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俺ゼウスの生まれ変わりなんだけど、無双してたらボッチになった件について  作者: 紅羽 慧(お神)
すねはかじれるだけかじるのが当たり前じゃね?編
22/63

第十九話 荒らし屋ゼウス

※大幅な修正の必要あり(2022年現在)

修正が完了したら前書きの文言を消します(前書きのないものは基本的に修正の必要なしです)。それまでは隙間時間でちょこちょこ修正するので、修正完了版のみ読みたい方は前書きの有無で判断してください。よろしくお願いします。



――――八月下旬。

 セミは次の世代に命を繋ごうと、懸命に恋人を探している時期。


 人間に目を向けると、夏休みなどとっくの昔に失われてしまった可哀そうな大人たちは、暑い中今日も仕事に精を出す。

 子供たちの中には、この時期は夏休みの宿題に追われている者も少なくないだろう。


 そう、八月下旬の時期は皆が忙しいのだ。



――――ある男を除いては。




「ふ~んふ~ん~~」



――――カタカタカタカタッ。カタッ。



「っクソワロタwwwこのまとめ面白すぎて草wwwww」




 ゼウスはガハハと下品に笑うと、キーボードに指を走らせマウスを自由自在に扱いだした。



 カタカタカタカタッ! カチッカチッ。



「お前の頭おかしいんじゃねぇのっ、と。ハハハ! あっ、やっべ! そろそろイベントの時間だ!」



 初めてゼウスがインターネットを知った日から、およそ二週間程が経っていた。インターネットがもたらす娯楽にドハマりしていた彼は、まとめサイトの巡回やアニメの視聴、ネトゲにエロゲ三昧の日々を送っていた。言葉遣いもネットスラングを多用するようになっていた。



「バキューーーーーンッ!!! ハハッ! 虫けらがぁっ!! 貴様のケツに俺のマグナムをぶち込んでやるぜっwww」



 誰もいない部屋に、彼の大きな声だけが虚しく響く。ゼウスは流行りのFPSゲームを楽しんでいた。



「おらおらしねしねしねwww。うぃっひっひ、どうせそこに隠れてんだろ? バンッ! はい、雑魚www」



 明らかに独り言が多くなったゼウス。彼はインターネットに完全にのめりこんでしまい、周りとの関わりを絶っていた。

 生活リズムはメチャクチャになり、髪はボサボサ。髭は伸び放題。おまけに風呂も入っていなかったため、体は悪臭を放っていた。



「けひゃっ! 最後に俺様が勝てばそれでいいのだよwww!」



 それだけではない。部屋の中はゴミで溢れかえり、異臭が漂う悲惨なありさまだった。出来る限りパソコンの前から離れたくないと考えたゼウスは、大量に食料品等をネットで注文していた。その一部が、夏の暑さで腐っていたのだ。

 だが、インターネットに夢中なゼウスはあまり気にしていなかった。それほど彼は、ネットがもたらす情報の海にのまれていたといえよう。もう、完璧なネット中毒者である。



「はっはっは、この世界でもやはり俺様は神! ふぅ~、暑くなってきやがったぜw。温度下げっか」



 ゼウスは手元にあるクーラーのリモコンを取ると『18℃』に設定した。風向を自分に直接向けることも忘れない。



「あぁ~最高~。――――はっ!!?」



 クーラーの送り出す冷気ですっかり悦に入り、よそ見をしていたゼウスは、自分が物陰から狙われていたことに気づくのが遅れた。



「えっ!? おいおいちょっ――――」



 彼がマウスを握った時には既に遅く、操作していたキャラクターは蜂の巣にされていた。



【YOU ARE DEAD】



「ふーん、やるじゃん。そこ隠れられるんだぁ、へぇ~。そんな卑怯な手があったとは、なるほどな、やーめた!」



 ゼウスは負けて飽きたのか、ネトゲをやめると今度はエロゲをやり始めた。傍らにある段ボールの中から注文したばかりのゲームを取り出す。



「えーっと『魔乳(まにゅう)戦記(せんき)』はどこだぁ~? ――あ、あったあった! これ評価とか見ずに絵柄だけで買っちゃったからなぁ。ま、やってみるか」


 ゼウスはディスクをパソコンに入れると、愛用のヘッドホンを装着しゲームをスタートさせた。



「うしっ!」



………………




「うっ、わかるわかるぜ。人間もなかなか大変なんだなぁ――――っ! おいおい、ここでそのBGMは反則だろ、神曲過ぎワロタwww」



 ゼウスは主人公に共感すると、演出も相まって感極まったのか涙を流していた。



「あ~、良いエンディングだったわ~ティッシュティッシュ。あれ、ねーな? まぁ、服でいっか、ぢ~~んっ! ぁあ゛~、まじ神すぎだろこのゲーム」



 ゼウスはティッシュの代わりに服で鼻をかんだ。今の彼には衛生概念など皆無である。



「んぁぁ~泣いたのなんていつぶりだっけ? 五百年くらい前だったかな?? あんときは確かヘラに浮気がばれて、ジャーマン・スープレックスかまされたときだっけか?? あれマジで痛すぎて三日三晩うなされたからな~w」




 ゼウスの中では、二週間前に公園で泣いていたことはカウントされていなかった。



「はぁ~この充足感。『まとめサイトに始まり、エロゲに終わる』、これ世のことわりなり」



 謎の格言をつぶやいた彼はお腹が空いたのか立ち上がると、足の踏み場もない中、冷蔵庫へと向かった。



「はぁ、邪魔だなぁっ! 誰だよこんなにゴミを溜め込んでるアホゥは! ま、俺なんだけどなw」


 

 ゼウスは自分でツッコミをいれると、何を食べようかなと冷蔵庫内を探した。



 彼はゴミ捨てに一切行かなかった。ゴミ捨てなど、自分のような高貴な存在がする仕事ではないこと。また、そもそもめんどくさくて行きたくないことが主な理由だった。

 そうこうしているうちにあれよあれよとゴミが溜まっていき、今や足の踏み場もないほどのゴミにまみれていた。

 ゴミを捨てにいかない大きな理由は他にもあった。それは一週間前の出来事に端を発する。





******一週間前******



「インターネットまじ便利すぎ面白すぎw。ヘラのやつ、こんな面白いもん独り占めしてたとか。次あったらパコだなw」



 驚くべき吸収力でインターネットの使い方を学習していたゼウスは、通販で買い物ができるくらいにまで成長していた。ハーデスの渡した現金もすでに半分以上使ってしまい、もっぱら今はクレジットカードで好き放題買っていた。



「――あっ、これほしい、ポチっとな! イッヒッヒッヒ買っちゃったw!」



 どうせ自分が払うわけではないからと、遠慮は一切していなかった。そのため部屋の中は未開封の箱など、たくさんの通販物で溢れかえっていた。



「――あっ! そろそろ大会の時間だ! 今日はどの銃でいこっかな~? 前に買ったロケラン全然当たんなかったし……やっぱ無難にアサルトライフルかな?」



 課金額も物凄いことになっていた。ハーデスのことなどガン無視していた彼は、湯水のようにお金を好きなゲームにつぎ込んでいた。



「ハーッハッハッハ!! 笑いが止まらんwww。次はどの銃買おっかなぁ~」



――ピンポーン、ピンポーン。



「あぁ? 誰だぁっ!? 今いいとこなのにっ!」



 まるで彼を調子に乗らせてなるものかといったタイミングで、インターホンが鳴った。



「こういうときは『居留守を使うのが一番』ってウラノスのクソジジイが言ってたっけ」



――ピンポーン、ピンポーン。



「は? 知るかボケ」



――ピポピポピポピーーンポォーン!!



「うるせぇなぁっ!? 荷物は頼んでねーし。誰だよ一体!」



 しつこく鳴るインターフォンに痺れを切らしたゼウスは、玄関へと向かうとイライラしながらドアを開けた。するとそこには、管理人の相賀がいた。



「私だよ」


「おめぇかクソババア! 見りゃあ分かるわwwwついにボケが入っちゃったのかなwんwww??」


「残念だけど、それはまだないよ」


「いやぁ~、ボケてる奴ほどそう言うこと抜かすからなぁ~w。で、妖怪さんなんか用かい?なんつってなw」



 ゼウスは、おちゃらけると相賀を小ばかにした。



「なんだい、そのくだらないだじゃれは?」



 相賀は理解ができないと言った様子で、率直な感想を述べた。



「は?? おれっちの神クラスのだじゃれに嫉妬する気持ちはわかるけどさぁ。見苦しい負け惜しみはやめなよババア」


「ほんとにあんたは。あのねぇ。最近、ここの住民から真夜中に男の人の発狂や笑い声がうるさくて眠れないって苦情が来ててねぇ。みんな困ってるんだよ」


「もしかして、ほのかちゃんに迷惑かけてたかっ!?」


「いや、あの子はどんなにうるさくても寝れる子みたいだから何も言ってはなかったんだけどねぇ」


「そうなんだ、なら別にいいじゃぁん! 帰ってどうぞ」



 ゼウスは相賀の言葉を聞くと開き直り、ジェスチャーで帰りを促した。知り合いである神崎以外のことなど彼にとってはどうでもよかったのだ。



「いや、私も含めた他の住人達のところまで加藤さんの声が聞こえてくるんだよ。特に夜は、もう少し静かにしてもらえんかね??」


「はぁ? お前もかよwww。耳が悪いのか良いのかはっきりしろよ!! じゃあ、耳栓してどうぞ」


「そういうことを言ってるんじゃないんだけどね」


「がたがたがたがたうるせえなぁっ! わーったよ、静かにすればいいんだろババア!! じゃ、おれっち用事があるんで――」



 ゼウスはゲームがしたかったので、話を早く終わらせようとしていた。



「頼んだよ。あ、それと――」


「なんだよっ、くそばばあ! おれっち今から調子こいた野郎どもを新しい銃で皆殺しにしなきゃいけないんだけど~~。お先の短い死に損ないに構ってる暇はないんですがwww」


「あんたほんとに失礼なやつだねぇ?」



 相賀は、心の底から残念そうに言った。



「はぁっ、しょうがねぇなぁ……なんだよ?」



 ゼウスは大きなため息をつくと、高圧的な態度で相賀の言葉を待った。



「あのね。ゴミの分別の件なんだが、加藤さんは何でもかんでもそのまま捨てるからその、とても困るんだよ。出すならちゃんと分別をしてからにしておくれ」



 相賀は本当に困ったといった表情を見せながらゼウスに話していた。だが、ゼウスは素直に首を縦に振ることはもちろんない。



「はぁ? どゆこと?? 言ってる意味がわからないんだけど。なんでこの神々の王である宇宙一のレジェンドの俺様が、ゴミの分別なんかしなきゃいけねーんだよゴミwww! ふつーに考えて全部まとめて一気に燃やせばいいじゃん?」


「燃やしてはいけないものもあるって、習わなかったのかい?」


「はぁ? お前を燃やしてやろうかwww。どうせ火力が雑魚すぎっからそんな面倒なこと考えなきゃいけないんだろ? おれっちのゼウスインフェルノならどんなもんもイチコロよ……って思ったけど今、力使えないんだったぁ~。そんなかんじで、分別よろ!」



 ゼウスは言いたい放題言うと、彼女に丸投げをした。



「加藤さん、もっと共用のルールをだね――」


「あ~はいはいわかったわかったw! お前もう帰っていいよwwwwww。さいなら~しっしっ!」



 ゼウスのあまりにも失礼すぎる態度に、流石の相賀もいら立ちを隠せないでいた。彼女は短く息を一つ吐くと、静かに彼に語りかけた。



「……そうかい? そしたら、あんまりみんなに迷惑かけるようだと――やっぱりここを出て行ってもらうしかないねぇ?」


「は、はぁっ!? 何でそうなるんだよ!! いやいやいや」


「だってほら、そういう契約だしね」



 相賀の脅しにまたも臆したゼウスは、弱みを握られているこの状況を苦々しく思っていた。



(こいつまた契約の話を持ち出してきやがって――どんだけ卑怯なんだこのババア!)



 ゼウスは自分の非を認めたくはなかったが、今の力がない自分ではどうしようもないことは理解していた。彼は、不本意ではあったが謝ることにした。



「……悪かったよ。次からはもうちょっと静かにするよ」


「そうかい? あと、ゴミのほうも出すならよろしく頼むよ」



「はぁ~あほくさめんどくさ。まぁ、考えといてやるよ。それよりもてめえは、自分の入る墓穴のことでも考えてやがれwww」



「……あん?」



――ピリッ……ピリッ……。



 度重なるゼウスの非礼に快く思っていなかった彼女は、眉間に大きなシワを寄せ、不快感を露わにした。

 そんな、相賀の様子に驚いたゼウスは――



「――な、長生きしてくだちゃいね~おばあちゃ~んwww」



と、思わず丁寧な言葉でその場を取り繕ろった。



「……ふん。あまり手間をかけさせないでおくれ」



 相賀は一言そうつぶやくと、管理人室に帰っていった。



(あいつやっぱりやべぇオーラしてんな、極力関わらないようにしとこ~)



 ゼウスはハーデスの手紙に書いてあった、『管理人を敵に回すな』の意味がなんとなく分かったのだった。




************






「は~、食った食った! いやぁ、ヘラの飯を知ってると何でも美味しく感じられるなぁ」



 昼食を食べ終わると満足げにつぶやいた彼は、手元のゴミを捨てようとするも、どこに捨てようか迷った。

 周りは物で溢れており、もはやどこに放り投げるかためらう程だ。



「……ここに置いとくか」



 ゼウスは、そのままちゃぶ台にゴミを放置することにした。



 最初のうちは適当に放り投げていたゼウスも、生活範囲が狭まり徐々にゴミが迫ってくると、これはまずいかもしれないと思うようになっていた。彼は一週間前を思い返すと、苦い顔をした。



「ったくよぉ~、今思い出しても腹立つぜ! こんな汚くなったのも全部あいつのせぇだっ!! 冗談じゃねぇぞあのクソババア! ――あっ! いけねっ、イベントあるんだったっ――」



 彼はゴミを蹴飛ばしながらパソコンまで戻ると、慌ててwebを開きお気に入りのサイトに飛んだ。



「あぶね~。危うく『激萌え美少女 モエミちゃん!!』の連続ログインボーナス取り逃すとこだった!」



 ゼウスは冷や汗をかくと、買い置きしておいたコーラを冷蔵庫に取りにいった。



「いやぁ、仕事したあとはやっぱこれっしょ!」



 たくさん詰め込まれたコーラの中から一番冷えてそうな一本を取り出すと、ゴクゴクと飲み始めた――その矢先のことだった。



――――ピンポーーン。



「――ッブゥウウウッッ!!! んまぁ゛たあのクソババア、俺に文句言う気かあっ!?」



 部屋のインターホンが突然鳴り出した。不意な訪問者の知らせに驚いたゼウスは、盛大にコーラを吹き出すと激怒した。鼻からはコーラがツーと垂れている。



「決めたっ! やっぱりぃ~俺様が直々にぃ~この手でぇ~あの死に損ないに引導を渡してくれるわwww」



 ゼウスは、今度こそ文句をぶちまけてやろうと意気込んで玄関へと向かった。



「おい――っいいかげんにっ!?」



 ゼウスが勢いよく扉を開けるとそこには、管理人の相賀ではなく買い物袋を(たずさ)えたアテナが立っていた。



挿絵(By みてみん)



「お――っお父さん!? どうしたのっそんな顔真っ赤にしちゃって?」


「あ、あ――アテナァッ!?」


「や、やっほー。今日、急遽きゅうきょお休みを頂けることになったから来てみたんだけど。ごめん、なんか取り込み中だったかな?」


「い、いやいやいやいや!! ぜんっぜん、ノープロブレム! ヒマでヒマで肥満ひまんになりそうなくらいヒマン!」



(もうすでに肥満じゃん。というかそれよりも、お父さん臭いし、だらしない)



 アテナは心の中でゼウスにツッコミを入れ、彼の風貌と悪臭に思わず顔を歪めた。



「なぁにつっ立ってんだんだよっ! ――ささっ、散らかってるけどよぉ、あがってくれ!」


「あ、うん。お邪魔しま~す」



 彼女はゼウスの家へと招かれた。



………………

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