第二十三話 凡俗な息子 前編
※大幅な修正の必要あり(2022年現在)
修正が完了したら前書きの文言を消します(前書きのないものは基本的に修正の必要なしです)。それまでは隙間時間でちょこちょこ修正するので、修正完了版のみ読みたい方は前書きの有無で判断してください。よろしくお願いします。
「あちぃ~。こんなクソ暑い時に外出とか自殺行為もんだな」
晴天に恵まれた日差しの強い中、ゼウスはアテナと交わした約束を果たすため秋葉原の中心街に来ていた。
(アテナのやつめ、、いつか絶対エロいお仕置きしてやるぜよw)
ゼウスは嫌々感を出しながらもその足取りは軽やかであり、ウキウキな気分で歩いていた。
インターネットを手にしてからというものの、彼は滅多に外出をすることなくずっと引きこもっていた。そのため、久々に外の新鮮な空気を吸えた彼は、清々しい気持ちになることができたのだ。
(まぁ、アテナの言う通り外に出るのも悪くはないかもな! くそめんどくせぇけど)
彼はある目的のために秋葉原に来ていた。それは、アテナに捨てられたエロ本の最調達である。あっさりしているようで根に持つ性格のゼウスは、性懲りもなくエロ本を買い漁るつもりなのだ。
しかし、今までとは少し違うところもあった。それは、通販ではなく実際に店に足を運び、下見をしてから買うといった点だ。
今までのゼウスは絵柄を見て気に入ったら、購入ボタンを即押しするという単純なやり方をしていた。
だがそれだとやはりすぐに部屋が一杯になり、これでは再びアテナに見つかり燃やされてしまう。彼はたくさんの過ちを犯してきたが、決して教訓を無駄にしたことはなかった。今回のショッキングなエロ本消失事件は、彼の中の教訓リストにしっかりと刻み込まれたのだ。
「やっぱり量より質だよなー。それに、今度は隠し場所にも気を付けないとだよなぁ。あーあ、こんなことならウラノスのジジイにもっと聞いておくべきだったわw」
ウラノスとは彼の祖父であり、ゼウスが生涯において唯一人、師と仰いだ神のことである。
「師曰く、『繰り返して良い過ちは浮気だけである』とかほざいてたなぁ~あのクソジジイw。マジで救えないほどのクズだったけど、エロに関してはガチで有能だったからなぁ~」
ゼウスはウラノスが懐かしくなったのか、ふと立ち止まって空を見上げると――彼に思いを馳せる。
(じいちゃん。今どこで、何してんだろ?? どっかで野垂れ死んでそうw。ま、しぶとい奴だから簡単には死なないと思うけど)
彼は少しの間青空をボンヤリと見ると、再び歩き始めた。
ゼウスが人間界に来てから二週間が経ったが、その間彼が天界のことを思わない日は一度たりともなかった。
――――彼はホームシックになっていたのだ。
初めて来た人間界は確かに多くの驚きと魅力に満ちていた。だが、そうはいっても想像していたよりも自分がどこか受けいられていないといった、疎外感を彼は強く感じ取っていた。
ここは人間の世界であり、自分がいるべき場所ではないのかもしれない。彼は、そう思わずにはいられないでいた。特に昨日のアテナとの楽しい一時は、ゼウスのその思いを少し強くしていた。
「別に全然寂しくなんかねぇし! マジ余裕すぎわろりんw。どけどけどけぇっゼウス様のお通りだぞっ! ん~頭が高いぞ虫けら共が!」
彼は心の片隅にくすぶる孤独を埋め合わせるため、周りに白い目で見られながらも大声で叫ぶと、堂々と道の真ん中を大股で歩いていった。
………………
「え~っとネットの情報だとここら辺のはず、だっけか? ――あっ、ここだっ!!」
ゼウスは店の看板を見るやいなや、周りの目など全く気にせずに大声で叫んでいた。
「ほほぉ~。ここがかの有名な『オラの穴』か~。ネットで有名だけど、最近経営者が代わってBL寄りになったらしいんだよね~」
ゼウスは、自分の求めているエロスが果たしてここで手に入るのかと疑念を抱いていたが、とりあえず入ってみることにした。
「いらっしゃいやせ~~」
「チョリ~ス」
そわそわとしていたゼウスは、店の奥から聞こえてきた声に控えめに反応すると、店内を見渡した。
「おお……ここは、楽園か?」
ゼウスはラノベ、ゲーム、同人誌等が色鮮やかに並べられた様を目の当たりにすると、感極まったのか震えていた。目に入るもの全てが魅力的に見え、彼の心をわしづかみにして離さなかった。
「やべぇwww面白そうなのめちゃくちゃあるやん! おらワァ~ックワックすっぞ!!」
ゼウスは目をキラキラと輝かせると子供のように大きな声ではしゃぎだし、近くのラノベを手に取って読んでみた。
(むむむっ! これは、、、ほう)
冒頭の部分をささっと読んだ彼は
「はぁ。これだよ、これこれ! やっぱり俺つえ~系は、おもしれぇなぁ~買いだわ。家帰ったらポテチ食いながら読もっw」
と言うと、満面の笑みを浮かべた。
「今まで絵柄だけで即買いしちまってたけど、駄作も大分あったからなー。やっぱり、こうやって実際に自分で見ないとダメだわ」
失敗の感想をしみじみと述べたゼウスは本を置くと、続いて成人向けのコーナーに足を運び、これまた大きな声をあげて喜びを爆発させた。
「――――っやばっwwwエロ本もめっちゃあるやん! ん~、控えめに言ってこの店神! アテナに処分されちまったからな~また大量に買わねぇとな」
ゼウスはざっくりと品揃えを見渡すと、目に留まった物を片っ端からピックアップした。
≪突☆撃 隣の乳魔神2!!≫
「おぉっまじかっ! これ続編あったのかよwww買わなきゃ。保存用と鑑賞用に――あっ、緊急時に備えてもう一冊買っとかないと! どうせ俺の金じゃねぇしなwww」
≪激録!! 尻魂バレー部秘密の特訓≫
「おぉっ! 良さげなエロDVDもあるとか、ここ有能だなぁ~。後でポイントカード作らないと」
ゼウスはハーデスのマニュアルにあった『ポイントカードを作っておいて損はない』の表記を思い出すと、うんうんと頷いていた。
それから彼は暫くの間、あーでもないこーでもないと、独り言を呟いては品定めを続けた。
………………
(う~ん、全部欲しいなぁ。まぁ、金はハーデスニキが払うからいけんじゃん? でも、置き場所に困るんだよなぁ)
ゼウスは成人コーナーを俯きながら、うろうろと行ったり来たりしていた。完全に怪しい人である。そんな彼の挙動不審で落ち着きのない様子に気がついたある一人の店員は、何か問題でもあったのかと心配した。
(あのお客さん、あそこでさっきからずっとうろうろしてるけど、どうしたのかな?)
スラッとした長身の彼は短髪の頭をポリポリと掻くと、仕事を中断してゼウスに話しかけた。
「あの~、お客様何かお困りでしょうか?」
「ん~~、ん? 何だおま……てっ!! あ、ああアレスゥッ!?」
「えっ、何で俺の名前を? ――――えぇっ!? も、ももももしかしてオヤジィッ!??」
二人は鳩が豆鉄砲を食らったかのような顔になると、お互いの姿をまじまじと見つめた。
「何でオヤジがここにっ? ってかどうしたのその見た目はwww。完璧別人じゃんか。力の波動がなかったら気づかないわ」
アレスはまさか父がいるとは思っていなかったので、激しく動揺していた。
「ハーデスニキに頼んで人間に転生してもらった」
「あーなるほどね。前々からこっち来たいって言ってたもんなぁ。……にしても、何だよその格好www。メガネくそ曲がってるし、完璧浮浪者のヤバイやつじゃん。えっ、ていうか地球は大丈夫なのかっ!?」
ゼウスが来ると地球が無くなると聞いていたアレスは、身を屈めると恐る恐るゼウスを見た。
「お前もアテナもワンパターンだなwww。地球は大丈夫だよ、じゃねぇとヘラにぶち殺される……」
「だよなぁ、マジ焦ったわ。なんか母ちゃんがさ、そろそろ新しいBL本送れって最近しつこく催促して来ててさ。禁断症状出ちゃうけどいいの?って、俺のこと脅迫して来るんだよね。親父なんとかしてくれよ」
「あいつやっぱマジでイカれてんなぁ。あのババアは敵に回すとやべえから気を付けろよ! あれっちょっと待って、ヘラにあの気持ち悪い本送ってたのお前だったの!? クソワロタwwwwww」
ゼウスはアレスの発言に衝撃を受けると、腹を抱えて爆笑しだした。
「笑いごとじゃねぇぞぉっ! 送料が何故か俺負担で、月に何回も要求してくるから地味に痛い出費なんだよねwww有り得なくない? それにあのババア小分けでアホみたいに注文するから、この前なんか家に帰ったら玄関が不在表で溢れててさぁ~、ほんとマジでもういい加減にして欲しいわっw!! いい歳した母親が息子にヤバイ本買わせて送らせるとか、どこに出しても恥ずかしいよほんと……」
「ハハハハ! 切実だなぁ~。ほんとだよなw! まじあいつうぜえよな? とりまっシカトしとけばよくない?」
「オヤジ、あんたも大概だけどなw。いやいや、俺も相手したくないんだけどさぁ。母ちゃん怒らすと、マジで死ぬほどめんどくせえからさ。今べらぼうに忙しいんだけど、定期的に送ってやんないと地球がやばいんだよね……たぶん今、地球の未来は俺の配達にかかってる」
アレスはうんざりとした顔をゼウスに見せると、やれやれと首を振った。
「ふーん。……んで、お前はこんなところで何やってんの? ――ん? あれちょっと待って、そう言えばお前赤いロン毛だったよな? 何で黒くてちょっとサッパリしちゃってんのw?? ピアスも――なくなってるやん! ……お前本当にアレスか?」
ゼウスは鼻くそをほじりながら間の抜けた返事をすると、アレスの周りをぐるぐると回り始めた。そして隅々まで彼の格好をチェックすると、疑いの眼差しを向けた。
「今、就活中だからちゃんとしないといけないんだよっ!! 本当は来年何だけどさ、早めに対策しないと今の時代ってかなり厳しいんだよね。――で、就活って結構金かかるから、ここでバイトしてるんだよ」
「は? シュウカツ……?? 旨いのそれ?」
「相変わらず無知だよなーオヤジってw。就職活動だよ」
「就職……えっ、お前おれっちの天空神継がないの?? ――マジで?」
ゼウスは息子の発言が意外だったのか、驚きを隠せないでいた。
「だってずっとオヤジが天空神じゃん? よくわかんねぇんだよなーあの職業」
「えっ!? やだな~ちょっと待ってよお兄さんwww冗談はよしこちゃんなんだが? おまっ――だって、天空神だよ? 天空神っていったら、あの天空神だよ?」
「いやわかんねぇよw。名誉みたいなもんで職業じゃないでしょあれ?」
「実はここだけの話、俺もよくわかってないんだよねwww」
「いやいやあんたは分かっとけよwww。……それになんか姉ちゃんがさ、安定した職に就けってマジでうるさくてさ~、就活決まらなかったら警察に推薦してあげる――とかふざけたこと言ってんだよな~。まじで何の罰ゲームだよほんとwww」
「アテナがそんなこと言ってたの? ははっ、お前みてぇな極悪なやつがポリっ!? わろしわろしwww寝言は寝てから言えよ!」
「いや、ホントだよな。姉ちゃんも俺のキャラ考えてから言って欲しいわ! んま~でもさ、俺もいろいろあってさ。これでも昔のことだいぶ反省してんだよね」
「ふーん、そうなんだ」
「何だよそのどうでもいいみたいな顔は! ていうかさっ。わりとマジで、親父みたいな卑怯な奴にまで小言を言われたくないわw」
アレスは感慨深げに過去を振り返ると、マヌケ面のゼウスを鼻で笑った。
「は? さっきから黙って聞いてりゃ、お前ちょくちょくおれっちのことバカにしてんだろ? あ?? ――やんのかてめぇえっ!!!」
ゼウスはアレスの言葉が気に入らず癇癪を起こすと、いきなりお店で大声を発してしまう。
「――――ちょっ! お、おいっ急に――シーッ! 静かにしてくれよ、周りのお客さんの迷惑になるからっ! ほんとにガチでやめて!」
アレスは周りの客の奇怪な者をみる視線に気づくと、慌ててゼウスをなだめようとした。
しかし彼はアレスの言葉には聞く耳を持たず、周りなどおかまいなしにわめき散らした。
「えぇいっだまれだまれぇっ! 俺はなぁ全知全能! 神々の頂点に立つ男ゼウスだぞ? 高貴なおれっちに対する数々の無礼、断固許すまじっ! 表へ出ろやぁっ!」
「ごめんごめん、俺が悪かったからっ! みんな見てるから落ち着いてっ! 今、バイト中だからまじでほんとやめてwww冗談抜きで勘弁して。御願いだから帰って!」
アレスは必死に怒り心頭の父を抑え込むと、ひたすら謝り続け彼の怒りが静まるのを待つしかなかった。
………………




