第二十四話 凡俗な息子 中編
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「おまえも随分腰抜けな男になったなぁ? 父ちゃん悲しいゾ~」
「……うん」
しばらくカンカンに怒っていたゼウスだったが、アレスの必死の努力もあり彼は落ち着きを取り戻していた。
(ふぅ……何とかおさまってくれたか。昔からそうだけど、オヤジってマジでめんどくさいわwww。……こんな構ってちゃんだっけ??)
アレスはゼウスが機嫌を取り戻したことを確認すると、ホッと胸を撫で下ろす。
「全く世話の焼けるクソガキには困ったもんだぜwww。――ほんで何だっけ??」
「どっちがだよ……まぁいいや。――あぁ、就活のことか?」
「あぁ、そうだったな。そんでお前――その就活とやらは上手くいってんの?」
「……いや、全然」
アレスは痛いところを突かれたのか、気まずそうに視線を下にそらす。そんな彼の重々しい表情を見たゼウスは、背中を思いっきりと叩いた。
「うわざっこwww。もっと頑張れや! 俺の息子だろ!!」
「――痛い、痛いってっ!! っそんな簡単じゃないんだよなぁ……オヤジは知らないだろうけど。今って就職氷河期だからさー、俺じゃなくて社会が悪いと思うんだよね。でも、俺の就活が上手くいかないのってもっと根本的な問題があってさぁ」
「あーん? 何だよ、問題って?」
「最近、自己分析して分かったんだけどさ。俺って、心のどっかで『社会の歯車の一部になりたくない』って気持ちがあるんだよね。だからさ、上手くいかないのもしょうがないかなって。そもそも頑張ろうと思っても、今の若者が活躍出来ないこの時代がクソなんじゃね?って思うんだよなぁ……。――ジャーナリストになろっかな?」
「…………」
ゼウスは目を閉じると、アレスの言葉の一つ一つを黙って聞いていた。
「周りには内々定決まってるやつもチラホラいるんだけどさ、なんか俺だけ上手くいかないんだよね……。別に他のやつと比べても俺ってそんなに悪くないと思うんだけどなぁ……。どうせみんなコネとかいろいろ卑怯な手を使ってると思うんだよねぇ」
「…………」
アレスは自分の就職が上手くいかない理由を並べ立てると、ゼウスに愚痴をこぼしていた。
そんな言い訳まみれの息子の主張に、だんだんとイライラが溜まっていくゼウス。
「いや、やっぱり政治家になった方が――――」
「あのさぁアレス……それは言い訳だろ? ――言い訳して良いわけw? 周りとか時代とかはどーだっていいんだよ! テメェが何したいかだろうがぁっ!!」
ゼウスはついに我慢できなくなると、言葉を遮って息子を叱りつけていた。
「でもさぁ……だってさぁ」
「でもとかだってとか、お前はいつまでたっても言い訳小僧のままだなぁ? 一貫性がねぇんだよなぁお前は! あのな、男ってのはなぁ、あーだこーだ言い訳を並べるよりもビシィッと一本筋を通して行動したほうがカッケーんだよ! ――分かるかなクソガキwww?」
「筋、ねぇ……。オヤジは何でも出来るからいいけどよ。俺って昔からほんと中途半端じゃん? 何やっても姉ちゃんには叶わないしさぁ……。もうほんと消えちゃいたい……」
アレスは過去の出来事を一つ一つピックアップすると、卑屈に笑い、そして泣きそうな表情を浮かべていた。そんな情けない息子の様子を見たゼウスは――――
「そりゃぁ、お前みたいなウンコ垂れとアテナを比べたらしょうがねぇよなぁw? でもな……誰かとの比較じゃなくてさ、テメェにしか出来ないことで語れや!って俺は思うのね。だからよ~、そんな就活とかいうくだらないことでウジウジしてんじゃねぇよお前は! ほら、涙ふけよwww」
と不器用ながらにも彼を励ますと、たっぷりと自分の汗が染み込んだタオルを涙目のアレスに差し出した。
「な、泣いてねーしっ。ふん、まさかオヤジに励まされるなんてな! あ……ありが――うわっくさぁっ!? 尋常じゃない臭さなんだけどw――嫌がらせかな? 礼言おうとした自分がバカだったわ!」
「えっ……そんなに臭うそれ? どうせお前の鼻がおかしいだけだろwちょっとそれ貸してみ――うっわくっさwww。バイオテロかな? 鼻がひん曲がるわぁっボケがぁっ!」
アレスからタオルを返されたゼウスは、匂いを嗅ぐとあまりの臭さに思わずそれを地面へと投げ捨てた。
「――おい、ちゃんとそれもって帰れよ!」
「え~めんどくさぁっw! ……何でこんな臭いんだろ?」
ゼウスはタオルの端をチョコンとつまむと、また自分の鼻へと持っていった。
「きっと何かの間違――くさぁっw! これマジで命を奪えるレベルだろ……」
「オヤジってほんと――アホだわ~w。帰ったらまず風呂はいれよ? ……はぁ、なんか呑気なオヤジ見てると悩んでる自分がアホらしくなってくるわ! 何でオヤジはそんな元気なんだよ? その格好――ハーデスのおじさんに転生してもらったんだろうけどさ。そんなブサイクで何で自信満々なのさ??」
アレスは父親の屈託のない笑顔を見ると、その理由を知りたくなっていた。
「は? 当たり前じゃん、だって神ですもんwww。確かにこのもこみちとかいうカスはブサイクだけどよ。中身のおれっちはイケメンだから関係ないんですがwww。は~、心のイケメンで良かったわぁ。お前みたいな外面だけのパンピーとは格が違うんだなこれがっ!」
ゼウスは胸を張ると、どや顔でアレスをあざ笑う。
「う~ん。その言い方だとまるで俺が神じゃないみたいになってるけど……。俺も一応その、神なんですけど……」
「――はぁ? 『一応』とかつけてるお前は神じゃなくて『紙』の間違いだろwww? ペラペラしやがって、ブレブレなんだよお前はっ!! まだ昔の調子こいてた時のほうがマシだったわwww」
「……良くも悪くもオヤジはほんとぶれないよなw。――ってかやめてっ! 俺の黒歴史掘り起こさないでっ!!」
アレスは過去の話を聞くやいなや両耳を手のひらで覆い隠すと、縮こまった。
「……お前本当に雑魚になったなぁ? 知ってんゾ~、お前みたいなやつを『真面目系クズ』って言うんだろ?? 単なるクズより厄介ってネットに書いてあったけど、ホントそうだわwww」
「それは自覚してるけどさ……。でも、単なるクズより性質の悪いガチクズのオヤジにだけは絶対言われたくないわwww」
「――はw?? オメ~もなかなか言うようになったじゃんwww? いいぜ――おら、来いよw??」
アレスの言い返した言葉が気に食わなかったゼウスは、ぎこちなくステップを踏みながらシャドーボクシングをし始めた。
「シュッ! シュッ!! はぁっはぁっ……シュシュッッ!! ――ほらぁっ、はぁ、来いよww?」
「…………」
「ホラホラ~はぁっどうしたよw?? ビビって声も出ないか~? はぁっはぁっ」
「早くも息が上がってんじゃねぇかwww。オヤジ……しばらく会わない間にキチガイレベルに磨きがかかってんなーw。はぁ……これが赤の他人ならいざ知らず、実の父親だからなぁ……。オヤジと母ちゃんが両親とかぶっちゃけ、俺ぐれてもおかしくなくねw? むしろよくこの程度でおさまったね!って自分を褒めてやりたいくらいだわwww」
「はぁっはぁっ――まぁ、あのババアの遺伝子が入ってる時点で、あっ……(察し)って感じだからなwww。諦めろw!」
「『どっちもクソヤバイ』んだよなぁ……。――あ、今気になったんだけどそんなに母ちゃんの悪口言ってて大丈夫なのオヤジ? 母ちゃんにバレるんじゃ――」
アレスは身の危険を感じたのか、辺りをキョロキョロと見回すとゼウスに目配せをした。
「――はぁ?? 嫁にビビってるようじゃ一家の大黒柱は務まんねーよwww。はぁ、はぁ……あいつはこっちに来るのか??」
自信満々そうに答えたゼウス。しかし、彼の顔は明らかに不安に満ちていた。そして、ゼウスはアレスと同様に辺りを見回すと、ヘラが来るかどうかを弱々しい声で聞いていた。
「(オヤジ、めちゃくちゃビビってるじゃね~かw。……うんうん。――いや、地球にくることは滅多にないんだけどよ。情報収集能力だけはやっぱガチだよ。俺この前、部屋のエロ本の隠し場所当てられて血の気が引いたもん)」
「(……ヤバすぎわろたwww。『口は災いの元』って言うしな~。おれっちも気を付けないと!)」
彼らにとってヘラの機嫌がどうなっているかは死活問題であった。二人はその後も、彼女について誰にも聞かれないような小さな声で真面目に話を続けた。
そんなヒソヒソ話を真剣に行う親子の様子を見た周りの客は、面白かったのかニヤニヤと笑っていた。
それに気づいたゼウスは――――
「ヘラのやつヘラヘラしやがってマジでムカつくよな~w。……ちょっと待て――おいっ! なにてめぇらじろじろ見てんだ?? 見せもんじゃねぇぞぉっ!」
と話を止め、彼等に向かって大声で怒鳴り散らした。
「ちょっオヤジっ急にデカイ声出すなよっ!? お客さんに迷惑だからっ!」
今にも客に飛びかかりそうな雰囲気を察知したアレスは、咄嗟に父を羽交い締めにした。
「離せよアレスっ!! 俺は全知全能にして神々の王ゼウスだぞっ!? この無礼者めがぁっ! テメェら全員表へでろやぁっ!」
「うwwるwwさっ! 耳がキーンってなったわ! マジで黙ってくんないかなーw? ――あ、ごめんなさいねこの人、『頭と心の病気』なんで勘弁してやってください!」
「――は? んだとぉっ!? てめぇも表へ出ろやクソガキwww。ぼっこぼこにしてやんよ!」
「ただ『表へ出ろ』って言いたいだけだろアンタwww。みっともないからほんとにやめてっ!」
単なる好奇心で見ていた周りの客はゼウスが大声で襲いかかって来たことに驚くと、かなりの恐怖を感じたのか蜘蛛の子を散らすように店を出ていった。
「あ、逃げんなテメェらっ、それでも男かぁっ!」
「いいから落ち着けって! 高血圧かな?」
「バカ野郎! おれっちは朝弱いから『低血圧』だわボケェッ!」
「どっちでもいいわwww。頼むからほんとやめて!! もうやめてぇぇ……」
アレスはしばらくの間、またもや怒りが鎮まらない父親を必死に抑え込むことを余儀なくされた。
………………




