第四十五話 目くそ鼻くそを笑う⑤
「はぁはぁ」
「はぁはぁはぁ、も、もうやめません?」
「なーに言うとんねん! 金たまの恨みはまだまだやでぇ! この拳にワイのありったけを込める! ぶれいこう……ぱんち!」
「あぶねっ!」
「あっ!」
ヘパイストスはゼウス目掛けて渾身のパンチを繰り出すも、スレスレで避けられてしまう。それだけでなく、勢い余った拳は無情にも壁に直径15cmほどの穴を開けてしまった。
「やってしもたぁ!!!!!」
「あぁぁっ! いーけないんだーいけないんだーwwwせーんせーにいっちゃおーwww」
「小学生かw」
「あーあー、随分と大きな穴を開けちまいやがって。お前すぐ調子に乗るからなー」
「お前が言うなwww」
「てか、この程度のパンチで穴が開くとか、部屋の壁うっすいなーwww欠陥住宅だろここ! レオパ◯ス21かよwwwwww」
ゼウスは破壊された壁をまじまじと見つめ、頬を緩めた。
「ま、いいよ。今日は無礼講だしな」
「さすがゼウス! 心が広い!」
「まぁね! それにしても壁の中ってこんなんなってんだな」
「はえー。ちょっとした空洞があるんやなぁ。社会科見学やんね」
「何か興奮してきたな? よっと!」
ゼウスは首と肩を数回回すと、ヘパイストスが開けた穴のすぐ横を殴り、20cmほどの穴を開けた。
「はい、俺のほうが開けた穴でかいー」
「ちょwwwゼウスさんあんた嘘やろwww。そんなデカイ穴開けたら、くそでかいポスター貼らな隠されへんて!」
「そんなことはどうでもいいんだよ! 俺様は全知全能の神ゼウスだぞ! 俺の好きなようにする!」
「無敵の人かよwww。えっ、じゃあワイもー失礼して、どーん!」
ヘパイストスはわずかにマナを拳に込めると、ゼウスの開けた穴の横にさらに大きな穴を開けた。
「は??? お前今能力使った!? ずっるっ!!! ルール無視するハゲとか死刑不可避www」
「なーにを今さらwww。……あれ? あっ、何かもう一枚壁ぶち抜いたっ、ぽい?」
「へ?」
「ま、ここゼウスの部屋やしええか!」
「あ? 隣の部屋お前のだろ??」
「はははんなわけ……あっ! 今日から借りるんやった、おい! えっ、、、ちょwwwwwwwwwマジやばくね???? 見てくるわ!」
ヘパイストスは慌てて隣の部屋に向かうと、穴の前で陽気にはしゃいだ。
「おー穴が開いとるー。開通しとるでーwww」
「おっ、こっちからもお前が見えるぞ」
「まじかwww。やーやーこんちわ」
「おっ、醜い豚面が見えた! いや、お前って遠目から見ると実はイケメン?」
「あっ、まじ?」
「いやっ、やっぱりブスだったわwww」
「ふざけんなwww」
「それよりヘパイストスよ。この穴通せばさ、糸電話とかできるよな!」
「あー、確かにな。なんか、秘密基地みたいで昔を思い出すな!」
「あーでも、このサイズだと腕くらいしかはいんねーな。もっと開通させようずwwwおらっ!」
ゼウスは穴に腕を突っ込むと、外周の壁を破壊し辛うじて体が通過できる大きさまで広げた。
「やばwwwゼウスお前やりすぎやろwww」
「固いこというなってwww。おし、これで行き来出来るぞ! 試しに頭出してみ」
「じゃあ、失敬して」
ヘパイストスはためらいもなく頭を穴に突っ込み、ゼウスの部屋から顔を出した。
「うわ! ハゲが穴から出てきたwww。んー、つかお前よく見たら、また一段とハゲが進行してんじゃーんwww。シャンプーハットみたいになっててくっそワロタwww。ハゲの世界選手権があったら入賞してるレベルのハゲだわ」
「んー、煽りおるw。苦労しとんねんこっちは! それにそこまでハゲは進行しとらんぞ」
「は? 嘘つくなよ」
「いや、ほんまやて。光の速度とワイの頭は普遍なんや」
「ハゲ頭普遍の原理じゃん」
「物理学にありそうな名前やめwww」
「ハゲ物理学の権威www」
「違うわい!」
「違うんかいオラ!」
「イデッ!」
ゼウスが唐突にヘパイストスの頭頂部を叩くと、彼は思わず頭を引っ込めた。
「われ、なに人の頭叩いとんじゃぼけぇ!」
「いや、なんかもぐら叩きゲームみたいでついw」
「今のでハゲがまた進行するやん」
「ハゲ頭普遍の原理どこいったんだよwww」
「ぶふぉwwwwww。あっ、そう言えばな! いやぁ最近新しいカツラ買ーてんやぁ!」
「知らねぇよwwwwwwアートネイチャーかよwwwwww」
「いや、それがめっちゃクオリティ高いんやでぇ! 会社の利益をほぼ使って買ったんや」
「お前、二重の意味で頭がやべえやつじゃん」
「いやめっちゃええねんて! 今日持ってくりゃあ良かったなぁ~。まぁ、そんなにハゲてないから、ぶっちゃけカツラなんか必要ないんやけどな!」
「なんかやけに強気じゃあん。気になるからもう一回頭出してみ。ハゲ具合確認すっから」
「やだよ、また殴んやろ」
「殴んねぇよwww。お前の正確なハゲ具合を見ないと分かんねぇだろ」
「見なくても分かるやろ。そこまでハゲとらんわ」
「強がるなよーwww」
「いや、うん。まぁ確かに実際見なきゃ分からんけどな! 今みたいに頭を出してない時は、本当にハゲているのかハゲていないのかは分からんし」
「いやハゲだろ言い訳するな。見なくても分かるわ」
「いやいや、事象は観測されて初めて確認されるんやで? 観測されるまではハゲてるワイも、ふさふさなワイも存在しているかもしれんぞ」
「シュレーディンガーのハゲじゃん」
「だからハゲの物理学やめwww」
「そこまで言うならもう一回見してみろよ!!!」
「はー、しゃーないなー。ニョキッ☆」
ゼウスは突き出されたヘパイストスの頭を数秒確認すると
「やっぱハゲてんじゃねぇかwww」
と、頭頂部を思い切り叩いた。
「いでぇっw!!! お前強く叩きすぎやろ!」
「いやぁ、あまりに綺麗な頭頂部だからしばきたくなるんよね」
「ふざけんなよ! 次お前が頭出せやひげ!」
「えっ、もう飽きたわこのゲーム。やーめたやめた! くだらないことやってる場合じゃなくね?」
「お前……ほんま自由やな」
「あーあ! すっかり酔いが覚めちまったわ。早くこの壁の穴直せよ。ちんたらしてると管理人くるかもしれんぞ」
「あっ! ほんまそれ、やばいで」
「冷静に考えて、賃貸初日で壁に特大の穴開けるとかイカれすぎててワロタwww」
「それなwww見つかったらやばいって」
「あっ! あといい加減俺のメガネも直せよバカ!」
「しゃーないなぁ」
…………




