表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺ゼウスの生まれ変わりなんだけど、無双してたらボッチになった件について  作者: 紅羽 慧(お神)
すねはかじれるだけかじるのが当たり前じゃね?編
37/63

第三十四話 テレフォンショッキング



「ただいマンモス! あっひゃひゃひゃひゃひゃっ! ポチっと押してからの~起動せよ我が相棒よっ」



 ゼウスははやる心を抑えきれずに靴を玄関に放り出し、パソコンの電源を入れた。



「いやぁ、もっともえみちゃんの話してぇよなぁ、したくない?」



 友達の少ないゼウス。彼は、人間界で初めて好きなものの話題を共有できた皐月とまた話をしたいと思っていた。

 だがパソコンはそんなゼウスの意志に反し、自動更新を始めていた。



「はぁ? えっ、何でこんなときに限って勝手にアップデート始めんの? ほんとマジであり得ないんだけどっ! この機能取り入れたやつマジでクビにしろよ」



 ゼウスは思い通りにことが進まないことにイラつくと、頭を激しくかきむしりながらキーボードのEnterキーを何度も叩いた。



「ほんとおせーな~早くしろよっ! もうトーマがメール送って来てくれてるんだからよ! 早く返してやんないとなんか感じ悪くなっちゃうだろっ! 俺達の関係に亀裂が入ったらどうしてくれんの?」



 彼は見たわけでもないのにトーマがメールを既に送っていると決めつけ、更新中のパソコンに文句を垂れていた。



「くっそ~マジでこいつ張り倒したいわ~。でもパソコンて、ちょっと小突くだけでも動作不良になる敏感ちゃんだからな~。ヘラの乳首かよw。はやくぅ~してよぉ~」



 ゼウスは大きく貧乏ゆすりをしながらひたすら待った。




………………




「おっ、やっと終わったか。よしっ、起動せよインターネッツファイヤー!」



 10分程度の更新が終わりデスクトップ画面が表示されると、ゼウスはすぐにブラウザのボタンをクリックする。するとブラウザはすぐに起動したものの、更新の影響でインターネットにつながるまでには少し時間がかかっていた。そのことがまたゼウスをどうしようもないほどにイライラさせる。



「は? ちょっとぉ~ネットの回線激遅ちんちん丸じゃね? なにが光ファイバーだよwww調子こいてんじゃねぇぞこら? 速くしろやこのゴミPCがぁあぁああっ! あ~たたたたたたたっ!!!」



 ゼウスはなかなかメールボックスが表示されないことに発狂すると、更新ボタンのF5を指の先を振動させて連打しまくる。



「オラオラオラ――あっ、やっとかよ~遅いぜ相棒! さーて、、、うわぁ。久々にこれ開いたけど件数5000超えかよ」



 ようやくメール画面が表示されたものの、ゼウスはあまりの未読メールの多さに愕然としていた。



「あーそういえば、エロサイトに登録しまくってたら鬼のようにメールが来るから気をつけろってマニュアルに書いてあったっけ? もちろんガン無視したけどwww。えっ、てかちょっと待って! これを俺が一人で処理すんの? さすがに無理ゲーだろ」



 ゼウスは後ろに寝っ転がると、何か楽な方法はないかとしばらく考えた。そして、あるアイデアを思いつく。



「……待てよ。トーマに俺のアドレス渡したのはさっきなんだから、今日の日付のやつだけ見ればいんじゃね? そうだよね! うわ~すぐにこれを思いつくとか、俺ってやっぱり天才だわ」



 ゼウスは多くの人が思いつくような方法でも最大限自分を褒めることを惜しまない。彼は自分に対しては誰よりも甘いのだ。



「えーと今日の日付はっと――ウエッ!? それでも三百件あるんですが! 多すぎだろふざけんなwwwマジでこういうエロい系のメール送ってくるやつ全員地獄に叩き落としたい!」




………………




「え、来てないんだけど、、、何で? 何かの間違いだろ!? ……もっかい見るかぁ」



 ゼウスは日付を再度確認してから、件名と内容をもう一度一つずつ読んでいったが、それらしきメールは見つからなかった。



「うそ~~ん。そんなはずはない、でしょ? ないだろそれは……そんなのって」



 ゼウスはかなりショックを受けていた。自分のような完璧で高貴な神と連絡先を交換したのだから、すぐにメールは来るものだと確信していた。

 だが実際のところ彼は、それが希望的観測であることを心のどこかで薄々感じていた。なぜなら彼には、完全に信じられるほど親しい人間がまったくいないからだ。



「ふん。トーマはその辺の一般人パンピーとは違うと思っていたんだがなぁ。やっぱり、人間なんか信用ならないやつばかりってことだな……くそぉっ!」



 裏切られた気持ちになったゼウスは、むしゃくしゃしてメールボックスを閉じようとした。だがその時、彼の意表を突く形で突然電話が鳴りだす!


「うわっ!? な、何だよ急にビックリした。も、もしかしてトーマ!? ははっ、あいつ~メールじゃなくて電話で来るとかwwwそういうフェイントいいから、んもうっw!」


 彼は文句を言いつつも、心の奥底に沸々とこみ上げてくる嬉しさを隠しきれずにいた。

 満面の笑みを浮かべると軽やかに立ち上がるゼウス。彼は跳ねるように受話器の前に馳せ参じ、のどの調子を整える。



「あ、あーあー。んんっおほぉんうぇっほん! あーあぁ~んん゛んっ~ちんこちんこ! ……よし」



 そして――


「いやぁ~、なんか『ヘラと初めて手を繋いだ時』並に緊張すんなwwwははは!」


と電話の前にぎょう々しく正座をすると、高まる心臓を左手で押さえながら神妙なおもちで受話器をとった。



「あ、あの~もしもしわたくしゼウスと言いますが」


<おい糞髭野郎ファッキンブラザー。お前よくも――>


「――――っ! 間違い電話です!!!」


<ちょ――>



 ゼウスは受話器から聞こえた声の主が分かるや否やガチャンッと勢いよく受話器を落とすと、深くゆっくりと深呼吸をした。



「ふぅ~あぶねぇあぶねぇ。危うく糞詐欺師に騙されるところだったぜwwwったく何なんだよこんな時に! 最近詐欺被害増えてるみたいだから、みんなも気をつけようね!」



 ゼウスは誰もいない壁に向かって無意味な注意喚起を行うと冷や汗を拭った。

 しかし、当然電話がそれで終わるわけはない。



「えー、取らなきゃダメなの~これ? めんどくせぇー」



 彼は仕方なく先程より少し重く感じる受話器を持ち上げ、耳に当てた。



「……うぃ~っす」


<は???? 何が『うぃ~っす』だよwwwおいっ! てめっ――何で電話切った!?>


「だってハーデスニキが俺に連絡とってきたときって、絶対ロクなことないんだもん。防衛反応が働いちゃうっていうかー、生理現象みたいなやつ?」


<ひどい! お兄ちゃんのことそんな風に思っていたなんて!>


「今更だろwww。――で、なんだよ今度は?」



 ゼウスは肩甲骨の辺りをポリポリとかくと、ハーデスに要件を聞いた。



<何だよだぁ? お前が何だよwww。チミさぁ~自分が何してるか分かってんの??>


「はぁっ? 何キレてんだよwww俺そんな悪いことしたかな~? わりとマジで身に覚えがないんだけど」


<そうか。いいだろう。ならばゼウスよ、お前にチャンスをやる。己の胸に手を当てて今一度、自身に問いかけてみよ!>



 ゼウスはなぜ怒られているのか本気でわからなかったが、とりあえず彼の言う通りに胸に手を当ててみた。



「ん~、そうさな。広く清らかで穏やかな、、、例えると――浜辺の波のように美しい心かな??」


<……論外だなw。あのなぁっ! 単刀直入に言うけどさ~お前さっ――金使いすぎじゃねwww?>


「あー、はいはいそゆことねw。なるほどなるほど……ふーん」


<何がふーん、だよ! お前さっ、マジで俺のクレジットカードだからってさっ、金を湯水のように使いすぎじゃね? 何よあれ? もう少し自制心とか、遠慮っていうものが君にはないのかね? ねぇねぇ、ほんと何なのっ!? 請求額見て目ん玉飛び出そうになったわw>


「でもハーデスニキ、目ん玉ないじゃん?」


<それもそうだなって――あるわwwwボケがぁ!>



 ハーデスは誤魔化そうとするゼウスに苛立つと、大声で突っ込みをいれていた。



「――うわっ!? 急にどなんなよ鼓膜がやぶれるわ!」


<いっそ破れてしまえバカ。はぁー、君にクレジットカード渡したの、マジで人生でベスト5に入るくらいの失態だったわw。一瞬、リボ払いを本気で考えちゃうくらい精神的に追いつめられたんだけど、どうしてくれんの?>


「いーじゃんかよ~金なんか腐るほどあんだからさぁ!」


<はったおすぞwww>


「そんな硬いこというなって。硬いのは股にぶら下がってるものだけでいいよ?」


<確かに、ふにゃちんだと女の子に嫌われるからダメだよな。一理ある。――いや、そういうことではなくてだねぇっ!>


「まぁまぁまぁ。いったん落ち着こっ! そんなにカリカリしてると楽しくないよ?」


<お前のせいだろうがwww。もうほんと疲れる>


「何だよー。そんなに言わなくたっていいじゃん」


<……まぁ、少し言い過ぎたかもしれん。こんなの昔からしょっちゅうあったからな。確かに、安易にクレジットカードを渡してしまった俺にも落ち度があったと言えなくもないな>


「おっ、自らの非も認めるとかさすがハーデスニキ! よっ、宇宙一の男前!!!」


<そ、そうかな? はっはっは、しょうがない今回だけは見逃してやろう! 次からは気をつけろよ?>


(ちょっろwww。チョロQかよこいつwww)



 ゼウスはハーデスの説教をやりすごすことに成功すると、ほくそ笑んだ。



<あ、そういえばよ――ゼウス>


「ん? 何だよ兄貴?」



 ゼウスは電話越しにハーデスの口調が少し穏やかになったのを感じとると、次の彼の言葉を待つ。



<何か、友達が出来たみてぇじゃねぇか?>


「ん~? あぁ、トーマのことか? なんだ見てたのかw。まぁねっ! 当然と言えば当然かな~俺人気者だからさっ!」


<あ、あぁ。そ、そうだな。一部始終を見ていたが、あの子めっちゃ良い子だなw。それに、何と言っても俺好みの可愛さときた!>


「あ~たしかに、ハーデスニキが好きそうなショタだよな! あんたも昔は、あんな感じの美男子だったのに。どうしてこうなってしまったのかw」


<それは言わない約束よっ! 時間てーのはさぁ、往々(おうおう)にして残酷なもんなのよ>


「確かにな、、、そうかもしれん」



 ゼウスは受話器を持つ手を入れ換えると、兄の言葉に共感し頷く。



<正直、お前に友達が出来るかどうか心配だったんだが良かったな! いや、正確にはまだ友達ではないかw>


「なーにいってんだよ! もうスッゲー話盛り上がって遊ぶ約束までしちゃったんだぞ! どう考えても、もう友達だろこれw」


<――そ、そうか。それはよかった。……友達を大切にな>


「あんた誰だよwww。冥王のセリフじゃねぇだろそれ!」


<いやいや、冥王というものは意外と心の優しいやつがなるものだったりするんだぞw? イメージだけで物事を語っちゃいかん! お前は少し自分を基準に物事を言いすぎなところがあるから、お兄ちゃんコミュニケーションの面でちょっと不安なのよね>


「それ、あの『貧乏鍛冶屋』にも同じこと言われたわ。そんなことないって、おれっちはみんなのこと考えてるって!」


<やっぱりヘパイストスはお前のことを一番良く分かってるみたいだな。だといいんだがなぁ。ま、秩序を乱さない程度に上手くやってくれ>


「いや、単に腐れ縁なだけだよ。はいはい、分かったよ」


<と、とりあえずな。金は使いすぎるなよ! お前はもっと節度を保って、常識というものをだな――>


「あー! はいはいもうわかったわかったよっ! ガキじゃねぇんだからよっ! もう切るぞ、んじゃね~ばいばいき~ん!」


<ちょwおまっ、お兄様の話をだな――>


「ばいちゃっ!」



 ゼウスは小言のうるさいハーデスの言葉を待たずに、受話器を元の位置に戻した。



「ふぅーったくうるせぇハゲだw。なーにが節度と常識だよwww」



 彼はそう吐き捨てると、その場に寝転がった。



「主観的ねー。あいつもよくそんなこと言ってたなー」



 ゼウスはハーデスに言われたことを頭の中で反芻はんすうすると、ある男のことを思い返していた。


 


――――ヘパイストスっていうそのへんの石ころみてぇに役に立たないゴミクズがいるんだけどね。昔っから何かある毎によく俺に言うんだよねー、『お前は主観的すぎる』って。もうその発言事態が主観的な件についてwww。お前はどうなんだようんこハゲ!って感じで、ハリセンで思いっきり頭をひっぱたきたくなるんだよね! 


――みんなもそう思うよね??


 客観的に物事をみるってよく耳にするけどさー、それってはっきりいって無理な話じゃね? 生きていく上でさー、誰しもが親しいものとそうでないものとに暗黙の境界線を引いてさー、差別してるじゃん? 何て言うかもう、客観的に物事なんか見れるやつは全くと言っていいほどいなくない? 出来たとしても普通に難易度『超地獄級』だと思うんだよなー、この俺でさえも出来ないことなんだから。


 あーあ。あのポンコツ極貧鍛冶屋には今度、世の中綺麗事ばっかり言ってても渡り歩いてはいけないっていう社会の常識を教えてやんねぇとなーw。あいつとんでもねぇ非常識だからさ!




 ゼウスはヘパイストスの顔を思い出すと、ふふっと思いだし笑いをした。



「今度つってもいつの話になるのやら。まぁ、どうせ今頃アフロディーテと仲良くやってんだろあのハゲは」



 ゼウスはそう呟くと、ごろごろと畳の上を転がった。そして、お気に入りの位置で止まると、再び天井を見つめながら物思いに(ふけ)る。



…………ヘラは、何してんのかなー? あいつ今頃、俺がいなくてピーピー泣いてるぜきっとwww。太陽系が生まれる前からの付き合いだからなー。もう長すぎて、あんま覚えてないんだよなー最近。物忘れがなんか激しいっていうか、よく周りからボケてきたんじゃないの?とかいう、失礼極まりないこと言われるんだけどさ。みんなおれっちのことバカにしすぎだよね? 俺様は宇宙を救ったLEGENDなんだぞ。分かってんのかなーどいつもこいつも。


……でもさ、なんかやっぱりちょっと記憶が曖昧――っていうかさ。覚えてないな~ってことは多いのよねー。うっすらと断片的な思い出しかないっていうかさ? ちょい前もヘラに記念日忘れてたことしこたま怒られてさ~。最近そういうの多いから、病院行ったほうが良いのかもなぁ……。おれっちもさ、何かと気を付けてはいるつもりなんだけど……どうもよく分かんないんだけど、頭がボンヤリしちまうんだよなー。歳なのかな?



「あいつ、今何してんのかなぁ? 行く前に一言文句言ってからいけば良かったなぁ……くそっ。まぁ、俺がいなくてせいせいしてると思うけど、、、たぶんな、たぶん……」




 彼は少し寂しい気持ちになると、再びパソコンの前に移動して画面に目を落とした。



「それはそうとメール、、、来ないなぁ」



 ゼウスは沈んだ気持ちで、更新ボタンを何度も何度も押しては画面を注視して過ごした。



「おかしいなぁ。来ると思ったんだけどなー、うん。もう一回……いや、ゴミ箱のほうも見てみるかぁ」



 彼は首をひねると着信メールの画面をくまなく探し、その後もそれらしき文字を見つけ中身を開いては裏切られ――といったことを幾度も繰り返した。



「やっぱり、、、友達とは思ってくれなかったのかなぁ」



 その日は結局、どれだけ待っても迷惑メール以外のものが彼の元に届くことはなかった……。




………………

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ