★チョイッターの悪夢
――――9月某日。
「何で俺様のフォロワーがお前たち2人だけなんだ!!!!」
ゼウスはアテナ、アレスとスマホでグループ通話中に叫ぶ。
<オヤジ、、、1000フォローもしてんのに俺らしかフォロワーいないってやばくね?>
<お父さんのフォロー欄見ると、有名人ばっかりだからだと思うけど>
ゼウスは数日前に、流行りのSNS"Chowitter"を彼らから教えてもらい、毎日欠かさずチョイートをしていた。しかし、2人以外の誰からも反応を貰えず不満を口にした。
「はぁ? 俺以上に有名なやつなんてこの世にいねぇだろwwwこの世の全ての者は俺様をフォローしろよw!」
<確かに有名だけど、そこまで言うほどでもないでしょ>
アテナはやれやれといった感じで、首を振る。
<あ、でも昨日オヤジのアカウント見たらフォロワー5人くらいいたと思うんだが?>
「あー、あれはエロの詐欺アカウントだったからブロックした」
<……なるほどな>
アレスは鼻の下を人差し指でこすると、気まずそうな表情を浮かべた。
「大体なぁ! 子供のお前らよりも親の俺様のフォロワーが少ないのが納得いかん! つーか、お前らフォロワー多くねw? 俺に少し分けろよw」
<おいオヤジ、この向こうにいるのは機械じゃなくて人だぞ。フォローしてくれる一人一人は生身の人間なんだ。フォロワーを分けるなんて、そんな物みたいに言うなよ!>
「極悪人の台詞じゃないなそれw」
<もうほんとやめて極悪人……>
アレスは画面の向こうで膝を折ると、ゼウスに向かって祈りを捧げた。
<お父さんのチョイート見てると、エッチなリチョイートばっかなんだもん。私だから良いけど、知らない人からしたら怪しいアカウントに見えるよ?>
<確かにな。オヤジのチョイートって、もえみちゃんかエロチョイしかねぇもんなw>
「好きなことを呟いて良いって言ったのはお前らだぞ!!! お前らのせいだ!!!」
ゼウスは二人から馬鹿にされ、そっぽを向いた。
<まぁまぁ。あ、そしたらさぁ。もっと日常のこととか、生活のことチョイートしてみたら? どんな朝ご飯食べたーとか、今日は良い天気だったーとか>
「そんなんで良いのか?」
<お父さんのチョイートほぼエロチョイで埋め尽くされてるから、日常のつぶやきがあればもっとフォロワー増えると思うけどなぁ。アレスはどう思う?>
<うーん。オヤジの日常かー。たしかに"マニア"には受けそうな気がするけどな。まぁ、エロチョイじゃなきゃ俺も積極的にリチョイートするよ>
<あっ、私もするするー>
「お前ら……なんか、サンキューな! 俺、頑張る!」
<おう>
<頑張ってね>
ゼウスは二人に励まされると、もうしばらくチョイッターを続けてみる気になった。
………………
~~~次の日の朝~~~
「はぁ~っスッキリしたぜww快便快便快便便ww!」
朝から用を足したゼウスは、満足げに表情を緩めた。
「――――あっ、そうだ! 昨日あいつらも言っていたし、せっかくだから今の俺様のお気持ち表明していいw?」
ゼウスは駆け足気味に布団に向かい、スマホを手に取った。
「えーっと、どうすっかなぁー。<<んあぁああああ今日もめっちゃでけぇいいうんこでたーwww!!!>>っと。これでどうかな、へへっ」
ゼウスは大して期待もしていなかったが、数分すると通知音が鳴る。
「ん? "アテナさんとアレスさんがいいねとリチョイートしました"だと? へへっ、あいつらめぇ~w」
ゼウスは、子供たちの偽りのないサポートが嬉しかった。しばらくすると、さらに多くの通知が鳴る。
「お、おぉ、いいねとリチョイートが増えてくぞ! あいつらすごい影響力だなぁ」
アレスとアテナの影響力もあり、なんてことないゼウスのチョイートは瞬く間に拡散されていった。
「お、おいおい通知が止まんねぇんだけどwwwすげぇ勢いでいいねされてんじゃん! ――――えっ!? なになに、俺のチョイートがトレンドにもなっとるやん! すげぇwwwさすが俺様!」
ゼウスのチョイートは驚くべき速度で拡散され、小一時間で30万いいね以上ついた。
「ふふふ、はーっはっは! やはり俺様の隠しきれないオーラがチョイートにも出ちまったかーwww。……ま、実際は特になーんもしてないんだがな。いやぁ、それにしても人気者は大変ですなぁwwwこりゃあ電池が切れちゃいますねぇw。これでフォロワーが一人でも増えたらいいんだけどなー」
ゼウスは調子に乗ると、チョイッターの画面を更新し続けた。だが、次の瞬間空気は一変する。
「へへへっww……ん? "ヘラさんがフォローしました"だと?」
ゼウスの通知欄には、ヘラがキメ顔しながらピースをするアイコンが表示されていた。
「――――――は? なにこれ?? どえらいブスがいきなりフォローしてきたんだけどwww。うーん、ブロックw!」
ゼウスは面倒になると察知したのか、速やかにヘラのアカウントをブロックした。
「ふぅ……これで安心してチョイッターができるぜw。さぁて、フォロワー数は、、おぉ!? 500くらい増えてるやん! 誰がフォローしてくれんだろ――――ファッ!???」
ゼウスがフォロワーを確認すると、そこには鍵のついた多種多様なヘラの自撮りアイコンがびっしりと並んでいた。
「うっわ"っっこっわっ!!!!!!! 怖すぎワロタwww意味不明過ぎ背筋ぶるっときたわ! ん?、、、ヘラ218、ヘラ362、ヘラ928……全部ヘラのサブアカじゃねえかこれ! きんもっ!!! ブロックしとこ」
………………
「あいつアカウントいくつ持ってんだよマジでwwwふざけんなよwww。ブロック終わらねぇわこれwwwww数の暴力だこれwwww。しかも新たにどんどんフォローされるし、やばすぎワロタwwwwwwwww」
ゼウスは手当たり次第にヘラのサブアカをブロックしていくも、それを上回るスピードでフォローされていた。
「あっそうだ!」
ゼウスは、名残惜しさを感じつつも現状のアカウントを放棄することを決めた。そして、新たにアカウントを作成しホットしたのも束の間、通知音は再び鳴り始める。
「ふぁぁああああああああああっっっっ!??????????」
ゼウスのアカウントはものすごい勢いでフォローされ、フォロワーが1万、2万と急激に増えていく。
「――――キモいキモいキモいキモいキモいキモいキモいキモいキモいキモいキモいキモいキモいキモいキモいっっ!!!」
恐怖を感じた彼は、前にもましてブロックを試みる。が、もはや比較にならないスピードでフォローされていく。
「やめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめて!!!」
ゼウスはヘラに"やめて"とリプを送るも、今度はそのリプが考えられないスピードでリチョイートされ、"何でブロックするの?なんでなんで?"や"リプしてよもっとリプリプリプ"といったリプがゼウスのスマホを埋め尽くした。
ありとあらゆる催促のリプ、鳴り止まない通知音と表示。それにより有り得ないほどに急激に熱くなるスマホ。
「んぎょぇええええええっっっっ!!!!!!!!!!!」
ゼウスはあまりの恐怖に白目を向いて絶叫した。
その直後、高温に熱せられたスマホは爆発し、ゼウスは絶命した。
…………
「おーゼウスよ。死んでしまうとは情けない」
ゼウスは気がつくと冥界にいた。
「えっ?」
ゼウスは目の前で両腕を開き、ニヤニヤするハーデスを凝視する。
「おいおいゼウス~お前なんで死んでんだよw」
「あっ、えっ? いや、これはその」
「なに死んでんだよwww」
「えっ!? 俺何で死んだの?」
「覚えてないのかwwwうーん。これは、ショック死ってやつかな?」
「ショック死!? ふーむ、なるほどな……って納得できるか! 簡単に死にすぎだろ俺www」
「どうも、転生の副作用か。ちょっとした拍子で死にやすくなってるみたいだな」
「意味わかんねーよ! てか、なんで死ぬと冥界落ち確定なんだよ」
「悪いことばっかしてるからじゃね?」
「ふざけろしwww」
ゼウスはハーデスの言葉が府に落ちず困惑する。
「まぁ、今回はさすがに可哀想だとは思ったよ」
「そうだろ? あんなん無理ゲーだろ。ヘラに襲撃されるし、急にスマホは爆発するし、命がいくつあっても足りんわ」
「そうはいってもお前死にすぎぃ! この前といい、何回死んでんだよw」
「たしかにな、ここんとこ死にすぎだわ俺」
「ちなみに、おまえあと残機2な」
「は? 残機とかwwwマリオじゃねぇんだからよ」
「まぁまぁ、冥界のキノコあげるから機嫌直せよ」
「いらねぇよwwwマリオじゃねぇか。いや、マリオじゃねぇよ」
「ところで、お前の股についてるキノコがさぁ」
「下ネタじゃねぇかwww」
「お前ツッコミ上手くなったなぁ! そんなマリオ君にはご褒美に好物のニンニクをあげよう」
「いや、それはワリオだろ」
ゼウスは真顔で、間髪入れずにツッコミをいれた。
「お前、、もしかしてワリオ?」
「ワリオじゃねぇよwwwwww」
「でも髭あるじゃん?」
「髭あるからってワリオじゃねぇよwww」
「まぁまぁそうかっかすんなって。もっとマリオのように優しく穏やかになれよ」
「いや、それはルイージだろ」
「お前やけに詳しいなw。お前の頭の中スーパーマリオブラザーズデラックスかよwww」
「それはおめぇだろぉおおwwwwwwwwwwwwwww」
ゼウスはハーデスのボケにひたすらツッコミを入れる。
「ま、ゼウスよ。冗談じゃなくてあんま死ぬなよ。そう何回も復活させられるほど、俺の力も残ってないからな」
「まぁ、普通に考えてそうだよな。わりぃな毎回」
「いいってことよ。ほれ!」
ハーデスが腕をさっと振ると、ゼウスはピンクの雲に囲まれた。
「ありがとな兄貴。またな」
「おう」
ゼウスはハーデスに感謝の言葉を述べると、冥界から移動した。
「また、な」
残されたハーデスは1人そう呟くと、しばらくの間うつむいたままその場に居続けた。
………………




