第二十二話 父子の戯れ 後編
※大幅な修正の必要あり(2022年現在)
修正が完了したら前書きの文言を消します(前書きのないものは基本的に修正の必要なしです)。それまでは隙間時間でちょこちょこ修正するので、修正完了版のみ読みたい方は前書きの有無で判断してください。よろしくお願いします。
「あーあ、昔はお父さん大好きっ!ってよく胸に飛び込んできたのにな~。純粋で清らかだったお前も、ついに慎みを忘れてしまったのか……昔は良かったなぁ」
ゼウスは過去を振り返ると、しみじみと呟いた。
「いつの話よ……別に捨てはしないから。――ちょっとしばらくの間、預かるだけよ」
「えぇ~、それおれっちのお気に入りなのにぃ!! まぁ、貸すのは良いけど……ちゃんと返すんだぞっ! まだ、読みかけなんだからさぁ~」
「――えっ、もう読んだんじゃないの?」
「へへっ、お前は分かってないなぁ。あのなっ、本当にいいもんってーのは、大事にちょっとずつ消化していくのが通なのよ! ――ってウラノスのクソじじいが昔言ってた」
「くだらなっw! 期待して損したわ! ほんと私達の家系ってロクなのいないわよね……」
「それな~。マトモなの俺達しかいないよな!」
「……うん、そうだね」
アテナはツッコミを入れたい衝動に駈られていたが、話が進まないので仕方なく受け入れてあげることにした。
「さてとくだらない話をしてる場合じゃ……。――えっ、ちょっと待って!! もうこんな時間っ!? もぉ~めっちゃ時間かかっちゃったじゃない! ……こうなったら、お父さんもご飯作るの手伝って!!」
アテナはゼウスの腕を掴むと台所へと引っ張っていく。
「――お、おいっ! 手伝うって、おれっち料理なんかできねぇぞっ!?」
予想外の展開にさすがのゼウスも、驚きを隠せずにいた。
「私の言う通りに動いてくれればいいわ」
「そ、そんなこと急に言われても心の準備が――」
「はいっ、ジャガイモ剥いて」
「――うおっ! ジャ、ジャガイモっ!? お、おう……」
ゼウスは突然芋を渡されると、素っ頓狂な声をあげた。野菜の皮剥きなど、生まれてから一度もしたことがなかったからだ。
彼はしばらくジャガイモとにらめっこをすると、言われた通りに皮を剥き始める。
………………
「こ、こんな感じッスかアテナさん??」
ゼウスはアテナの顔を伺いながら、恐る恐る剥いた芋を彼女に見せた。
初めての経験ではあったが、彼は拙いながらもなんとか皮剥きの任務を果たせていた。
「――そうそう、そんな感じ! さっすが~全知全能のなんたらねっw!」
「なんか凄く馬鹿にされてる気がするんですが……」
「そ、そんなことないよ~w。――ささっ、これもお願い!」
続いてゼウスは、彼女からニンジンを手渡される。
「頼んだよっ! これはお父さんみたいな『全知全能な人』にしか出来ない仕事なんだからっ!!」
「――なにぃっ!? おれっちにしか出来ないこと……しょうがねぇなぁwww。こんなの二秒で片付けてやんよw」
「さすがにそれは早すぎでしょぉw。じゃあ、よろしくねっ!」
「任されよう」
ゼウスはどや顔でメガネをくいっとあげると、ニンジンの皮を剥き始めた。
(お父さんたら~ふふっ)
二人は和やかな雰囲気の中、度々冗談を言い合いながら料理を作っていった。
………………
「じゃあ~ん! 完成です!!」
「お、おおぅ……なんと!」
ちゃぶ台の上には、美しく彩られた野菜のサラダと食欲をそそるスパイシーな匂いのカレーライスが置かれた。
「こ、これは何て料理だ? 超旨そうなんだがwww」
「あれ~? お父さんともあろう人がこれを知らないの~www?? おっくれてる~!」
「えぇっ!? う~ん、ウンコみたいな色してる以外はわかんねぇ――」
「テヤァッ!」
「アウチッ!!」
アテナの繰り出したビンタがゼウスの頬を直撃すると、彼のメガネは宙を舞った。
………………
「お父さんてほんと下品! ……もうそのメガネ買い替えたほうが良いわよ」
アテナは頬を腫らし、フレームがかなり曲がったメガネを掛けたゼウスを見ると、憐れみながら言った。
「ふぉうだな。ふぉうふる」
「お、お父さんが悪いんだからねっ! とっさだったからその、力の加減が上手くいかなくて……ごめんなさい」
彼女は、自業自得ながらも彼の赤く腫れ上がった痛々しい頬を見ると申し訳なくなり、素直に謝っていた。
「いや、おふぇっちが悪いはら気にふるな。んで、ふぉの料理のなまぇは?」
「……カレーライスよ」
「ほほう、かれぇーライふとな? ふ~ん、なふほどなふほど。一体ふぉんな味なのは……。――なぁなぁ、アへナ。やっぱりホう見てもこの料理って見た目がうんk――」
「――トゥッ!!」
「――あべしっ!!」
「それ以上言ったらどうなるか――全知全能のお父さんなら~分かるよね?」
アテナはゼウスにアイアンクローをかましながらゾッとするほど優しい口調で語りかける。
「す、スビバセン……」
「分かればよろしい」
………………
「じゃあ、気を取り直して! 頂きます!!」
「い、頂きまふ……」
アテナはカレーを一口食べると満面の笑みを浮かべた。
「ん~、美味しい! 結構上手に出来たかなぁっ! どうかな――お父さん……??」
アテナは少し不安げにゼウスの顔を伺うと、彼の感想を待った。
「……うまい――。っこれ――――お前が作ったのか?」
ゼウスはカレーを口に運ぶと、顔色を変えた。
「も~当たり前じゃない。さっき作ってるところ見てたんだし~。まぁ、二人で作ったからこその美味しさよね!」
「……そうか、あの小さかったお前がこれを――」
「うんっ! えへへっ。おいしいねっおとうさん!」
――――ポチャッ。
「あっ、お父さんたら~こぼしてるって――お父さんっ!?」
ゼウスの頬に一筋の涙が伝う。彼は、泣いていた。
ゼウスは手料理を作ってもらったのもそうだが、誰かの暖かさに触れたのが久しぶりで、つい感極まり泣いてしまったのだ。
「お、お父さん! 大丈夫?? もしかしてさっきの腫れがまだ痛いの?」
あのゼウスがマジ泣きするなんて、これはえらいこっちゃと彼女は慌てに慌てていた。
そんな中彼は、考え事をしていた。
(本当に美味しいなぁ……。何ていうかこう、アテナの気持ちが伝わってくるような――いや俺の勘違いかもしれない。この娘は義理堅い子だから、こんな俺でも嫌々来てくれてるのだろう。それでも、こんなにも心が温まるなんてな)
ゼウスは娘の有り難さに気づき、癒されていた。
「お父さん……ほんとにごめんなさい!」
「ん……何で謝ってるんだ?」
「えっ――だって、さっきのビンタの腫れが痛いからじゃ――」
「あ~、うん。くっそ痛いゾwww」
「やっぱり――ほんとごめんね……。私暴力女で……」
「いやいや天界の女の中では可愛すぎるくらいだよ。それにおれっちが泣いちまったのはその――ちと飯が旨すぎてな。ははっ、ヘラの飯とは雲泥の差だからかなぁ。感動しちまったわガハハハ!」
ゼウスは豪快に笑い、アテナの不安を吹き飛ばしてみせた。
「そ、そう? も、もぉ~お父さんたら驚かせないでよ~!」
「はははっ! 悪い悪い!」
「――あのねっ、お父さん。私、今気づいたんだけど大事な人に美味しいって言ってもらえるのってとっても嬉しいんだ」
「……あぁ」
「だからね、その――ヘラさんもきっとお父さんに美味しいって言ってもらいたいんじゃないかなって」
「……まぁなぁ。でもあいつの場合、マジで笑えんからなぁ……」
ゼウスはヘラの出してきた食事を振り返ると、苦虫を噛み潰した様な顔をした。
「私は食べたことがないから分からないけど――それでも、不味い不味いって好きな人に言われたらとっても傷つくと思うの……」
「…………」
ゼウスはアテナにそう言われると、ハッと気づかされていた。今まで自分はヘラのご飯をまずいとしか言って来なかったことに。結果ばかりに目がいって、その過程を見ようとしていなかったのだ。
(……確かにな。アテナと料理を一緒にしてみて分かったけど――料理は大変だ。ヘラもおれっちのために頑張ってくれてたんだな……)
ゼウスは、ほんの少し反省していた。
「お前の言う通りかもしれんな。……まぁ、いつまでたっても旨くはならないと思うが。今度食うときは『ありがとう』って言わなきゃな」
「――うん! そうだよっ!!」
「そうだな……ごめんな、アテナ。お前にはいつも気を使わせちまったり、苦労ばかりかけちまって……」
「えぇ~なにそれ超今更なんですけど~ww。ていうか、らしくなさすぎるけど――どうしたの?」
「いや、なんとなくな……。それにしてもカレーライスうめぇなぁ!」
ゼウスはなんだか恥ずかしくなり、誤魔化そうとカレーライスをパクパクと口に放り込む。
「あ、ゆっくり食べないと喉に――」
「ん゛んぐっんんぅん゛ぉおんっ!」
ゼウスは喉を詰まらすと、苦しそうに呻き声をあげた。
「――あぁ、ほらっ! 水、水!」
ゼウスはアテナから水を受けとると、ゴクゴクッと口に勢いよく流し込む。
「……あぁ~、あぶねぇww。一瞬冥界の門が見えたわ~」
「もぉ~。……お父さんほんとに能力失っちゃったんだね~。ダメダメでかわいそ~w」
アテナはゼウスのほっぺたを人差し指でツンツンしながら、ニヤついていた。
「――お前だからぶっちゃけるけどさぁ、すげぇ大変なんだぞ~能力失うのは。全く、どいつもこいつもおれっちをバカにしやがって……」
ゼウスは口をモグモグさせながら、不満そうにアテナに愚痴を言う。
(あのお父さんが――こんなにおバカでダメダメになってるなんて……ちょっとかわいいかもっ)
端からみれば惨めに見えるゼウスだったが、アテナからすれば今の欠点だらけの彼は、むしろ愛らしく見えたのだった。
「いやぁ~生きてて良かったぁ~!」
「ふふっ、もう! ほんとに大袈裟なんだから~。――ほらっ、じゃんじゃん食べなさい! おかわりたぁ~くさんあるよっ!」
「あ、ああっ! ほらっお前も食べろ食べろ~」
「――うんっ!」
………………
「ふぅ~。こんなに美味しかったご飯はほんといつぶりだろう」
「お粗末様でした。そこまで言うほどの物じゃないけどねw」
「いやいや。――あーでもきっと、お前と一緒に食べたからってのはあるだろうな。……ありがとなアテナ」
ゼウスはアテナに優しく微笑みかけると、彼女に心からの感謝の気持ちを伝えた。
それを聞いたアテナは、耳まで真っ赤に染まるほど顔を赤くし――
「ばばばばかっ! そんなこと言ったって、何も出ないんだからねっ!」
と、恥ずかしがった。
「――おおっ! これは、もえみちゃんのツンデレ時のリアクションじゃないかぁっ! ――なんだなんだ~、お前も実はオタクだったのかww!!」
「んなわけないでしょっ! ほんとどうしようもないキモオタなんだからっ!」
「ははは。それにしても、旨かったなぁ……。また作りに来てくれるか? あ、嫌ならいいんだけどよ……」
ゼウスは珍しく控えめな様子でアテナに聞いていた。
「ま、まぁ? そんなに喜ぶんなら仕方ないからまた作りに来てあげてもいいわよ? 仕事入っちゃうとこれないけど……」
アテナはゼウスの顔をチラチラと見ながら、恥ずかしそうに言った。
「ほんとかぁっ!! そりゃあ~オークションで限定グッズ落札したとき並みに嬉しいぞっ!」
「ごめんその例え全然わからない……」
「はぁ?? 分かれよwww。――とにかく、むちゃくちゃ嬉しいってことだよっ!」
ゼウスはキラキラと目を輝かせると、アテナの方へ身を乗り出し顔を近づけた。
「ちょっ! お父さん近い!! 離れてよ暑くるしぃっ!」
「……オウフ。また拒絶されてしまった」
ゼウスはしゅんとなると、食べ終わった皿を見つめ落ち込んだ。
(なんでだろう……お父さんといるとドキドキしちゃう)
アテナは高鳴る鼓動を必死に押さえ込むと――
「ま、まぁほんとに時間があるときはまたご飯作りに来てあげるけど、ちゃんと自立してよねっ! ほんと迷惑なんだから~」
と、思ってもないことを口にしていた。
「ちょ、ちょっとアテナちゃんパパに対して風当たり強くない?? さっきはあんなに優しかったのに……」
「そ、そうかしら? ……いや、昔からこんなでしょw? ――あ、そうだ。お父さんさぁ~、たまには外に出て運動した方がいいわよ。ますます太っちゃうしっ、これ以上太ったらヤバくないw?」
アテナはゼウスのたるんだ腹を笑いながらムニムニっとつまんだ。
「え~、クソ暑いしめんどくさ――」
「いいからやりなさい」
「……はい、分かりました」
「――ふふ~ん。よろしい!」
(ちょっと待ってwww! おれっちに選択権はないんですかっ!? ――お前は俺の母親かっw!!)
ゼウスは心の中でツッコミを入れるも、アテナの言いなりになるしかなかった。
「で、このアホみたいに暑い時期に、おれっちは外に出てナニをしろと??」
「うーん。運動――だとハードルが高いかなぁ……。そうね~、そしたら何か欲しいもの買いに行くってのはどうかしら?? 何か楽しい目的があった方がいいし!」
「えぇ~、通販で手に入る件についてwww」
「……行かないの?」
「……喜んでっ!」
声は可愛らしいが、目が笑ってなかった。どうやら俺はこの子には逆らえないらしい。
「ふふふっ。じゃあ、明日からちょっとずつ家から出るようにするのよ。――ほんとはこれからでも散歩くらいなら一緒に行きたいんだけど、この後行くところがあって……」
「――ぬぁ~にぃっ!?! ――おまっ、まさかっ! デートかぁっ!?」
ゼウスは可愛い娘をたぶらかしているとんでもない男を頭の中で勝手に想像すると、取り乱していた。
「な、なななそんなわけないでしょっ!! と、とと友達に会うのよ! 大体、私みたいな子なんて誰も……」
アテナは全力で否定をすると、シュンと落ち込んでしまった。
「な~に言ってんだかこのデカパイがぁっ!! お前より可愛い奴なんてこの世にいねぇよっ! それはおれっちが保証してやる」
「……ほんとぉ? ――ヘラさんよりも??」
アテナは上目遣いでゼウスに確認していた。
「あ、あたりめぇだろ! 何であんなクソババアが出てくんだよwww」
「――そうかな??」
「おう! あたぼーよ!! 武士に二言はない!」
「いやいやお父さん武士ではないでしょw。……そっかぁ、えへへ。……ちょっと嬉しいかも」
「――ん? 何だって?? ゴニョゴニョしてて声が小せぇぞっ!」
「な、何でもないわよ。――勘違いしないでよねっ! 別にお父さんに褒められたって何も嬉しくないんだからねっ!!!」
「んー、声がデカイッ!www」
しばらく二人は他愛もない話を続け、夕食後の楽しい時間を過ごした。
………………
「じゃあ、待たせちゃうといけないから私――もう行くね?」
夕食を終えたアテナは、洗い物も手際よく済ませると、帰り支度を整えていた。そんなアテナをただじーっと見つめていたゼウスは一言――――
「……お、おう」
と、呟いた。
「……なに?」
「いや……気を付けてな」
名残惜しそうなゼウスの視線を感じた彼女は、彼の傍にいてあげたくなった。しかし、その感情をぐっと堪えると玄関へ行き、ドアを開ける。
「……うん、ありがとう。外出るの……約束だからね」
「――分かったよ。明日行くよ」
「ふふっ。じゃあ――またねっ!」
アテナはゼウスに念を押すと可愛らしい笑顔を見せ、部屋を出ていった。
(…………行っちまったなぁ)
彼女が帰ると、部屋はいつものようにまた静かになっていた。
「……はぁ」
もともと一人しか住んでいないのに、ゼウスは部屋にポツンと取り残された気分になっていた。録画したアニメ、やりかけのゲームがいくつか残されていたが、なんとなくやる気にならなかった彼はそのまま体を丸めると、眠りについたのだった。
………………




