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俺ゼウスの生まれ変わりなんだけど、無双してたらボッチになった件について  作者: 紅羽 慧(お神)
この歳で初体験とか……これもう分かんねえな編
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第十八話 運命の出会い



「人間の中にも話が分かるやつがいるんだな~。あいつも死んだら天界に呼んでやるかw」



 天馬を見送ったゼウスは上機嫌につぶやくと、荷物を持ち上げようとした。



「ハーデスニキ、何を送ってきやがったんだ? ――っけっこう重てぇぞこれっ!」



 彼は、予想を大きく上回る荷物の重さに体を少しよろめかせ


(まじで力無くなっちまったんだな)


と、箱を持ったままその場で項垂(うなだ)れてしまった。彼はこの時大きな喪失感に見舞われ、名実共に神々の玉座から引きずり下ろされたことを痛感していた。



「人生山あり谷あり、って言うもんねぇ? ま、俺の場合天空神だったから、順風満帆すぎて谷なんか一度もねぇけどな! たまにはいいんじゃないこういうのも?」



 一晩眠ったことによって心と体に少しばかり余裕が出来ていたゼウスは、気を取り直すと荷物を部屋へと運び入れた。




………………




「よいしょっ! ふぅ~。何がはいってんだろ? とりあえず開けてみますかね」



 ゼウスはガムテープと段ボール箱の境界に鋭く爪を突き立てると、乱暴に箱を開けようとした。



「あぁっくそっ!!! この茶色いベタベタした紙全然取れねぇんだけど! くそっ、なんなんだよこのファッキングシットカラーペーパー!」



 ゼウスはなかなか開けられない箱にイライラすると、しまいには片足を箱に乗っけて箱の上部をガムテープごと手荒に引きちぎった。



「おらぁっ!!! はぁっ、はぁっ、おーっし。やっと開いたか。さてさて中は……何これ??」



 ゼウスは段ボール箱を乱暴に破壊すると中には、なにやら見覚えのある機械と説明書、そして封筒が入っていた。

 封筒には『愚かで無知なキモオタのクソ髭野郎へ』と、整えられた綺麗な字で書かれていた。



「あーどーしよ、読むのやめよっかな。……見るかぁ」



 何か重要なことが書いてあるかもしれないと思った彼は、封を開け中の手紙を取り出した。



【ウイッス~最近どお? つってもまだ一日も時間経ってないか。お兄ちゃんはペルセポネたんがさっき帰ってきたので、まじでハッピーです!! これから毎日ラブラブのイチャイチャ生活を送ったるぜ!! どうだ、うらやましいだろ~? 今どんな気持ち??


 あっ、軽いジョークだからケラウノスで全宇宙終わらそうとするのだけはやめてねっ! って、今使えないんだったくそざまぁwww】



 美しい字でありながらも、文章はとてもフランクであった。



「あのガイコツの手紙っていつも、一言二言余計なことが多くてイライラすんだよなぁ。しかも地味に字がうめえから、なおさら腹立つわ」



 ゼウスはどうにも気にくわなかったが、仕方なく続きを読んでみた。



【まぁ、それはさておきだな。まずは送ったその機械についてだが、ヘラが使ってるのを見たことあるだろ?? それは"パソコン"ていう摩訶不思議な機械だ。高いから壊すなよ? とんでもない力を秘めている恐ろしいモノなんよ。


 そいつを使えばいろいろなことが出来るんだが、中でも"インターネット"ってのはガチで半端ない。たぶん世界が変わるぞ。全知全能(笑)のお前であってもな。インターネットを使えば、あ~んなことやこ~んなことだってすぐに調べられちゃうんだぜ!! すごくない? 全知全能(笑)のお前よりすごいよw。

 いきなり渡されてもさっぱり分からんだろうから"サルでも分かるパソコン入門"ていう説明書も一緒に入れといたぞ~流石俺! まぁ、お前みたいな脳内ピンクのエロザルには、ちと難しいかも知れんがなwww。


 ちなみになんでこれを送ったかというと、さっきまでマニュアルを書いてたんだが、書くことが多すぎてな。腕が痛くなってきたんで、この際そいつに活躍してもらおうって思ったわけよ! つまるところググれカスって意味だ。


――え? 意味が分からない? ググれカスwww】


 

「……ふーん。よく分かんないけどめっちゃバカにされてることだけは分かったぞ。あいつマジで覚えとけよ」



 所々腑に落ちない点があったのか、ゼウスは何回も首をかしげながら手紙を読んでいた。



「インターネットかぁ~。ヘラがなんかカチャカチャしてたタイプライターみたいなやつだよな? 確かに便利だろうけど、こんなよくわかんない箱がそこまですごい奴とは到底思えないけどな。まぁ、サルに出来るんだったら、俺様なら2秒くらいで理解できそうだな。楽勝楽勝~♪ ――ていうか、ヘラみてぇな明らかに偏差値の低そうなバカにも使えるんだから、どうせ大したことねんじゃねwww」



 ゼウスは、パソコンの能力を甘く見ていた。基本的に彼は絶大なる自身への信頼からか、よく知らないものは舐めてかかる性格であった。



【それから今後のそっちでの生活についてだが、とりあえず最低限の金は袋に入れておいた。あの額あれば、正直かなりのことが出来ちゃうけどよ。生活費だと思って大切に使ってくれ。最初はいいが徐々に慣れてきたらアルバイトもしてみるといい。


 アルバイトってのはな、簡単に言えば働くってことだ。働かざる者食うべからずってやつだ。クソニートにはちょっと難しかったかな? 必要な物ならいいんだけどよ。趣味とかに使う金は、極力アルバイトで稼いでくれ、うん。自分で稼いだ金で買うと、案外嬉しいもんだぞ??


 どうしてもやばくなった時のために、最後の手段として一応クレジットカードも入れといた。俺ってまじで良い兄貴すぎない? 使い方はマニュアルを読んでくれ。調子に乗って金を使いすぎるなよ!!! フリじゃねえぞ!】



「ハーデスニキしばらく会わない間に、結構なケチになっちまったな。弟としてちょっとこれは看過出来ないんですけど~。つか、アルバイトってなにそれ? なんで宇宙の危機を救った大英雄の俺様が労働しなきゃならないの? 馬鹿なの??」



【あーそれから、生活が落ち着いてきたら学校も行ってみると面白いぞ~。失われた青春をもう一度送るのもいいんじゃないか?


 俺はペルセポネたんがいるから毎日が青春なんだけどさ~。お前の場合、ヘラみてえな賞味期限切れのクソババアと一緒にいて退屈だったろw? 分かってる分かってる。みなまでいうな、お兄ちゃんは全部分かってるからwww。まぁ幸い、お前のその体である"加藤もこみち君"はもともと高校二年生だったんでな。夏休みが終われば普通に学校にいけるぞ。


 ちなみにチラッと下見しておいたが結構可愛い女の子がいたぞ! 友達いないお前にはハードルが高いかもだが、まぁ勉強になることも多いから行ってみ!】



「学校? 何で今さらそんな青臭い生活を送んなきゃいけねんだよ。だりぃわ。おれっちみたいな英才教育を受けてきた全知全能の神がいまさらなにを――可愛い女の子だとっ!? あっ、行くわ! 行きますwww! やっぱハーデスニキって神だわー、あいつはよく分かってるw。あ~早くいきてえなっ!」



 ゼウスは"可愛い女の子"の文字を見た途端に、顔を緩ませ意見を180度変えた。



「そういえば今思い返すと、小さい時からあのクソババアが近くにいたから、実は俺、なかなか自由に恋愛出来なかったんだよな~。はぁ、よく考えたら俺ってまだ青春らしい青春送ってないかもwww。学校かぁ」



 ゼウスはしみじみとそう言いながら遠い昔を懐かしむと、再び手紙に目を移した。



【まぁ無理して行く必要はないが、気が向いたら行ってみるといい。――あっ、やべっ大事なこと書き忘れてた! あぶね~w。あのね、さっき脳筋デブから聞いたんだが、お前の体は『力のない状態で悪いことを続けると消えてなくなっちゃう』んだってさ、注意してねっ! 遊ぶのはいいけどほどほどにしとけよ~消えちまったら葬式もあげれねえからな! ハーッハッハッハ!!!】



「はっ!? 消えるとか意味不明すぎだろwww。何だよそれ、どんだけタチの悪い魔法なんだよ! もはや呪いだわ。はぁ~、やっぱ手紙読んどいて良かったわ。あのエロガイコツ、ほんと大事なこと先に言わねぇから怖いんだよな~」



 ゼウスは想定していなかったまさかの事実を知ると、心底驚いた。



【まぁ、大体そんなところかな。あ、あとな。これはお前の身を案じて言っておきたいんだが……】



 ゼウスは手紙を読み進めていくうちに、ある異変に気づいた。



「ん? どうした、なんか流れ変わったな……字がちょっと、汚くなってきたぞ? またとんでもないことぬかしそうだな」



 ゼウスは恐る恐る手紙の続きを読んだ。



【実は、ヘラがな、、、お前の動向をめっちゃ気にしている。お前が人間界に行ってからさぁ~俺んの電話がなりやまなくてさ。今まさに、鳴ってんだけどよ。マジでノイローゼになりそう。お前マジで自重しろよ? ほんとまじで頼むからね? 俺のためだと思って! つーかお願い助けてwwwww! へるぷっ! I need somebody!!!】



 ヘラの説明の箇所だけハーデスの筆跡が著しく荒く、そして汚なくなっていた。事の深刻さと重要さ、緊迫した状況が手に取るように分かったゼウスは


「くそわろたwww。なんだよビビらせやがって、まじざまぁ~」


と、腹を抱えて笑い出した。



「容易に想像できるんだよなぁ。マジでおっかね~な~ほんと。あいつにだけはバレないようにやらんとな」



 ひとしきり笑ったゼウスは冗談じゃないよと真顔になると、少しだけ自重しようと思ったのであった。



【ヘラは宇宙で一番危険なヤバい奴だけど、お前の言うことだけはちゃんと聞くからな。お前がちゃんとしてくれさえいれば、宇宙の脅威が減るんだ。しっかりしてくれよブラザー! ん~、他にも言いたいことは腐るほどあるけどよ。詳しくはマニュアルを読んでくれ。真面目な話、お前はまず人間というものを知り、その世界の常識を学ぶ必要がある。よく読んどけよ~。


 いろいろ書いたが、とりあえずまずは存分に人間界を楽しむといい。また、違った景色が見れるだろう。


 お前がこっちに戻れる方法は探しておく。


 達者でな!】



「ちゃんと、ねぇ? ま、ヘラを扱えるのは俺をおいて他にはいないよね~。でも、あいつの相手ばっかしてるとストレスで禿げそうになるからな~。ちょっとくらい息抜きしても罰当たらないでしょw。……それにしても、ハーデスニキよく短時間でこんだけのこと出来たなぁ」



 ゼウスはハーデスの手配力の高さに、舌を巻いた。



「さてぇ~まずはどうすっかな……ん? なんだ、まだ続きがあるのか?」



 どうやら手紙の裏にはまだ続きが書いてあったようだ。



【P.S. お前のことだから隣人と揉め事を起こすのは目に見えてるんだが、めんどくせえからまじやめてねっ! 契約者俺だから! 


 それから、『管理人さんだけは絶対に敵に回すな』よ。いろいろやりづらくなるからな。


 これからまたちょっと、忙しくなるんだけどよ。時間出来て、暇で暇で死にそうになったら遊びに行くからな! ケツの穴洗って待ってろよ! またなっ!!


 宇宙一かっこよくて、聡明でイケメンなお前の愛するブラザーのハーデス様より】



 手紙の最後は、長ったらしいハーデスの名前と共に赤いハートのマークが隣に添えられて、締め括られていた。



「……ふーん。まずは、家のカギを強化しないとな」



 ゼウスは冷静にそう言うと手紙を置き、送られてきた箱の中身を物色し始めた。



「ん~何かめっちゃ複雑そうだぞ」



 中にはパソコン本体やディスプレイ、キーボードやマウス、その他ケーブル類等一式が所せましと押し込まれていた。


 一つ一つを手に取ったり触ってみるも、ゼウスにはさっぱり分からない。ハーデスの手紙に書いてあった通り、"サルでも分かるパソコン入門"と書かれたマニュアルを読んでみた。



「ほうほう、なるほど。さっぱりわかんねw。サルこれ分かんのかよっ!? 嘘でしょ~最近のサル進化しすぎワロタwww」



 ゼウスは初めての経験だったが、丁寧に一つずつ名前と配置を確認していった。




………………




「なんか訳わかんねぇヒモが多くてイライラすんなぁ? おれっち保健体育は5だったけど、図工は2だったんだよな~。『子作りは得意』だけど『物作りは苦手』なんスよね~。マジ適材適所ってやつ分かってんのかな?」



 ゼウスはグチグチと不満を口にしながらもコードを一つずつ繋いでいく。それほど労せずに、パソコンの電源を入れるところまでこぎつけることができた。



「これが、電源かな? ポチっとな――おおっ!」



 パソコンの電源が入れられると、ウィ~ンという音と共にランプが光り、ハードディスクが回り始めた。



「なかなかやるじゃん。で、このあとは、、、よく分かんねえぞ」



 キーボードもマウスの使い方も知らないゼウスは、ハーデスのマニュアルを見ながら一つずつ使い方を見ていく。



………………



「こんな頑張ったの何十万年ぶりだろ。なんかアホらしくなってきたわ」



 やっとの思いで最低限の使い方を理解したゼウスは、なんとかセットアップを行えた。



≪しばらくお待ちください≫



 パソコンが届いてからかなりの時間が経っており、外はもう日が落ちかかっていた。



「早くしろよ~。腹減ったなぁ――って、ええっ!? もうこんな時間かよ。時間経つの早いなぁ。一通り意味は分かったけど、ここまでやって期待外れだったら、マジでこいつぶっ壊してやるわw」



 ゼウスは、パソコンが使えなかった時に破壊するため、ウォーミングアップをして時間を潰した。



………………




「やっとかよ」



 外は既に真っ暗になっていた。

 ゼウスのテンションは大きく下がっていた。セットアップはゼウスの想像を遥かに越えるほどの時間を要し、彼は空腹でもはやパソコン壊す元気すらない。



「これか、インターネットは?」



 ゼウスはマニュアル通り、ブラウザのアイコンをダブルクリックした。



≪検索してください≫



「はぁ? 『検索してくださいお願い致します』だろうが!! 敬語も使えない無能かな? 調子に乗んなよインターネット風情が! ほっといてメシ食いに行こっかな」


 

 機嫌が悪くなっていた彼は、パソコンの無機質なメッセージに文句を言う。



「仕方ねぇなぁ。せっかくだし、なんか検索してやるかぁ――ん? 画像検索、とな? ふーん。そしたらとりあえず"エロ"で検索してみっか? 俺様の脳内には無数のエロ画像が保管されてるが、お前にはどうせ大したもんだせないだろ? え? インターネット君よw?」



 ゼウスはまだインターネットのことをよく知らず、胡散臭いとバカにしていた。

 しかし、彼は自分の考えが大変な間違いであったと認めざるを得ないようになる。



「――――こ、これはっ!!!」



 検索結果が表示されるとゼウスは、身を乗り出して食い入るように画面を凝視した。



「なん、だと……?」



 彼はご飯を食べにいくつもりだったが、インターネットにのめり込んでいった……。



………………




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