これまでを想い微笑を溢す
「誰?」
「ひどい!ひどぉい!!
でも、でも、そうよね。
貴女が封印された時、何にもしなかったのは私だもの。
クロからお願いがあったとかいっても言い訳だものね。」
『風の精霊王様の疑問に、そしてお集まりの精霊王様方の視線の数々に、御主人様は顔を手で覆いつくし声を上げて御嘆きになっておられる。
御主人様の後ろに着いていたわたくし共も御慰めしようと声を御かけするのですが、御主人様はお気づきになられることもなく、ただただ涙を流して落ち込んでいらっしゃいます。
「落ち着いて下さい、見っとも無いですよ、御主人様。
仕様が無いじゃありませんか、その御姿じゃぁ」
「申し訳ございません『風の精霊王』。
こちらは、わたくしどもの主『光の精霊王』となります。」
少々厳しい性格の第四位の言葉に、ますます肩を落とされる御主人様。
ペコペコと頭を下げて御主人様を紹介している第二位の言葉に、『風の精霊王』様だけでなく、皆様が驚いていらっしゃる御様子。
いえ、つい先日確認の為に訪ねていらっしゃった地の若君と、御主人様が御篭りになられた直後から様子を伺ってこられた『闇の精霊王』様は、御主人様のこの御姿を御存知ですから驚いてはいらっしゃらないようですわね。ただ、『闇の精霊王』様はこの場に御主人様が現れ協力なさることを御存知なかった御様子で、地の若君を睨みつけておいでです。
「『光の精霊王』?
ルーチェ?
ま、まさか・・・・」
『風の精霊王』様方が驚かれるのも仕方ないことでしょう。
この天空の島が空に飛び立つ以前から出不精で、御子君の宮殿から姿を御出しになる事も稀な方ではありましたが、地の若君の御願い事を承諾し、実験の一つを実践なされるようになってからは自室と定められた御部屋より動かれることもなさらなくなられました。
御主人様が拾い上げ、御育てになった御子君は大変よく出来た御方でしたから、義母たる御主人様に何不自由が無いようにと子々孫々に至るまでに厳命なさって御隠れになられました。
その御陰もあり、御主人様は御部屋から動かずとも御望みを叶えることができる環境が整ってしまったのです。
艶やかに波打っておりました黄金の御髪は少々潤いが失われ
白磁のような肌は少々荒れられ
当時の美しさを愛した人間たちに見惚れられ崇められた御主人様のしなやかな肢体は少々ふくよかにおなりとなり、
昔の御主人様しか覚えて御出でではない方々にとっては、最早別人と言っても過言ではないのではないでしょうか。
「あぁもう、だから言ったじゃないですかぁ。
もうちょっと早くからダイエット頑張れば良かったんですよ!
あぁもう恥ずかしいったら、ありゃしない!!」
そう、第四位の言う通りなのです。
実験を確かなものとし、そして世界の、精霊たちのこの先を確かなものとする為に地の若君が御主人様に対面なされた『書の精霊』と御成りになる御嬢様の御忠告を受け、御主人様は出来うる限りのダイエットをなさいました。
そうですね。
御身体は半分くらいにはなったのではないでしょうか。
けれど、あまり激しく動かれては外界へと影響が出てしまわれますし、今回の為にと使わずに御出でだった御力を消費してしまわれることになると、その過程は芳しいものではありませんでした。
「泣くなよ、おばちゃん。
大丈夫だって。後でダイエット付き合ってやるから。
それに『書の精霊』の力でなら姿形も大体はどうにかなるって!」
小さな御姿を晒されていらっしゃる地の若君が御主人様の頭を叩かれ慰められると、ようやく御主人様も顔を上げられました。
そして、地の若君を抱きしめられました。
あらあら。
そのように力を込められましたら、地の若君が苦しそうに・・・
「まぁ、クロはなんて優しいのでしょう。
そうですね、可愛いクロからのおねだりをさっさと終わらせてしまいましょう。
双子たちも一緒に頑張ってくれると約束してくれていますし。
甥御たちに応援を受けてダイエット、なんて幸せなことでしょうか。」
良かった。
御主人様が涙をお拭きとなって立ち上がってくださいました。
やっぱり、御誕生の時から目に入れても痛くない程に可愛がっていらっしゃる地の若君はよく御効きになる。御主人様は、精霊王様方を御兄弟妹だと思っていらっしゃり、その御子方である「地の御兄妹」「闇の双子君」、今は御隠れとなっている「風の姫御子」を大変に可愛がり、愛しております。甥御様や姪御様の御願いならば、どんな無茶なことでも飲んでしまわれる。
精霊の身をもってしても永いと感じてしまう、地の若君の計画にも厭うことなく協力してしまわれたように。
ですが、その計画も今日までのこと。
全貌を己が内に隠してしまわれていた地の若君の計画も日の光の下に晒されました。
この馬鹿馬鹿しい『火』『水』の精霊王様方、幼き風の子による一連の御遊戯ともいえる出来事を早々に終わらせることが出来ましょう。
全ては、一つの愛によって始まり、多くの愛によって終わるのです。
「さぁ、『光の精霊王』の最初で最後の大役を果たしてしまいましょう!」
堂々と宣言なさった御主人様の御姿は、まるで御篭りとなられる以前の御姿のようで、わたくしたちは心が熱くなり、歓喜に目が潤んでいます。
さぁさぁ、第二位、第三位、第四位、第五位。
わたくし達もこの命の限りを尽くす時です。
ですが、散ることだけは許されませんよ。
この後に訪れる『再生を果たした世界』で御主人様の傍に変わらずに在ることは、御主人様の至上の命なのですから。
光の高位精霊第一位アウローラ。
光の精霊王ルーチェの姿を装い、その代行を果たしてきた忠臣。