第三十三話 水魚の交わり 後編
※大幅な修正の必要あり(2022年現在)
修正が完了したら前書きの文言を消します(前書きのないものは基本的に修正の必要なしです)。それまでは隙間時間でちょこちょこ修正するので、修正完了版のみ読みたい方は前書きの有無で判断してください。よろしくお願いします。
「出来たぜ! あれからさらに改良を加えたスペシャル神王ラーメンだ!」
「うぉおおおみwなwぎwっwてwまいりましたwww。やっぱこれだよな~」
「……」
ゼウスは豊潤な香りの彩り鮮やかなラーメンを見ると、大喜びでそれを口にする。一方天美はというと何もコメントはせず、ただ立ち上がる湯気をボーッと眺めている。
「いただきマンドリル! んぁあ^~うめぇ~! やっぱりおっちゃんのラーメンは宇宙一だわ!」
「はははっ大袈裟だぞっ! でも、あんたに褒められるのが一番嬉しいぜ!」
「まぁな! 神だからなおれっちは!」
「ははっ、俺から言わせれば間違いなくあんたは神だよ」
「ジィー」
(あぁ~うめぇ! たまんねぇ~次はスープをん~……ん? なんか物凄い視線を感じるんだが?)
ゼウスがスープを飲もうとしたときチラリと横を見ると、そこにはジト目で明らかに不満そうな天美の顔があった。
「ジィーーっ!」
「あ、あのー千裕ちゃんだっけか? いくらそんなにおれっちがイケメンだからって見つめられると困るんだが?」
「――はっ! ご、ごめんなさい。あまりにも美味しそうに食べるもんだからついみとれてしまって……そんなに美味しいですか?」
「くそうめぇよ! なんだ食べたことないのか~? 冷めないうちに食ってみ?」
「いや、ありますけど……」
天美はゼウスに促されるも渋り、なかなか手をつけようとしない。
「なんだぁ~? じゃあ、おれっちが食わせてやるから口開けとけ」
「……えっ? ――――えぇ~~~っ!!!」
「ほれほれ、口を上にして大きく開けろ、ふーふーっ……ほれ、あーん」
「あ、あ~~ん」
ゼウスは彼女のために熱いラーメンに息を吹きかけてさますと、口に運んであげた。
「もぐもぐ……もぐもぐ」
「どうだ……上手いだろ?」
「おいちぃ~幸せぇ~~……はっ! ――――じゃなくてっ!」
「えっ、まずかったか?」
「い――いやいやいやとんでもない! ゼウスさんにあーんしてもらえるなんてイっちゃ……コホン。とっても美味しかったです」
「だろぉ? こんなに旨いんだから食わなきゃ損だろ? 遠慮せずに食え食え」
ゼウスは彼女の言葉を聞くと、頬を緩め目の前のラーメンを食べるように勧めた。
「くっ――確かに美味しい。美味しいんですけど……あの、ゼウスさんはこの味が好きなんですか?」
「ん~? あぁ、そうだよ? だってうめぇもん!」
「……へぇーやっぱりそうなんだ」
「ん? なんか言ったか??」
「い、いえいえ何でもないですっ! ……チキショーっ!!!」
彼女は手をぶんぶん振りながら否定すると、ヤケクソ気味にラーメンの器を一気に傾けてスープを飲もうとした。
「お、おいおいそんな一気にいったら――――」
「――――ぶっはぁっ!!! っぉっほケッホッ!」
ゼウスが忠告しようとしたが既に後の祭りであった。彼女は熱いスープを一気に口に流し込んだことで大きくむせ返ると、盛大に吹き出してしまった。
「あ~ほら、言わんこっちゃない。あーあ、せっかくの可愛い顔が台無しだぞ~じっとしてろ」
「あっ、んっ――ん~~!」
ゼウスはラーメンの汁まみれになった天美の顔を、手元のおしぼりで丁寧に拭き取ってあげた。
「よぉ~し、これで綺麗になったな!」
「あ、ありがとです。ゼウスさん」
「良いってことよ。だが、次からは気をつけろよ~? いくら旨いからってそんなにがっついたらダメだぞ。ささっ、食べるぞ!」
ゼウスは再び食事を再開した。その隣で天美は、暫くの間彼の横顔を愛おしそうに見つめる。
「ん~? どうした、なんか俺の顔についてるか?」
「い――いえ……これ拭かなきゃですね。モップ取ってきます」
彼女は頬を赤らめると、店の奥に駆け足で行ってしまった。
「なんか随分と面白いこ娘だなぁ~おっちゃん?」
「――えっ!? あ、あぁそうだな。千裕ちゃんは美味しいラーメンが作りたくて全国を旅してるみたいなんだが、たまたま偶然うちの店を見つけたみたいでさ。ここのラーメンを食べてうちに修行をしに来てるんだよ」
一連の出来事を黙って見ていた店主はゼウスの不意な振りに一瞬驚いたが、彼女の経緯を淡々と話した。
「ほぇ~すごいな! いつからここに?」
「そうだな~……ちょうど、あんちゃんが初めて来たすぐ後くらいからかな? 急だったからビックリしたけど、あの娘が手伝ってくれたお陰で店構えも綺麗に出来たんだ」
「へぇー、マジで最近じゃん? なるほどね~そっかー。美味しいラーメンを作りにね~ふ~ん。いやぁ応援したくなるなぁ? それに、あちこち回ってるならうんまいラーメン作りの経験値めっちゃありそうやん!」
「あ、あぁ。とても健気で良い娘だよ。ただ……」
「ん? ただ、なんだよ??」
店主は厨房裏をチラチラと気にしながら、ゼウスの近くに立つと
「(……まだ、ちょっと厨房に立たせるには修業が必要かな? はははは……)」
と、ゼウスに耳打ちをした。
「(そうなのか?)」
「(あ、あぁ……とんでもねぇんだ)」
「(とんでもねぇって、おっぱいがか?)」
「(あぁ~、なかなか良いおっ――じゃなくて! ラーメンだよラーメン! 自慢じゃねぇが、俺は昔から胃袋は強くてな。どんな激辛なもんやゲテモノのゲロマズのもんを食べても問題ないんだが、この子のは次元が違――)」
「二人とも、何を話しているんですか??」
モップを取ってきた彼女は、ゼウスと店主がヒソヒソ話をしているのが気になり下から覗き込むように聞いてきた。
((か、可愛い))
二人は天美の可愛さに一瞬見とれてしまうも、内容を知られないように慌てて誤魔化した。
「い――いやいや何でもないよ! あんちゃんがさ、千裕ちゃんのラーメン早く食べたいなぁって言ってたからさぁ! ――なっ? そうだよなっ!?」
「あ、あたぼーよっ!」
「本当ですかっ!!! ゼウスさんがそんなこと言ってくれるなんて、うわぁ~嬉しいなぁ~。あ、でも――」
千裕は彼の言葉を聞いて目をキラキラと輝かせながらはしゃいだが、胸に手を当てると不安な表情を浮かべ、
「ごめんなさい。すごくすっごく嬉しいんですけど私、料理が全然ダメなんですよね。美味しいラーメン作りたいんですけど、まだまだ全然上手くいかなくて。才能ないのかなって?」
と言うと、シュンと落ち込んでしまった。
そんな彼女を見たゼウスは、
「へ~そっかー。まぁ、おれっちは有能だから出来ないやつの気持ちなんか全然分かんねぇけどさ、最初は上手くいかねえことのほうが多いよな普通は!」
「そう、ですか?」
「おうよ! おれっちの嫁――というか、『ガールフレンド』も料理下手くそなんだけどさぁ。でも、しょうがないかなって思うのよねー」
「ガール、フレンド? そう、なんですか?」
「そうそう! 俺もこの前初めて作ってみてわかったんだけどさ。料理って結構難しいのよね~。得意不得意もあるかもだし」
「ゼウスさん……でも、美味しくないと食べてすらもらえないから」
彼女はゼウスの励ましを受けるも、重い表情は浮かべてうつ向いてしまう。
「それは、なぁ? ……でもさ、最近思うんだけど、もちろん飯は旨いにこしたことはないけどさ。誰かが一生懸命作ってくれて、気持ちが込もってんならそれは単に旨い料理よりも、もっとずっと価値があるんじゃないかなって?」
「……っ」
彼女はゼウスのその言葉を聞くと、顔を上げた。
「それにな、おっちゃんのこのラーメンはマジで上手いからさ! そんな簡単に再現できるとは思えねぇんだよな~俺は。でもさ、諦めたらそこから前に進むことって絶対ないじゃん?? だから、トライし続けるってのが大事だと思うんだよなー俺は。あっ、これ恋愛も同じねっwww!」
「ゼウスさん……そう、ですよね。うん、きっと――そうだよねっ! 私、いつかあなたに美味しいラーメンを食べて貰えるように頑張ります!」
落ち込んでいた天美だったが、彼女はゼウスの言葉を聞くと何回も頷き、吹っ切れたのか清々しい笑顔をゼウスに見せていた。
「おうっ、その意気だっ!! お前なかなか素直で可愛いやつだなぁ~よしよし、特別におれっちが撫でてやろう」
「――っ! うぅ~、えへへぇ~」
思いがけないゼウスの行動に一瞬驚いた彼女だったが、撫でられるとすぐに、まるで愛でられる小動物のようにされるがままにされ、恍惚な表情を浮かべた。
そんな彼女の様子を見た店主は
(えっ!? 千裕ちゃん、いつもムスッとしてるのにあんな顔もするのか。……やっぱ、あんちゃんはすげえや!)
と、改めてゼウスのことを只者じゃないと感じていた。
「へへっ、ほんと可愛い娘だな~! よぉ~し俺もなんか元気でたぞいっ! ありがとな! じゃぁおれっちはこれからイベントがあるからそろそろ行くわ!」
「あっ……」
ゼウスがそう言って手を頭から離すと、天美は名残惜しそうにする。
「ははっ、またすぐ来るからよっ! そんな顔すんなよ」
「はぃ~。絶対、絶対またすぐに来てくださいね!」
「りょw! じゃあ、飯代はっと」
ゼウスががま口の財布を開けると、店主はそれを制止して
「なーにいってんだ! あんちゃんは未来永劫タダでいいさっ! 払わなくていいぞ!」
と言った。
「そ、そうかー? いやでもそれはさすがに……あっ! じゃあ『ツケ』で! 俺一回、こういうの言ってみたかったんだよね! なんか常連ぽくてかっこよくねw?」
「ほんとにあんちゃんは、じゃあ、『ツケ』な! またいつでも来てくれ!」
「おう! 千裕ちゃんもまたな。次来るときまでに、腕を磨いとけよ!」
「はぃっ!」
「よっしゃ、その心意気や良し! じゃなっ!」
ゼウスは二人に手を上げて別れを告げると店を出ていった。
………………
~帰り道にて~
「いやぁ~上手かった! やっぱり神だわあの店」
ゼウスは満足げに腹をさすると、頬を緩める。
「それに、あんな可愛い子が働いてるなんてなw。頑張ってて良い子そうだったし、おれっちのためにラーメン作ってくれるとか。なんかこう――胸が熱くなるなwwwぐふふwww。あの子絶対俺に気があるだろこれ?」
彼は手を口に当てると不気味に笑う。
「でも、あの子な~んか初めて会ったって感じじゃないんだよなぁ? 何だろう、、、初対面のはずなのに仕草とか雰囲気とか他人に思えねんだよなぁ――――はっ!! もしかして、もしかすると、これがいわゆる『運命の出会い』ってやつかぁ!? おいおいwwwまさかここにきてそういう展開きちゃう?」
ゼウスは勝手に一人で盛り上がり――
(ヘラよ。お前には悪いが、おれっちは千裕ちゃんとキャッキャウフフさせてもらうぜw)
と、またもや浮気をしてしまっていた。
………………
ゼウスの帰った後しばらく戸を見つめ続けていた千裕は、拳をぐっとにぎると
「よしっ!」
と、気合をいれた。
「いやぁ~、千裕ちゃんがあんな笑顔になるなんて、おじさんしらなかったよ~。これからも接客はあんな感じで頼むよ!」
「――――は??? なにそれ意味わかんないんだけど、調子こいてんじゃないわよ死にたいの?」
「えっ……」
店主は彼女の豹変ぶりに、一瞬背筋が凍る。
「あたしの笑顔はそんなに安くないんだけど、軽くみないでもらえる?」
(え、えぇ~)
「なに? なんか文句でもあんの?? ビンタぶちかますわよ?」
「い、いや。ははは……じ、自由にやるのが一番だよね!」
「ふんっ!」
(またいつもの調子になっちゃったよ。この子、ほんと何考えてるのかわからん)
店主はガックリと肩を落とすと、仕込みの最終確認をしに厨房へ向かうが
「……ねぇ、おじさん。ラーメンの作り方もっと教えなさいよ! あたし、絶対美味しいラーメン作らなきゃなんだからっ!」
と、天美に引き止められた。
「えっ、でもこれから営業時間――」
「そんなの毛ほども興味ないんですけどっ! 早く作り方教えてよ!」
「でも、頻繁にお店閉めてたら御客さん来なくなっちゃうし……それに、このままじゃおじさん食いっぱぐれちまうよ」
「はいぃ~? その辺に生えてる草でも食っときなさいよっ!」
「そんな無茶な――」
「ごちゃごちゃごちゃごちゃうるさいのよアンタはっ! 言うこと聞かないなら、問答無用でこの店粉々に破壊するけど――」
彼女はそう言うと、拳を強く握りしめて目の前のテーブルを破壊し、高々と上げて見せた。
「い――いやいやいやいやちょっと待ってっ! 待って!」
「何よ?」
「いや、、、今日はもう店仕舞いするかぁwww」
「ふん、分かればいいのよ分かれば! 手間取らせるんじゃないわよ、このハゲ!」
彼女はそう罵倒の言葉を浴びせかけると料理にとりかかった。
(はぁ、今日も開店出来ないか。ヤバイ娘を雇っちゃったなぁ……保険きくのかなぁこれ?)
店主は無残に割れたテーブルを見て肝を冷やすと、なくなく天美の言うことに従った。
この後彼は、明け方までラーメン作りを教えさせられたという……。
………………




