない」


「だーかーらー、アタシとドライブデートしようって言ってんの!」


「は? やだよ。今、もえみの育成で俺は忙しいんだ」


「拒否権はないから! 表へ出ろオラ!」



 ヘラはそっぽを向いたゼウスの首を掴むと、そのまま表に引きずり出した。



………………




「おめぇ強引とかいうレベル越えてるぞこれwww! 俺知ってるぞ! これはドメスティックヴァイオレンスというやつだ!」


「ふふん~ゼウスとデーェト♪ シュキピとデエトマジあちゅい」


「こいつ、、、聞いちゃいねぇぜっ――――てっ!? これは!」



 ゼウスはアパートの前に置かれた赤色のスーパーカーに驚いた。



「おぉ、昨日の今日で、、、なにこれすごい車じゃん。一度乗ってみたかったんだよなー」


「でしょ? んふ~早く助手席乗って」


「あ、あぁ」



 ゼウスはヘラの並々ならぬ勢いと圧に押されると、半ば強制的に助手席に乗らされた。



「てか、おめぇも運転出来んのかよwww! 実は昨日アレスに――」

「ねぇ、ゼウス」



 ヘラは運転席に乗るとうつむき、ゼウスの言葉をさえぎり重々しく話し始めた。



「あ、あぁ? なんだよ?」


「あたしたち、運命共同体よね?」


「は??? なんだよいきなり」


「死ぬ時は一緒って、昔約束したよね?」


「んー。まぁ、そんな話もしたっけか? 死ぬときは一緒、そうだな」


「――――その言葉が聞きたかったのアタシ! ぐー!燃えてきちゃぁぁっ!!」


「えっ」



 ゼウスは身の危険を感じ降りようとするもドアのロックがかかり、外し方が分からないことに気がついた。



「……え? あ、えっ??」



 ゼウスは極僅かな時間の間に生命の危険を感じ、いち早くシートベルトを確実にしめる。



「ゼェウスとのドライブデェェエトォッ! ヒャッハーケヒャッ!!! この瞬間に命かけるぞ!」


「ん? えっ?? ちょっと」


「行くぞ発進!!! バヒューン!」


「うぉぉっ!??」



 へらはアクセルを全力で踏み込み、道幅の狭い市内をドリフトしながら走行しだした。



「んぎゃあぁ、あべゅぁ! ちょ、おまスピード出しすぎぃ」



 ゼウスはあまりの加速度に背もたれと窓に体を何度もぶつけながら、必至にヘラに話しかける。



「あっ、おまっ車にぶつかっぁっ!のわぁっ、おめぇヴァカがよぉっ!!! 普通の道を高速道路と勘違いしてるの?」


「普通の速度なんてつまらないじゃない!」


「ぐわぁ――あぶ、なっ! 限度って、もんがあんだろ免許返納しろボケッ!!! 法定速度を守れよ!!! 道路交通法を遵守せよ!」


「アタシ達に人間界のルールは適用されないのよ!」


「いやマジでダルいってwwwwwwこいつ無敵かよ。お前本格的にイカれちまったのか!?」


「惚れ直した???」


「ポジティブすぎワロタwwwんーだめだこりゃw」


「ちなみにアタシペーパードライバーだけどいいでしゅか?」


「良い訳ねぇだろアホンダラ! つかどこがペーパードライバーじゃw! ちょ――おい! なんかサイレンが……あっ! 警察が後ろに!」


「捕まらなきゃいいでしょ」


「犯罪者の思考だろそれwwwあっ!!! おま――前!前っ!!ぶつかるっ!!! ――――ぎゃっっ!!!!」


「ふ"んぬっっっっ!!!!」



 ヘラはスピードを緩めることなく、前を走る車と車の間を卓越したハンドル操作で駆け抜けていく。



「ちょっおま! どこでそんなスキル身に付けたんだよwwwアクション映画かよ」


「ふふん~。あのねゼウス。捕まらなければ裁かれることはないの! それにアタシ達は神! 人間ごときに裁かれる筋合いはないの!!!」


「いや、俺が言うのもあれだけど最低だなお前www」


「んふ~ありがと! このまま高速道路行くわよ!」


「ファッ!?? お前、まだ加速するつもりかよ」


「当然でしょ。光の速度に挑戦するぞオラ!!!」


「いや、やめ――んぎぃゃぁあああっっっ!!!」



 ヘラは慣れた手つきでシフトチェンジを行うと、さらにアクセルを強く踏み込んだ。あまりの速さに警察は追い付くことができず、ミラーに映るパトカーの姿はみるみる小さくなっていった。

 そして高速道路に入り、加速車線でヘラは最も強くアクセルを踏み込んだ。



「ゼウスにアタシの本気、見せてあげる」


「……はっ! おっ? あっ、あぁぁぁああああっ!!!!!」



 少しばかり意識を失っていたゼウスは、気がつくとさらに加速していることに気付き悲鳴をあげる。


「もっと速くなんないのこれ! ほんっととろいのよ!このポンコツ!」


 

 異常な速さで高速道路を駆け抜けるヘラ。走行中の他のドライバーは、後方から尋常ならざるスピードで迫るヘラの恐怖に道を譲り、高速道路に設置されたオービスはヘラの車を撮影したが、速すぎて車影がわずかに映るだけであった。



「おま、マジでいいかげんに!」


「仕方ないわね。この前改造したジェットターボ使うかぁ」


「は??? 嘘だろお前、これ以上がっ?!!」


「行くぞオラ! 音を置き去りにするぞ!!!」



 ヘラはハンドル右に設置された赤いプッシュボタンを思い切り押した。すると、車後部が変形し、ターボジェットが姿を現した。



「ファッ!?? お、おんそく?!ちょ、ちょタスケテ――」


「どんっどん加速するぞ!ぎゅいぃーーんぴゅぃーぃぃ~んっ!!!!」


「や、やめ――ぬぅわぁあああああっ!!!!!」



 ヘラがターボジェットを使用すると、あまりの速さに車体の周りでソニックブームが発生し、数秒後には空を飛んでいた。



「空を駆け抜けるぞ!ばゅぃいぃーん!ぴゃぃぃあ~~んっ!!!ひゃっほぉおぉ!!!!」


「ぅわぁぃぁあぁあややぃややぃやぃやぃやいややぃあ!!!!!!」



 ゼウスは完全に失神した。



………………




「ここは?」


「ゼウス大丈夫?」



 気がつくとゼウスは自分の部屋の布団にいた。



「一体、何が?」


「楽しかったね! あー、気持ち良かった!」


「な、何が?」


「何がって、ドライブデートしたじゃん」


「ドライブデート? ははは、あんな悪夢、現実のはずがないw」


「現実よ~ほら!」



 ヘラはスマホを取り出すと失神したゼウスとのツーショットを彼に見せた。


「あ、あ、あ、あぁああああああお、おぇぇおえぇぇっ!!!」



 記憶がフラッシュバックしたゼウスは写真を見ると嘔吐した。


 その後の彼はしばらくの間、車を見るだけで吐いてしまう体になってしまったという。




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