第三十話 朋友 中編
※大幅な修正の必要あり(2022年現在)
修正が完了したら前書きの文言を消します(前書きのないものは基本的に修正の必要なしです)。それまでは隙間時間でちょこちょこ修正するので、修正完了版のみ読みたい方は前書きの有無で判断してください。よろしくお願いします。
「……はい。それが僕の名前です」
皐月は力強い眼差しをゼウスに向けると、そう口にした。
「お――おう。……皐月トーマかぁ~ふーん。なかなか良い名前じゃん! ――な、アレス?」
「おっ、そうだな。カッコいいと思うぞ!」
「ははは……ありがとう」
皐月は二人からの称賛を受け、恥ずかしそうに視線をそらすと力なく笑っていた。
「あ――ちなみに、俺はアレス。気軽にアレスって呼んでくれ! 仲良くしてくれよなっ!」
「あ、うん……よろしくね二人共!」
((……ふぅ))
皐月はそう言うと再び愛らしい表情を見せ、二人を魅了していた。
「……反則じゃねこの可愛さ? 見れば見るほどおしい、実に!」
「オヤジの言う通りだわ。俺の大学にも可愛い子は結構いるんだけど、この子は段違いだわw」
「うぅ……二人共~顔をそんなに近づけないでください」
「ご、ごめんごめん。またやっちまったw――ほら、オヤジもその気持ち悪い顔とっとと離せよ!」
「あっ――おいっ!」
ゼウスはアレスに首根っこをつかまれると、皐月から引き離された。
「アレスてめぇ! 何この俺様の身体的自由に制限かけてくれてんの? まだ見てたのにっ!」
「あのなぁ……その子は可愛くても『男』なんだぞ? いい加減諦めろよオヤジ」
「そうだけど……そうだけどさぁ! ……ぐぬぬぬ!」
ゼウスはアレスにたしなめられると、爪を噛んで悔しがった。しかし彼は
「――チェッ! せっかくワンチャンあるかもって期待したのに! どうしてくれんだこの男女男!」
とようやく禁断の恋が実らないことを受け入れたものの、今度は腹いせに皐月に八つ当たりしだした。
「……ほんとごめんなさい」
「何期待してんだよオヤジw。――いやいや、君は何も悪くないよ! この人の表現は何でもかんでも誇張しすぎだから気にしなくて大丈夫。この人、巷では『拡大解釈被害妄想ホラ吹きオヤジ』って呼ばれてるから」
「あ、ありがとです。そ――そうなんですか?」
「ちょっと待てwww何だよそれは初耳なんですが? 聞き捨てならねぇんだけど! 調子こくなよこのクソガキやぁっ!!!」
ゼウスはアレスの言葉を聞くや否や納得出来ずに胸ぐらを掴むと、怒りの言葉を浴びせかける。
「――ぐっ……たくあんたはほんとw。あのさぁ……そもそも皐月君はオヤジをあのやべぇオタクから守ってくれたんだぞ? まずはそのことについて感謝を言わなくちゃじゃね?」
「……言われてみれば確かに」
「あ、そこは自覚があったんだw」
「……ふんっ!」
ゼウスはアレスを突き放すと、皐月に向き合った。
「その……あんときはありがとよ」
「ううん、気にしないで! あの人の言い方がひどいなって思って……そしたらいてもたってもいられなくて」
「そうか。……いや、あいつの言うことも一理あるなと思ってるんだ。おれっちはもえみちゃんへの愛では誰にも負けてないが、圧倒的に知識が足りてなかったのは事実だ。ふっ……あんなキモオタに教えられるなんて思わなかったけどな!」
「ふふっ、君ならすぐにもえみちゃんマスターになれるよ!」
「お前……すげぇ良いやつだなぁw! もしかしてお前もおれっちとまではいかないまでも、もえみちゃんのファンなのか?」
「うんっ、そうなんだ! あの作品のキャラクターはみんな個性的で作品全体としても完成度が高くて大好きなんだっ!!!」
皐月はもえみちゃんの話題になると、目をキラキラと輝かせ親指を立てた。
「……ほう、やるねぇw? おれっちはアニメから入ったんだけどお前は??」
「――あっ、僕も僕も~っ! 深夜に何気なくテレビつけたらやっててさ~それが、あの有名な7話だったんだよ! ……懐かしいなぁ~今から三年くらい前だよね? もう僕、あれからすっかりもえみちゃんにはまっちゃってさぁ!」
まだあどけなさが残る少年はピョンピョンとはしゃぎながら心を踊らせると、楽しそうにゼウスに語る。
「あっ! お前、あれリアルタイムで観てたのか! うらやましいやつ~。……はいはい、あの『惨劇の7話』ねぇ……あれは衝撃的展開だったよな! おれっちは十日前くらいに初めてもえみちゃんのアニメを観たんだけどさ。あの展開を見せられたときは正直、脚本家を張り倒したくなったんだよなぁ~。まさかあいつがあそこで死ぬなんて……」
「ほんとタイミングが良かったなって思ってるよ~。あ~分かる分かる! 僕も一話から見直して、君と同じ気持ちになったよ~。……でもさ、あれがあったから18話に繋がったって思わない?」
「あ~あの『伝説の18話』ね~。あの回はもう二十回以上は観たかなぁ? 作画も凄くてさ! なんかこう上手く言えねぇけど、戦闘シーンもドヒャーがびゅびゅ~んで、どんがらがっしゃんぅぇ~いって感じなんだよね!」
二人は自分たちの世界に入り込むと夢中で話を続けた。だが、アニメの話で盛り上がっていく様をおいてけぼりな気持ちで見ていたアレスは
(……何これ? いやいや、マジで何言ってんだこいつら?? つーかオヤジの表現雑すぎだろwww。就活だったら一発アウトだわw)
と、感じていた。
「――うんうんっ分かる分かる! ははっ、ほんとそんなかんじだから困る」
「だよな! いやぁ、同志がいたとは思いませんでしたぞwww」
ゼウスは人間界に来てから一番ともいえる笑顔を浮かべると楽しそうに相槌を打つ。
(えーっ! 嘘だろ……あんな幼稚な説明で分かっちゃうのかよ。……さっきの本気のオタクもやばかったけど、俺から言わせればこいつらも十分やべぇんだけどw。――ってか、いつまで続くのこの話? そろそろバイトしないと、店長にバレたら……)
時計の針を見たアレスは刻一刻と過ぎ去っていく時間に不安と焦りを募らせる。
「こういう話が出来るなんてとっても嬉しいよ……今まで誰ともしたことなかったから」
「俺もだわwwwお前なかなか話の分かるやつだな! でも最終回のさぁ――」
「うんうんっ!」
「……あ、あの~盛り上がっているところ私事で大変恐縮なのですが――」
アレスはついに我慢できず、盛り上がっている二人の会話を申し訳なさそうに遮った。
「――あ? 何だよ、そんな『最終面接までいったけど落ちたときの就活生』みたいな顔して」
「どんな顔だよwww。ってかやめて! 縁起でもないから、変な負の暗示かけるのやめて!」
「ワロタwwwほんとにお前はどうしようもねぇガキだなぁ? ……あんだよ私事って? 今こいつと、スゲー話盛り上がってたのに……水をさすなよと俺はお前に釘をさしたい」
「お、おう……じゃなくて! あのさぁ俺、そろそろバイト入らないとなんだよね……ははは」
「本当に私事でワロタwww。アレスってほんと自分中心だよな! お前を中心に世界が回ってるわけじゃないんだけど、勘違いしないで?」
(うっぜぇっーーー!!!)
「あ? 何だよ?? またおれっちとバトりたいのか?」
「それは冗談抜きで本当に勘弁してください」
「じゃあなんだよ?」
「……いや、俺は戻るけどさ。話すなら立ち話じゃなくて、どっか喫茶店かなんかでやったほうがいいんじゃないかなって思ってさ」
アレスはティーカップをクイッと傾ける真似をしながら、ゼウスに提案した。
「おー喫茶店か。なんかリア充っぽくていいなそれ!」
「リア充かどうかは知らんけど――そのほうがいいよな皐月君?」
「……あ、ごめんなさい。僕も、もうそろそろ行かないといけないんだよね」
彼はうつむきながら申し訳なさそうにつぶやいた。
「マジかよ……それじゃ仕方がねぇな! 解散解散~!」
「――お、おいオヤジちょっと! せっかくだから連絡先聞いとけよっ!」
アレスは余りにもあっさりとしたゼウスの対応に驚くと、彼を制止する。
「お前……いくらこいつが可愛い顔してるからって、男だぞ? さっきは危うく騙されそうになったけど、一応おれっちは性別でちゃんと線引きくらいしてるんだよなぁ、ホモ骸骨と違って!」
「……へ~、エロオヤジのくせに意外とまともじゃん――じゃなくてっ! せっかく気の合いそうなやつなんだからさっ」
「……たしかに、それもそうだな! ははっ、クソガキのくせにたまには建設的な意見も言えるのな!」
(……この人は素直にありがとうが言えない病気なのかな?)
アレスはもはや自分が罵倒されても怒る気にすらなれないほど、ゼウスに呆れていた。
「……ん~連絡先、かぁ?」
「あれ、オヤジもしかしてスマホ持ってないの?」
「スマホ……あぁ、お前が持ってるそいつね。いや、ハーデスニキからもらってはいるんだけど、あれ画面ちっこくて見づらいんだよなぁ……」
「ハーデスさん有能すぎる、そしてオヤジあんたは……いや、何でもない」
「あ? もっと有能ってか? ガハハハハ!!!」
(……人生楽しいだろうなーこの人)
大笑いするゼウスを見たアレスは、ちょっぴり父の生き方が羨ましいなと思っていた。
「いやさ~、スマホって凄く便利だからオヤジもどうかなって? それに最近は、連絡を取り合うのに『BOIN』っていうSNSアプリがあってさ。めっちゃ使ってるんだけど、これないと生きていけないってくらい便利なんだよ!」
「――ダニィッ!!? 『ボインで連絡を取り合う』だと……? お前、童貞の癖にそんな卑猥なことよくしてるのか……? うらやまけしからん!!!」
ゼウスは鼻の穴をこれでもかと広げて息を荒くすると、興奮してアレスの話に耳を傾けていた。
「いや、単にアプリの名前がおかしいだけで普通のチャットみたいな連絡のやり取りをするだけのやつだよ……」
「チャット……『通チャンネル』の掲示板みたいなやつか? 最近おれっちよく使ってるけど」
「オヤジ通チャンネラーだったのかよ……。ん~、まぁ似たようなもんだけどリアルタイムで連絡がとれるのが便利なんだよね。こんな感じ――」
アレスはまだあまり理解出来ていない父のために、BOINのトーク履歴を見せてあげた。
「……へぇ~。確かに便利そうだけど、ボイン要素皆無でワロタwww。俺の期待を返せ、このオッパイ魔神が!」
ゼウスはそういうとアレスの頭を手のひらで思いっきりはたいた。
「――いってぇ!!! は? 何で善意で教えた俺が頭叩かれなきゃいけないんだよwww意味不明すぎてキレそうwww」
「俺に淡い期待を抱かせたお前が悪い!」
(ただ紹介して見せてあげただけなのに、この人はほんとに……)
「――あ、あのぉ……言いにくいんだけどね」
皐月は二人の会話を見計らって遠慮がちに言葉を発する。
「あ~ん? 何だよ??」
「僕……スマホ持ってないんだよね、ははは……ごめん」
彼は左右の人差し指を合わせながら、もじもじと申し訳なさそうに言った。
それを見たアレスは、
「……あー、そうなのか。じゃあオヤジッ、とりあえずパソコンのメアド教えてやれよ。BOINは皐月君がスマホ持ってからでいいだろ」
と、機転を利かせ別の連絡方法を提案した。
「あー、それなら大丈夫だと思うぞ? ネトゲー登録するときに作ったやつがある!」
ゼウスはアレスの提案を珍しく素直に受け入れると、アレスから渡されたメモの切れ端に自分のアドレスを書いて渡した。
「よろしくな! そのアドレス最近なんかエロサイトから毎日千件くらいメールくるから『トーマ』のメール見つけんのくっそ大変だけどよwww。まぁ、お前なかなか見込みのあるやつだからまた語り合おうぜ!」
「あ――うん……ありがとう」
(うわぁ~どさくさにまぎれて、いきなり下の名前で呼ぶとか……)
アレスはゼウスの馴れ馴れしさに引きつつも
「それじゃオヤジが見逃すかもだし、そしたら電話番号も……いやオヤジが覚えてるわけないか」
と確認する。
「いや、覚えてるぞっ? スマホは知らんけど、家のやつなら!」
「――えぇえっ!? マジかよ……ここ最近で二番目に驚いたわ」
「ハーデスニキがくれたマニュアルに『電話番号は必ず覚えとけ』ってマーカーでアンダーライン引いてあってさ! まさかこんなところで役に立つとは思わなかったけど! ……ちなみに一番は?」
「あー、おじさんはやっぱさすがだわw。一番? そんなんオヤジが地球に来たことに決まってんじゃん」
「……ふーん。あっそw!」
ゼウスは特に興味がなかったのか、アレスの返答に対して素っ気なくそう言った。
(……うわぁ、人に聞いといてこの反応って。オヤジ絶対友達少ないわぁ……てか、いたっけ? ……一人しか思い浮かばんw)
アレスはある男の顔を思い浮かべると、苦笑した。
「電話番号はこれなトーマ! いつでもかけてこいってかすぐかけてこい! 24時間対応してるから! かけなかったらしばく!」
「う、うん……そうだね。電話、してみるよ……ははは」
「おうよ! ……ほんで、極悪人よ! お前はおれっちに電話番号は教えんのか??」
「えっ? ……あぁー、じゃあ一応俺のもオヤジにも教えとくよ」
「ははははwwwしょうがねぇなぁ~! そんなにおれっちと電話してぇとかお前もまだまだ親離れ出来てないのかよ!」
「何でだよ、違うわwww。一応念のためだよ! 例えば昨日の決闘みたいなことが起きないようにさ!」
「照れんなよwww。――あ、そういえば決闘は、どうすんだよ?」
「あー……もういいや。めんどくさくなったし」
「……そうか。――ま、さみしかったりなんかあったら電話してこいよ! おれっちからかけることはないと思うがなwww」
「そんなこと言って、オヤジこそ『何かしらのトラブルに巻き込まれても俺に泣きつくなよ』w? いたずら電話したら即、着信拒否リストに加えるから!」
「だ、誰がお前なんかにかけるかあほー!」
「――あっ、あのっ! えっと……ゼウス君、アレス君」
「あぁん? 何だよ?」
「どうした皐月君?」
皐月はそわそわした様子で二人に話しかけていた。
「えっと、僕そろそろ帰らないと怒られちゃうから……ごめんね!」
「あぁん? 怒られるって誰にだよトーマ?」
「あっ、えーっと……家の人かな? はははは……ごめんねゼウス君。また話そうね!」
「そうなのか~。お前もいろいろ大変なんだなぁ? ……おいおい、君とかつけなくていいぞ~。何てったって俺たちはもう――『友達』だろw? もっとフランクな呼び方でいいぜ?」
「――あっ!」
ゼウスは皐月の肩に手を回すと、耳元でそう囁いた。
「うわぁオヤジ……馴れ馴れしいことこの上ないなw。――あ、俺はアレスでいいぞ! 俺もトーマって呼ぶからな!」
「あ――うん。よろしくねアレス!」
「おう! よろしくなトーマ!」
「はっ! 甘いなぁ~これだから極悪人は困りますねぇっ! 所詮、名前をただ呼ぶだけの関係じゃ真の友情とは言えんだろーよっ! ――なぁなぁと~まぁ、おれっちにはもっといい感じのやつで呼んでくれよ! こんな極悪人と一緒とかやだやだっ!」
「――う、うん。そ、そうだね! う~ん……あっ。……じゃあ『ゼックン』って呼んでもいいかな? なんか今、とっさに頭に浮かんだんだけどダメ――かな?」
皐月はゼウスの顔色を窺いながら遠慮がちにあだ名を提案してみた。
「――――っ!? ……ふ、ふーん。いいんじゃね別にw? まぁ、所詮人間が思いつくレベルなんてそんなもんだろーけどよっ! 仕方ねえからその名前で呼んでくれてもいいぜw? 特別な??」
(うわぁ~めっちゃ早口であんなに……良かったなオヤジ)
アレスは分かりやすすぎるゼウスの態度に少し引きつつも、自分のことの様に喜ばしい気持ちになっていた。
「ふふっ、適当につけちゃったけど喜んでもらえて僕も嬉しいよ。ありがとうゼックン……じゃぁ、僕はこれで。……またね、二人共」
「あぁ……気をつけてなトーマ」
「おう! またなトーマッ!」
「……うん、また」
皐月は二人に向かって小さく手を振ると、そのまま人ごみの中へと消えていった。
………………




