第三十二話 水魚の交わり 前編(挿絵あり)
※大幅な修正の必要あり(2022年現在)
修正が完了したら前書きの文言を消します(前書きのないものは基本的に修正の必要なしです)。それまでは隙間時間でちょこちょこ修正するので、修正完了版のみ読みたい方は前書きの有無で判断してください。よろしくお願いします。
「はっはぁ~ん、連絡先交換しちまったぜよwww」
ゼウスは冷めやらぬ興奮を胸に、ウキウキな気持ちで家に向かっていた。正確には交換ではなく一方的に連絡先を渡しただけなのだが、そんなことは些細なことだった。
「トーマはなかなか見込みのあるやつだよなぁ。あんなに話が合うやつは初めてかもしれん。メールいつ来るかなー。ひょっとしたらもう送ってるかな? きっとそうに違いない、うん。きっとそうだ」
家に帰ってパソコンを開けばメールが来ていると、ゼウスは確信していた。
「はぁ~。テンションが上がったらなんか、腹が減ってきやがったなぁ。あっ!」
一瞬立ち止まると何かを思いついたゼウスは、帰る方向とは別の方向に歩き出した。
「すっかり忘れてたわ~。また行くって言ったのに『ゼウスラーメン』に行ってなかった。ちょっくら行ってみっか。おっちゃん元気にしてっかな?」
二週間ぶりのゼウスラーメンに彼は胸をワクワクさせながら、来た道を戻っていった。
………………
(確かこの辺じゃなかったか。えーっと、んん~あれっ――)
おぼろげな記憶を懸命に探りながら彼のラーメン屋の場所へとたどり着いたゼウス。だが、そこには記憶にないもの――色鮮やかでド派手な外観の店――が存在していた。
「ここ、だったよね? おいおい、なんか外装がすげぇパンクでヒップホップなんだがw。つぶれて新しい店が出来たんじゃねぇよな?」
ゼウスは記憶の中の地味な店と目の前の派手な店を比べると、そのあまりの違いに一瞬自分の目を疑ってしまっていた。
全体的に黒ずみ汚れていた看板は艶と光沢のある赤色に塗り直されており、くすんでいた『ゼウスラーメン』のロゴもまた、ひどくギラついていた。
「他に店はないし、ここしかねぇよな? このバリバリ著作権侵害の店名は変わってねぇしw。ま、大丈夫だろ! それよりも、、、」
ゼウスは再度周りを見渡して確認をすると、自らの名前が冠されたロゴを見て目を細めた。続いて入り口に吊るされた札に目を移し、顔を曇らせる。
「なんだよ『準備中』って! 24時間やってないんかーいっ! 今時普通24時間営業だろwww常識的に考えて? おっちゃんもたるんでんな~。そんなことじゃこの厳しい競争社会で勝ち残っていけないぞぉ。まっ、いいけどねー別に。だってVIP待遇で神のおれっちには関係ないからさ」
ゼウスは準備中と書かれた札をガン無視すると、戸を勢いよく開けた。
「んちょりぃぃぃいいいっす! あじゃじゃ~すしゃっす!」
「えっ!? 御客さんまだ――ぁ……」
ゼウスがやかましい挨拶と共に中に入ると、そこには長い栗色の髪をした少女が布巾を片手に驚きの表情を浮かべていた。
(おぉぉっなんか俺好みのロリッ子美少女がいるぞいやぁっ!)
ゼウスは好みド直球の彼女に興奮すると、思わず胸の前で渾身のガッツポーズをした。
「ぁ……あ、あ、あのっいらっしゃいませっ――んぶっ!」
そんなゼウスを見た彼女は慌てて挨拶と共に大きく頭を下げると、勢い余って目の前のテーブルに額を強打してしまった。
普通ならテーブルに傷はつかないが、なんと彼女の頭突きによりテーブルは真っ二つに割れていた。その光景のあまりの衝撃にゼウスは圧倒され
「――ぇえっ!? だ、大丈夫か?」
と、激しく狼狽する。
「ぃたぁい……はっ! だ、だいひょぶだいひょぶ~」
彼女は蚊の鳴くような小さな声で痛みを口に出したが、すぐに何かを思い出したのか赤くなったおでこを急いで両手で隠すと、涙目になりながらもゼウスに精一杯の微笑みをかけていた。
「い、いやいや。大丈夫ってめちゃくちゃ痛そうじゃん。それに、修復不可能なレベルでテーブルぶっ壊れてるんだけど……」
ゼウスはまるでショットガンをぶち込んだかのように無残に大破したテーブルを控えめに見ると、冷や汗をかいた。
「こ、こんなのよくあることですよ~えへへっ」
「よくあることっ!? そ、そうなの!? ふ、ふ~ん……ま、まぁ元気があるのはいいことだよね!」
ゼウスは少女のとんでもない石頭に少し引きつつも、彼女の可愛らしい笑顔を見るとすぐにそのことは気にならなくなっていた。
そして改めて彼女の容姿にいやらしい目を向けると――ニヤリと口角を上げた。
(素晴らしい。まさにおれっちの求めていた理想の女子に相応しい。実に良い)
「な、なんですかっ? そ、そんなに見つめられると、恥ずかしいです~」
ゼウスは恥ずかしがって身体を隠そうとする彼女に対してまぶたをカッと開くと、舐め回すようにその肢体を品定めし、大きく鼻の下を伸ばした。
(ゲヘヘヘ、この娘。顔も悪くないが、よく見るとオッパイもなかなかええもん持っとるやんけw! ふむ、なるほど。これが同人誌でよく見る『ロリ巨乳』ってやつか……まぁ、そんなことはどうでもいい! 大事なのは一に顔! 二に体! 三は俺様に対する奉仕の心よw)
ゼウスは彼女の豊満な体つきをネットリと見つめて鼻息を荒くすると、急に早歩きで近づき――
「お、おいっす~オラ、ゼウス!」
と、ウィンクを二度三度しながら声をかけた。
「あ、あの……そのぉ」
彼女はそんな彼に頬を染めると、少し後ずさりして距離をとる――が、空気の読めないゼウスは
「お、おいおい。怪しいもんじゃねぇから怖がんなっ!」
と慌てて追いかける。だが彼女もゼウスがまた近づけば。それに応じて少し距離をとろうとする。そんな行為が何回か繰り返さてついには――
「ごめんなさいごめんなさい、恥ずかしいです~! そんなに近づいちゃダメですダメです! あっ」
と彼女は詰め寄るゼウスに対して謝りながら再び離れるも、背後に壁があり逃げ場がないことに気がつく。
「はっはっは! もう逃げられないぞ~子猫ちゃん~?」
ゼウスは目の前で両手の指をわちゃわちゃさせて抑え込もうとしたが、それより先に彼女は
「――ふ、ふみゅ」
というと、頬っぺたを真っ赤にして縮こまってしまった。
(おいおいどうしたんだよこの娘、急に屈んじまって。もしかして、あまりのおれっちの格好良さにときめいちゃったんか! 可愛いすぎワロタwwwこれだよこれこれ! 俺様が求めてたのはこういう純情な娘なんだよ)
ゼウスは自分にとって都合の良い解釈をし、一人で盛り上がっていた。するとしばらくして厨房の奥から
「物凄い音がしたけど、大丈夫か千裕ちゃ――おぉっ!!! あんちゃんじゃねぇかっ!」
という声と共に、彼が待ち望んでいた男がひょっこりと姿を現した。
「よぉ~おっちゃんお久しブリブリうんちっち!!!」
「やっと来てくれたか! あんちゃんから軍資金もらったおかげでな、お客さんも前より少し増えたんだよ!」
「おぉ~へへっ。そっか~そりゃあ良かったなぁ! あ、そうだおっちゃん」
「ん?」
「あの縮こまっている可愛い子はどうしたの?」
「あー、その子は――――」
店主がゼウスに紹介しようとしたその時、少女は
「か、かかかかわいいっ!? ほ、本当ですかぁ? デュフフwww嬉しいなぁ~」
と店主の言葉を遮ってゼウスの前に身を乗り出した。
「お、おう。元気な娘だなw。名前はなんていうの?」
「名前って、そんなのヘ――――おほんっ。……天美千裕と言います」
「へー、良い名前じゃん! 千裕ちゃんか~名前も可愛いなんてズルイぞ!」
「きゃ~~ありがとうございますっ! とっても、とっても嬉しいですっ!!!」
天美はゼウスに褒められると黄色い悲鳴にも似た声を出して、体全体を大きく揺らして喜びを表した。
(千裕ちゃん、なんかやけにテンション高いなー。いつもと大違いだ)
店主は彼女の異変に気づいていたが、特に何も言えずにいた。
「ちな、おれっちは加藤ゼウス! ふっ、カッコいいだろ?」
「加藤、ゼウスさん……とっても格好いいです! 格好良すぎて好きになっちゃいそうです」
「だ、だろぉ? よくわかってるじゃねぇか!」
ゼウスは予想外の反応に一瞬戸惑うも、彼女の好意にテンションが上がる。
「ぅおっちゃん、またあのラーメン食わしてくれよ! 千裕ちゃんにもな!」
「えっ、いらな――でも私」
「いいからいいからっ一緒に食おうぜ! おっちゃん例のラーメン二つ!」
「おぉ、そろそろ店を開けるところだったんだ! 是非食べていってくれ。千裕ちゃんも待っててな!」
「あ、、、はい」
………………




