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どれだけの時を経ようと貴女だけに・・・

地上に降り立った地の精霊王。

そこに見えたのは旅に出る・・・

こちらにおいででしたか、地の御方。


えぇ、私たちが最後になります。

この地にありました『風の民』は、貴方様が見つけて下さられた我らが祈り求めし風の御方のもとへ参ります。


祖父母の代に、貴方様が我ら彷徨いし風の民を助け、この地に家を与えて下された御恩。

我らは一度も忘れたことは無く、

この地を去り、我らの王の下へ戻りましても脈々と、子々孫々に貴方様と『森の姫』のことは語り告ぐことを祖の名において、そして我が王の名の下に誓います。

まこと、貴方様の足元も及ばぬ知識もない我が身では、この感謝を表すの言葉を探し出し、口に出すことも出来ません。

そして御恩を受けながらもこの地を去り旅立つ我らを、どうかお許し下さい。


分かっております。

風の高位精霊第三位ベレタ様にも言われました。

風の御方は「人として生きる」と仰られたと。

新しきあの方に着いていけばいいと・・・


一部の若き風の民は、確かに新しき風の精霊王アリシアの存在に歓喜し、彼女を祀っております。

けれど私は、いえ多くの、古くからの教えを守る風の民は彼女に心を捧げることが出来ませんでした。

彼女の在り方は、確かに私たちに定まる地も豊かな暮らしも、潤沢な風の加護を与えてくれるでしょう。

けれど、それは風の御方の残された御考えに相反するものです。


守らねばならぬ人の誇り以外の何物から、許せぬ束縛から自由たれ

己で考え、守り、努力し、苦難に立ち向かい、どうしようもないと心が折れるならば風に叫べ

そうであれば人は強くなることが出来るのだ。


そう風の御方は告げられ、風の民と寄り添い、天空の島は他の地にない比類なき繁栄を得たのだと伝えられております。

そして、風の高位精霊・上位精霊の方々も幾度と無く心を折れそうになった我らの叫びを聞いて下されました。よく助けてくださりました。

だからこそ、我ら風の民は地に定まることなく人々に阻害されようと、各地に散り隠れ住むことになろうと、笑顔を忘れることなく彷徨い続けることができたのです。



・・・申し訳ございません。


地の御方や他の精霊王方を否定するようなことですね、これは。


ですが、変えられぬものなのです。

これが風の民の矜持なのです。



『森の姫』にもお伝え下さい。

我らが感謝を述べていたと。

先に行った子供らも、風の御方の許しを得られたなら遊びに来ると言っておりました。


えぇ。

もし受け入れて頂けなくとも、こちらに戻ることはしません。


世界から風が失われつつあるのでしょう。

精霊たちの声は聞き及んでおります。

各地で大きな被害が出ていると。

多くの地が荒れ果て、人々も死んでいっている・・・

負の感情によって残った『黒き死人』や、それを糧とする魔物が各地で大量発生してまでいる。


そんな中では多くのものが、風にまつわる存在全てを糾弾するでしょう。


そのような事に、貴方様や、静かな森を愛される『森の姫』に巻き込むなど出来ません。


風の御方がおられる帝国の辺境伯領に辿り着くのも危険でしょう。

けれど、第三位ベレタ様が随行すると言ってくださいました。

各地に隠れていた風の民の一族たちのもとにも、第二位様ラティゴ第四位様アルコ方が向かってくださっているそうです。

そうそう、闇の高位精霊の方々も力添えくださると言ってくださいました。

さすがは、あの優しく穏やかな闇の精霊王様の配下の方々。

皆様、穏やかな眠りを守ってくださる夜の優しさのような方々でした。


おや、どうなさいました。

顔色が悪いような・・・


えっ。

えぇ、闇の精霊王様はよく風の民を気にかけてくださいました。

伝承にも語り継いでおります。


穏やかな夜の化身

幼子の眠りを守る優しき方

誇り高き風の御方と天空の楽園を奪われた我等に闇の安らぎを約束してくださった。


森に住まわして頂いた我等の下へも度々訪ねてくださいました。


島に立ち入ることが出来ない我等に、風の御方のご様子・・・とは言いましても健やかな眠りであるというだけですが教えて下さいました。


一族の子供らに優しく語りかけては、子供らのここが風の御方に似ているなど、我等人では知りえない風の御方のことを教えて下さいました。


そうですね。

どうか地の御方。

闇の精霊王様にもお礼を申し上げておいてくださいませんか?

風の御方の下で、もしくは旅に出てしまっては闇の精霊王様にお会いできるか分かりませんから。



儚き人の身で過ぎたことではありますが・・・

ご自愛下さい、地の精霊王様

このような世界の状況では仕様が無いものと思いますが、疲れが顔に出ております。



それでは、出発いたします。

失礼いたします。

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