第二十六話 ボッチ飯
「ん~ふぁぁ。よく寝たー」
ゼウスは窓の外から聞こえる子供の遊び声で目を覚ますと、体を目一杯に伸ばした。
「んーぁあ~なんか背中いてぇな。ちょっと寝過ぎたか?」
背中を大きく反ると彼は、目と鼻の先に置かれた時計を手に取った。
「昼かぁ。え~っと……あっ! やっべっ、アレスのことすっかり忘れてたっ!」
寝起きの頭でしばらく時計を見ていた彼は、息子と決闘の約束を交わしていたことを思い出した。
「ま、いっか~w。別に死ぬわけでもないし、それに『世の中自分の思い通りにいくほど甘くない』ってことを知る良い機会になっただろ! ははっ、俺ってやっぱ教育者の鑑なんだよなぁ。そんなことよりっ、腹減らない?」
彼は少しばかりの罪悪感を覚えつつも、腹をポリポリとかきながら起き上がり、冷蔵庫の方に向かっていく。
「今日は何食っちゃおっかな~。このチャーハンとかいうやつでも食ってみるかぁ」
ゼウスは冷凍庫内を見渡すと、冷凍チャーハンの袋を選んだ。そして慣れた手つきでお皿に盛ると、レンジに入れスイッチを押した。
「この電子レンジとかいうマジックアイテムすげえよな~。なんか目に見えないレーザービーム出してるらしいけど、火力調整がマジで絶妙! 俺の魔法だと火力が高過ぎて完璧オーバーキルだからさ~。いやぁ、強すぎるのも問題だねっ!」
ゼウスは誰かが聞いて共感してくれるわけでもなかったが、なんとなく口に出して電子レンジの凄さを力説した。
「まぁ、一番凄いのはなんといってもこの機械を扱える俺様のインテリジェントなところなんだけどねー。やっぱそこは他の神々とは一線を画するところだよなぁ 」
もちろん彼は、自分の有能さを語ることも忘れない。しばらくすると、電子レンジは軽快な音を立てた。
「おっ出来たか。それにしても間抜けな効果音だな」
ゼウスは電子レンジからチャーハンを取り出すと、定番のコーラと共にちゃぶ台の上に置いた。
「ん~それでは、いっただきま~す! うわっチャーハンうまっ! 冷凍食品てすげぇわ。ウンマ~www」
一口食べると彼は満面の笑みを顔中に広げ、さらにもう一口と食べ進めた。
外から聞こえる楽しく賑やかな声とは対照的に、彼のいる部屋にはクーラーが冷風を送り出す微かな音のみが存在していた。ゼウスはやたらと大きな声で派手に冷凍食品を褒めたたえた。まるで、孤独を埋めるかのように。
やがて半分ほどチャーハンを食べ終えた彼は、その行為に虚しさを感じたのか
「うめえけど、だんだん飽きてくるなこれ」
と、つぶやいた。
ゼウスは一人で食べるご飯になんとなく味気なさを感じていた。毎日3食冷凍食品かカップ麺を一人で食べるルーティーン。彼は人知れず孤独と寂しさを感じるようになっていた。
「やっぱ飯は一人じゃ味気ねぇな。くそっ」
ゼウスはスプーンをテーブルの上に雑に放り投げると、頬杖をついた。
「アレスどうしてっかな? やっぱすっぽかしたのはまずかったか?」
ゼウスは、アレスの様子が気になっていた。このままの状態で放置したら、今後息子は一言も自分と口を聞いてくれなくなるかもしれない。それは非常に困ると感じた彼は、早めにこの件をチャラにしておこうと思い、ハーデスからもらった袋をゴソゴソと漁りだした。
「よしっ、この金があれば大丈夫だろ。めんどくせえけど行くか」
ゼウスは残りのチャーハンを急いでかきこむと、身支度を整えた。そして彼のお気に入りであるモエミちゃんがプリントされたTシャツに袖を通すと、アレスのいるオラの穴を目指し家を後にした。
………………




