★朝ご飯
――――某日。
「早く出ろよ~何やってんだあいつ? おっ、よおおおアレス!!!」
<ん~どうしたオヤジ? こんな休日の朝早くから>
ゼウスは朝5時にアレスに電話をかけていた。
「いやさ~昨日バイト代が入ったからさ!」
<えっ? あー、そういやバイト代入ってたな>
「だろぉ? パーっとやろうと思ってよ! こっち来いよ!」
<えらい元気だな。うーん、じゃあどっかでそっち行くわ>
「はぁ? 今から来いよ! すぐ来い!」
<はっ!? 今!?? えぇ……こんな朝早くからめんどくせぇなぁ>
「なあに言ってんだぁ~そんなことじゃ就活に勝てねぇぞ!」
<関係ねぇwww>
「あっ、じゃあ朝ご飯一緒に食べよーぜ!」
<朝ごはん? ……はぁ、分かったよ。何か買っていくもんとかあるか?>
「ないない! 全部揃ってっから問題ないぞ」
<えらい準備いいな。じゃあ、今から支度するからちょっと待っててくれ>
「オッケー! 早く来いよ」
<うぃ~一旦切るぞ~>
………………
(あのオヤジが朝ご飯一緒に食おうなんてな。どういう風の吹き回しだ?)
アレスは父親の意外な計らいに疑問を持ちつつも、ゼウスの家へ向かっていた。
(バイトを紹介してあげたお礼とかかな? だったら気にしなくていいのに――おっ、見えてきた……ん!? なんか煙臭くね? 焦げた肉の臭いか?)
アレスは肉の焦げる臭いを不審に感じ、ゼウスの部屋を見た。すると部屋からうっすらと白い煙が出るのを見て慌てる。
「お――おいっ! あれっ煙がっ、オヤジ慣れねえことして火事になってんぞあれっ!!!??」
アレスは肝を冷やし、急いでアパートの階段を駆け上った。
………………
「お――――おいっ! オヤジ大丈夫か!? 生きてるかぁっっ!!!」
「おーよく来たなぁ! アレス早く上がれよ!」
「――――っぇぇっえっ何してんのっ!!?」
「へっへっへぇえええぇぇっっ!!!!やぁああきにくだぁあああ!!!」」
アレスが玄関の扉を開けると白い煙があふれ出し、奥を覗くと巨大な七輪で大量に肉を焼くゼウスの姿がそこにはあった。アレスは目の前の光景に呆然と立ち尽くす。
「なんだっ、これっ……??」
「焼き肉だよ?」
「見れば分かるよwwwww。なに、さも当然のごとくやってんだよ! 普通室内でそんなくそでけぇ七輪使わねぇだろ!」
「朝っぱらからピーピーうるせぇなぁ~大丈夫だよ」
「いやいやいや煙の量が尋常じゃねぇだろwww練炭自殺かよwww。一酸化炭素中毒になるわ!ってか火事になったらやばいだろ」
「焼き肉焼いても家焼くなって言葉あんだろ? よゆーだよよゆーwww」
「いや、そもそもこんな朝早くから焼き肉とかキチガイすぎワロッツァwwwwww。つか、火力も煙も半端ねぇwww生半可なやつじゃなくて本格的な焼き肉してて草。蛮族の儀式かよwww」
「は? そんなん知らねぇし! 食いたい時に好きなものを食うんだよ!」
「朝ご飯て呼ばれて来たのに、、、日本の朝の食卓の光景じゃねぇ。やることがぶっ飛びすぎだろ……」
「相変わらず柔軟な発想の出来ねぇ野郎だw。ほら、そうこう言ってるうちにそろそろカルビが焼けるぞ。朝カルビいっとくか?」
ゼウスは油の滴る牛カルビをトングでつかみ、アレスに差し出した。
「朝カルビってなんだよwww聞いたことねぇわww。うわ、煙が服に、肉の匂いもこびりつく」
「うるせぇなぁ! ほれ口開けろ」
「えっ!? あ、あぁ~ん――――うわぁっちゃっちゃっ! はふはふんー……」
「どうだ? うんめぇだろガハハ!」
「んぅー……」
アレスは口の中をもちゃもちゃさせながら
(あ、朝から、重てぇ……)
と、口内の牛カルビを反芻した。
「おいおいおいwwwそんなだらしなくてどうする! もっと肉を食え肉を! そんなんだからお前は就活上手くいかねぇんだよ」
「マジで関係ねぇwww意味不明すぎる」
「我が家は黄金の味かけて食えよ~旨すぎて飛ぶぞw。ほれ、ビールもあるぞ! あっ、レモンチューハイが欲しそうな顔してんなお前www!」
ゼウスは焼き肉のタレをアレスに渡し、さらにバケツ一杯の氷水からレモンチューハイを取り出した。
「いらねぇよwwwwwどんな顔だよwww。胃袋バグってんだろwww」
「な~に言ってんだよ! 給料入ったかんなぁ~経済を回してやってんだよ」
「自由すぎワロタwww非常識にもほどがある」
「いいかアレス。お前の非常識は俺の常識。俺の常識は宇宙の常識。俺=常識なの、分かる?」
「我が道を行きすぎだろwww。もういろいろとお腹いっぱいです」
「常識に囚われない柔軟な発想が求められてるというのに、お前は」
「柔軟すぎだろwww。つか、肉ばっかりだけど野菜はないのか?」
「は? そんなもんいらねぇよwww食いたきゃその辺に生えてる草でも口にいれとけよwww」
「言ってることめちゃくちゃ過ぎるだろwww」
「いーから食えよ! お前のために大量に肉を焼いたんだぞ!」
「えぇ……」
アレスは自分のために焼かれた山盛りの肉を見ると、気持ち悪くなった。だが、せっかく父が焼いてくれたと、その気持ちを無下にできず一枚ずつ食べていく。
(うめぇけど、、、うめぇけども。朝からこんな重たいもの食うもんじゃねぇな)
「へへっ、うまいだろう? どれ、俺もこの特大ソーセージを……うっ! た――タイム」
「おい、オヤジ大丈夫か!?」
「うぅ……食いすぎたー気持ち悪ぃ」
「アホかよwwwwwww」
「やっぱり朝から焼き肉とかばかすか食うもんじゃねえなこれwww企画したやつきちがいだろwww」
「それはあんただろwwwwww」
「うぅ、、ちょっと横になるわ」
「あ――おい!」
アレスは倒れるように横になるゼウスを見ると、急いで七輪の火を止め、ゼウスの背中をさすってやった。
「おいおい~勘弁してくれよ大丈夫かオヤジ?」
「あぁ、まぁゆっくりしていけよアレス」
「いや、無理があるだろwwwこの状況でそれはwww」
給料をもらいはっちゃげたかったゼウスだが、暴飲暴食によりしばらくの間動けなかった。
(なんて休日だ)
アレスはその日、ゼウスが回復するまで付き添い続けるハメになった。
………………




