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俺ゼウスの生まれ変わりなんだけど、無双してたらボッチになった件について  作者: 紅羽 慧(お神)
すねはかじれるだけかじるのが当たり前じゃね?編
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★何で見る必用なんかあるんすか?後編



「それではお手を合わせて、いただきま~す!」



 いただきますという言葉。あまり意識していなかったが、アテナに言われてからは意識して言うようになった。こんな世の中だ。毎日無事に生きているというそのことだけでも感謝せねばということらしい。よくできた娘だと思う。良い娘に育ったものだ。そう思いながら俺は、遅い朝飯のドカモリ醤油ラーメンを口に運ぶ。



「昨日の味噌ラーメンも旨かったけど、醤油もいけるなぁこれ! ん~、、、ん?」



――――なんだ? なんだこの違和感。誰かに監視されている気がする。まさか、ヘラかっ!?



 俺は感づかれないように首のストレッチをしながら、部屋の中を見渡した。だが、それっぽいものは見当たらない。気のせいだろうか。いや、俺様の勘が外れたことはほぼない。何か嫌な予感がする。

 ふむ、ここで大っぴらに探すのはそれこそ恐ろしいことになりかねん。さて、どうしたものか。かくなる上は、いざという時のために"あれ"を用意しておかねばならんかもな。



「あっ、そうだ!」



 俺は自分でも驚くくらいわざとらしく言うと、食いかけのラーメンを横に起きつつアレスに電話した。



「出るかな? あっ、お-い。今どこだ?」


〈オヤジ~今バイト中だぞ!〉


「あーすまんすまん、ちょうど良かった。今からそっち行っていいか? もえみちゃんグッズで欲しいもんがあるんだ」


〈ふーん。別に構わんぞ〉


「オッケー。じゃ、あとで」


〈おう〉



 俺は電話を切ると、急いでラーメンを食べきり着替えて家を出た。




………………




「おーオヤジ。どうした、そんな汗だくで?」



 ゼウスはオラの穴店内に入ると、突然アレスに泣きついた。



「アレエモぉぉおん~~~道具(ビーエル)出してよ~」


「はっ!? 急にどうしたwww。つか、ドラ○もんにお願いするのび太の絡みやめいw!」


「だって~ヘラがこの前、"秒速で5億稼いだ"って自慢してきたんだもぉん~」


「与○翼かよwww。あの人何やってんだw」


「なんか"あんたの生涯収入アタシの時給くらいだけど?"って言われたぬわぁぁぁん」


「最低な台詞だなw」


「ま、茶番はこれくらいで。結論から言うと、、、そろそろやばそうなんだ」


「ん? やばいって何が??」


「俺の、全知全能である俺様の直感が警告している。"逃げろ"とな」


「逃げろって、何からだよ?」


「馬鹿野郎お前! 俺のこの顔を見て分からないか。俺が恐れるのはこの世で一つしかねぇだろ!」



 ゼウスの真剣な表情と口調を目の当たりにしたアレスは、一瞬で状況を理解した。



「まさかっ。いやそんなはずは、、、もしや名前を呼んではいけない"あの方"が?」


「そのまさかだ!」


「なんてこったもうおしまいだぁ! この世の終わりだぁぁぁあぁバイトなんかしてる場合じゃねぇっ!!!」


「落ち着け! お前が取り乱してどうする!?」


「でも、なんで。なんでオヤジはそんな落ち着いていられるんだ!?」


「俺はもう逃げない。戦士として誇りをもって戦う。そう、決めたんだ」


「オヤジっ、まさか死ぬ気かっ?!」


「ふっ、戦って死ぬのならそれも本望だ」



 ゼウスは、店内に置かれていた魔法少女もえみちゃんのぬいぐるみを見つけると、頭を優しくなでながら表情を曇らせた。



「でも、なんでだ? 特に浮気とかしてないだろう?」


「それなんだよなぁー。こっち来てから特になーんも悪いことしてないんだけどね。僕悪くないもん!」


「いや、それは嘘だろw」


「いやいやほんとだって!」


「まじかよw。でも、確かに直近は特にしてないんだろ?」


「うーん、そうなんよねぇ。割とガチで思い当たる節がねぇのよ」


「親父の気のせいじゃねぇのか?」


「そう思いたいんだが、どうも胸のつっかえが取れなくてな。一応、いざって時のための保険は持っておきたい」


「なるほど、な。まぁ、ないことはないけどな。新刊だろ?」


「さすがだな、話が早くて助かる」


「まぁね。だけど、新刊作戦は厳しいぞ。もう既に渡してる」


「は? ネットで見たけど、昨日発売とかだろ!届けんの早くね!?」


「新刊は遅くても発売日当日の23:59までに届けないと禁断症状で銀河系消滅の危機だぞ」


「核兵器よりも遥かに恐ろしいやつで草」



 ゼウスはさも当たり前のように真顔で言う息子の口調に肝を冷やすと、しばらく考えた後に


「それでもいい、ないよりはマシだ。お前選りすぐりのやつを頼む」


と、言った。



「分かった。親父がそこまで言うなら」


「あ、金はつけで」


「ふざけんなこらwww」


「冗談だよw」


「ちょっと待ってくれ。少し時間が欲しい」


「分かった。お前しかいないんだ、頼む」


「おう」




………………




「ふぅ、これで安心だな」



 帰り道、俺は目的の物を無事に入手した安心感からか、少し浮かれていた。なんなら、あの誰かに見られているような違和感も俺の勘違いかもしれない。そうポジティブに考えるようになっていた。 

――――あれを見る、その時までは。



「なん、だ、と……?」



 えっ――――ファッっ!? は? マジっか、、、なんかヘラが、ヘラが俺の部屋の前で、う、腕組んで仁王立ちしてるんだけどwwwww怖すぎワロタwww。これ、クソ漏らしても許されるレベルのホラーだろ。どんなホラーも軽く越えてくんのやめろ!

 えっ、ちょっと待って! これゲームでいうところの強制負けイベントで確実に死ぬやつじゃないですかー? 人生はセーブもロードもコンテニューも出来ないんだぞ! 無理ゲーにもほどがあんだろ。あ、詰んだわーこれ。完全に詰みましたわ。え、これ部屋帰れなくない?

 俺はタオルでひとまず頭を覆い、建物の陰に隠れてヘラの様子をうかがった。



「くっそ怒っててワロタwww。これ今行ったら確実に死ぬわ」



 どうする? この状況、戦場と変わらない緊張感。俺に何ができるというんだ。やっぱり俺の勘は間違っていなかったが、どうすれば。くそっ、俺が一体何をしたっていうんだ。



「アレスに電話は、、、あいつ今バイトだしな。それに」



 俺は息子がくれたBLを見つめ、あいつの思いを感じていた。



「アレスはよくやってくれた。そうだ! こうなったら警察呼ぶしかねぇw! 普段は糞の役にも立たねぇけど、もう、国家権力に頼るしかねぇwww! それにアテナならきっと、えーっと」



 俺はアテナに電話をかけようとスマホを取り出し――絶望した。スマホの電池は切れていたのだ。こんな時に。



「あ、オワタwww」



 覚悟を決めるしかないのか。今、この場で。

 俺は選択を迫られていた。あの時、そう。英雄になることを義務づけられたあの日のように。



「やる、か」




………………




 俺は足音を限りなく消し、ヘラが向く方向とは反対のベランダ側からなんとか気づかれずにアパートの一階にたどり着いた。そして階段から、2階の通路に1冊のBLを放り投げた。



「ん? 何?? あれは、、、はっ!? お神先生の新刊! "最終鬼畜メガネバースト”最新刊じゃないの!??」



――――気づいたか。そうだ。そうやって夢中になっていろ。



「うひひ、これほんと最高だったのよねぇ~。ハーデスのやつもう読んだかなぁ? でゅふふへ」



 ヘラはBLに夢中だった。あいつの集中力はすごい。何かに集中しているときは、他のものが全く目に入らない。そういうやつだ。一か八か、この一瞬に全てをかける!

 俺はタイミングを見計らい、BLに夢中になっているヘラの横を通り過ぎようとした。



「どこに行くの?」


「――ぐぁっ! ば、馬鹿な!」



 ゼウスは瞬時に前に現れたヘラに驚く間もなく、胸ぐらを掴まれていた。



「それは、お前の好きなBLの新刊のはず。アレスが間違えるわけがない」


「ふーん、なるほどね。たしかに、これを初見で渡されていたらアタシも危なかったわ。でも、既に"15周"もしたなら、話は別よねぇ?」


「お前どんだけはまってんだよwww昨日発売のやつだろ!」


「当たり前でしょ」



 ヘラはゼウスを冷ややかに見ると、さも当然のように呟いた。



「ふっ、お前らしいな。で、今日は如何用でお越しになられたのですか?」


「ゼウスに会いにきた。後、チューしに来たん」


「あー左様で」


「あと、ゼウスをシバきに」


「いや、何でだよwww」


「何でだぁ!??? とぼけないでよふふふ」


「えっ?」


「てんめぇ~また新しい女に浮気しやがったなぁ!」


「いや、な、何のことかな?」


「とぼけんじゃないわよおお!!!」


「おやおやおや、そんなに怒ったら血圧上がるよおばさんw?」


「ぶち殺す!」


「待て待て待てwww。まずは話をしよう、な? 冷静に」



 ゼウスは両手を挙げると、ヘラを必死になだめた。



「アタシは冷静よ。ただアンタの浮気が許せないだけっ!」


「いやいやいや俺、ぜんっぜんっっ浮気しないよwww。マジ、超一途だからwwwwww俺ほど一途なやついないレベルの一途オブザワールドなんだけど!」


「なんか嘘臭ぇなあ~? ほんとにアタシのこと愛してんの?」


「そりゃあもちろん」


「じゃあ、キスして」


「え、やだwwwww」


「なんでよ!!!」


「あのなぁ、ヘラよ。よいか。俺達ももういい年なんだからよ。そんなほいほい〜っとキスするもんでもねぇぞ?」


「えー、アタシはいつでもどこでもキスしたいおぉん」


「えぇ、、、。い、いいか。愛があればな、他に何もいらない。大丈夫。俺達は愛しあっているのだから!」


「じゃあ"もえみちゃん"とか言うふざけた名前のあばずれ女は一体なんなのよ!」


「――――は??? あばずれ? は?????? お前一線越えたなぁw! ん?? それは言ってはいけない台詞だねぇいっ! 名誉毀損で訴えてやるっっっ!!! 法廷で会おう! 良い弁護士を用意しておくんだ――がぁっ!!!」



 ヘラはゼウスの怒りの言葉を待たずにビンタをした。



「いっでぇ~。ふっ、そうやって暴力(ビンタ)に頼るしか解決策がないのかね? 君には君の正義があるように、僕にも僕の正義がある」


「じゃあ、浮気は?」


「せ、、、せいぎ?」


「悪だろ? は???? 何言ってんのぶっとばすわよ????? どこの世界に浮気が正当化される場所があんのよ! そんな場所がもしあるならアタシがこの手で跡形もなく破壊してやるわ!」


「すみませんでしたーwww私が悪でした」


「いいから諦めなさいよ」


「諦めろって、何をだよ?」



 ヘラはゼウスの胸ぐらを掴む力を強めると、冷たく言い放った。



「もえみのことは諦めなさい」


「無理に決まってんだろ、そんなの。あいつは俺のここに確かにいる!」



 ゼウスは右手の拳で左の胸を2回叩くと、どや顔でピースをした。



「はぁ? そんなのいないわよ。もえみは、そう! 死んだと思いなさい!」


「ふざけんなよ。あいつはな、もえみはな、永遠に不滅! たとえ死のうが、死してもなお永遠に語り継がれる! そういう存在なのだーふははは!」


「へー。まるで宗教ね。いいわ、そこまで言うならアタシも考えがある。ゼウスがもえみを諦めるまで、ビンタをやめないから」


「えっ?」


「どこまでもつかしら?」


「お、脅しにはのら――がっ!」



 ヘラは鋭い眼光を携えながら、手の甲でゼウスの頬をはたいた。



「う、がっ。たとえこの身が朽ち果てようとも、、、」


「く――いい加減にしなちゃい!」


「ぐっがぁあぁっ!!!ぬわぁっ――ぐあっ!!!!」




………………




「はぁっはぁっ」


「う、、、」


「ゼウス、あんたなぜそこまで」


「うっ、はぁ、はぁ。こ、これだけは言えるんす」


「は? 何よ」


「僕には。それでも僕には、もえみしかいないんすょ」


「――――はぁぁぁああぁぁあんっ!?? ふざっけんっっ”じゃねぇよぉ"らぁあっ!!!!!!!」


「ぬぅわああぁぁぁぁぁっっ!!!!」



 ゼウスの涙ながらの返答にキレたヘラ。少し強めに力を込めたヘラの高速ビンタがゼウスの紅く腫れた頬をさらに激しく打ち抜いた。その瞬間、ゼウスの懐から一冊の本が落ちた。



「はぁ、はぁ。ん? 何よこれ?」



 ヘラは虫の息のゼウスを離すと、落ちた本を拾い中を見た。



「こ、これはまさかっ!???!???」


「うっ、、、」



 ゼウスは朦朧とし薄れゆく意識の中で、先ほどのアレスの言葉を思い出していた。




************




「オヤジにこれを」



 アレスは店の奥から戻ってくると、ゼウスに本を2冊渡した。



「おい、内容は全く知らんが2冊で足りるのか?」


「あのお方は確かに数も求められる。だが、緊急時は量よりも質が鍵となる。それに、数打てば当たるとBLを粗雑に扱えば、かえって怒りを買いかねない」


「お前、そこまで計算して?」


「へっ、俺だって平凡に生きてきたわけじゃないんだぜ?」


「どうやら俺はお前を少々誤解していたようだ。しばらく見ないうちに大きく成長したようだな、アレス」


「こんなしょーもないことでそんな台詞言われたくなかったけどなwww」


「ばかもん! しょーもないとはなんだお前、俺の生死がかかってんだぞぉっ!??!?」


「迫真すぎるwww。とりあえずこれで九死に一生は得られると、思う」


「これはどうすればいいんだ?」


「この新刊"最終鬼畜メガネバースト"は昨日届けたばっかだ。まだ効果はあるだろう」


「じゃあこれだけでも?」


「大丈夫だ、問題ない」


「フラグじゃねぇよなw? で、もう一つのは?」


「それはまだ献上していない幻のBLだ」


「なん、だと? これが?」



 ゼウスはもう一冊のBLをまじまじと見つめると、手を小刻みに震わせた。



「それはちょこみる先生活動初期の頃の秘蔵中の秘蔵の1冊"ゼウス君シリーズPure オリュンポスの情事"だ。さらに、サインつきでかなりのレアだ。もちろんあの方も喉から手が出るほど欲しがり血眼で探しているが、そもそも市場にまったく出てこない。仮に出てくれば100億の値がついても即決で買うだろう、あの方ならな」


「どーでもいいけど俺の名前勝手にBLに使われてて吹いたwww。お前、、、なぜこれを???」


「ふっ。死にたくなかったんだー、俺。だから、いざという時のために探していたらこの店に偶然それがあって。店長から譲ってもらったんだ。俺がこの店で働いている理由だ」


「お前、、、そんな深い事情があったとは」


「だが、今はオヤジが窮地に陥っているようだ。それならこのBL、惜しくはない」


「アレスお前、、、ぬぉおおおおおおおんっ!!!!!」


「気持ち悪い声で飛びつくなwww」



 ゼウスはアレスに泣きながらキスをしようと飛びつくも、即座に拒絶された。



「大切に使ってくれよ」


「そんな話を聞いちゃあ簡単に使えんな。間違いなく最後の切り札として取っておくぜ」


「だな」


「うむ、ありがとうなアレス」


「おう。なぁ、オヤジ?」


「あ?」


「死ぬなよ」



 ゼウスは右手を目の前に挙げてグッと握りしめると、自信満々の笑顔で


「あぁ、サンキューな。このBLがあれば俺は最強なんだぜ!」


と返した。




************




「ぎぃゃああああああああああああぁぁぁっうそうそっ!? は? えっやだマヂムリ地球破壊しそう。キレちゃう。えっ、いやんおげぇえあぁぁぁぁあサインつきぃぃぃぃいっっっ!!?!?!」


「あっ、っおあっ」



 ヘラは傍らでうずくまるゼウスをよそに、幻のBLを手に取り発狂する。



「こ、こうしちゃいられない! 早くおうちに帰って飾らなきゃ、いやその前に読まないと。あっ、掃除と消毒もしてあぁ、やること多過ぎ!」


「あっ、、、あっぉっ」



 ゼウスは力を振り絞り幻のBLを取り返そうと手を挙げるも、再び倒れた。


「だめよ! もうこれはアタシのもんだから! 今日のところはこのBLに免じて許してあげる!」


「それは、た、大切な」


「しゃらくせぇよぉぉぉこれはもうアタシのもんだ!!!!!」


「あ、はい」



 ゼウスは力なくそう答えるしかなかった。



「あ、ゼウス。言っとくけど、もし次浮気したら、たとえ便所に隠れていても見つけ出して息の根を止めてやるからね?」


「あ、はい」


「じゃあね! チュッ」



 ヘラは彼の髪の毛を掴み持ち上げると頬にキスをし、上機嫌で帰った。ゼウスはそんなヘラの後ろ姿をただ見つめることしかできず、悔しさのあまり大粒の涙を流した。



「ぐっ、うっ。アレス、、、すまねぇ」



………………




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