第三十一話 朋友 後編
※大幅な修正の必要あり(2022年現在)
修正が完了したら前書きの文言を消します(前書きのないものは基本的に修正の必要なしです)。それまでは隙間時間でちょこちょこ修正するので、修正完了版のみ読みたい方は前書きの有無で判断してください。よろしくお願いします。
「今時、珍しいくらい良いやつだなぁオヤジ?」
「……あぁ」
ゼウスは同意を求めるアレスのほうは向かずに、ずっとトーマの後ろ姿を見つめていた。
「――さて、俺もバイトしないとな~。おい、オヤ――――っ!?」
「……にゅふっふふふっ『ゼックン』かー。いやぁ~、あだ名って初めてつけられたけどいいもんだなぁ? ったくしょうがねぇなぁ~ほんと、馴れ馴れしいやつだよあいつは!」
(うわぁ~、きんもい顔しちゃってまぁ……。あだ名なんて、天界にいたときにも『ヤリ髭』とか『エロ髭』とかぼろくそなやつ既につけられてたですやん。……あーでも、確かにまともなのは今回が初か?)
アレスは、隣で気持ち悪いほど緩みきった顔で大袈裟にはしゃぐ父の姿に少し引きつつも、このようになってしまうのもある種仕方がないことだと妙に納得する。
「おいっオヤジ! オヤーーージ帰ってこ~いw」
アレスはゼウスの目の前で手を振ったり大声で呼び掛けるも、彼は浮わついた顔でフラフラするばかりでまるで反応がない。
「……おいこらとっとと戻ってこいや! ――おらっ!!」
アレスは、呆けているまぬけな顔のゼウスに少し苛立ちをおぼえると、彼の頬に少し力を入れてビンタをした。
「ゲヘヘヘ~――――デュンッ!!! ……ってぇなぁ! 何すんだよ極悪人!」
「いや、オヤジがトリップしているみたいだったからさ。助けてやろうと思ってなwww。戻ってきたか~?」
「――あ、あぁそうかすまんすまん。……いやー、今一瞬天界に戻りかけてたわーw」
「それはよーござんしたw。……なぁ、ところでさぁオヤジ」
「あー? 何だよ、そんな合格発表前の受験生みたいな重々しい顔しやがって?」
「どんな顔だよwww。……いやさ、トーマすげぇいいやつっぽいしさ。友達になれそうなのはいいと思うんだけどよー」
「だよなぁ、あいつ最高だわ! これもう『親友』と言っても過言ではないよね?」
「うーん、そうかもしれませんね~『あなたの中ではね』」
「――は? おまっ、我々の清き友情にケチつける気かぁっ!?」
「いやw……別にそういう訳ではないけど……一つだけ気になってるっていうか」
「あ? 何がだよカス??」
ゼウスはポケットに手を突っ込むと、アレスの顔を下から覗き込むように見上げながら彼の言葉を待った。
「何であんたは普通に会話が出来ないんだよw。……いやさぁ、オヤジのためを思って言うけどさー、これから一緒に遊んだりするならさぁ――『その格好』はヤバイんじゃない? マジで『友達なくす未来』しかみえない……」
「えっ……うそっ!? ……そうかなぁ? 別に何もおかしなところなくね?」
ゼウスはアレスに真面目な口調で指摘されると急に不安になったのか、体のあちこちをチェックしだした。……だが、本人からすればこれといっておかしなところは何一つ見つからない。
「いやいやいや、おかしなところしかないだろwww。せめて新しいメガネとか服とかさー、いろいろ買って身だしなみを整えたほうがいいぞ? ――ほら、俺こんなに金いらないからさっ」
そう言うとアレスは、ゼウスから先程もらった百万のうち半分の五十万をゼウスに返した。
「――えっ、おま……だってこの金は」
「いやぁ、俺みたいな学生がそんなに大金もらってもロクな事にはならねぇしw。それに、意外と身の回りのもんきっちり揃えようと思ったら金がかかるもんだからな」
「アレスお前――――何、いい子ぶってんだ極悪人w!」
「ん~台無しだよオヤジ殿w。そこはさー、息子の優しさと愛を汲み取って感動するシーンのはずなんですが、なんでそうなるのかなーほんと? 不思議だなー」
「だよなぁ? 世の中不思議なことだらけだよなっ!」
「俺はあんたのその頭が一番不思議でならないよ……まぁいいや! とりあえず御託はいいからほらっ、さっさと買いにいったいった!」
「――うぉっ!」
アレスはゼウスを買い物に向かわせようと背中を強く押しだしてやった。だがゼウスはすぐさま彼のほうに振り返ると、不服の表情を浮かべる。
「……えぇ~でも、おれっち今まで服とかあんまり着たことないから、最近の流行とかわかんねぇんだが。とりあえず、ファンシーでヒップホップな感じにしとけばええのん?」
「あー確かに天界じゃあパンツ一丁がデフォルトだもんなw。……んー、トーマはそんなに流行とか服装とか気にしなさそうだから……最悪、後回しでもいいかもな。服は今度姉ちゃんにでも選んでもらえよ。俺も正直、最近の流行りとかは分かんねぇからさ」
「確かになー、アテナならなんとかしてくれそうw」
「そうそう。だが、それよりもっ問題はそっちだ!」
アレスはそう言うと、人差し指をゼウスの曲がりに曲がったメガネにビシィッと突きつけた。
「えっ! 何だよ俺の鼻になんかついてっか?」
「違う違うそれ――そのメガネだよ!」
「メガネって――こいつか?」
ゼウスは眼鏡を外すと目を細め、手元のそれを凝視した。
「それそれ。それしてるとさー、マジで人相悪くて印象最悪だよ? 明らかにヤバイやつって一目で分かるもんwww」
「えぇ~いいよーこのままでー。変えるのめんどくさいし……」
「いいのか? 友達になれそうなやつを失うことになっても?」
「……わぁーったよ、行けばいいんだろ行けば!」
「何で『しかたねぇなこいつは……』みたいになってんだよw。オヤジのためだからな……まぁいいや。メガネ屋はこの店を出て右に行った……ほら、オヤジが『約束をすっぽかしたあの公園』をさらに先に行ったところにあるから」
アレスは少し皮肉を込めて、ゼウスにメガネ屋の方向を指で示した。
「へー、この先を真っ直ぐか。……うわぁ~、お前まだ根に持ってんの? 相変わらず金たまの小せぇ野郎だな!」
「うるせぇよwww。……ちょっと待って今あそこやってたっけ? えーっと……今からだと――」
「……どうだアレス?」
「あぁ~残念、今日はだめだなぁ。そろそろ閉まっちゃうみたいだ」
アレスはスマートフォンに指を軽快に滑らせながら検索すると、そうつぶやいた。
「そうか……そしたらどうすっかな~」
「早いほうがいいから、明日いっとけよ! もしかしたら今日中には遊びのお誘いがくるかもだからさ? このこの~w」
アレスはニヤニヤすると、ゼウスの腰のあたりを肘でつついた。
「――えっ! あっ、そ――そうかなw! お前もそう思う?」
「あ――うん……まぁ、あるかもね?」
アレスは内心絶対ないと思っていたが予想以上に嬉しそうに喜ぶ父の手前、本音を伝えることは出来なかった。
「だよなぁ~分かった。 そしたら明日行くわ!」
「おう、そうか。まぁ、楽しくやれよ!」
「あたりめーだタコwww……いろいろありがとなアレス!」
「言うまでもないかw。――おう! じゃあ俺バイトだから、またなっ!」
「うぃ~頑張れよクソガキ!!」
「当たり前だクソオヤジ! 気を付けて帰れよ!」
「おっすおっす!」
ゼウスは朗らかな笑顔で二回頷くと、大股で帰っていった。アレスはそんな彼を
(ははは、オヤジのやつすげぇ嬉しそうだな……良かったなーオヤジ)
と思いながら、姿が見えなくなるまで見送るつもりでいた。
だが、そうはさせまいとするようにすぐに後ろから誰かに肩を叩かれ
「……アレス君……ちょっといいかな?」
と声をかけられていた。
「――あ? 何だよ?? 今オヤジを見送ってる最中だっての……に――」
アレスは邪魔をされた気分になると声をかけられた方に睨みをきかせて威嚇したが、さらに自分の上をいく睨みをきかせられていたことに気がつき――その場で凍り付く。
「うっ――て、店長……」
「……やぁ、アレス君。調子はどうだい、ん?? 君はさぁ~鶏かなにかなのかなぁ、え?? 昨日僕が言ったこと――覚えてるかい?」
「は、はははっは~。こぉ~コケーェッコッコォーーwwwなんつってー……すみませんでした」
混乱し動揺したアレスは、とっさに頭の上で鶏のとさかのジェスチャーをしてごまかそうとしたが、そんな冗談が通じる相手ではないことを悟ると素直に謝罪していた。
こうしてアレスは、またもや店長に厳しく指導されこってり絞られたという……。
………………




