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俺ゼウスの生まれ変わりなんだけど、無双してたらボッチになった件について  作者: 紅羽 慧(お神)
すねはかじれるだけかじるのが当たり前じゃね?編
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第三十五話 見えざる影

※大幅な修正の必要あり(2022年現在)

修正が完了したら前書きの文言を消します(前書きのないものは基本的に修正の必要なしです)。それまでは隙間時間でちょこちょこ修正するので、修正完了版のみ読みたい方は前書きの有無で判断してください。よろしくお願いします。


――――深夜の秋葉原某所にて……。



「――動くなっ! 両手を挙げてひざまずけ!」



 細い路地に、田中の声が響き渡る……。その先には、天狗の覆面をつけた黒いマントを身に纏いし男がいた。



「……ふはははははっ!!! そんなもので俺を脅すっていうのか? なるほど……やってみろ?」


「な、何を言っている! 大人しく言うことを――っぶっ!?」



 田中が言葉を言い終わる前に、素早く距離をつめた男の裏拳が彼の顔を強打していた。



「う、うわぁっ……いたぁいっ! ――ぐっ! ぶびゅっ!!」



 さらに男は、田中の左足に強烈なローキックをかましふらついたところを腹に拳を食い込ませた。



「――うっぉえっ……!!!」


「ふん……弱い、あまりにも弱すぎる」



 男は膝をつき嗚咽を漏らす彼の姿を見ると、残念そうに呟いた。



「愚かだ……全くもってつまらん。……殺すか――――っ!」



 男が懐からナイフをとりだし、田中の首筋に突き立てようとしたその時


「――――たなかぁああっ!!!」


という声と共に、男に向かって大きな石が飛んでいった。だが、その石は男に当たることはなく、そのままその先の壁にぶつかり粉々にくだけ散った。




「――おい田中っ! 大丈夫か、しっかりしろ!」


「すず、き……逃げろ」


「お前――田中になにしやがった! くそっ、なんなんだこの覆面野郎は――――」


「――そこまでよっ! はぁあああっ!!!」



 鈴木が男に怒りの目線を向けている横を矢のようにアテナは通りすぎると、とてつもない速さで警棒を男に振り付けた。

 しかし、男はそれをすれすれで上手くかわすと


「……アテナ……だと?」


と驚きの入りまじった声を上げていた。そして、


「そうか……あいつだけではないのか――ははははっ! 面白い……またいずれ会おう!」


と言うと、闇のなかへと消えていってしまった。



「待ちなさいっ!」


「あ――アテナさんっ!」



 アテナはそれを追いかけようとするも、鈴木の呼び掛けで背後に倒れている田中のことを思いだし断念する。



「田中君は?」


「鼻血が酷いですが、あとはかなり殴られたみたいです」


「……いや、顔、左足、お腹の三回しか攻撃されてないわね」


「えっ――でも、それだけで田中(こいつ)がこんなに……」



 鈴木はアテナの言葉を聞くと信じられないといった様子で、彼女の顔を見た。



(この技……只者じゃないわね)


「……すみません、宛名さん。僕が、足を……引っ張ってしまって」


「警察官が泣き言を言うんじゃありません! 最後の最後まで諦めてはダメ。とにかく今は喋らないで、痛みが増すわ。……そんなことはありません。あなたの連絡がなかったら、犯人の姿を見ることさえ出来なかったんだから。良かったわ無事で……ほんとに」



 アテナは少し目に涙を浮かべると、田中の手をぎゅっと握った。すると、田中は


「ありがとう……ございます。宛名さん」


と、彼女の手を握り返し笑みを浮かべた。



「ふふっ、大丈夫そうね。……安心した」


「何者なんですか……あの天狗野郎は?」



 鈴木は田中の鼻血を手持ちのティッシュで抑えつつ、アテナに聞いた。



「分からない……ただ、只者じゃないことだけは確かね。――鈴木君は田中君をお願い!」


「宛名さん――どこへっ?」


「……あいつを追ってみる」


「無茶ですっ! あんな得体のしれないやつ危険すぎますっ!」


「……ありがとう、心配してくれて。でも大丈夫。深追いはしないから――――」



 アテナはそう言い彼らに笑顔を向けると、男の消えた方へ目にもとまらぬ速さで走り出した。



(そこそこ本気で捕まえにいったのに、あの動き……明らかに人間のものじゃない。――もしかして……お父さんは大丈夫かしら?)




………………




「ふぁ~ぁ……あさぁ? いつの間にか寝ちまって……あれっ、まだ五時かよ!」



 ゼウスは、目を覚ますと時計を手に取り驚いていた。



「あんま寝てないのにこんな早い時間に起きるなんて……やっぱり俺も歳なんかなー。目が冴えちまって……んぅ? 気のせいか――なんか体が軽いぞ?」



 ゼウスは、体が全体的に以前よりも楽になっていることに気がつく。



「おっ、おぉ~肩がぐるぐるん回る~。それに力が体から溢れるこの感じ――ハハッ! なんか知らんけどもしかして、力が戻ってんのか? ……マジで謎w! ……確か、力が戻るには良い行いとかいうふざけたことをしなきゃなんだろ? 良い行いの多くは目線を変えれば他者にとっては悪い行いになることが多いんだけどな! 誰が決めてんだろ? つか、何かいいことしたっけ俺……よくわかんねーな! ま、ぶっちゃけた話、こんな人間(ゴミ)共のいる地上に舞い降りただけでも本来有難すぎて、良い行いとかいうレベルじゃないんだけどなぁwww」



 彼がいつもの調子で人間を馬鹿にしていると、斜め上にあった固定電話が突然鳴り出す。



――トゥルルルル……トゥルルルル……。



「ん~あっ――電話……も、もももしかしてトーマ!? やっとかよ~おせぇよぉ~! あっ――メガネメガネッ!」



――――ゼウスは、枕元に置いていたメガネを装着し急いで飛び起きる。



「いやはやこんな朝早くにモーニングコールとか、そんなにおれっちと遊びたいんか~あいつ全く焦らしやがってからにwwwん”んっ! うぉっほん!」



 ゼウスは目ヤニと(よだれ)にまみれた顔をゴシゴシと袖で拭き、咳ばらいを大きく一つすると受話器を取った。



「……あ、あの~もしもしわたくし、加藤ゼウスという者ですが?」


<あ――お父さん? やほ~元気?>


「――っその声は! ……なんだよ~あいつじゃなくて、我が愛しのアテナちゅわんだったかぁ」


<誰だと思ったのよ……あっ、もしかして皐月トーマ君?>


「――――えっお前、トーマを知ってんのか!?」


<会ったことはないけど名前だけね~。昨日アレスと電話したからそのときに少し聞いたの。……この電話はお父さんの家の電話――であってるよね?>


「へぇ、そうなんだ。……そうだけど、あれっ? お前におれんちの電話番号教えたっけ?」


<ううん、昨日アレスから聞いたの。何かあったときのためにね!>


「はぁ!? あんのアホンダラッ! おれっちの電話番号をよくも――よくも勝手にぃっ! むっきぃ~!」



 ゼウスはアレスが自分の番号を勝手に教えたことに腹を立てると、畳の上で何回か飛びはねた。



<大袈裟すぎでしょ……別に良いじゃない。減るもんでもないんだし>


「え~。そうは言ってもさ~、本人の許可なく第三者に個人情報を教えるとか犯罪だろw! ……ちょっとちょっと~、個人情報保護法案可決されてないの~この国? んもぉ~やだわぁ~ほんと! こんなんじゃおちおち夜も眠れないじゃない!」


<……相変わらず死ぬほどめんどくさいなぁ。お父さんが眠れないときなんかあったっけ? 何回もひっぱたたいても起きないことがあったくらいに、毎日ぐっすりじゃないの?>


「はっ……こっちきてからはそうでもねーけどな……でなんだよ? 朝っぱらから」


<あっ、あのね――――>



 アテナは深夜に起きたことをゼウスにかいつまんで聞かせた。




………………




「へぇー。いろいろと大変なんだな人間は?」


<ちょっと! 他人事ひとごとみたいに言わないの! 今はお父さんも人間なんだから……あれは明らかに人の動きじゃなかったわ。一体何者なのかしら……?>


「はっ、どうせコバエみてぇなもんだろ? そんなんほっとけよ!」


<私たちにとってはそうかもしれないけど、人にとっては違うでしょ? ……何か凄く嫌な予感がするのよ。――もしかしたら、お父さんが天空神を辞めてこっちに来てることが、ヤバイ奴等にバレちゃってるのかもしれないわね>


「……あー、そっち系のやつらねぇ。人間以上に調子こいてるやつが多いからなー。腰抜けばっかりで、張り合いがなさすぎてほんと笑う~w。でも、昔だったら目をつぶりながら小指で全員一掃出来たんだけど、今は全員を俺一人で相手にするのは……ちときついかなーこれ」


<もちろんお父さん一人にやらせるつもりはないわよ? それに、今は力も失っちゃってるから戦力として期待できないし!>


「おまっ! 宇宙を救った大英雄(ビッグヒーロー)の父に対して、その物言いはいささか以上にひどいのでは??」


<事実でしょ! ……それとね、関係があるかは分からないんだけど、最近秋葉原はいろいろと物騒でね。新興のヤクザみたいなのが近年根づいちゃってて、治安が悪くなって来てるからお父さんもくれぐれも注意してね>


「ヤクザ……ねぇ? アテナなら余裕だと思うし、俺にはくそどうでもいいことだけどな!」


<まぁ、そうなんだけど……お父さんらしいなぁ。――いいわ、把握してもらえれば。……でも、ヤクザはいいけどもう一方のほうはほんとに用心して。たぶん、お父さんが力を失っていることは知らないはずだから、そう簡単にては出してこないはずだけど……>


「わかったわかった! ハーデスニキもお前もおれっちのことを子供扱いしすぎだぞ!」



 ゼウスは娘の注意換気がいい加減嫌になったのか、少し大きめの声でしゃべっていた。



<だって心配なんだもん……。それと少しずつ良い行いをして力を取り戻していくのよ!>


「だぁいじょうぶっだって! ……えぇ~、良い行いとかやだわぁっ! 俺は俺のやりたいことだけをやる! それが周りにとって良かろうが悪かろうが関係ないし、興味ないね! だっておれっち神だもんwww。俺のやることが正義ってそれ、宇宙が始まった当初から言われてることだかんね?」


<……いいわ、今度会いに行ったらその考えを正して、みっちりしごいてあげるから覚悟しときなさい!>


「はっ、俺のマインドをそう簡単に――えっ? しごく?? ちょっとそれは、大人の雰囲気が漂う意味深な隠語と捉えておけ?」


<…………>


「わ、わかったよ。無言の圧力やめ乳首(ちくび)~w」


(本当に分かってるのかしら、この人は……)



 アテナは父のことが心配だったが、疲れていたためそれ以上ゼウスを注意することはなかった。

 お互いに無言の時間がほんの少しあった後、ゼウスは


「アテナよ……次は、いつ来てくれるんだ?」


と、唐突に言葉を発していた。



<急にそんな真面目な声出しちゃってどうしたのよ? ……あ~、もしかして、お父さん私がいなくてさみしいんだぁw? ふふっ>


「……あぁ、そうかもな」


<……も~、どーしちゃったのよ~。……出来れば今すぐにでも行ってあげたいんだけど、さっきの件でしばらくはずっと忙しくなりそうなの……ごめんね>


<……うん>


<だから――私とBOIN交換しましょっ! 会いに行けなかったり電話が出来ない時も、メッセージが残せるから便利なのよ>


「――――ダニィ!? お前とBOIN交換だとぉっ! ……それはつまりおさわりオッケーってことっでおけ?」


<お父さん……あたし今、夜勤明けで少しイライラしてるの、もうご飯作りに行ってあげないけどいい?>


「い、いやいやいやいや冗談ですよアテナさん」


<本当にお父さんは……。じゃあ、私そろそろ寝るから、またね! BOINはアレスから後で教えてもらうから――>


「あ、あぁ……おやすみな」


<うん、おやすみ~>



 受話器を定位置に戻すとゼウスは、諦めを多く含んだ溜め息を吐く。



「はぁ……トーマじゃなかったかー。……いや、別にアテナからの電話が嫌とかそういうのじゃないんだけどね。むしろ、超絶嬉しくはあるんだが……はぁ」



 彼は独り言を呟くと、メールをチェックするため画面の前に座った。



「……来てますよーに!」




………………




「来てないんか~いw! はぁ!? ふざけやがって! なんか腹が立ってきたぞ~これ? あの女男女め! ……あ、男か。くそっ、もう……いいや。来るときは来るだろってか、もしかしたら何かお使いとか頼まれてて忙しいのかもしれないし……次会ったらこりゃゼウスラーメン三杯くらいはおごらせないと割に合わねぇよな?」



 ゼウスは、マウスから手を離すと両手を頭の後ろに回し畳の上に寝転がる。



(何でだろう……何でこの俺様が、あんなどこの馬の骨とも知らない美少女のことを考えなくてはならんのだ! ――あ、少年かw。……別にどこかで会った訳でもなし……ないよな? ……どうも記憶が曖昧だけど、過去にどこかであったか? ……ん~そんなんじゃないと思うけど、何か他人に思えねぇんだよなぁ、トーマのやつ! ……千裕ちゃんもそう感じたし、何なんですかねぇ一体、このもやっとした感じはっ!)



 彼は頭の隅々に散らばる記憶の断片をかき集め、呼び起こそうとするもすぐに


「あー、朝から難しいこと考えるの嫌い! こういうときはもえみちゃんのOPでも聴いて、気を紛らわすしかねぇなぁ――そう思わない?」


と、やめてしまった。



「やっぱり一期のOPだよな~」



 彼は、パソコンのスピーカーのボリュームを最大限上げるともえみちゃんのOPに合わせて踊り出した。



「いぇ~もえみぃ~ひぃ~やぁ! Hey!Say!Moemi!!! よぉ~よぉ~ん~ん~――――あっ……」



 体を揺らしサビの部分でゼウスが頭を揺らすと、メガネが畳の上に放り出される。



「……あぁ~、そう言えば今日メガネストアに行くんだったなぁ? めんどくせぇwww誰が行くかよタコ!」



 ゼウスはそう口にはしたものの、彼の頭の中をアレスが言った


<<いいのか? 友達になれそうなやつを失うことになっても?>>


という言葉が、よぎる。



「っ……くそっ! 糞ガキの分際で俺に意見しやがって! 何が友達だ、あんな女みたいなやつ……」




………………

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