第二十話 父子の戯れ 前編(挿絵あり)
※大幅な修正の必要あり(2022年現在)
修正が完了したら前書きの文言を消します(前書きのないものは基本的に修正の必要なしです)。それまでは隙間時間でちょこちょこ修正するので、修正完了版のみ読みたい方は前書きの有無で判断してください。よろしくお願いします。
「お邪魔しま――うっ、なにこの臭い。ひどい……」
アテナは、漂う異臭とゴミで溢れかえった部屋に言葉を失っていた。開いた口が塞がらないとはまさにこのことだ。
入ろうと思っても、なかなか部屋に入ることが出来ない。体が無意識に拒んでいた。
(どうやったらこんなに汚くなるのっ!? 前にテレビで観たけど、こういうのをゴミ屋敷っていうのかしら?)
思わず目を背けたくなる汚さに彼女はドン引きしていたが、ゼウスは全く悪びる様子もなく――
「おうどうした? 遠慮すんなよwwwあがれあがれ!」
と、屈託のない笑顔をアテナに向けていた。
「どうした、じゃないでしょ? お父さんっ、ちゃんとゴミ捨てなよっ! 今の時期は食べ物とか腐りやすいんだから。まさかこれほどとは思ってなかったわ」
アテナは部屋の中を見渡すと、顔をしかめ呆れ返った。
「ハハハハハ! いや~、そんなに褒められると照れちまうゼ、ウッス!!」
「笑ってる場合じゃないでしょ~もぉ。何がウッス!よ。それに褒めてないし」
「だってだって~」
「だってじゃありませんっ! ほんといつまでたっても子供みたいなこと言ってるんだから! さっき管理人さんから聞いたよっ! 問題起こして御近所の人にいっぱい迷惑かけてるんだって? もうっ!!」
ゼウスは、アテナによる怒涛の叱責の原因の一部が相賀によるものだと知ると、怒りを露にした。
「あっ、あの老害! 余計なことペラペラペラペラ喋りやがってぇっ!! やはり早々に息の根を止めてやるべk――」
「お父さんが悪いんでしょうがぁっ!!」
「は、はいぃっ!!」
ゼウスはアテナの剣幕に驚くと、目を丸くした。アテナがこんなに怒るのだから、確かに自分も何かちょっと少しは悪かったかも、と思うようになっていた。
「そこに正座しなさい」
「……はい」
ゼウスは正座をさせられるとうつむき、膝に手をおいた。
「いいですか! 私達は神なんだから、人様に迷惑をかけてはいけません。ここは天界ではないのだから、自由に遊ぶにしても決められたルールを守るべきです! 分かった?」
アテナは腰に手を当てながら見下ろすと、まるで子供を叱る親のように彼に言い聞かせていた。
(くっそぅ~、アテナめ。パイオツだけじゃなくて態度までデカくなりやがって!!)
少しは言い返さねば父の威厳を保てなくなると焦ったゼウスは、苦し紛れの言い訳を並べ出した。
「だ、だってさぁー! おれっちまだこっちに来たばっかだし~、ゴミ捨てとかそういうのよくわかんないんだもん! 普通に考えてしょうがなくねw?? それに全知全能のおれっちが人間ごときのルールを守る必要なんて――」
「言い訳しないっ!!」
「は、はいっ! ごめんなさいっ!!」
ゼウスの弱々しい弁解は、アテナの一言で簡単にかき消された。
「ちょっとは反省しなさいっ!! 大体お父さんは、昔からそうやってだらしないから――」
その後ゼウスはしばらくアテナにみっちりと説教され、強制的にゴミ掃除をさせられた。
………………
「くっそ疲れたんだけど~w。これもう掃除ってレベルじゃねぇぞ!」
アテナの先導のもと隅から隅まで徹底的に掃除をした結果、かなりの時間は要したが、彼の部屋は見違えるほど綺麗になっていた。
――――あるものを除いては……。
「強敵が残っちゃったわね」
部屋の隅には、ゼウスが集めた様々なコレクションがとりあえず置かれていた。その中でもとりわけ高々と積み上げられた『エロ本の山々』は、大きな異彩を放っていた。
「……美しい。これぞまさに『エロスの大山脈』と呼ぶにふさわしいではないか! ――あっ!! 『爆乳神話』ここにあったのかっ!! いやぁ~ずっと探してたんだよね。掃除して良かったわ!」
ゼウスは大山脈の中腹に位置していたお気に入りのエロ本をピックアップすると、呆然と立ち尽くすアテナをよそに読み始めた。
「ハハハハッ! この急展開まじ笑うわwww。こんな簡単に巨乳の子とエッチが出来るとかマジ裏山!」
「ちょっと、なに一人で盛り上がってんのっ!? ほんと有り得ないし、デリカシーなさすぎだよっ!」
「おお、すまんすまんw。ついな! お前も見るか?」
ゼウスはしょうがないなといった様子で、アテナにエロ本を差し出した。
「い、いらないわよっ! ここまで能天気だとむしろ清々しさすら感じてしまうわねw」
「いやぁ、そんなに褒められると照れるなぁ? まいったねこれはwww」
(褒めてないんだけどなぁ)
手を頭の後ろにおき頬を軽く染めるゼウスを見たアテナは、心の中でツッコミをいれると再びエロ本の山に目を向ける。
「はぁ。流石にちょっと多すぎじゃない?」
「ん~そうかぁ? ヘラのBL本なんかこれの100倍くらいあるぞー? この前あまりの重さに床が抜け落ちてあいつ発狂してたなー。あれはくそ笑えたわwww」
「えぇーっ!? お父さんもヘラさんもほんとに、どうしてオリュンポス神は頭のおかしいのばかりなのかしら?」
「頭のおかしいって――お、お父様に向かって失礼であるぞ! ヘラは頭おかしいけどな!」
「いや、ヘラさんはお父さんのことと趣味のこと以外は大人しくて、普通な方だと思うのだけれど?」
「あのイカレポンチロリババアが普通っ!? はっはっは、ご冗談でしょうアテナさん?」
「ごめん。確かに、よくよく考えると普通ではないわね」
「だろぉ? あのおばはんの奇行はとんでもないからなぁ? ほんとあのおバカちゃんは、頭の中どうなってんのか一度精密検査すべきだよな!」
「んー、ヘラさんは確かにとんでもないことするけど、頭はとっても良いと思うなぁ。お父さんのほうがむしろ何て言うか、子供だしバカっぽいよね??」
「ばかっ!? この全治全能の俺様がっ!? ちょっとこれは聞き捨てなりませんなぁ?? それにバカって言ったほうがバカだもんね~w」
「ごめんごめん。でも、昔から凄く子供っぽいし。えっちな本もこんなに集めてて、やっぱりちょっとバカっぽいね?」
「全然子供でもバカでもねぇしwww。むしろ、『勤勉である』、と言ってほしいくらいだね!」
ゼウスはメガネをクイッと上げ、エロ本の山をどや顔で指差しながらそう言った。
(勤勉かぁ。この努力を、少しでも人助けのために使ってくれたらなぁ)
例え叶わぬ願いだったとしても、アテナはそう願わずにはいられなかった。
「ねぇねぇそんなことよりさぁっ! 見てくれよこの『激萌え美少女 モエミちゃん!!』のグッズwww。とくにとくにっ、このフィギュア何だけどさっ! お前これ見て、どう思うよ?? まじ半端なくねw?」
(絵師:みなとおじたん)
ゼウスは、アテナに自慢のコレクションを見てほしくて、子供のようにはしゃいでいた。
「――えっ!? あ、うんそうだね」
アテナは心底どうでもいいといった雰囲気を出しながら、無表情で差し出されたフィギュアを見つめていた。
「だろw? おれさー、もうモエミちゃんの虜なんだよねっ!! 斜め下からのこのアングルとかやばくねw? ちょうど、おパンツが見えそうで見えないこの視点なんて、まじ黄金比とか笑えるレベルで越えてるだよなぁ~」
「お父さん……」
ゼウスは娘の引いている様子に気がつかずに、自分の思うところを早口でまくし立てていた。
「あ~でもね! モエミちゃんのライバルの『マジキチ天使 キチナちゃんっ!?』も捨てがたいんだよなぁ。特にこの子には物凄く感情移入出来るって点では、モエミちゃんを越えてるんだよねっ! さらにぃ、この子マジでナイスバディーでさぁ! お乳がほんとに素晴らしくてね! おれっち的にはどちらかというと『チチナちゃん』のほうがしっくりくるんだよねwww。お前もそう思うだろ??」
彼は、さも当然かの様にアテナに問いかける。
(いやいや同意を求められても困るんだけど)
アテナは、目をキラキラと輝かせながら力説する楽しそうなゼウスを見ると、おかしくてつい笑ってしまっていた。
「――フフッ」
「おおっ!! やっぱりお前にもこれの良さが分かるかぁっ!! あとさあとさっ、オープニングの曲もマジで神なんだよね! これこれ、アテナも聴いてみろよ」
「いや別にそういう訳じゃっ――って、ぇえっ!?? お、お父さんちょっ――ちょっと!?」
ゼウスはアテナに近づくと、強引にヘッドホンを彼女の頭につけた。彼の不意な急接近にどぎまぎするアテナ。
彼女は少し顔を赤らめると、聴こえてくる心地のよいリズムに意識を傾けた。
………………
「どうだっ、神曲じゃね??」
「意外……なかなか良い曲じゃないっ!!」
「だろぉっ!! いやぁ、お前なら分かってくれると思ったぜ。何てったっておれっちの娘だかんな!」
「うん、うんっ!! 私、この曲好きかも――って、コラァーッ!!」
彼女は急にヘッドホンを勢いよく取ると、ゼウスに押し返した。
「うおっ!? いきなりなんだよ、ノリノリだったくせに」
ゼウスは、アテナの突然の行動に困惑した表情を見せていた。
(あぶないあぶない。危うく、またお父さんのペースに乗せられて流されるところだったわ。これはちょっと御灸を据えてやる必要がありそうね)
アテナはこんなことではいけないと反省すると、ゼウスに攻撃力の高い一言を浴びせた。
「お父さん、身も心もキモオタ一色に染まってしまったのね。もう私、『あなたの娘やめていいかしら』?」
「この曲、イントロから既に神なんだよね――って、えっ!!?」
めげずに話を続けていたゼウスだったが、彼女の衝撃的な一言を聞くや否や、この世の終わりとでも言わんばかりの表情になった。
「えっ?? 嘘、だよねアテナちゃん!?」
「さぁ? どうかしらね??」
彼女はプイッとそっぽを向くと、素っ気ない返事をした。
「そ、そん――なっ」
(ふふふっ。効いてる効いてる~)
アテナは激しく落ち込むゼウスを見ると、これで少しはおとなしくなるかな――と思っていた。
しかし、その考えは甘かった。
「そんなぁああああっ! 嘘だぁああああっ!!」
「はっ!?」
ゼウスはいきなり発狂すると、アテナの足にすがりつきだした。
「な、なななちょっとぉ!! 何してんのっ! 暑苦しいから近づかないでよっ!?」
アテナは足を前後にぶんぶんと揺らし振り払おうとするも、ゼウスはしがみつき離れようとしない。
「いやだいやだぁいやだぁっ!!! やめないでくれぇっ! 一生のお願いだぁっ!!」
ゼウスは鼻を垂らしながら、必死に懇願していた。メガネはずれ落ち、顔は涙と鼻水でぐちゃぐちゃになっていた。
「ちょっとぉ、鼻水つけないでよっ!! 冗談だからっ!! ほんとに冗談よ、ジョ・ウ・ダ・ン!!」
彼女は予想外のゼウスの必死さに驚くと、観念したのか白状していた。
「ほ、ほんとか? ほんとうだよなっ!?」
「えぇ、本当よっ! 残念ながらお父さんは私のお父さんですもの。それはこれからも変わることはないわ」
「そうか、そうだよなぁっ? いやぁ、マジで焦ったわw。ったく~冗談は乳だけにしとけよ」
ゼウスはほっと胸を撫で下ろすと、いつもの調子を取り戻した。
(お父さんてほんとうに単純ね。でも、あのお父さんがこんなに取り乱すなんて、ちょっと可愛いかもっ)
彼女はゼウスのだらしなさと子供っぽさにクスッと笑うと、強敵に向き直った。
「……さて。どうしたものかなぁ? こんだけ多くても邪魔になるだけだし、ちょっとそれ見せて」
「ん? あ、ああこれか」
ゼウスは彼女に『爆乳神話』を手渡した。
「……」
「ど、どうかな?」
なぜかゼウスはアテナの顔色を伺うと、もじもじしていた。
「やっぱり精神衛生上よくなさそうだし。また女の子を襲うといけないから捨てたほうがいいかもね」
そう言うとアテナは、捨てる準備をするためエロ本をまとめ始めた。そんな彼女の行動に、流石のゼウスも物申さずにはいられなかった。
「はぁっ!? ああああおいっ、なにすんだっ丁重に扱えよっ! つーかおれっちの『爆乳神話』返せよっ!!! 断固抗議するっ!!!」
「抗議してもダーメ」
「ぶーぶー!!」
「子供かっ!」
「だってさぁ――」
「ん”??」
「なんでもありません」
キッと睨まれたゼウスは、それ以上何も言うことが出来なかった。
………………
「あーあ、おれっちの大事なコレクションが紐に縛られちゃってまぁ」
無秩序に放り投げられていたエロ本たちは、きちんとまとめられ整列されて置かれた。
「改めて見ると凄い量よね。でも、こんだけ一気に捨てちゃうと、近所の人に申しわけないなぁ」
アテナは頭を抱えていた。そんな様子を見ていたゼウスは、これはチャンスだと一気に口数が増える。
「うんうん、そうだよねっ! こんなに捨てちゃったらやっぱり『人様』の御迷惑になると思いますし~w。これはやっぱり捨てない方向で行くのが宜しいんじゃないですかね??」
「う~ん。せっかくまとめたのは良いけど、捨てるのはちょっと現実的ではないわよね」
「うんうんっ!! やっぱりアテナちゃんは出来た娘だなぁ、よく分かってる!」
彼女はゼウスの言葉を聞くと、しばらくうんうんと考えた。そして何かを思いついたのか、ポンと手のひらを合わせた。
「よしっ決めたっ! じゃあ、私の能力でまとめて燃やしちゃいましょ!」
「うんうん! そうだよね~やっぱり! えっ――――」
「パルテノンフレア~~!!」
アテナが呪文を唱えると、彼女の指から一つの種火がエロ本へと向かっていった。
「あっ、おいおいおいぃっ!!! や、やめっ――」
ゼウスは止めようとしたが、到底無理な話だった。火がつけられるとそれは瞬く間に広がり、あっという間に全てが灰となって、跡形もなく消えてしまった。
「ぁぁああああああぁああああっ!!! お、おれっちのコレクションがぁああっぁあ……」
ゼウスはあまりにも無力だった。目の前で大事なエロ本たちが燃やされていく様を、ただ指を加えて見ていることしかできなかった。
彼は涙目になると、そのまま膝から崩れ落ちた。
「うぅ、ひどすぎる。こんなのって」
「ふふふ~ん。これに懲りたら、もう少し健全な生活をするようにしなさいっ!」
アテナは得意気な顔をすると、ゼウスにそう言い放った。
「もう許さんぞぉっ!! この、おてんば娘がぁっ!!」
「え、ちょっ! おとっ――」
「うぉおおおおおおおおっ!!!」
「きゃあっ!!」
ゼウスは衝動の余りアテナに飛び掛かると、そのまま強く押し倒した。
「……イタタタ。もう! お父さんたら――」
「「あ……」」
押し倒した反動で勢い余ったゼウスの手は、アテナの豊満な胸を見事に捉えていた。
「んっ、ちょ――っとぉ」
「ふむふむ、大きくなったなぁ……なるほどっ! 『爆乳神話』は真であったのか!」
ゼウスは改めてその胸の感触から娘の発育を実感し、感慨に浸っていたが、それもほんの数秒間だけだった。
「ふんっ!!」
「ホゲッ!!」
アテナは上に覆いかぶさっていたゼウスを強く押しのけた。そして徐に立ち上がると腕をまくり、ゼウスに不気味な笑顔をしながら近づいていった……。
「おとうさん~覚悟は出来てるわよねぇ?」
「ま、待てっタンマタンマッ!! ほんの出来心だって話せば分かるっ!!! 俺たちは分かりあえるはずだ――そうだろっ!?」
「問答無用!!」
「ヒェッ」
………………
表情が可愛くてつい、同じ挿絵をいれちゃいました笑
許して!