表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/30

始めは幼い憧れ、それが・・・

初めは、ただの空への憧れだった。


初めて、風の精霊王と会ったのは、彼女が天空の島を空へと押し上げた時。

流石に大地の一部を空に上げようというのだ、地の精霊王へと協力を求めてきた。そして、親父はそれに快く応えた。


「初めまして、クロノス。

 といっても、貴方のやんちゃぶりは風の間では有名だから、初めてという感じはないわね。」


そういって笑う彼女は本当に綺麗で、

それ以来、俺の中で彼女のことが消えることは無かった。


風の民たちを率いるその姿は美しく、

火や水と相対するその姿は誇り高く、

彼女からしたら瞬きほどの命を終わらせる人間を見送るその姿は普段の姿とは正反対にか弱くて、


何かにつけて会いに行く俺のことを何時までたっても子供扱いする彼女に苛立ちを感じ始めたあの時にはすでに、俺の憧れだと思っていた感情が、親父がお袋に向けている感情を同じだと気づいていた。

それまで以上に彼女の前に姿を見せて、彼女が関わる全ての事柄に姿を現し、良くも悪くも俺の存在を彼女の中に刻み込んだ。

彼女が怒ろうが、苦しもうが、悲しもうが、俺のことを嫌おうが、彼女の中に俺という存在が深く多きく刻み込まれれば嬉しかった。

これはもう、恋とか愛とかではなく、執着だということは分かっていたが止められなかった。

けれど、親父のお袋へのそれや闇の精霊王を見ていれば、これが精霊の愛ってやつなのかと納得もした。

何年も何年も、半分だろうと精霊の血を持っていて良かったと思った。

人よりも長い命の大半を使って刻み続けたおかげで、段々と彼女が俺を見るようになった。そして、そうなればこちらのものだと、押して押して、ついには彼女を手に入れることができた。あの時は心臓が破裂するんじゃないかってくらいに胸が高鳴った。


子供が出来たと聞いた時は、嬉しかった。

でも、不安が生まれた。

俺は何時まで生きることができるのか。


だから、妹に無駄にいいと言われた頭を振り絞って、精霊になる方法を考えた。

今まで、多くは無い数の精霊と人の子が生まれていたが、その全てが人よりは長く、けれど永遠に生きれる精霊から見れば短い時間で死んでいた。

俺も妹も、その内死ぬのだろう。

俺が死んだ後、彼女はどうなる。

無理やりにも近い方法で手に入れたと自覚があった。

少しは泣いてくれるのか。

他の誰かの手を取ってしまうのだろうか。


例え、俺の死んだ後だろうと、俺以外の横に立つ彼女などあってはならないと思った。


あらゆる方法を考えた。

僅かでも思いついた方法を実験した。

あまり褒められたことをしていないと分かっていたから、誰にも言わず、実験を進めた。

けれど、駄目だった。

こうなれば、もう・・・俺が死ぬ時に世界も滅ぼしてしまおうかとも考えた。

その方が早く、方法があったから。


そんな時、一人の男に出合った。


男は不思議なことを言った。

未来を知っている、と。

随分と先の未来で、可能性の塊である少女が現れる。その少女が示した方法を用いれば、人が精霊になるのも可能だと。

詳しく聞いても、信じがたい話だった。

けれど、そこに可能性を感じたし、理論としても間違いは無かった。

なにより、他に方法が無かった。

まぁ、失敗すれば全部無に返してしまえばいいと思っていたのもあった。


世界の中にある力の総量を決まっている。

様々ものが生まれる中で、力は使われ減っていく。

そうしていくことで、精霊が自然そのものとして力を振るい続けることは難しくなっていく。

男の言う、少女の時代には精霊は人々の心を必要とするようになる。

力の強い精霊達、王や名前持ち、確固とした個を持ち場を有する精霊は弱ることはあっても消えることは無いが、小さな精霊たちは人々の思いなくしては存在できなくなる。

人々の心が持つ力については反論は無かった。

彼らの悪しき思いや負の感情が歪みを生み、破壊衝動の化身である魔物たちを生み出していることはすでに知られていることだったからだ。


その少女はアリシアと言う。彼女がいくつもある道の内二つに、精霊になるというものがある。それは彼女が世界を救うという偉業を成したことによって人々の心を集め、精霊たちの祝福を受けて精霊と化すのだそうだ。

つまり、人々の心に存在を知らしめ、精霊であると刻まれれば、人は精霊になることができる。男はそれを認識の力と呼んだ。

人間は短い時間で世代を交代する。その過程であらゆる事柄の記憶は移り変わっていく。

例えば、俺と彼女の子供が生まれる。人間の何世代も後では、子供が生まれたからこそ風と地の力を兼ね備えた天空の島が出来たとなるらしい。それくらいに、人々の記憶というのは脆く、柔軟に変わっていくのだそうだ。


俺は、実験を始めた。


まずは、魔物を使った実験をした。

人々の間に、魔物には最も強い魔王という存在があり、全ての魔物は魔王に従うという話を流した。

男が、アリシアの偉業の内に魔王を倒すというものがあるという。放っておいても何時かは生まれる存在を先に作ってしまっても構わないだろうということになった。なにより、その魔王は破壊衝動の化身そのものであり、アリシアに倒されるまでに世界を傷つけていく。ならば、出来るだけ無害にしてしまった方が面倒もなくていいだろう。

何処からか話を聞きつけた闇の精霊王が何故か手伝うと言い出したことから、人々の夢の中に流して信じ込ませた。俺がいなくなれば彼女が手に入るかも知れないのに・・・けれど奴の顔はすっきりとしていて、認めてやると言われた時には気恥ずかしく感じた。

すると、これまでは理性もなく、ただ存在し破壊の限りを尽くすだけだった魔物たちが、より強い魔物に従うようになり、魔物は魔人や邪精霊に、そして魔人や邪精霊が争い、最も強かった魔人が魔王となり、破壊衝動だけではない統率という理性と心をもつにいたった。

心が生まれたばかりの魔王を従えて、次の実験に移った。

今度は、魔王を中心にした国が西の果ての大陸にあるとすることだった。

人々があまり存在していない荒れ果てた大陸に魔物を集めてしまえば、魔物たちの統率もよりしっかりとしたものになるだろう。

それも成功した。

国を成り立たせるのに必要な知力を魔物たちが持つようになり、闇と魔王と一緒に魔物たちを大陸に送ってやれば、次第に国がしっかりと、大きくなっていった。


順調に進む計画に笑いが止まらなくなっていた時、

俺を絶望が襲った。


俺と闇が魔物の国を確固とする為に西の大陸へ足を運んでいる間に、水と火の精霊王たちが暴挙に出た。

彼女を、風の精霊王を封印した。

子供が生まれたばかりだった。

実験が忙しく、会いに行くことも度々しか出来ていなかったが、こんな事になるなんて思ってもいなかった。確かに、火や水が彼女のやり方を気に入っていなかったのは知っている。奴らの庇護を受けた人間たちが天空の島の恵みを羨んでいたのは知っていた。

だが、世界を成り立たせている一角である風の王を封じるなんて、愚かなことをするなんて!

親父は、お袋が死んで以来心此処に在らずな状態だった。だから、火や水の行動を知った時にはもう遅かったのだろう。

光の精霊王は、少し前に実験の一つ、生命の営みや育みの力を持つ光の精霊に新しい力を持たせようという実験を頼み込んだせいで動けなかったはずだ。


苛立ち、暴走しようとしていた俺に、男は言った。

全ては未来のための予定調和だと。

男が知っている未来の世界では、風の精霊王は封じられていて、それがアリシアの可能性にも通じているのだそうだ。

アリシアが精霊になる道の一つは、邪精霊となって退治されることになる風の精霊王に成り代わること。

もう一つは、森の精霊と呼ばれるものになり新しく生まれてくる風の精霊王を支えること。

俺に言えば、怒り狂うと思い言わずにいたという。

確かに、怒り狂っただろう。誇り高い彼女が邪精霊になるなんて、そして退治されるなんてあってはならないことだ。ましてや、彼女じゃない何かが風の精霊王になるなんて。


だが、未来のことが分かっているのなら、そこに至る全ての可能性の芽をつんでしまえばいいと思った。


退治されるということは封印が解けるということ。

その時に彼女を攫ってしまえばいい。

少女が森の精霊というものになることで新しい風の精霊王が生まれるというのなら、少女が森の精霊になるのを防げば新しい風の精霊王は生まれない。

だから、森の精霊を先に誕生させておけばいい。

ちょうど、フェーリがいる。

フェーリに全てを明かした。

まったく、と呆れながらも、フェーリは笑って承諾してくれた。

お袋の死に落ち込み過ぎな親父の姿を見て、精霊となれるのならばなってしまおうと思ったらしい。

本当に、駄目親父だな。

フェーリが人間との間に生んだ子供を王として国を作り、そこに住む人々に、王の母は地の精霊王の娘であり、その慈愛を持って国を守っているのだと信じ込ませた。フェーリが司る場として、親父がお袋の墓を作ったことで地の力が溢れかえっている森を使い、人々の噂に『森の姫』を印象付かせた。


彼女が封印された直後に風の精霊たちによって逃がされていた娘を連れ、世界中を旅した。

これまでの実験によって造った常識を広めるために。

目の前で、小さな精霊を変化させたりと、各地に新しい伝説を残しながら。

そして、もう一つ。

異世界から来た魂には強い、この世界に変化を与える力が宿っているという伝承を造る為に。

これも異世界から来たという男の提案だった。

男のように異世界から来る魂があるかもしれない。

その条件下にある魂に変化の力を与えておくことで、その協力を仰げば世界に変化を与える力を使って人の精霊化や彼女の封印を解く手立てになるかもしれないからだ。

全てが可能性の話だ。

だが、勝算は感じていた。



誤算は一つ。


俺自身を精霊とする前に、俺の寿命が尽きたことだ。

色々無茶が過ぎたようで、予想以上に早く命が尽きた。


昔から、フェーリや高位精霊たちに「頭はいいのにアホ」って呼ばれていたことを思い出し、意識が朦朧する中後悔した。

ガキの頃に、空を飛ぶんだって崖から飛び降りていたことを思い出す。

あん時は、世話をしてくれていた高位精霊たちや親父、助けてくれた彼女に思いっきりに叱られたな・・・






「馬鹿なやつだ」



驚いたことに。

死んだ俺を留めたのは、闇の精霊王だった。

本人は気づいてないだろうな。

呆れながら、泣きそうな顔をしていた。

邪魔だの死ねだの言ってたくせに、俺のこと気に入っていたのは知っていたが、そんな顔をしてくれるなんてな。

男が言っていたな。

闇の精霊王は、ヤンデレでツンデレだって。


闇によって守られた眠りについた俺の代わりに、あいつは事を進めてくれた。


次に俺が目を覚ました時、俺は小さな人形に入っていた。

人々の中で俺は『旅する精霊』と呼ばれ、童話で語られていた。

世界中を旅して人々に助けを与える精霊だそうだ。

そして、彼女が封印から抜け出したと教えられた。

その行方は分からないとも。

そうだろな。

彼女は風だ。そうそう囚われたままを許すわけがない。

俺以外が彼女を捕えておくことなんて許せるわけがない。


異世界の魂をもつ人間もいた。

その青年は印刷術を使って新聞という情報機関を作り、俺達が造った話を多くの人に広めてくれた。上流階級だけではあったが、青年が秘める変化の力も相まって効果はあった。


そして、三人目の異世界の魂の持ち主である少女は、物語という形で精霊たちに個を与えていった。この頃になると、実験を始めた頃よりも世界に満ちる力が減り、精霊たちが人間の心に依存する部分が増えていた。少女は精霊たちを巡り、それぞれの物語を記し、その存在を保管していった。少女はこれを「神話」のようだと笑っていた。


色々動いたが、アリシアという少女が中心となる物語を止めることは出来なかった。

少女は「乙女ゲームのシナリオ」「攻略対象」を教えてくれた。

この世界は、そんなものに振り回されているのかと笑えた。


まずはゆっくりと、その成り行きを見守った。

痺れを切らした彼女が出てきてくれないかと思いながら。

何度か試して、シナリオを変えることが出来ないとわかってからは、終わった後に結果を変えてしまえばいいと考えたからだ。


少女の言うゲームが逆ハーエンドとなり、アリシアは風の精霊王となった。その振る舞いに、考え方に、その隣に立つ水と火の精霊王たちの姿に我慢を重ね、

役目を忘れた二人の精霊王たちの配下を仲間に引き入れ、


彼女を見つけてくれた親父に感謝しながらも、

フェーリの協力で親父の体を借りて、



ようやく、全てが終わるこの時を迎えた。






全ては、風の精霊王シスネを共に在るために。


その為なら俺は、世界をどんな風にもしてしまえる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ