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言葉にならない・・・

開いた口が塞がらない

驚きに声も出ない

頭が痛い


この場にいる者たちを表すのには、この三つだけで十分だといえる、そんな状態だった。

一つ目は、地の精霊王の息子クロノスをよく知り、幼い頃からの彼と変わらない突飛でもない行動に呆れている者たち。

二つ目は、精霊のあり方を変えてしまうという、有り得ない行為に純粋に驚いている者たち。

三つ目は、忙しい父親に代わり彼を育て上げた地の高位精霊たちである。

ごく僅かに平然とした面持ちをしている者もいるが、それは計画に関わっていたものたちだった。



「そ、そんな馬鹿な話があってたまるか!!!!

 人間が、たかが人間が精霊の根幹に関わろうなどと!!」


始めに正気に戻ったのは、火の精霊王。

人間を見下し、人間を生かしてやっていると長きに渡り声高々に言い続けてきた彼には、人間に存在を左右されるなどという現実があるなどと許せぬものではなかった。


「馬鹿なって言われてもなぁ・・・

 現に、俺や『こいつ』がやってきた実験で幾つもの結果が出てるし」

ニヤニヤと笑いながら、闇の精霊王を親指で差すクロノス(が体を借りた地の精霊王)。

その粗野な行動は、クロノスの数々の行動を思い出した者たちにとってはとても懐かしく感じるものだった。

「知っている通り、魔物・魔人たちは破壊衝動の化身だったのが、

 理性と心を得て、今や西の大陸で国を築いて、人間とも変わらない社会を築いている。

 人間よりも長い寿命を生きて死ぬはずだった『地の精霊王のおれのいもうと』は、『森の姫』って呼ばれながら霊廟の森で絶大な支配力を持って生きている。

この長い間に、新しい精霊をたくさん誕生させたぜ?

お袋が好きだった村には、村を守る精霊『ユージェ』『ジェニー』を誕生させた。

ある街では、街を守るために命を懸けて剣を振るった男を『剣の精霊』にした。

砂漠の村で惜しみなく水を他人に分けていた女は『水の樹の精霊』になった。

海賊と戦い抜いた男は船乗りを守る『水路の精霊』になった。

一人目の異世界の魂を持った男は『極める者の精霊』になった。

二人目の男は『伝達の精霊』になった。

三人目の女に関しては、『書の精霊』にしている最中だ。

まだまだ、あるぜ?

あとは、精霊が何かに特化するように変化させたっていうこともあるな。

鍛冶の技を愛した火の精霊が『鍛冶の精霊』になったし、

悪戯好きの精霊共が纏めて『悪戯の精霊』ってのにもなったな。」

自分の配下も実験の一例を担っているとしり、火の精霊王も口を開けたまま固まっている。

「一つ予想以上だったのは、特殊な状況下を支配する新しい精霊たちの力が、

 その条件下では精霊王以上の影響力を発揮したってことだろうな。

 『森のフェーリ』は森の中の精霊たちを王から引き離すし、

 他の奴等もそれぞれの属性の精霊たちを引き込んで好き勝手やってるし、

 凄まじいのは、変化の力を得た異世界の魂からなった精霊だった。

 世界の認識に直接影響をもたらすほどの影響力だったからな。

 『書の精霊』に関しては完全に精霊と化したら大変だぜ?

 これまでに造られた精霊たちを物語にして完全なものに変えていっているんだ。

 精霊たちにとっては王と同等に逆らい難い存在の誕生になるんだろうよ」

全員の目が一瞬、一人の精霊に向けられた。

水の精霊でありながら、緑を纏う精霊に。

その身からは『森の姫』の気配が漏れ出ていた。


「そうそう、なぁ『火の精霊王おっさん』!」


クロノスが火の精霊王をまっすぐと射抜いた。


「な、なんだ。」

「あんた、まだ自分を精霊王だって思ってるのか?」

首を傾げてみせるクロノスに、全員がハッ?と声を漏らした。

その表情たちにクロノスは笑いを抑えきれず、そして闇の精霊王も珍しく声を出して笑い出した。

「何を言っている。」

「あんたは感じることが出来てるのか?世界中の火の領域を。

 それらを今この場から操ることが出来るのか?」

そんなこと、精霊王であれば指を動かすよりも簡単にできることばかりだ。

誰もがクロノスの言うことを理解できなかった。

「言っただろ?

 世界はすでに人間達の思いで動くようになってるって。

 自分達を見下し、慈悲も慈愛も与えずに、姿も見せようとしない王を

 人間達は王と認めているのかってこと」

「きさま!!」

怒りに血を上らせた火の精霊王が周囲に炎を生み出す。

その炎でクロノスを飲み込もうとした。


「何故・・・」


しかし、その炎はクロノスに届くこともなく静かに消えていった。

「あぁ、やっぱり。

 あんたはもう、精霊王では無くなっているな。

 俺の最後の実験も無事終わったってことだ」


火の精霊王だった男が己の配下だった存在へと丸めた目を向けた。

自分が生み出した炎を消したのが、誰だったかくらい分かったからだ。

それは、他の精霊王たちも、高位精霊たちにも分かった。


それは、第一位だった精霊だ。

屈強な壮年の男の姿をした、スコーピオと何時の頃からか名乗りだした精霊。


「今や、世界中の人間が、

 そこのスコーピオこそが偉大なる火の精霊王だと思っているのさ。

 その思いは長きに渡って蓄積していた。

 最近、あんたがその子供にだけかまけている内に、それが事実になった。

 それも、そうだろう?

 あんたが何もしない内に、彼が人々に火による慈愛を与えていたんだ。

 教えてやろうか?

 人間たちは、火の精霊王に順ずる力を持つ子供な精霊って思ってるんだぜ?

 あんたのこと。

 子供だから、火の扱いを知らず、恐ろしさだけと振りまいているって。」


「どうして、そんな酷いことを言うの?

 グラナードは一生懸命お仕事していたわ。」

愕然とする火の精霊王を抱きしめ、クロノスを睨みつけるアリシア。

「お仕事、ねぇ。」

アリシアの怒りを受け、クロノスは嘲笑を浮かべた。

「お仕事って、人間に過剰な火を与えたことか?そのせいで街一つ炎に飲まれたのに?

 おっさんがやっていたことはなぁ、

 寒さを凌ぐ焚き火の火を願った旅の男に、敵を滅ぼす炎を与えて、

 男を巻き込んで周囲諸共吹っ飛ばしたこととか、

 そんなことばっかりなんだぜ?」

昔から変わることがない火の精霊王の被害の話は各地に残り、人間達は無闇に火の精霊王に力を願ってはならないという教訓まで残っているほどだった。

「そんな事ばかりして、供物だけ受け取って姿も見せないような奴よりも、

 頼めば姿を見せて、適度な力を貸し与えてくれる奴の方を

 人間が選ぶのは当然だろう?」

それでもアリシアは反論しようと口を開けるが、クロノスの嘲笑の中に隠れた感情に気づき、擦れた息だけが吐き出された。

「本当は、水の精霊王おっさんもどうにかしてやろうと思ったんだけど。

 こっちは仕事は真面目で丁寧にしてたし、仕事放棄したのも最近だし?

 配下たちが踏ん張って、人間に対する印象も良いようにするから、

 何にも出来なくなっちまった。

 まぁ、後々に仕返しはするとして・・・

 お前も関係なくはないんだぜ?小娘。

 風の精霊王になったって思ってるんだろう?

 馬鹿言うなよな。お前みたいなのが担えるとでも思ったのか?

 ろくに力を扱えないお前が。

 それは、あいつだけの場所だ。」

クロノスは怒っていた。

風の精霊王シスネを封じた火と水の精霊王たちに。

守れなかった自分に。

何も知らずに、のうのうと風の精霊王を名乗り、役目を果たせてもいないアリシアに。

「だけど、安心しな。

 人間共はもう、お前を風の精霊王なんて認識してはいないから。

 一度も、天空の島から出てこないお前を彼らは『天空の島の精霊』って認識している。

 おっと、間違えるなよ。

 俺たちが何かしたわけじゃない。

 する必要も無かったんだ。」

精霊となってから一度も島から出ることもなく、姿を見せることもなく、

ましてや混乱を極めようというのに島の周囲の風しか操れない存在を、人々は偉大なる精霊王の一人とは思えなかった。

不安と恐怖に、風の精霊王はもうすぐ復活なされる、そうすれば風はまた健やかに吹き荒れると祈りを捧げた。

「あっと。

 お前が寝ている間に、お前らが風の核だと思っていたものは回収しておいたから。

 例え、滓から造ったものだってシスネが言ったて、

 それを他の誰かが持っているなんて耐えられないからさ。」

クロノスの手の中に、小さな球体の結晶が取り出された。

その結晶の中は、風が吹き荒れているようにも見える。


褒めてっと言わんばかりに、風を閉じ込めた結晶を差し出し近づいてくるクロノスに、

痛む頭に絶え、よろめく体を風の精霊たちに支えられていたマリアンナは、引き攣る口元に笑みを無理やり作り出し、一歩二歩と自ら近づいてくるクロノスに近寄ると、右手を大きく振り上げた。

 

次は、壊れかけの世界をどうにかしたいです。

それと、夫婦喧嘩。

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