第三十九話 永遠のライバル中編
「くらえっ、ゼウスエクスプロージョン!」
「おまっ、ここでその技をっ!?」
ゼウスは、勇ましい声と共にヘパイストスに向けて呪文を唱えた。
「ぐわあああああっ!!! て、あれ?」
「んっ?」
とっさに防御姿勢をとったヘパイストスは、来るはずの攻撃が来ないことに気づくと、前につきだした両腕の隙間から前方を伺った。一方のゼウスも、何も起きないことに気づき手のひらを見つめる。
「え? なんや、なんもないやんけ?」
「えっ、はっ? な、なんで?」
ゼウスは発動するはずの呪文が出ないことにたじろぎ、再び呪文を唱える。
「はっなんで、そんなはず。ゼ、ゼウスエクスプロージョン!」
しかし、彼の手から爆発魔法が放たれることはなかった。
「は、はははははははわっはっはっ! なんやつかえんのか、ざっこwwwびびらせよって! そうかお前、『中級以上』の魔法は使えんのか!」
「はっ、ちげぇし適当なことほざいてんじゃねぇぞカス! 喰らえ、ゼウスエクスプロージョン! ゼウスエクスプロージョン!!!」
「ふっ、やっぱりダメみたいやなぁ? あっ、これは勝ち申したwww!」
「は? まだ、負けてねぇからっ! いや、待ってほんとにwwwエクスプロージョン! エクスプロージョン!!! くそっ、やっぱりあのとき力が弱まっちまったのか」
ゼウスは先ほどのメガネ屋で力を失ったことに気がつくと、苦々しい思いでヘパイストスをにらみつけた。
「見苦しいぞゼウスよ。あの天空神だったお前が、こうも落ちぶれていたとはな。諦めろ、もうお前に勝ち目はないんやで?」
「は? 諦めろだと? この俺様が?? ハハハハハハハ!」
ヘパイストスの言葉を聞くと、ゼウスは唐突に笑い出す。
「な、何がおかしいんや」
「あのなぁ! 俺はなぁ! 生まれてこの方諦めたことなど一度もないっ!」
「いや、それは流石に盛ってるやろ」
「ごめん、ちょっと盛ったわw」
「そうやろ~そうやろ~。嘘はアカンで嘘は――って、そんなことはどうでもいい!」
ヘパイストスはゼウスのペースに乗せられそうになったが、強く頭を揺らし雑念を振り払った。
「お前はいつも意味わからん言葉でワイを惑わそうとするが、今回ばかりは通用せんで! 行くぞっ――」
「は、はやっ――」
ゼウスはヘパイストスの突進をスレスレでかわす。
「やるやんけ。ほなら、これならどうやっ!」
「くっ――――」
ヘパイストスはジグザグに走行しながらゼウスの側面に接近し――
「オラぁっ!」
と、蹴りを繰り出す。
「――――あぶねぇっ!!!」
それをゼウスは地面に伏せてギリギリ交わした。
「ふっ、しょせん人間のお前など大したことないか」
「はぁ、はぁ、くそっ! さっきの突進といい今の攻撃といい。くそざこなめくじのお前が、ちょっと修行したろ?」
「あぁ、お前のもとからヘラさんを救いだすためになぁっ!」
「は? 動機が糞過ぎてマジ笑――って、うわあぁっあっつっっっ!」
ゼウスはヘパイストスの手から放たれた炎に身を焼かれると、たまらず膝をつく。
「立てよゼウス。さすがに、これで終わるお前じゃないやろ?」
「ぐ、おまえ卑怯だぞっ!」
「ふはははは! 本当の地獄はこれからだぞ!! 食らえぇワイの怒りの炎を!!!」
「うっ――ゎあちぃぃぃぃぃんんんっっっっっ!!!」
………………
「はぁっはぁっ」
「諦めろゼウス。今回はなぁ、もう勝負ついとるで?」
ヘパイストスは両膝をつくゼウスを上から見下ろしながら諭した。
「はぁっはぁっ、ふざけてんじゃ、ねぇぞっくそっ」
ゼウスは肩で息をしながら、必死に食らいついていた。
「こんな状況でも諦めんとはなぁ」
「くそがぁああ! 俺の力が弱くなってるタイミングで来やがってこの卑怯もんが!
「はっはっは! なぁゼウス、昔からこういう言葉があるやろ? 『勝てば官軍、負ければ賊軍』てなぁw?」
「てめぇええちくしょおおおおおっ!」
「ぶふぉっふぉっふぉwww勝てば官軍なのだよゼウス君! 勝ったほうが正義なんやで?」
ヘパイストスは口角を上げながら、下品に笑う。
「笑っていられるのも今のうちだぜ、ハゲ野郎。あいにくだがなぁ、可能性が0でない限り俺は諦めない!」
「物語の主人公みたいなことを言っていてもなぁ、現実を見ろ。今のお前じゃ俺には勝てん」
「それでも――」
ゼウスは立ち上がると天を仰ぎながら言い放つ。
「俺は背を向けたりはせぬっ!!!!」
「ほう?」
「はぁ、はぁっ」
「ふん、そろそろええか。なぁ、ゼウス。今ならボコボコにする前にヘラさんにきちんと謝ったら~許してやらんこともないで?」
「は? 何だよそれ?」
「どうせこのままやっても時間の無駄やろっていっとんねん。分かるやろ?」
「あ? 寝言は寝てから言えよwwww何でおれっちがあのババアに謝らなきゃいけねーんだよタコ」
「なん……や、と?? あんな可愛い嫁をババアや、と……もうゆるっさんっぞぉおおおおゼウスッ! ぅおおおおぉおおっ!」
ゼウスの言葉に怒るヘパイストス。彼は即座にゼウスに突っ込むと、張り手を頭に打ち付けた。
「いってぇぇ~っいきなり攻撃するとかこの卑怯もんが! くそっ、、、あれ?」
ゼウスは視界がぼやけていることに気がつくと、両手を地面に滑らせながら懸命にメガネを探し始めた。
「あ、あれっメガネが?? あれ、メガネメガネ、、、あった! あっ、俺のメガネがあぁああっ買ったばっかなのに!」
「次いくぞぉぉぉっ!」
「ちょ――――うごぁふぁっ!!!」
レンズのヒビがさらに進行したメガネをゼウスが手にした直後、ヘパイストスの蹴りは彼の横腹に食い込み、そのまま10メートル先まで飛ばされる。
「ぐっ、ヒーリング! あぶねぇ」
「回復魔法が使えるのはやっかいやなぁ? こりゃあ回復する間も与えずにいくしかないか」
「俺様がそう安々とやられるわけねぇだろっ! チョビデブごときが調子に――あっ! レンズだけじゃなくて、なんかメガネの鼻にかけるところの部分がぽっきり折れてるんだが! は? えっ、名前知らないけどなんか左の鼻にかけるところのやつがぽっきり――」
「次いくぞほれ!!」
「うわぁあぁぁあああああちぃぃぃいぃぃいいんっ!!!!!」
ゼウスはヘパイストスの炎をもろに受けると、たまらずに悲鳴を上げた。
「待って、お願いだからえくすきゅーずみぃ――」
「問答無用!」
「あぶねぇっ!!!」
咄嗟の判断でヘパイストスの火球を右に避けるゼウス。しかし彼の動きに壊れたメガネは追従することが出来ない。
「ちょっと待って! 激しく動くとメガネが――」
「ほれ次いくぞぉっ!」
「ちょま、うぉっ!」
ゼウスのことはお構いなしにヘパイストスは火球をひたすら撃ちまくる。
「おら! ほらほらーいくでぇー、つぎぃw」
「普段くそインキャのくせにここぞとばかりに調子に乗りやがってぇええええ! あ、また目が見えない!」
フレームが極端に変形した眼鏡はかろうじてゼウスの片方の耳だけにかかり、ぶらさがっていた。
「はぁ? このメガネすぐずれるんだけど! ちょwwwメガネを整えるメガネタイムを――――」
「おらおらおらどうしたゼウス、腰が引けてんぞぉ?」
「うわぁっ!!?」
ゼウスはすっとんきょうな声をあげると、反撃の手段もなくひたすら避けざるをえない。
「どんどんいくぞ、ワイのコンビネーションアタック!!!」
ヘパイストスは両足から炎を出して宙に浮き上がると、ゼウス目掛けて赤々と燃える火の塊を連続的に投げつける。
「うわっちょ、あぶねっ!?」
「はっはっはー! ほら、どうしたどうしたーw? これはどうや!」
「ハゲ野郎が! 調子にの――――あぁっ?!! 今気がついたけど、俺様の命より大切なもえみちゃんのTシャツに穴がっ! あっ黒いシミも!!!お前ガチでふざけ――――」
「ほら次いくど~っw」
怒るゼウスの言葉を待たずに、ヘパイストスは攻撃を続けた。
「うわっちょっ、ちょwwwまじで待って! ほんとにたんま、とりま一時休戦しよ?」
「そ・れ・は・無・理」
(こいつマジでむかつくわwww)
ゼウスはずれ落ちるメガネを片手で押さえつつ、必死に火球を避ける。
(メガネ装備とかハンディキャップありすぎわらたwww。こんなん絶対勝てないやん無理ゲーすぎ! これ装備してるだけで超絶不利じゃね??? これもう俺が悪いんじゃなくて、俺の動きについてこれないメガネのせいだろ!)
「次、行かせて頂き卍www!」
「待てって言って」
「これならどうや!」
「待てっつってんだろうがぁああああごらぁああああああああああっ!」
ゼウスはたまらず大声でヘパイストスの勢いを遮った。
「な、なんやっ。そんな大きな声出して!?」
「頭おかしいんじゃないのっ!? お前耳の穴に糞でもつまってんのかなぁ? 話をきけやぁ!! なにずっと俺のターンみたいに攻撃しまくってんのw? はぁ、はぁ、お前さぁ何か勘違いしてない? これだからルールを知らないやつは困るんだよなぁ」
「か、勘違い? な、なんだよルールって??」
………………




